高慢と偏見(小説)

登録日:2019/12/04 Wed 05:51:00
更新日:2019/12/13 Fri 22:13:33
所要時間:約 48分で読めます





It is a truth universally acknowledged,

that a single man in possession of a good fortune,

must be in want of a wife.



(相当の財産をもっている独身の男なら、きっと奥さんをほしがっているにちがいないということは、世界のどこへ行っても通る真理である。)
――『高慢と偏見』の書き出しより




高慢と偏見』は1813年に発刊されたジェイン・オースティン作の長編小説。
しかし執筆自体は1797年に終わっている。
ジェイン・オースティンの長編作品としては2作目にあたる。
原題は「Pride and Prejudice」であり、日本語版タイトルとして他に「自負と偏見」や「プライドと偏見」なども存在するが、この項目では「高慢と偏見」で統一する。
一応、訳し方としては3つとも正しい。

●目次

【概要】

中流階級・オースティン家の住むイギリスの片田舎を舞台として、上級階級のしきたりや女性の結婚事情をテーマとして、男女のすれ違いを描いていく恋愛小説。
練られたストーリー展開とキャラの立った登場人物たちの面白さからオースティンの代表作とされている。特に人物描写の綿密さについては時代を考えるとオーパーツと言えるレベル。


主人公のエリザベスがある日であった貴族の青年・ダーシーの高慢な態度に辟易するも、話していくにつれて彼の内面を知り、彼に対する捉え方が偏見であったと気が付き、恋に落ちていくというストーリー。


内容とキャラクター自体は結構王道……というか言ってしまえばかなりテンプレな展開ではある。
というか近代の恋愛物語の原点は本作と言ってもあまり間違いはないほど。
今日の少女漫画・恋愛小説にも似たような部分も多く、それを見比べながら読んでいくのも楽しいだろう。


また『世界の十大小説』の著者であるW.S.モームの言葉を借りるなら「純然たる娯楽小説」。
入り組んだテーマもなく展開も分かりやすく、それでいて物語はテンポよく、登場人物たちは非常に魅力的であり非常に読みやすい。
それでいて予期しない展開が続くため、見ているものを飽きさせない面白さがある。
ちなみに本作のジャンルは「教養小説(ビルドゥングロマン)」であるらしい。



【あらすじ】


溌剌とした知性を持つエリザベスと温和な姉ジェインは、近所に越してきた裕福で朗らかな青年紳士ビングリーとその友人ダーシーと知り合いになる。
エリザベスは、ダーシーの高慢な態度に反感を抱き、彼が幼馴染にひどい仕打ちをしたと聞き及び、彼への嫌悪感を募らせるが……。
(小尾芙佐・訳 高慢と偏見 光文社古典新訳文庫版)


【登場人物】


◇ベネット家


◆エリザベス・ベネット
この物語の主人公でありベネット家の次女である女性。大体20歳前後。ツンデレその1。美人。仲の良い者からはリジーと呼ばれる。
まっすぐな心を持ち、溌剌とした性格のおてんばな女性。頭がよく、特に観察眼・判断力に優れている。このことから周囲からは、妹たちがアレなこともあってジェインと合わせて「ベネット家の娘のマシな方」と言われている。ベネット氏も彼女たちだけは特別視している。
しかしまっすぐすぎるため、一度思い込んでしまうとジェイン以上に周りが見えなくなってしまうという悪癖を持つ。
近くに越してきたビングリーの主催した舞踏会に訪れた際に出会ったダーシーという男に小ばかにされて彼を敵視するようになる。その後誤解が重なりダーシーに対する嫌悪感が強まっていくが、とある一通の手紙でその心が変わっていくことになる。
多分今作で一番かわいい。
しっかりものではあるが、その反面曲がったことが嫌いでおてんばなところがあるという少女漫画の主人公のテンプレを地で行く人物。
最終的にはダーシーと結ばれる。


◆ジェイン・ベネット
ベネット家五姉妹の長女。美人。
一応恋愛的な意味ではもうひとりの主人公でもある。
ベネット家の優しいお姉ちゃん。容姿端麗、成績優秀、品行方正といった完璧超人。柔和で温厚な人柄から会った人間の大半は彼女に好感を持つ。長女としての責任感もあり頼れるお人である。しかしその一方でかなりダダ甘なところがあり、ジェーンと同じかそれ以上の観察力を持つはずだが、お人好しすぎるため人の悪いところが一切見えないという変わった点がある。要するにちょっと騙されやすく抜けている。また長女としての責任感が強すぎるあまり、背負い込みやすい一面も。
……完璧超人なダダ甘お姉ちゃん
舞踏会を通してビングリーと仲良くなり、母のお節介がありながらも親密になっていった。
『高慢と偏見』の中でもやたらと人気の高いキャラである。
最終的にはビングリーと結ばれる。


◆メアリー・ベネット
五人姉妹の三女。美人。
姉妹の中では生まれながらの器量が少し悪い子。本人もそれを自覚し姉妹に対して劣等感を抱いているため、少しでも改善しようと勉強し教養を詰め込んでいる。しかし努力の結果を見せびらかしたいのか、どんな重要な場面でも空気を読まずにいきなり蘊蓄を長々と語り出すめんどくさいところがある。実は彼女のセリフ周りをよく見ればわかるように、メアリーの蘊蓄は周りの人間に殆どスルーされている。ちょっとかわいそう。
ストーリーに絡まないこともあり、姉妹の中では若干空気な子。


◆キャサリン・ベネット
五人姉妹の四女。キティと呼ばれている。美人。
気弱で優柔不断な性格であり、自分を引っ張ってくれるリディアに操られている。
母親程ではないが何とかして玉の輿に乗って贅沢な生活をおくりたいと考えている。そんな考えもあり、同じく男遊びが大好きなリディアと共に行動をしている。後述するが家名に傷をつけかねないほどのことをしており、家族のトラブルメーカーである少女。父親からは殆ど見捨てられている。
その反面リディアにシンパシーを感じているだけに、後半で彼女が『ある事件』を起こした時には嫉妬にかられ誰よりも怒り狂っていた。


◆リディア・ベネット
五人姉妹の末妹。16歳。美人。
キャサリンとウマが合うのかよく一緒に行動している。
かなり頭が悪い……というか後先の考えない少女。軍人など金のありそうな男と遊ぶのが大好きであり、近場の軍の駐屯地にキャサリンと一緒に遊びに行っている。まあ当時の風潮から言えばビッチと呼ばれてもおかしくない行動であり、ヘタすればベネット家の家名そのものを傷つけかねないことをやっている。本人はそれについて全く自覚しておらずおしゃべりな性格も相まって、周りに得意げにべらべら話している始末。ちなみにベネット氏は完全に見捨てており、「いっそ一回痛い目見た方が今後のためにいいんじゃないか」とまで言っていた。
しかしその放任主義ともいえるベネット氏の考えのせいで、本作最大とも言える事件を起こすことになる
良くも悪くも母親に一番似てしまった人。


◆ベネット氏
五人姉妹の父親。
地の文曰く、「鋭利なる才気、辛辣なる諧謔、克己心、気まぐれなどが微妙に混交している変わり者」とのこと。
好き嫌いがはっきりした性格であり、エリザベスやジェインなど好きな相手に対しては愛情を注ぐが、
それに対してキャサリンやリディア、妻など嫌っている相手に対しては露骨にドライな態度を取るという分かりやすい二面性がある。
これについては若気の至りで見た目だけは美しい妻と結婚した結果ろくでもない生活になってしまったことと、その後五姉妹しか生まれず跡継ぎとなる息子が生まれないことと不幸が重なって心が冷え切ってしまったためであるらしい。そのため他人の愚かな部分を喜ぶきらいがあり、シャーロットがコリンズと結婚した時には彼女を馬鹿に出来ると喜んでいた。
しかし最低限人の心は残っているらしく、弟のミスタ・ガーディナーに迷惑をかけた時は心から申し訳なく思っていた。


◆ベネット夫人
五人姉妹の母親。ヒステリックで噂好きのめんどくさいおばちゃん。
「女性は玉の輿を狙ってこそ」という考えを持ち、娘たちを上流階級結婚させることに命をかけている。だがそのやり方は強引で悪手を踏むことが多い
。というか、地の文に「理解力はお粗末、知識は乏しく、むら気なご婦人」と書かれてしまっている。さらに夫には遠回しに煙たがられている始末。
ただ本人なりに娘たちのことを大切に想っており(やり方はアレだが)間違いなく彼女たちの幸せを願っている。
実際キティとベネットのビッチ言動に夫が苦言を呈した時には「親が娘を悪く言うなんてことがありますか」と血相を変えて怒っていた。
一応若いころは美人だったらしく、その血は娘たちに確実に受け継がれている。

◇ダーシー家


◆フィッツウィリアム・ダーシー
この物語のヒーロー役。ツンデレその2。
ビングリーと共にネザーフィールドに引っ越してきた青年であり、彼とは親友。年収1万ポンドと本作トップクラスの資産家であり、同時にかなりのイケメン(ちょっと目つきは悪いらしいが)。
しかし性格はあまりよろしくなく、気難しさとすぐに相手を見下すようなことを言う様から、イケメン金持ちであるにも関わらず女性からの評判は良くない。そのため金だけは余っている独身貴族になっている。
しかし根はとても誠実で心優しい人物であり、引っ込み思案な性格と口下手さのため周囲から偏見を持たれやすいだけである。なんとテンプレな。要するにどこまでも不器用な男。
実際ビングリーには信頼され、非常に良好な友人関係を築いている。
同時にかなりの純情。結構序盤からエリザベスに恋をしており、自分に偏見を持ったエリザベスにとやかく言われ続けながらも陰で彼女のフォローを続けていた。
そもそもエリザベスに対しては一目惚れである。
無愛想で周囲からよく思われていないが実は根は優しく誠実な人物であったという、子犬の世話をするヤンキーキャラのような少女漫画のテンプレを地で行く人物。


◆ミス・ジョージアナ・ダーシー
今年で16になるダーシー氏の妹。後半から登場する。
長身で端正な顔立ちの美女。口数が少なく無表情なためにエリザベスからは警戒されていた。
しかし実際は極端に引っ込み思案で思うように自分を表現できず、周囲から勘違いされやすいだけの女の子である。
事実、口数が少なすぎるせいでエリザベスは彼女が引っ込み思案だという情報を引き出すだけのことにかなりの時間がかかった。この辺りは確実にダーシーの妹だろう。
根は心優しい少女であり、最初からエリザベスと仲良くなる気でいた。

◇ビングリー家


◆ビングリー氏
ネザフィールド・パーク館に引っ越してきた独身の資産家。ダーシーとは親友。
明るく優しく社交的であり王子様のような青年。年収5000ポンドの男。資産があり人付き合いがいいことから、彼を狙う女性はかなりの人数である。社交のひとつとして舞踏会を開いたことがこの物語の様々な発端となる。
ダーシーとは数年来の友人であり、気心は知れた仲。そのため彼の高慢な言葉の本質を見抜ける数少ない男でもある。同時に口下手なダーシーをフォローする役割である。
舞踏会でジェインに一目ぼれをし、それから彼女やその姉妹と様々な付き合いをしていくことになる。
心優しく家柄もいいため周囲からは王子様的な存在として扱われているが、案外主人公との恋愛役にはならないという少女漫画の(ry。
ビングリー×ダーシーは世界中の腐ったお姉さま方から高い人気を誇る。


◆ミス・ビングリー
ビングリーの妹。兄たちとともにネザフィールド・パーク館に引っ越してきた。兄と違い、高慢で高飛車な性格。そのためベネット家との交流を快く思っていない節がある。しかしジェインのことだけは気に入っており「親友」を名乗っている。ダーシーに好意を寄せており、何かと彼との交流が多いエリザベスのことを一方的にライバル視している。

◇その他


◆シャーロット・ルーカス
エリザベスの親友。27歳。
明るく聡明でありエリザベスにとってもうひとりの姉のような人物。ゆえに彼女からは相談役として慕われている。エリザベスは序盤からダーシーやビングリーについて話していた。
しかし恋愛についてはかなり不器用であり、20代半ばになってもまだ独身生活である*1
結局人生を割り切り、生活のためだけにコリンズ氏と結婚することになる。
この時の「結婚なんてできれば相手はどれも同じだろう」はある意味名言。


◆ウィカム氏
ブライトンに駐留する軍隊の青年士官。気さくで口が上手くコミュ力が高いというビングリー氏とは違う意味で王子様のような性格。士官の中でも特に人気が高く、エリザベスも一時は彼にメロメロになっていた。
実はダーシーとは同じ家で暮らしていた過去があり、兄弟同然の関係であった。そして彼はダーシーの亡父の財産の一部を貰う権利を持っていたのだが、その財産をダーシーに奪われてしまっている。そのため彼のことを強く憎んでいる。
……というのは真っ赤な嘘。
一見地位もあり人当たりのいい好青年であるが、実は腹黒く周囲を見下しているという少女漫画の(ry。


◆コリンズ氏
ベネット家の親類にあたる牧師で、ベネット家の遺産相続人。
このままでは一族が滅びてしまうベネット家をたいそうかわいそうに思い結婚してあげようと考えて、エリザベスたちに会いに来る。
空気が読めず、その上出来事を自分のいいように解釈しようというめんどうくさい男。地の文には「ミスタ・コリンズは思慮分別に富む人間ではなく、この生来の欠陥は、教育や人間との付き合いによって補正されることもなかった」と書かれてしまっている。
見ようによっては本作のネタキャラ……かもしれない。


◆ガーディナー夫妻
ベネット氏の弟夫婦。つまりエリザベスたちの親戚である叔父と叔母。
ベネット家よりもやや階級の低い家ではあるが、気さくで温厚な夫婦である。そのためエリザベスたちには親しまれている。
また行動力があり、家柄に縛られやすいベネット家よりフットワークが軽いため、もしもの時にはベネット家の頼れる味方となる。
中盤、エリザベスを強引に旅行に誘ったことが物語を意外な展開に進めることになる。


◆フィッツウィリアム大佐
ダーシーの従兄弟で、キャサリン夫人の甥に当たる人物。ダーシーと共にロージンズに滞在している時にエリザベスと会う。


◆キャサリン夫人
ダーシーの叔母であり、コリンズの後見人。ダーシー以上の資産と土地を持っている。
本作一の高慢な性格であり、いかなる時でも自分の思い通りにならないと気が済まない性格。
ダーシーを娘の許嫁と決めており、エリザベスと対立する。

【ストーリー】


◆上巻


イギリスの片田舎ロンボーンでのこと。
そこにはベネット家という家族が暮らしていたが、そこでは跡継ぎとなる息子が生まれず五人姉妹の家であった。跡継ぎがいなければ当然当主であるベネット氏の死後、遺産は全て親戚たちのものになってしまう。
そのためベネット夫人は娘たちを何とか金持ちの婿に片付けてしまいたがったが、無頓着なベネット氏は特に気にせずに読書にふけっているという状況であった。


そんなある日のこと、資産家のビングリー氏がネザーフィールド屋敷を別荘としてロンボーンに引っ越してきた
もちろんこれを好機と見るベネット夫人。それに対してベネット氏は適当に情報を集めるだけで特には動きを取ろうとはしなかった。
それから数日して、しびれを切らしたベネット夫人の企画でビングリーたちと舞踏会が開かれることとなった。


ビングリーは噂に違わぬ好青年。姉妹たちをはじめとして参加した婦人たちの中では最も評判の良い青年であった。対して婦人たちの中で評判が良かったのは姉妹の長女であるジェイン。
当然のようにこのふたりは仲良くなり、それぞれ舞踏会の中で唯一複数回踊るなどお互いに気に入っている様子であった。ビングリーはジェインを「天使いえどもあの美しさには及ばない」と絶賛し、ジェインは帰宅後延々とエリザベスにビングリーの良さを語っていた。


逆に紳士たちの中で最も評判が悪かったのはダーシー。ビングリーの親友ということで舞踏会についてきたのだが、婦人方と踊ろうともせず広間をぶらぶらとしているだけであり、誰かが話しかけようものなら数言話すだけで黙ってしまう。
エリザベスは最初こそダーシーのことは気にしていなかった。しかし彼が自分について「まあまあかな。だが踊りの相手にしたいほどの美女じゃないね」と言っているのを聞いてしまう。
エリザベスはダーシーの高慢な物言いに怒りを覚えるのだった。


……しかしそんなエリザベスの想いとは反対に、実はダーシーは彼女のことが気になり始めていた
最初見た時こそ粗野な娘に見えていたが、目に入るごとに彼女が知性的な目をしていることに気が付かされた。あの溌剌さは上級階級にはないものであった。
……要するに一目惚れをしていた。見た目に反して純情なのである。
故にダーシーは彼女にお近づきになろうとその後も同じ舞踏会に参加し続けていたが、そんなことを知る由もないエリザベスは会うたびにダーシーに皮肉を投げかけていた。
しかしエリザベスに惚れたダーシーはそんなことも気にせず彼女に話続けているのだった。
がんばれダーシー。


そんなことが続いていたが、ジェインに一通の手紙が届く。ビングリーの妹であるミス・ビングリーからネザーフィールド屋敷で食事会をしないかとお誘いが来たのだ。
早速馬車で向かおうとするが、ベネット夫人が今日は雨が降りそうだしただの馬で行けば、雨で帰れないことにして泊まることができる→ビングリーと仲良くなれる! とアホなことを考えたので人のいいジェインはやむなく馬で行くこととなった。……そしてその日本当に土砂降りとなった


しかし世の中そう上手くは行かないものである。次の日、ネザーフィールド屋敷から手紙が届いた。ジェインが雨でずぶぬれになり風邪をひいてしまったらしい
ちなみに食事会の手紙が届いてから風邪を伝える手紙が届くまでは約2ページ。即オチ二コマかよ。
馬もなくなってしまっている以上、妹たちがミイラ取りがミイラになると反対する中エリザベスは雨で泥だらけになっている道を走ってネザーフィールドに屋敷に向かう羽目になるのだった。


驚かれながらもビングリー家の面々に迎え入れられたエリザベス。……と言ってもずぶぬれで服は泥まみれ、さらに息は絶え絶えな淑女が家に押しかけて来たのだからまあ当たり前だが。
そんなあまりの姿と気の強そうな性格からミス・ビングリーはエリザベスに敵対心を抱く。
その後エリザベスはジェインの看病もかねてネザーフィールド屋敷に滞在することとなった。


ジェインは最初こそ重い風邪であったが、心配したミス・ビングリーが都会から高名な医者を呼んだこと、何よりビングリーの献身的な看護により無事快方に向かうのだった。
そんなこともありジェインとビングリーの仲は急速に進んでいた。
結果論とはいえベネット夫人の作戦は大成功だった。


……ついでに話を聞いて屋敷に訪れたダーシーがさりげなくエリザベスにアタックしていたが、口下手さと彼女の敵対心のせいで寧ろ仲は悪くなっていた。
ドンマイダーシー。




それから一週間して、ジェインとエリザベスは自宅に帰った。



そんな折、遠縁でベネット家の遺産相続権を持つひとりであるコリンズ氏から手紙が届く。コリンズの父とベネット氏には確執があったのだが、それを解消するために是非会いたいらしい。
手紙の文章は紳士的であり、皮肉屋のベネット氏以外はこのコリンズという男に期待を抱いていた。……最初こそは。
しかし会ってみると彼はメアリー以上に空気が読めずめんどうくさい男だった。外面こそ真面目であるが、空気が読めず常に自分の都合のいいように物事を考える。すぐにベネット家から煙たがられる存在となった。……あるひとりを除いて。
それこそがベネット夫人である。
コリンズは年頃らしく結婚相手を求めていた。人格こそアレであるが、財産もそれなりにある。ベネット夫人が放っておくはずもなかったのである。


そんな夫人のたくらみも知らず姉妹たちはまた村の舞踏会に出席していた。
そこで婦人たちの評判を集めたのはウィカムという将校だった。明るく気さくで何より口が上手い。彼にかかればどんな些細なことでも面白い小話となった。
キティ、リディアをはじめとして多くの婦人が彼と話したがったが、偶然にもウィカムと話す機会を得たのはエリザベスだった。
ウィカムのトークに惚けるエリザベスだったが、彼からとんでもないことを聞かされる。実は彼はダーシーと兄弟同然の過去であったが、彼に裏切られたことがあるらしい。
ダーシーの父は最高の聖職禄授与権を持っており、それをウィカムに遺贈する予定だったが、それをダーシーが遺言状の言葉が曖昧なのをいいことに奪ってしまったのだ。裁判でも勝てる見込みはなく、ウィカムは泣き寝入りするしかない。
ダーシーのあまりの行動に、エリザベスは強い怒りを覚えるのだった。


しかしその話に反論したのがジェインだった。
確かにウィカムが嘘をつくようには思えない。しかし同時に愛するビングリーがそんな酷い男と親友でいるはずがない
そんな時、ちょうどダーシー、ウィカムを含めた面々で舞踏会が行われることとなった。


真相を知るためと姉妹は参加する。
……しかしその日ウィカムは欠席だった
これもダーシーのせいだと心の中で八つ当たりをするエリザベスだったが、そんな折なんとダーシー本人に踊りに誘われてしまう。
踊りながらウィカムについて問いただすが、彼の言葉はいつも通り高慢めいたものであった。
なんとなく言葉の端々でダーシーがウィカムを苦手としていることは分かったが、真実まではたどり着けない。。
結果、エリザベスがダーシーへの憎しみを増すだけの舞踏会となった。


ついにベネット夫人はコリンズが求婚するためのお膳立てを整えていた。
そして、運悪く求婚相手として選ばれたのは、エリザベスだった。
突然のことに当然断るエリザベス。しかし空気の読めないコリンズは断りの言葉も「女性は結婚を求められたら一度は断るのが慣例」と自己解釈して聞き入れてくれない。さらに断ったということでベネット夫人は烈火のごとく怒り「結婚しないのであれば絶縁」と言い出す。
一応ベネット氏だけはエリザベスの味方でいてくれたが、それでも家族は一触即発の状態であった。


そしてその場を収めたのは意外な人物だった。
それはエリザベスの親友であるシャーロット・ルーカス。コリンズとの食事会で偶然彼女も同席したのだが、その際にシャーロットはコリンズを誘惑していたのだった。コリンズは単純な男であり、そのたくらみはすぐ成功した。
シャーロットが結婚しようとしたのはただ生活のためだった。女性はいくら教養があっても財産は少ないという時代であったため、シャーロットは結婚するしか飢えをしのぐ手段は無かった
当然コリンズとの結婚はエリザベスとの友情に亀裂が入る。それすらも覚悟の上であった。
エリザベスは最初こそシャーロットを非難するも、彼女の事情を受け止め祝福するのだった。だが同時にシャーロットの今後の身の上を案じていた。


それと同時期、ジェインにミス・ビングリーからとんでもない手紙が届く。
なんと数日前にビングリー一家はネザーフィールド屋敷からロンドンに引っ越して行ってしまったのだった。
ジェインは挨拶もなく唐突な別れが訪れたこと、そして手紙にはビングリーがダーシーの妹と結婚するつもりであると書いていたことで「恋は自分の勘違いだった」と嘆いてしまう。
何かがおかしいと感じるエリザベス。ベネット夫人も大いに嘆き、家族(と偶然家にやってきていたガーディナー夫妻)の勧めでジェインはロンドンに旅行がてら会いに行くことに。しかし結局彼らを見つけることはできず、後ろ髪を引かれる想いでロンボーンに帰還した。
それからジェインは目に見えて落ち込むようになった。


一方その頃、エリザベスはシャーロットに屋敷に遊びに来ないか、と誘われていた。ジェインのこともあり気が滅入っていた彼女は数週間遊びに行くことを決める。そして訪れた屋敷は自然豊かであり、少しずつであるがエリザベスの心は充実していった。
ある日、近くに住む貴婦人であり、コリンズの後見人であるキャサリン夫人の屋敷に訪問に向かう。しかし屋敷には、エリザベス以外にも意外な人物たちが訪れていた。
ひとり目はフィッツウィリアム大佐。キャサリンの甥にあたる人物である。
そしてもうひとりは……よりによってダーシーだった。ふたりは数週間キャサリン夫人の屋敷に泊まるつもりであるらしい。


この日からエリザベスの生活はストレスの貯まるものとなった。
庭園を散歩していると、必ずと言っていいほどばったりダーシーに出会ってしまうのである。
エリザベスはこれをダーシーの嫌がらせだと考えていたが、実際は不器用なダーシーが自分なりに毎日エリザベスに会おうとしていただけだった
ダーシーはなんとかエリザベスと仲良くなろうと言葉をかけるが口下手故に上手くいかず、エリザベスはそれをわざわざ皮肉だと解釈するため、なんとも会話が成り立たない毎日が続いていた。
多分作中のニヤニヤポイントのひとつ。
ちなみに勘のいいシャーロットはダーシーの真意をそれとなく伝えようとしたが、エリザベスは頑として信じなかった。


珍しくダーシーと出会わなかったある日、今度はフィッツウィリアム大佐と出会った。彼も口の上手い人物であり、雑談を楽しんでいたがふと彼から予想だにしない話を聞かされる。
ビングリーが引っ越すように助言したのはダーシーであり、しかもその時に彼は「まわりの迷惑も顧みずたいそう軽率な結婚に走ろうとした友を救ったのは幸いだった」と言っていたらしい。
つまりビングリーが引っ越したのはダーシーのせいであり、それもビングリーとジェインを結婚させないためであったのだ
さらにビングリーがダーシーの妹と結婚しようとしていたということを思い出す。
ウィカムとジェイン、ふたりの大切な人が傷つけられたことで、エリザベスの怒りは最高潮に達していた……。


しかしそんなことは一切知らないダーシーはついにエリザベスに告白する決心を固める。
エリザベスが呆気にとられる中、愛の言葉を紡ぐダーシー。しかし元来の口下手さから高い身分の差はあるかもしれないが」と見事に彼女の地雷を踏んでしまいキレられてしまうのだった
エリザベスはウィカム、そしてジェインの怨みを込めて叫ぶ。



あなたのこのような告白がわたしの気持を動揺させたとお思いでしたら、それは思い違いですわ、ダーシー様。

ただ、あなたがもっと紳士らしく振舞われたら、こちらはお断りするのを心苦しく思ったでしょうに。

どのようになさっても、さしだされたあなたの手を快くお受けする気にはなれません



次の日、また散歩に向かおうとしたエリザベスだが門の前でダーシーを見かけた。
ダーシーは何も言わず、一通の手紙を渡すと去って行った。


手紙は衝撃的なものだった。
前半は、ビングリーとジェインを引き離したことについて、真摯な謝罪だった。
元々、ビングリーは惚れっぽいところがありダーシーはそれに対してのストッパー役だった。
だから今回もきちんと観察したうえでジェインは本心から恋をしているわけではないと推測し、ふたりを一度離した方がいいと考えたのだった。
しかし妹のエリザベスが本心からの恋であると言っている以上、自分の推測は間違いであったと素直に認め、謝罪の旨を手紙に記していた


そしてエリザベスに対する高慢めいた態度は飽くまでベネット家に対するものであり、エリザベス本人のことは一切見下していないと。(キティ、リディア、そして母といように家族に問題のある人間が多いということはエリザベスも認めている。)


後半はダーシーとウィカムの因縁の真実だった。
ウィカムの話した過去は真っ赤な嘘。ウィカムは元々自分から聖職禄授与権を捨てていた。しかも「牧師は金にならない」という理由で。しかし遺産となる3000ポンドはしっかり貰っていた。だがそれから数年後、今度は聖職禄授与権が欲しいと言い出した。怠惰な性格のために軍人として成功しなかったのを理由に今度は牧師になりたいと調子のいいことを言っていたのだ。
もちろん断ったダーシーだが、それを恨んだウィカムの次の手段は復讐だった。
ダーシーの妹のジョージアナと駆け落ちしようとしたのだ。妹とは10も歳が離れており、ウィカムのことを「もうひとりの兄」と慕っている彼女を誘惑するのは簡単なことであった*2
しかもこの駆け落ちも妹の資産を奪うためのもの。
妹は奪われずに済んだが、完全に失望したダーシーは今度こそウィカムと決別した

◆下巻


この手紙がエリザベスに与えた衝撃はあまりにも大きすぎた。
ショックの大きさにエリザベスは手紙の内容を認識できず何度も読み返してしまった。
エリザベスは最初こそ疑おうとした(特にウィカムが放蕩息子だという部分)。しかし……

  • ウィカムは自身の過去を殆ど話そうとしなかった
  • 思い返せば口の上手さ以外に紳士らしき要素はない
  • ダーシーはフィッツウィリアム大佐に裏付けしてもらってもいいと宣言している
  • 自分はダーシーに対して一歩も引かないという癖に舞踏会は欠席する
  • ダーシーの悪行が事実だとして、どう考えても初対面のエリザベスに言うことではない


と、冷静になって思い返せば思い返すほどウィカムの言動は怪しいところしかなかった。


ここでようやくエリザベスは自分がダーシーに偏見を抱いていたことに気が付く。
混乱と気恥ずかしさからシャーロットたちの屋敷から逃げるように帰るのだった。


なんとか帰宅したエリザベス。ロンボーンにはウィカムの隊が駐屯していた。軍人の男と遊びたいキティとリディアも連れて、そこに向かう。
ウィカムに会いダーシーについて話をするのだが、彼はエリザベスがかけたはったりに見事引っ掛かり、本性を出しかけてしまう。エリザベスはそこについてあえて深く言及しなかった。
ただウィカムには二度と会いたくなかったし、相手もそう考えただろうと思った。


またリディアは軍人たちに気に入られたらしく、数週間彼らにくっついていくことになった。


リディアのいない家にも慣れたころ、エリザベスはガーディナー夫妻に旅行へ行かないかと誘われていた。湖畔に森林と自然を楽しめる魅力的な道程。しかしその旅行予定を見てエリザベスには一点だけ心配することがあった。行先のひとつに、ダーシーの実家であるペンバリー邸が含まれていたのだ。当然反対するも楽観的なガーディナー夫妻に押し切られたこと、何より現在ダーシーは出張中であると聞かされたことでしぶしぶ認めることになるのだった。


そして実際にペンバリー邸に向かったエリザベスたち。屋敷は豪華なうえに近くに森もある敷地であり、見ていて楽しいところではあった。しかし気恥ずかしさと罪の意識からエリザベスの顔は真っ赤になり、景色を楽しむどころではなかった。屋敷の豪華さからちょっとだけプロポーズを断ったことを後悔したが。
ガーディナー夫妻たちを迎え入れてくれたのは女中頭のミセス・レノルズ。彼女と話す話題は自然とこの屋敷の主人であるダーシーについてになった。
しかしレノルズ含む女中たちの話すダーシー像はエリザベスの知るものとは全く別であった。彼女たちの言うところのダーシーは「温厚で気立ての良い紳士」。
エリザベスにとっては到底信じられるものではなかった。しかもレノルズたちが嘘をついている様子はない。
エリザベスはダーシーとビングリーが仲の良い親友であることを思い出し、もしかしたら彼は根は善人なのかもしれないと考え直すのだった。


訪問も終わりペンバリー邸から去ろうとしていたエリザベスたち。しかし門の前に誰かがいるのを見かける。そしてそれはよりにもよってダーシーであった。出張が予定よりも早く終わったため、帰ってきていたのだった。なんとお約束な。


好奇心からダーシーに話しかけるガーディナー夫妻たち。エリザベスはまた彼が毒舌を吐いて夫妻を傷つけるのではないかと心配したが、それは全くの杞憂だった。ダーシーの態度はエリザベスが知る物と全く別であった。女中たちが言っていたように、気さくで温厚な口ぶりでガーディナー夫妻と話していたのだ。夫妻はすぐにダーシーのことを気に入った。
混乱していたエリザベスだが、ひょんなことからダーシーと一緒に敷地内を散歩しに行くことになってしまう。一緒に歩いている以上何かを話さなければ不自然だが、何を話そうとしても不自然に想えてしまい、結局エリザベスは真っ赤になりながらしどろもどろでぽつりぽつりと会話にならない会話をする羽目になってしまうのだった。
多分本作屈指のニヤニヤシーン。
ガーディナー夫妻と合流して散歩も終わり、今日はひとまず帰ることとなった。ダーシーはこちらにいる間に一度妹に会ってほしいと言うと去って行った。


それからすぐにエリザベスはダーシーの妹であるジョージアナと会うことになった。
あのダーシーの妹ということで最初は警戒したエリザベス。しかし彼女も兄に似て口下手なだけであり、すぐに温厚な少女であると分かった。そもそもジョージアナはエリザベスと仲良くなりたいだけで会いに来たのだ。
そしてジョージアナの言葉によりエリザベスは彼が高慢だった態度を改めて自分に歩み寄ってくれていることを感じるのだった。


なんだかんだでお互いを分かりあい、楽しい時間を過ごしていたエリザベスとダーシー。
しかしそれはジェインからの一通の手紙で終わりを迎える。
エリザベスが旅行に行っている間、ベネット家は非常事態になっていた。
なんとリディアが駆け落ちしたのだ。しかもその相手はウィカムだった


この時点で、エリザベスを含む(リディア以外の)ベネット家はこれが最悪の展開だということを理解していた。おそらくウィカムは駆け落ちをするだけして結婚せずにリディアを捨てようとしているのは明白であった。
ウィカムの目的は自身の弱みを知ったエリザベスに対する復讐、そして過去にジョージアナを誘惑したのと同じように資産を奪い去ること。
この時代、駆け落ちはリスキーなことであり中流階級の娘が駆け落ちをして相手に捨てられようなものなら、世間から「ふしだらな娘」というレッテルを貼られることになる。そしてそのようなことになれば家名にも傷がつきエリザベス含めた娘たちもほぼ確実に結婚できなくなる。そして跡継ぎ息子のいないベネット家にとって、結婚ができないというのは死刑宣告にも等しい話だった。


エリザベスは後ろ髪を引かれるような想いではあったが、ダーシーに手短な挨拶をしてガーディナー夫妻と共に帰還する。
ロンボーンはすでに大騒ぎになっていた。特にベネット夫人はあまりの事態にひっくり返って寝込んでしまっていた。
あとコリンズからクソの程にも役に立たない手紙が送られてきていた。
ベネット家は家族会議を開いた末、ふたりの逃亡先と思われるロンドンに、当主であるベネット氏と比較的身軽に動けるガーディナー夫妻が探しに向かうこととなる。


……しかしいくら探してもリディアたちが見つかることはなかった。当面の資金が尽きたベネット氏はガーディナー夫妻に後のことを任せて一時的に帰宅する。
だがベネット氏が帰宅した次の日、ガーディナー夫妻から手紙が届いていた。なんとリディアたちが見つかったのだ。しかし予想通りウィカムに結婚するつもりはないようであった。落胆する一同。


もうどうにもならないのか、と落ち込む一家であったが、その数日後に送られてきた手紙で状況が変わる。何の心変わりがあったのか、ウィカムは結婚する意思を固めたらしく、ガーディナー夫妻が示談金を肩代わりしてその場で結婚式を挙げさせたらしい。
結婚さえ出来たのであればベネット家が最悪の事態になることはない、エリザベスたちはそう安堵したが、ベネット氏にはまだ不安材料があった。
とれはガーディナー夫妻が示談金いくら使ったのかということだ。ウィカムがこうも心変わりをしたということは最終的に金で黙らせたということに他ならない。そうなればガーディナー夫妻は必要以上の示談金を払わされたのは間違いなかった。というかベネット氏が「はした金で、正気の人間がリディアと結婚するはずがないだろうが?」まで言い切った。


それから数日してリディアとウィカムはロンボーンに帰ってきた。姉妹で一番先に結婚したということで、前にも増して一層調子に乗っており家族から腫物のような扱いを受けていた。
誰とは言わないが娘が一人結婚できたと喜ぶ夫人もいたが。


その後話し合いの末、リディアはウィカムと共に軍の駐屯地で暮らすこととなった。


リディアが引越しをする準備をしていたある日のこと、彼女は新婚生活について得意げに話していた。今日話していたのは結婚式についてのこと。しかしエリザベスはそこでリディアがあり得ないことを言ったのを聞いてしまう。
実はあの結婚式にはダーシーも出席していたらしい。
ダーシーを裏切ったウィカムの結婚式。そんなものに来るはずはないし、来たくもないはずだった。
エリザベスは問い詰めようとするも、これについては口封じされているらしく、いくら聞いても答えてくれなかった。


仕方がなく当事者であるガーディナー夫妻に手紙をおくることにした。返事はすぐに帰ってきた。
実はこの結婚式には裏があったのだ。
ダーシーはエリザベスから事情を知った時点でロンドンに向かう準備をしていた。今回の件は、前にウィカムと決着をつけ切れなかった自身のせいだと悔やんでいたのだ。
ロンドンでふたりを見つけ、説得し、そして金まで払ったのはダーシーだった。
そして今回ダーシーが使った費用は示談金だけではなく、ふたりを探すための費用、さらにはウィカムが将校の地位を買うための費用まで払わされ、かなりの大金となっていた。


ベネット家を守りたい。
ただそのためだけに自らを裏切り妹を誑かした男に頭を下げ大金まで払ったのだ。
エリザベスはダーシーの愛に感動するも、同時にそんな彼に偏見を持っていたことと、リディアのどうしようもなさに苦悩する。


それからしばらくして、ビングリーがネザーフィールド屋敷戻ってきた。
ジェインとビングリーを引き離したことに責任を感じたダーシーが、それとなく促したのだ。
彼が戻ってきたのはチャンスだと考えたベネット夫人は色々と作戦を企てる。姉妹たちに色々を用を言い渡して、ジェインとビングリーをふたりっきりにさせようとしたのだ。ふたりが仲良くなることには異議がないエリザベスは大人しく部屋で手紙を書いたり作業をしたりしていた。
そしてその夜少し用事があり居間に降りてくる……が、そこにいたのは暖炉の前で肩を並べ、仲良さげに話し合うジェインとビングリーの姿だった。
ふたりはエリザベスを見て明らかに気まずそうな顔をしていたが、エリザベスもエリザベスで「こっちはもっと気まずいわ」と内心毒づいていた。
そしてビングリーは真っ赤な顔でジェインに耳打ちをすると、速足で帰って行った。



もう胸がいっぱい! こんな幸せでいいのかしら。わたしの身に余ることよ。

ああ! みんながこんなに幸せになればいいのに

こんな素晴らしい幸せに、わたし、押しつぶされてしまいそう!



その日、ジェインとビングリーの結婚が決まった


ビングリーの婚約から1週間経ったある日の朝、突如キャサリン夫人がベネット家を訪問する。エリザベスにとってはシャーロットの屋敷に向かって以来の最下位だった。
彼女はエリザベスに用事があった。何でもジェインたちの婚約皮切りに何故かエリザベスとダーシーが婚約するという噂が流れていたらしい。もちろん事実無根である。
キャサリン夫人はダーシーを自分の娘の許嫁と決めており、それを彼にとって最大の名誉と考えていた。だからこんな噂が流れては困るのだ。もちろんエリザベスは否定したが、キャサリン夫人がこれからもダーシーと深い仲にならないことを約束させようとすると、「未来のことはわからない」と突っぱねて追い返してしまう。エリザベスはその気になれば自分よりも上流階級であるキャサリン夫人と徹底抗戦するのも厭わないつもりであった。
そしてこの口論のせいで、エリザベスはダーシーを奪われたくないという自身の恋心に気が付いてしまっていた。


しかしダーシーが自分ではなく名誉を選ぶ可能性は十分にある。
そんなことになったら彼のことは潔く諦めようとエリザベスは決めていた。












そして……運命の女神はエリザベスに微笑んだ。













ダーシーがまたロンドンにやってきたのだ。
エリザベスとダーシーはいつかの日のように散歩をしていた。そしてあの日のように何を言えばいいのか分からなくなったまずはリディアの件についての感謝を述べる。
するとダーシーはとんでもないことを言いだした。
あの行動のすべてはベネット家のためではなく、エリザベスのためにやったことだった。
少なくとも、あの奔走の時にはエリザベスのことを考えて動いていた。


驚くエリザベスに、ダーシーは言葉を付け加える。



あなたはとても思いやりのあるひとだから、ぼくをからかったりはしないでしょう。あなたの気持が、あの四月のときと変わらぬものなら、はっきりとそう言ってください。

ぼくの愛情と願いは変わっていませんが、あなたからひとこと伺えるなら、二度とこのことは口にしません



エリザベスはぽつりぽつりと自分の気持を伝えた。あのときからこちら、自分の気持は大きく変わっており、そちらのいまのお気持をありがたくうれしくいただきたいと思っていると。


その日二人はお互いに結婚しようという決意を固めた。


ついにエリザベスはダーシーと結婚したいという想いを家族に打ち明ける。最初こそベネット氏はおろかジェインにすら正気を疑われた。
ちなみに物事を疑わないジェインが他人を疑った数少ないシーンである。*3
そんなふたり(特にベネット氏)にエリザベスは真摯に説得した。




好きです。ほんとうに好きなんです。

あの方を愛しています。あの方には、思い上がった自尊心などありません。

どうか、あの方のことをそんなふうに悪しざまにおっしゃってわたしを苦しめないでください


ベネット氏はエリザベスから今までの事を聞き、ダーシーが誠実な人物だとわかると、娘の幸せを心から祝福するのだった。


エリザベスとジェインは誰からも祝福され、ベネット家は「もっとも幸運な家族」と謳われるのだった。
まあ数週間前まではリディアのせいで「不運な家族」と言われていたが。


◆エピローグ


大体の問題が片付いたベネット夫人はのんびりとした余生をおくった。まあ五人姉妹で跡継ぎなしという逆境から3人が結婚、残りふたりも見込みありという状況になったのだから気も緩んだのだろう。ベネット氏も呆れながらも付き合っている。


ビングリーとジェインはネザーフィールドの屋敷に1年程度しか住まなかった。互いの親戚の家に近すぎたために、逆にぎこちなくなってしまっていたのだ。
だがその後ビングリーがダーシーの家の近所に屋敷を買ったのでその悩みは解決された。何よりジェインとエリザベスはまたすぐに会えるようになったことを喜んでいる。


メアリーはコンプレックスとなっていた姉たちがいなくなったことで、少しだが自分に自信を持てるようになっていた。さらに母のおせっかいで人との交流に連れられるようになったことで、社交的な面を見せるようになり、それほど嫌がらずに世間の変化を受け入れられるだろうとベネット氏は考えている。


キティは姉たちの屋敷に入り浸るようになっていた。そのおかげで今まで知らなかった優れた人間と交流することが増えていった。要するにリディアという悪い手本がいなくなったことにより、以前のような短絡的な行動は減り淑女にふさわしき女性となっていた。


リディアは悲惨な結婚生活をおくっていた。ふたりとも後先を考えない性分であるため、あまり収入もないくせに金を湯水のように使うため家計は火の車であった。そんな酷い生活のせいでリディアはともかく、ウィカムの愛は冷めきっていた。もうふたりに幸せは訪れないだろうと言われている。
リディアはほぼ毎日のようにジェインとエリザベスに援助を求める手紙を送っている。エリザベスはもう彼女たちに関わりたくないが、家族のよしみで最低限は助けるつもりでいた。


そしてエリザベスはダーシーと仲の良い結婚生活を送っていた。ミス・ビングリーやレディ・キャサリンなど結婚を良しとしない者もいたが、ふたりの説得もありなんとか和解することが出来た。そして妹となったジョージアナとは仲の良い姉妹となり、結婚のきっかけをつくってくれたガーディナー夫妻に対してはいつまでも深い感謝の念を持ち続けていた。


めでたしめでたし。




【映像作品】


◆高慢と偏見(1940年)
初の映像化作品。2時間という尺の都合上仕方がないが、全体的に話が端折り気味であり、特にビングリーとジェインの物語はかなり駆け足。
またクライマックスでキャサリン夫人がエリザベスの気概に心打たれ、ダーシーの結婚を快諾するという改変がある。
しかし、主演のローレンス・オリヴィエをはじめとしたキャスト面については歴代最高峰との呼び声も高い。


◆高慢と偏見(1995年)
BBCチャンネルで放映されたテレビドラマ。主演はジェニファー・イーリーとコリン・ファース。
BBCの本気とされており、ヘタな映画版よりも高いクオリティ・原作再現度・時代考証などから、映像化の中でも特に高い評価を得ている作品。
本作の放映時間にはイギリスの街並みから人が消えたという伝説が残っているほどである。
50分×6話と結構長いが、「とりあえず映像作品で『高慢と偏見』を見たいのならコレ」と言われている。


◆Bride and Prejudice(2004年)
アイシュワリヤー・ラーイ主演のボリウッド映画*4
タイトルをよく見ると分かるようにPride(高慢)ではなくBride(花嫁)。ダジャレかよ。


◆プライドと偏見(2005年)
現状では最新の『高慢と偏見』。イギリスで映画化されるのは実に65年ぶり。
監督はこれが長編映画初となるジョー・ライト。主演は『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのキーラ・ナイトレイ。
何気に日本版作品で「Pride」が「プライド」と訳されるのは初である。
2時間という尺で高慢と偏見をある程度まとめられている。ただしメアリーはこれ以上ないくらいに空気となった。

【派生作品】


◆ペンバリー館 続高慢と偏見(1993年)
エマ・テナントによる『高慢と偏見』の数年後を描いた二次創作続編。前作が婚活小説ならば、今作は妊活小説とでもいった作品。新婚生活後、また新たな苦難に直面したダーシー夫妻の物語。
話の雰囲気は原作によく似ている反面、キャラクターの乖離が激しい(特にダーシー夫妻)という指摘がなされている。
特筆すべきは既にベネット氏が死んでいるということか。確かに「そこまで長生きできない」ってジョークで言っていたけど……。


◆リジーの庭―『自負と偏見』それから(1999年)
上の作品からさらに19年後を描いた一作。
ついに娘と息子がそれぞれひとりずつ生まれている。


◆高慢と偏見とゾンビ(2009年)
セス・グレアム=スミスによるパロディ作品。よく間違われるが、原作は小説である。「高慢と偏見」の世界観を下敷きにしたゾンビパニック作品となっている。
原作との相違点は……
  • この世界のイギリスは死後ゾンビ化する謎の疫病に悩まされている
  • ベネット家の五人姉妹は少林寺拳法家ペイ・リュウ氏に鍛えられた対ゾンビ戦のエキスパート
  • ダーシーとビングリーはゾンビと戦う戦士
  • ニンジャが出てくる
などか。
カルト的な人気があり、2016年に映画化され、日本でもギャガ配給で公開された。ものの見事に全世界で大爆死したが
ドレス姿でナイフや二刀流を操って戦う五人姉妹はある意味必見。


◆高慢と偏見、そして殺人(2012年)
ミステリー界の大御所であるP・D・ジェイムズによる推理小説。
エリザベスたちの結婚から数年後、ウィカムは親友を殺害され、お前友達いたのか……なんとウィカム自身が容疑をかけられてしまう。果たしてダーシー夫妻はウィカムの無罪を証明できるのか……という内容。バリバリのミステリーというよりかは、『高慢と偏見』の解釈本に近い。


◆リジーの結婚 プライドと偏見(2018年)
厳密には違うが記載。児童向けに翻案された作品。編訳者は『若おかみは小学生!』で有名な令丈ヒロ子。
物語としてはエリザベス、ダーシー、そしてウィカムの3人の三角関係が強調されている。
当たり前ではあるが児童小説として内容がマイルドになっており、特にリディアの人物紹介は「遊び好きでミーハー」という表現に抑えられた。
何より目を引くのがイラストであり、『高慢と偏見』がまさかのちゃお風イラストになっていたことは、一部のファンに衝撃を与えた。特に優男風に描かれたウィカムは全てを知った後だと笑えて来る。


【解説】


◆著者の生涯や執筆背景


ジェイン・オースティンは1775年、南イングランドのハンプッシャー州にある田舎町スティーヴントンという村に次女として生まれた。
父のジョージは牧師、母カサンドラは良家の出身ということもあり、オースティン一家は中の上くらいの家柄であったらしい。
男6人、女2人という大所帯の家族であり、家族仲は非常に良好であった。
特にジェインは長女のカサンドラのことをシスコンレベルで愛していたらしく、死ぬまで行動を共にしていたらしい。
これについて母は「カサンドラが死んだら多分ジェインは後を追っていただろう」とまで言っている。
なおジェインが活発な気質で、逆にカサンドラは温厚な気質だったことから『高慢と偏見』ジェイン&エリザベス姉妹の元ネタはこのふたりだと考察されているが、まあ間違いないだろう(この時代知り合いを小説のキャラクターにアレンジすることは割とよくあることだった)。
……ジェイン&エリザベス姉妹が執筆当時のカサンドラ&ジェイン姉妹とほぼ確実に同い年で、作中で姉の方の名前が作者と同じ「ジェイン」になっているのは、「シスコン」という言葉で片付けられぬ空恐ろしさを感じるのは気のせいだろうか。


男6人と、経済的に余裕のなかったオースティン家は姉妹の教育を寄宿学校に任せることになる。そのためジェインは7歳の時にカサンドラと共に、寄宿学校に住み込むことになった。ちなみに歳の違うふたりが同じ年に寄宿学校に行ったのは、ジェインがカサンドラから離れたくないとダダをこねたから。
しかし経済面の事情もあり、学校生活は4年弱で終わる。
その後家に戻ったジェインの教養の支えとなったのは読書だった。ジェインは活発な反面、無類の読書好きであり、恋愛小説にホラー小説、海外小説、シェイクスピア、詩、説教集と図書館から借りられるものは全て読んでいた。


しかし読んでいくうちに、話のテンプレ具合、特に小説の中の女性像に引っかかりを覚えたらしい。
当時は国のゴタゴタの影響もあり、パワーイズジャスティスな風潮があり、どうしても男主体なところがあった。そのため当時の小説の骨格はヒーローものであり、女性はさらわれ、助けられるものというのが常識であった。
ジェインはこれを見下し、反感を覚えていた。特にホラー小説でヒロインがすぐに気絶することをひどく嫌っていたらしい。
そんなジェインが自分で小説を書こうとするのは至って自然なことだった。当たり前というか、彼女の当時の作品は所謂アンチ王道やパロディものが多かったらしい。


……ちなみにこう書くとジェインが物事をやや斜めに構えた人物に見えるが、実際のところかなりの皮肉屋かつ毒舌家であったらしい。事実、カサンドラとの文通を見てみると……


「ホウルダー夫人がお亡くなりになるなんて。お気の毒なこと、あの方は、ご自分に対する世間の悪口を封じるために、あの方としてもわずかにおできになるただ一つのことをおやりになったのです」

「シャーパンのヘイル夫人は予定日まであと数週間もあるというのに、昨日お産をなさって、死んだ赤ちゃんをお生みになりました。物におびえたというのが原因だそうですが、多分うっかりご主人のお顔でもごらんになったのでしょう」

「ヘイル博士は本喪服に使う真黒な服をつけておいでです。お母さまか、奥様かがお亡くなりになったか、それとも当のご本人がお亡くなりになったに違いありません」



というようになかなかブラックジョークに長けたお方であることが分かる。ひでえ。
なお一応『世界の十大小説』の著者であるW.S.モームは「心を許した姉にしか見せるつもりのない手紙だったのだから、少しくらい言葉が悪くなってもおかしくはないだろう」という旨のフォローをしている。
なお、勘違いされやすいがジェインが嫌っていたのは飽くまで「物語の中の女性の扱い」であり、19世紀の結婚しなければ生きていけない女性事情については「そういうもの」と受け入れていた。


そんなこんなで書いた小説を身内に読ませていたジェインだが、20歳のころ本格的に著作を出版しようと考える。のちの『分別と多感』や『高慢と偏見』である。
……しかし事はそう上手く運ばなかった。前述の通り、世は男主体。当時の詩人が「女はペンより針を持つべき」と言っていた程である。出版するのであれば、周囲には絶対バレないようにしなければならなかった。
ジェインの隠蔽はすさまじかった。まず自分が小説執筆していることを身内にしか教えず、召使いにも隠していた。さらに用紙はすぐに証拠隠滅できる小さな紙きれを使い、自在戸は軋みやすくし戸が開けられたことを確実に分かる仕組みにしていた。


そんな徹底した隠蔽のおかげで、ジェインの作品は1年弱で完成する。
なんと『高慢と偏見』自体は21歳頃に完成している。
だが父が何度か出版社に交渉したようだが、オースティン家は中流階級ということもあり話はうまくいかなかった。その後何度か交渉を繰り返し1818年、ジェイン35歳の秋に初の長編小説『分別と多感』が出版された(ただし著者は『ある婦人作』と書かれた)。
さらにその2年後、ついに『高慢と偏見』が出版されたのである。
ちなみに『高慢と偏見』は上級階級を中心に広く読まれ、当時の摂政皇太子も愛読していたらしい。



◆評価


本作はW.S.モームの選ぶ『世界の十大小説』のひとつとして選ばれている
なおモームは十大小説として選んだものでも、自分で選んでおいてけなすところはけなすという批評をしているのだが*5、『高慢と偏見』はその中でもあまりけなされていないという珍しい一冊である。
ジェイン・オースティンの小説は、純然たる娯楽小説である。従って、読者を楽しませようとすることに小説家はもっぱら努めなければならない、とこうたまたま信じる読者は、オースティンを他に類のない作家として扱わなければならない」という一節が特に有名。


彼の評価をまとめると「人物描写がしっかりしており、それでいて大した事件が起こらないのに、ページを繰らずにはいられない」というもの。
人物描写は上で書いたように非常に緻密である。物語として進みやすいようにさっぱりとしているが、それでいて実際にありそうな行き違いや勘違いをリアルに描いている。この辺りはとにかく登場人物の心理の生々しさを描いた『嵐が丘』とは似ているようで対になるものだろう。
19世紀のそれもまだ若い21歳という時にこれが完成されたことは大いに評価されている。


もうひとつモームが評価しているのが話の起伏は少ないにも関わらずページをめくりたくなるということだ。ページを少しでも早くめくりたくなる、というのはモームにとって最高の小説の面白さであった
それでいて本作では殆ど事件が起こらないにも関わらずそれを可能にしたことは称賛されている。何しろ本作の最大の事件と言えばリディアが駆け落ちしたくらいだ。それ以外は大体ダーシーとエリザエスの行き違いを延々と描いている。
それだけであり深いテーマがあるわけでもない。ただ人間心理を描いているだけだ。にも拘らず次は何が起きるのかとページをめくりたくなってしまう。
そのひたすらページをめくりたくなってしまうというジェインの技法をモームは「純然たる娯楽小説」と表現しているのである。



◆当時の社会背景


上の方でも少しずつ書いていた当時の社会背景をまとめてみよう。

■当時の称号と階級


まず本作において最も地位が高いのはキャサリン夫人であり、称号を持つ上級階級である。それに次ぐのがダーシーであり称号は持たないがキャサリン夫人の次に高い上級中産階級である。
この上流階級は(ダーシーとキャサリン夫人)含めて土地を貸すことによって収入を得ている階級である。当時の上級階級の間では「物を売って収入を得るのは下品」という考え方が(何故か)あったことに起因する。ちなみに土地を貸す以外の上級階級は内科医や法廷弁護士があった(逆に当時の世にとって外科医や検察は地位が低かった)。


さらにビングリーも一応上級中産階級であった。しかしダーシーと比べ年収が半分であったので、彼よりは下ということになる。一応考察していくと彼の一家が成り上がりの二代目ということが分かるらしい。
そして肝心のベネット家であるがここは普通の中産階級の上の方であると言われている。本来の中産階級は(あまり外聞が良くないという扱いだった)家庭教師など自分で稼がなければならない者が多かったが、ベネット家は土地からの収入で食べていけているのでやや上の方ということに案る。


ここまでで分かったように階級と土地は大いに関係がある。土地が多ければ、貸せる部分も多くなり、収入も増えるからだ。
故に土地は相続制度に密接に関係している。

■当時の相続制度について


このように土地=階級であれば、一族にとって一番大切なことは土地を減らさずに維持していくこととなる。イギリスでこれを行うための方法が長子相続、そしてもうひとつ本作で重要な限嗣相続であった。


長子相続は簡単な話である。一族の長男が全て土地財産を受け継ぐというもの。一番ポピュラーであり、日本でも似たようなことは行われている。
しかしこれにはひとつデメリットがあった。それは長男が勝手に土地を売ってしまう可能性があるということである。これを防ぐためにつくられたのが限嗣相続だ。


限嗣相続というのは財産は一族全体の財産であり、長男など所有者は使用権を持っているだけで売ることはできないという決まりであった。
これと長子相続を組み合わせて使えば理論上は土地を永続的に持っていられる、はずだった。
しかしベネット家は息子が生まれず全員娘であった
当時のイギリスではそのような相続権を持っているのは男性だけであり、女性は相続権を有していなかった。
そのためベネット家に出来ることと言えば、娘たちを男と結婚させてその男を「ベネット家の一族」にして土地を相続させることだけであった。


……ちなみに言っておくとベネット氏はあまりにも楽観的に構え過ぎた結果、殆ど倹約をしておらず結婚資金も貯めていなかった
ベネット夫人がやたら結婚結婚言っているのはこのため。彼女は正しくはないが間違ってもいないのである。


■動乱後の時代として


もうひとつ社会背景として取り上げておきたいのが、『高慢と偏見』の時代がナポレオン戦争後ということ。これが書きあげられた時代と言えば、ナポレオン戦争に産業革命、資本主義の波、フランス革命などとにかく色々とあった時代だった。日本で言えば天下統一か黒船襲来、もしくは第二次世界大戦後などひとつの時代が終わり、新たな時代が始まる頃であった。


……その割には『高慢と偏見』の中では特にそれらの社会背景について触れている個所は殆どない
強いて言うならばリディアとウィカムの結婚生活について「平和な世となり、除籍して故郷に戻されても、ふたりの生活はきわめて不安定だった」と言われるくらいである。
良くも悪くも当時としては珍しい物語の描き方をしていると言えるだろう。
この辺りはナポレオン失脚後の時代の成り上がりを描いた同時代の小説である『赤と黒』とは対照的である。


要するにジェインが描いたのは飽くまでも中流階級の人間の心理だけであった。とは言ってもジェインの長編作品では基本的に中流階級の田舎しか描かないことが多い。「田舎に3、4の家庭があれば小説にもってこいの材料だ」と本人も述べている。これが人間の心理を描くのに最も適した材料であるらしい。










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