新世界より(小説)

登録日:2011/04/06(水) 22:32:38
更新日:2025/08/17 Sun 17:23:46
所要時間:約 7 分で読めます










偽りの神に抗え。






『新世界より』は2008年に出版された長編SF小説。
作者:貴志祐介
出版:講談社



【概要】

作者はホラー作品で有名な貴志祐介で、タイトルの元ネタはドヴォルザークの名曲『新世界より』。

人間すべてが超能力(サイコキネシス、PK)を持つ1000年後の世界を舞台にしたいやな予感しかしないSF小説。

その空気感がありありと感じ取れる程に精緻な未来世界と、個人が大きすぎる力を持った人類の社会が内包する「 恐怖 」と「 狂気 」を描く重厚なストーリーは評価も高い。


難点は読書をしない人にはちょっと辛い長大なボリューム。
文庫版に至っては上中下の三巻構成だが、一度に没入すれば、この長さもさして気にならないだろう。興味を持ったら是非一読を。


【あらすじ】


3000人程の小さな町で、ひとり娘として育った渡辺早季(わたなべ・さき)は、友達より呪力の目覚めが遅れていることと、時折何者かの纏わり付くような視線を感じることが悩みの種となっていた。

そんな彼女にも力の萌芽がみられると、呪力の鍛錬を行う「全人学級」へ入学する事が認められる。

同級生の少年少女たちと友情を育み、いっそう充実した日々を過ごす早季。

夏。

同級生たちとキャンプへ行った早季は、期せずして先史の遺産である移動端末、「ミノシロモドキ」に遭遇する。

アーカイブされた“禁断の過去”を語り始めるミノシロモドキ。

呪力の目覚め、文明の崩壊、「悪鬼」と「業魔」……。

血濡れた人類の歴史について知ることとなった早季たち。

永遠に続くかと思われた日常は、いつしかひび割れ、暗澹とした歪みを孕んでゆく。

【登場人物】

渡辺早季(わたなべさき)
窮地でも挫けない心の強さと行動力を持つ主人公。本作は彼女視点の一人称で語られる。瞬のことが好き。

朝比奈覚(あさひなさとる)
時たまをついて人をからかうお調子者だが、芯はしっかりしている。

青沼瞬(あおぬましゅん)
落ち着いた印象のグループ内のまとめ役で、呪力の扱いをはじめその他の成績も優秀。


秋月真理亜(あきづきまりあ)
赤い髪に白い肌が特徴の、ちょっと強気な女の子。

伊東守(いとうまもる)
優しいが若干物怖じする性格で、周囲に引っ張られて行動することが多い。

奇狼丸(きろうまる)
とあるバケネズミコロニーの総司令官を務める武闘派バケネズミ。武人然とした古風な性格で、スクィーラとは気が合わない。

○スクィーラ
人間以上に頭が切れ弁も立つが、たびたび他者を裏切る素振りを見せるバケネズミの幹部。




【用語】


神栖(かみす)66町
主人公の生まれた自然豊かな田舎。長大な注連縄『八丁標(はっちょうじめ)』が町並みをぐるりと囲み、住人が外に出るのを禁じている。 
作中の主な舞台で人口は約3000人。薬学、医学、遺伝子学などはほぼ現代水準だが、機械的な技術は後退し、電気は一部施設のみ。
また、貨幣の概念が存在せず、人々は無償でお互いを助けあいながら生活するのを当然と考えている。

子供は道徳に関する授業を学び、呪力が発現すれば本格的な授業を受けられる全人学級に進む。
殆どが何かしらの教育役として大人が関わるので、不足する労力は後述する「バケネズミ」で補われる。


◆バケネズミ
人間をとして崇める生物で神栖66町の周囲にはいくつかの種類が“女王”を中心とするコロニーに棲む。
ハダカデバネズミを呪力で進化させたもので、人に近い知能と背丈を持って二足歩行し、独自の文化(武器など)と言語を持つ。
コロニーごとに人への従順さが異なるが、多くは人間の雑用役を務め、コロニー同士の戦いではバケネズミの要請を受けて人間が調停役を務めることもある。


◆呪力
人間がほぼ一定の年齢で使えるようになる超能力
視界に収めた対象に頭の中のイメージで物理的干渉を行う。力の強弱や精度に個人差があるが、食べ物を加熱したり、空気中の水分をまとめて鏡にしたり、陶器の組成を組み替えて頑丈にしたりと用途は幅広い。

早季の周辺では瞬が飛びぬけて優秀だが、彼以外も巨大な岩を飛ばしたり、竜巻を起こすくらいはやってのける。人によっては「核兵器以上の破壊も生み出す」とすら言われるほど。

だいたい察せられる通り、「視界内の相手を一瞬で殺せる」危険な力だが、倫理規定により早季たちは人に危害を加えるために呪力を用いる発想を持たない

◆倫理規定
刷り込みレベルの常識化した「人には優しくし、危害を加えてはならない」の精神を明文化したようなもの。

悪鬼(あっき)業魔(ごうま)
おとぎ話に伝わる怖いお化け。
子供達は叱られる際などに教訓としてこの話を聞かされて育つ。



メディアミックス

別冊少年マガジン版『新世界より』

及川徹の可愛い絵柄とは裏腹にバケネズミの醜悪さもかなりストレートに表現されている。一部人物や設定等に変更はあるが、根幹テーマはブレていない。

さらにきれいなあの子も可愛い赤ん坊も汚いおっさんもイケメンも容赦なく、エロ・グロ・惨殺・肉片なんでもござれ。
特に原作のエロ要素は「少年」誌に載せていいんかい、と突っこみたくなるような濃厚描写。でもホモはカット。

コミックスの巻末では非業のを遂げた登場人物たちが幽霊ライフをエンジョイしているので、何とも複雑な気持ちになるが。


アニメ『新世界より』 A-1 Pictures

全25話(2クール)で2012年秋季アニメとして放送。

不気味な雰囲気やクセのある演出、終盤の展開にハマった人も多く、作中のBGMや、EDテーマの「割れたリンゴ」と「雪に咲く花」*1の評価は高い。
が、長編特有の筋の分かり難さに作画の粗さ描写不足が加わったせいで作品の出来も、興行的にも成功とは言い難い。

キャストは以下の通り。

監   督:石浜真史。
渡辺 早季:種田梨沙
朝比 奈覚:東條加那子(12歳)、梶裕貴(14歳)
秋月真理亜:花澤香菜
伊東  守:工藤晴香(12歳)、高城元気(14歳)
青沼  瞬:藤堂真衣(12歳)、村瀬歩(14歳)
スクィーラ:浪川大輔
奇狼丸  :平田広明


追記・修正は呪力に目覚めてからお願いします。





























固い甲羅によって身を守っている亀は、いったん、甲羅のひび割れから中に虫の侵入を許すと、
好き放題に身体を食い荒らされるのを、どうすることもできない。





















以下、ネタバレを含む



暗黒の人類史


21世紀頃、正体不明の超能力に目醒める者が現れ始めた。
当初こそ大して問題視されなかったものの、超能力者の一人が力を使って他人を殺害したことで、社会は漸くその危険性に気付いた。
人々は恐慌状態に陥り、やがては、非能力者による超能力者の虐殺すら行われ始めた。
過酷な環境に置かれた能力者は力と数を増大させて非能力者に応戦、結果として戦火は瞬く間に世界に広がった。

――以降、何百年間も続く暗黒時代が訪れた。

殺伐とした世界の中、「視界にいるだけで相手(=自分)を殺せる」能力者同士ですら「相手は気まぐれで自分を殺すかもしれない」という疑心暗鬼が生じ、同士討ちが頻発。

東アジアで生き残り、殺し合いの再発を恐れた文明の残滓を活用する能力者集団は自らの遺伝子に「他人に危害を加えれば自らが死ぬを嵌め、血生臭い性を押さえ込む。

しかし、“機構()”に問題を抱えた新生児、それらのさらに少数は「悪鬼」「業魔」と呼ばれ恐れられる過去と同様の惨劇を引き起こした…………。




【用語】


攻撃抑制

呪力を持つ者たちの同士討ちを防ぐために、人間の遺伝子に組み込まれた機構その1。
人間の攻撃的な衝動を抑制する仕組み。
愧死機構に比べて緩いのか、作中でもあまり取り上げられない。

愧死(きし)機構

呪力を持つ者たちの同士討ちを防ぐために、人間の遺伝子に組み込まれた機構その2。
自分の行動が他人への攻撃にあたると認識すると無意識下で呪力による発作を生じさせ、それでもなお攻撃を強行すると激しい発作により死に至る。
倫理規定とはこの機構がより確実に働くための条件付けである。

愧死機構の導入前には、徹底した教育や洗脳、ストレス解消を目的とした同性間の性的接触*2等によって争いの抑制が図られた。
結局、どれも決定打とはならなかったが、社会秩序の維持には有用だったため、作中の時代でも継続的に導入されている。

実はこの愧死機構は「生物学的に同一の種」ではなく「自分が本気で同胞だと思っている種」に適応される。よって何らかの方法で「自分は人間ではない」と本気で思い込んでいる人間を育てられれば、その人間は正常な愧死機構を持ちながら他の人間を殺し放題の悪鬼となる。

ちなみに「愧死」とは「恥ずかしさのあまり死ぬこと」。おいは恥ずかしか!生きておられんごっ!

ラーマン・クロギウス症候群(別名:「鶏小屋の狐」症候群)

攻撃抑制や愧死機構といった同士討ちを防ぐ遺伝的機構が機能しない先天的な病気。
発症者は通称「悪鬼」と呼ばれ、人間にも躊躇い無く呪力を行使し周囲を殺戮する。
「ラーマン」「クロギウス」は過去の発症者の名前で、前者は「混沌型」、後者は「秩序型」という分類になるらしい。

他の人間は愧死機構が邪魔をして悪鬼には反撃できないため、一人でも現れれば数万人単位の殺戮を引き起こし、社会において致命的な脅威となる。
過去の実績から、社会が不安定になるほど発生しやすくなるらしい。

橋本・アッペルバウム症候群

呪力の制御ができなくなり、身体から呪力が洩れ出るようになってしまう病気。
発症者が通称「業魔」と呼ばれる重篤期となると、常に本人を除く近くにあるもの全てを変質・変形させ、生き物であれば死に至らしめる。
ラーマン・クロギウス症候群に比べれば社会的な被害は小さいが、後天的に発症する場合があるため、健全な精神を持っている人間が発症すると周囲の苦しみは段違い。

こちらもラーマン・クロギウス症候群同様、社会が不安定になるほど発生しやすくなるらしい。

不浄猫(ふじょうねこ)

猫を呪力で改良し、巨大にした生物。
他者を殺せない人間に代わり、悪鬼や業魔となる可能性のある子供を処分する為に用いられる。

本編序盤にて、呪力の芽生えが遅れていた早季をとしてすぐ殺せるよう監視していたのがコレ。

人間

21世紀頃から現れだした、かつての世界における超能力者のこと。

非能力者は人間ではないが、愧死機構が人間側の認識により発動する都合、外見上差のない非能力者を人間と認識してしまう可能性がある。
人間が一方的に攻撃を受ける恐れをなくすため、愧死機構組み込み前に非能力者は遺伝子レベルで人間でない形に改造された









想像力が追記・修正を超える

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最終更新:2025年08月17日 17:23

*1 第16話ではオープニングで使用。

*2 ボノボの生態に肖ったものと説明される。