SCP-5141

登録日:2020/05/22 Fri 23:14:15
更新日:2025/07/13 Sun 23:42:41
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飲酒させたい運転。
月がとっても赤ら顔。


SCP-5141はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラス Euclid で撹乱クラスはVLAM、リスククラスはNOTICE。
項目名は「スチュードベーカー・スペシャル・シックス」

概要

このオブジェクトについて収容を試みたのは1950年代のアメリカの話である。
詳しくはググってもらいたいが悪名高き禁酒法が廃止されてもまだまだ密造酒を売買する連中が跋扈していた時代。
そんな中で現れたのが後にSCP-5141と呼ばれる車である。
SCP-5141は1924年製の黒いスチュードベーカースペシャルシックスで相応な改造をされているらしいが外見は単なる自動車に見える。
こいつは年に一度、3月16日の午後7時30分(現地時間)にノースカロライナ州マギーバレーのどこかに出現し、
最短経路の道路を走ってテネシー州コック郡に向かって(Googleマップ調べで約80km)現地に到着すると消失する。
運転手がいない車両だけ なのに正確に経路を判断して走行し、出現や到着時に出たり消えたりするのが異常な点だ。

収容に至るまで

政府による協定でUIUや政府機関の持つアノマリーの事件を財団が引き継ぐことになった際に
UIUが掌握していたアパラチア地方の“無人走行する幽霊自動車”の記録が存在していたので
財団エージェントのウィリアム・サマーズとUIUのダニエル・マーティンデールがミーティングを行った。
マーティンデールはUIU以前は酒類取締局にいたため、時代的に考えて密造酒関連でマフィアともガチっていた可能性が高い。

日時 :1951年2月26日
サマーズ:
ではこの件について正確なところを聞かせて欲しい。
マーティンデール:
言ってみな。
サマーズ:
こいつは旧式車なんだな?フォードTか何かの…
マーティンデール:
あの女はティンリジーじゃないぜ坊主。ありゃスチュードベーカーだ。
サマーズ:
そうだった。じゃあ最高速度は多分…65km/時?
マーティンデール:
80kmは出るかな。
(長い沈黙)
サマーズ:
私の妻のビートルでも130kmは出るぞ。
※80km/時(50マイル)だと当時の(感覚的な)制限速度に近い。
マーティンデール:
そりゃあすごいな。ドイツも大した車を作るじゃないか。
サマーズ:
冗談だろ!?あんたらそんな鉄クズを8年も捕まえられなかったのか?
マーティンデール:
坊主、お前は自宅の裏庭で片足の男を追い抜こうとしたことはあるか?
サマーズ:
…なんだって?
マーティンデール:
あの女は田舎道を30年もずっと密造ウイスキー(ムーンシャイン)を運んでるんだ。UIU以前は酒類取締局がずっと追いかけていた。そいつらが言っていた話を聞かせてやる。 あの女は捕まらねえよ 。お前らが妨害をしない限りは向こうも手出しはしないだろうがな。
サマーズ:
我々は財団だ、うまくやってみせるさ。

作戦開始

もう一度SCP-5141の性質を確認する。
毎年3/16の夜にマギーバレーからコック郡まで80kmを走って消える。 以上
つまりアタックできるのは 年に一度しかない
サマーズは前述のインタビューの後に一度SCP-5141に挑んだらしい。
徴発要求書
日時 :1952年3月3日
要請者 :フィールドエージェント ウィリアム・サマーズ
目的 :SCP-5141の収容
昨年の3月16日、我々はSCP-5141を観察したところ州間高速道路40号線を西に走行していました。
10分間追跡してエージェント・ブラックウェルが銃でタイヤのパンクを試みましたが、
対象は急カーブしてこちらに突進して我々の車両を道路から追い出しました。
再度同じ手法で挑戦したいと思います。今度は セダン2台と運転経験の優れたエージェント を要求します。
推定費用 :4000ドル
ステータス 承認
結果 :車両は2台とも 道路外へ叩き出された 。職員は軽傷を負った。
普通なら30年前の旧式車なんて相手にならんだろうけど相手はアノマリーだしね。
徴発要求書
日時 :1953年3月2日
要請者 :フィールドエージェント ウィリアム・サマーズ
目的 :SCP-5141の収容
過去にSCP-5141を追跡していた酒類取締局のエージェントと相談したところ、対象は 同じコースを走行している と判明しました。
道路を封鎖すれば袋のネズミです。
ショットガンを持った4人の人員と3台のセダン、コンクリート障壁2基、スパイクストリップ を要求します。
推定費用 :8000ドル
ステータス 承認
結果 :SCP-5141は障壁を前にするとシフトチェンジと パワースライドを駆使してUターンした
妨害をしていない他の道を通ったと推定される。
エージェント サマーズは財団でもUIUでもない職員とアノマリーについて意見交換をしたため譴責された。
言われてみればインタビューとかと違って明確に「相談」してるもんね。
スパイクストリップは暴走車をパンクさせるために路上に敷くトゲトゲのシートのこと。
徴発要求書
日時 :1954年2月22日
要請者 :フィールドエージェント ウィリアム・サマーズ
目的 :SCP-5141の収容
マギーバレーの広さは限られているし接続する道路も多くありません。
全てにバリケードを張りましょう。
セダン20台、ショットガンを持った人員20人、コンクリート障壁12基、スパイクストリップ6セット を要求します。
推定費用 :35000ドル
ステータス 承認
結果 :SCP-5141は 包囲された内部には現れず外部に出現して、警戒されていないルートを通って行った
調査した職員も知らないような裏道が存在しそこにSCP-5141のタイヤ跡が発見された。
エージェント サマーズは2週間の休暇を強制取得された。
そもそも元から「突如出現し、目的地に着いたら消える」んだから出現位置の変更もできるだろうね。

ここまでのまとめ
  • 何も障害がなければマギアバレーからコック郡まで固定されたルートを走る
  • 障害が有れば回避や迂回をする
  • 完全に塞がれている場合は塞がっていない道を選んで出現することもできる
  • 直接妨害してくる相手には反撃もしてくる
徴発要求書
日時 :1955年2月10日
要請者 :フィールドエージェント ウィリアム・サマーズ
目的 :SCP-5141の収容
カスタマイズされたトラック6台と、最上位の技量の運転手5名
推定費用 :20000ドル
ステータス 承認
結果 6台のトラック全てが道路外に叩き出された 。関係者は軽傷を負った。
エージェント サマーズは 1年間の研究休暇 を強制取得された。
GOC「俺らに任せてくれれば楽勝なのになあ」
それにしても運転手が1人少ないってことはエージェントサマーズは指揮とかじゃなくて自分で運転するのか。
徴発要求書
日時 :1956年1月8日
要請者 :フィールドエージェント リチャード・カーター
目的 :SCP-5141の収容
文書記録の確認と同僚との検討会をした結果、SCP-5141を収容できると確信しました。
私は財団に加入するまでの25年間は法執行機関で奉職しており、高速車両の追跡経験も60回以上あります。
私の持論は「一度で包括的に片付けるのがベスト」です。全地域を逃さず潰します。
マギーバレーに繋がる道を全て封鎖し、SCP-5141を道路外へ出すためのトラックとパトカーを配置します。
タイヤとエンジンを撃ち抜けるように人員を置いた検問も設営します。
必要な物資は以下の通りです。
コンクリート障壁20基
スパイクストリップ12セット
改造パトカー20台
改造警察トラック10台
ライフルを扱える人員30名
周辺地域の人払いを1日
驚かれたでしょうか?ですが私を信用してください。
この1度で全て解決してみせますのでこの案を承認していただければ朝飯前で解決してみせますよ。
推定費用 :320000ドル
ステータス 承認
結果 :その時の混乱のために トラック7台パトカー12台が大破、パトカー1台が今も発見されていない。
人的被害は 重傷7名、中程度の負傷が26名、軽傷15名。発生した金銭的被害100000ドル以上。
エージェント リチャード・カーターは 辞表を提出した
力づくで行動不能にするのは無理っぽいな。
徴発要求書
日時 :1957年1月1日
要請者 :フィールドエージェント ウィリアム・サマーズ
目的 :SCP-5141の収容

M103重戦車 3両
推定費用 :550000ドル
ステータス 却下
結果 :過去の損害や失敗を鑑みてSCP-5141を無力化しての収容を断念し、
一般市民への情報封鎖を主体とする封じ込め手段を検討することにした。
M103って当時は配備直後の新鋭兵器だってのにそんなん使うな。

収容プロトコル

損害予測と予算上の問題を考えて抑制と協調を主体とした収容手段とする。
  • 機動部隊ガンマ-1(サットンズ・ムーンシャイナー)が現地の法機関と協力して毎年3月16日の該当ルートを封鎖
  • SCP-5141が出現したら5m後方から追随しつつ障害物や目撃者がいたら適切に処理
  • 決して妨害行為を行わず対象が消失するまで継続

大して迷惑かけるようなオブジェクトじゃないし最初からこれでよかったよね。

マーヴィン“ポップコーン”サットン

ここで元記事の作者がモチーフとし、機動部隊の名前にもなっている
ポップコーン・サットンについて軽く解説しておきたい。
サットンはノースカロライナ州マギーバレーに生まれテネシー州コック郡で育った。
ニックネームの由来はプールバーでポップコーン自販機にキレて殴ったかららしい。
サットンは何度摘発されてもめげない筋金入りのアパラチア・密造ウイスキー醸造者(ムーンシャイナー)
犯罪者には違いないのだがアメリカでも密造酒と官憲の攻防に思うところがある者もおり
サットンへの支援の声があったり取り上げるメディアもあったり
彼をインスピレーションした音楽や芸術作品を作られたりしたし、サットンも自伝を書いたりしている。
2008年に60歳を越えたサットンはまだ密造ウイスキー(ムーンシャイン)を1000ガロン近く密造と販売を試みてまた摘発された。
これまでは逮捕されてもギリ保護観察で済んでいたのだが今回は流石にそうはいかず
62歳で癌を患っているのに刑務所入りが確定したのだが
以前から家族には「俺はムーンシャイナーのまま死ぬ」と言い残してたサットンは 2009年3月16日に自殺
生まれてから死ぬまで密造ウイスキー屋としての生涯を貫いていった。
棺も墓石も事前に用意しており碑文は“Popcorn Said Fuck You“である。

前述した通りSCP-5141が毎年移動するマギーバレーとコック郡はサットンの故郷で
出現する3月16日はサットンの命日である。
財団世界のアメリカにサットンが存在するかは不明だがいたとしても1955年には子供なので
あくまで物語のモチーフなのだろう。

補遺

現在の収容プロトコルで問題は起きておらずこのまま継続していけばよいのだが諦めていない男がいた。
エージェント・サマーズである。おそらく個人的な意地なのだろう。
彼はフロリダにある海兵隊キャンプ・レジューンで自動車運転の訓練をしていた。
(多分レジューン周辺には自動車輸送部隊の訓練施設があるのでそこだろう)

そして1958年2月3日、サマーズは訓練中に 自動車事故に巻き込まれてこの世を去った
そしてその約5週間後、本来ならSCP-5141が出現する3月16日に スチュードベーカーは現れなかった
少なくともUIUと財団が認知してからSCP-5141が現れなかったのは初の事例であり
翌年からはまた活動再開したのだが…。

3月17日、サマーズの奥さんが彼の墓を訪れると
墓の周辺にSCP-5141のタイヤ跡と空のウイスキー瓶が転がっていた。
財団が彼の遺体を調査すると、サマーズの胃袋にはアルコール度数60度のアパラチア・ムーンシャインが数リットル詰まっていたという。

6年にわたっての戦友に、 乾杯

追記・修正は密造じゃなくていいのでウイスキーを煽ってからお願いします。



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最終更新:2025年07月13日 23:42