SCP-1576-JP

登録日:2020/07/27 Mon 16:10:46
更新日:2023/11/02 Thu 16:49:53
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SCP-1576-JPとは、怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つである。
項目名は「よって神は存在する」。JPのコードが示す通り日本支部の管轄にある。
オブジェクトクラスは「Euclid」。

初めに~SAPHIRについて~

SAPHIR(Société Athée Pour la Halte de l'Idéologie Religieuse、日本語に訳すと「神秘主義終焉のための無神論者協会」)は、フランス支部発祥の要注意団体
その目的は、「あらゆる神秘主義をこの世から消し去ること」。

というと、世界オカルト連合と似たようなものと思われがちだが、実際のところは色々と異なる。
世界オカルト連合は、あくまで「異常物品(オブジェクト)を破壊することで世界を守る」組織だが、SAPHIRが攻撃対象にしているのは、文字通りの ありとあらゆる宗教組織と教義全て

彼らはいわゆる無神論者の一派だが、その中でも特に過激な思想をしており、「信仰というものそのものが人類の発展を妨げてきた害悪である」「神などというものは、世界中あらゆる宗教において妄想に過ぎない」と考えており、「人類のさらなる発展のためには、地球からあらゆる宗教を消し去らなければならない」としている。
もちろん、要注意団体の中でも代表的な宗教勢力であるサーキック・カルト及び壊れた神の教会とは犬猿の仲どころか、完全な敵対関係にあり、壊れた神の教会の信者をピンポイントで皆殺しにする寄生虫を開発したりしたこともある。
世界オカルト連合とは、成立初期はむしろ構成組織の一端を担っていたようだが、世界オカルト連合が「既存の宗教を保護する」方向へと方針を決定し、奇跡論者を協力者として多数雇用したため、現在は離反している。

組織としては、完全な地方分散型であり、世界各地に「支部(ロッジ)」と呼ばれる拠点を作っているが、中央で統括するトップは存在せず、組織としての方針はそれぞれのロッジリーダーの合議制になっている。
構成員の大半が訓練を受けているわけでもない民間人であり、活動資金はほとんど寄付で賄われているなど、組織としてはかなり脆弱だが、いくらかの異常存在を活用する術を保持しており、また構成員の士気の高さから財団としても意外に手を焼く相手となっている。

本オブジェクトは、そのSAPHIR関連としては-JPコードで初めて執筆された記事である。

オブジェクトの概要

さて、前置きが長くなったがSCP-1576-JPとは何か、を説明する。

SCP-1576-JPは異常な特性を持った数学の命題である。

……うん、数学の命題。物とか人とか空間とか色々と変なオブジェクトは多いが、「命題」というのは流石にちょっと珍しい(皆無ではないが。解を求めるとクマが出現する数式とかも存在する)。

で、このSCP-1576-JPだが、 数学的には致命的な論理的矛盾を抱えている ため、命題として成立していないのだが、なぜかこれを読み解いた人は「この命題は正しい」と思い込んでしまう。
ただし、高等教育修了程度の数学的知識がない場合は異常性は発現しない。流石におバカな人に突然数学的知識を与えるような異常性はないらしい。

そして読み解いた人に、SCP-1576-JPは「神は間違いなく実在する」と思い込ませるミーム的効果を発揮する。
どのような「神」を信じるかは、その人物の信仰に依存している。キリスト教ならイエスの父たる神を信じるだろうし、仏教徒なら釈迦如来の実在を信じるだろうし、空飛ぶスパゲティモンスター教なら空飛ぶスパゲティモンスターを信じるのだろう。
ただ、こちらもそもそも何かしらの宗教的素養を持たない人に神の実在を信じ込ませる効果はない。要は「元々何かしらの宗教を信じている人に、その信仰対象の実在性を信じ込ませるミーム」である。

また、結局命題そのものが致命的に間違っているのに変わりはないので、読み解いた人に「この命題はどう正しいの?」と尋ねても論理的に正しい解答を得ることはできない。単にその人が「この命題は正しい!」と無批判に信じているだけである。
にも拘わらず、読み解いた人はSCP-1576-JPの証明を試みようとする。この証明式はSCP-1576-JP-Aに指定され、SCP-1576-JP-Aもまた強いミーム感染能力を有しており、これを読んだ人も同様のミームに感染する。
なお、証明を理解しようとするだけで感染するので、ミームに感染せずに証明式の意味だけを読み取る試みは失敗している。

オブジェクトとしての異常性は以上。まぁ危険なミームではあるが、別に感染者に特別な超常現象が起きるわけでもなく、「神の実在性を信じ込ませる」だけであり記憶処理なども通用するので、特別収容プロトコルも「記録した媒体は厳重に保管するよ」「どこかでSCP-1576-JPに感染した事例が見つかったら、記憶処理や情報抹消などの対処を行うよ」とシンプルなものになっている。

発見の経緯

本オブジェクトは、元境界線イニシアチブ所属の学者であるダニエル・マスカール氏の書斎から発見された。
境界線イニシアチブは、アブラハムの宗教を始めとした既存宗教の共同団体であり、SAPHIRとはまた別の方向から他の宗教勢力と敵対している。

で、いかなる事情からか境界線イニシアチブを追放されたダニエル博士はどうも数秘学的観点から神の実在性を証明しようとしていたらしい。
彼の死後に書斎から発見された唯一の異常性のある物品がSCP-1576-JPであった。

以下がSCP-1576-JPと共に発見されたメモである。

(前略)

私は輝かんばかりのアキヴァの高まりの中で、それが主御自身の御言葉であることを知った。そして私は、主が御自らを世界に示されるまでもなく、主の大いなる被造物である世界の法則そのものに主の存在の秘密が隠されていることを知った。すなわち、数そのものに。

我々は誰しも、最も偉大なる数が7であることを知っている。なぜならば、世界は7によって成り立っているのであるから。また、我らは3の偉大さを知っている。なぜなら、それは最も安定な数であるから。そしてこれらの和である10は、いみじくも先駆者聖ピタゴラスが述べているように、万物の調和を表している。

私はこれら3つの数と、これまでに学んだ主の秘密をもとに、以下の神聖なる命題とその証明を導き出した。
すなわち、

[削除済]

かくのごとく、まことに主はおられる。
ついにすべての人々が主の御名を讃えるであろう。
かくあれかし。 

この[削除済]の部分がSCP-1576-JPである(ミーム汚染を防止するため、報告書内では削除されている)。
なお、実際にはアキヴァ放射(特定の神格の介入に際し発せられる放射線)はSCP-1576-JPに関連するすべての事象から確認されていない。

つまり、ダニエル博士は 生涯の全てを費やした神の実在証明に、致命的な数学的欠陥があることに気づかないまま、これこそが間違いない神の証明であると思い込んだままあの世に旅立った のである。哀れと言おうか、ある意味幸せと言おうか……。


収容違反の発生

本オブジェクトは、収容後に一度収容違反をやらかしている。ここに前述したSAPHIRが関わってくる。
ただ、どうも発生経緯を考えると、財団内部のSCP-1576-JPが流出した、というよりSAPHIRが財団とは別口でSCP-1576-JPを入手しており、そのことに財団が気づいたのが収容後だった、と言った方が正確なようだが。

財団がこの収容違反に気づいたのは、完全に事案が終息した後であり、SAPHIRの自発的なミーム汚染対策により、不特定多数のSAPHIR構成員と2名の民間人が死亡していた。
……そう、 SAPHIR内部にSCP-1576-JP汚染が蔓延していた のである。「神の実在性を信じ込ませる」ミームがなぜ無神論者の集団の中で?
その答えとなるのが、SAPHIRから財団が入手した以下の文書である。

神の不在証明の完了報告


ZIRCON BERYL エマニュエル・フェリエによる


何らかの神、あるいは精霊、あるいは他の目に見えない超常的存在への盲目的信頼及び奉仕が全人類の理性と独立にとって無視できぬ脅威であることは、我らが創設以来度重ねて主張してきた事実である。中でもメカニトやフィフシスト、オルトサンに代表される超常宗教は、他のくだらない迷信とは隔絶した脅威であると見做さざるをえない。

これは単に彼らが人心を惑わすに当たって超常の手段を用いうるためだけに留まらず、なまじ彼らが超常の知識を有しているがために、その宗教的盲信が極めて強固なものとなっているためでもある。とりもなおさず、彼らは自らが持つ超常の物品や能力が彼らの神に対する存在証明になると考えているのである。

この強迫的観念を打ち砕くには、確たる科学的証拠が必要である――すなわち、反証が。

我々はかつて境界線イニシアチブと関わりのある神学者(神学に現を抜かす者を学者と呼ぶのはいささか不本意ではあるが)が神の存在を示す命題の証明を試みているとの情報を入手した。その命題とは以下のものである。

[SCP-1576-JP記載部分につき削除]

私と私のチームは、これまで長年にわたりこの命題の研究を行ってきた。いうまでもなく、その反証(すなわち神の不在証明)を試みるためだ。そしてついに、この命題への反証を示すことに成功した。以下に我々の成果を示す。

[SCP-1576-JP-A記載部分につき削除]

よって神は存在しない。(Q.E.D.)

これはイニシアチブが奉ずるアブラハム宗教の主神が陳腐な想像上の産物に過ぎないことを示している。そればかりか、他のすべての神々の不存在を示唆するものでもあるのだ。これは我々の科学と理性の輝かしき勝利と呼んで差し支えあるまい。

そして未だ宗教への誤った情熱を捨てぬ者どもに、我らははっきりと告げる。

メカーネは錆び付いたガラクタの山だ。5は単なる数である。ラクマウ・ルーサンは貧血症で死にかけの寄生虫に過ぎない。

今こそ真実を受け入れるときだ。

我らは諸君の誤った信仰を打ち砕くであろう。

我らの輝きを恐れよ!

疑わしきは、疑え。(When in doubt, doubt.)


何が起きたのか?

要するに、SAPHIRは「神の実在証明」に反証することで、「神の非実在証明」にしようとしたのだが、 思いっきりSCP-1576-JPの異常性に引っかかってしまった のだ。
財団は、SCP-1576-JPの異常性が発現する条件は、「形式的な信仰」ではなく、「どのような形であれ、信仰と呼ぶに足るだけの教条及び体系化」があれば事足りるのではないか?と推測している。

つまり、SAPHIRは「神の実在証明に反証できた!神の非実在性を証明した!」と思い込んで、実は「『神の非実在性』という神を信仰させるミーム(SCP-1576-JP-A)」を作って組織内部にバラまいてしまったのである。

結果、SAPHIR内部で深刻なミーム汚染が発生し、事態を重く見たSAPHIRはミーム汚染除去……ひょっとするとそれは「粛清」とか「総括」とか「ポア」とかと呼ばれるものに近かったかもしれないが……を実行し、なんとか事態を終息させたのである。

一応、SAPHIRはこの手の精神汚染系オブジェクトを極端に嫌っている(そもそも宗教自体を洗脳や精神汚染と判断している組織である)ので、SAPHIRが直接的にSCP-1576-JPを悪用する危険性は薄いと財団は判断しているが、SAPHIRから他の要注意団体や民間人に流出する可能性もあるので、財団は慎重に監視している。


追記・修正お願いします。


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SCP-1576-JP - よって神は存在する
by Usurahi
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1576-jp

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最終更新:2023年11月02日 16:49