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空飛ぶスパゲティモンスター教

登録日：2009/10/10(土) 14:47:06
更新日：2025/10/26 Sun 02:52:27
所要時間：約 5 分で読めます


―宇宙は空飛ぶスパゲティモンスターにより創造された。全ての証拠がスパゲティモンスターのヌードルにより行なわれたことを示している―

空飛ぶスパゲティモンスター教とは、アメリカ合衆国のボビー・ヘンダーソン氏により創始された宗教。
原語となる英語では「Flying Spaghetti Monsterism」、日本では「スパモン教」などと呼ばれ、「FSM」と略記されることもある。その始まりは2005年6月と、非常に新しい。

その基幹を成すとされる思想は「パスタファリアニズム」、信者は「パスタファリアン」と呼ばれているが、これは1930年代にジャマイカで興った宗教的思想運動「ラスタファリアニズム」のもじりである。


▽目次

FSMの黎明／インテリジェント・デザイン説とは


はじめにスパゲッティ・モンスターがあった……わけではない。

そもそも、FSMはインテリジェント・デザイン説(ID説、シードマスター説とも)を教育に持ち込むことを批判するために作られた宗教である。
その説は、ダーウィンの『進化論』に端を発した議論で生じた理論。
大まかにいうと、
「生物が複雑な過程含む『適切な進化』を自然に、かつ自助的に行うことは不可能であり、『大いなる知性』の操作を経て可能になった」というもの。
つまり『大いなる知性が世界をその手で創造し、進化させたのだ』とする説である。
これは神による創造論と進化論を両立させる為に考えられたとされる。

『大いなる知性』の正体については直接言及されてはいないが、『神』を暗喩していることは想像に難くない。神の名をみだりに唱えてはならないという戒めがあるためボカしているのだろう。
宗教の形こそとってはいないが、宗教色を多分に含んだ説であることも間違いない。

しかしその考えに反対する者達も少なくない。『大いなる知性』の存在の証拠が無く、科学的でないからだ。
そのため進化論者には「科学を騙った創造論で、科学の俎上へ載せるに値しない」と拒絶され、逆に敬虔な創造論者には「進化論への異端的な妥協であり、容認できない」と批判されることとなる。

……これだけならばよくある宗教と科学の対立で済んだが、話はここで終わらなかった。
アメリカはカンザス州にて、進化論のみを教科書に載せるのはおかしいと言い出すIDer(＝ID説の支持者)が現れ始めたのだ。

進化論もあくまで『最も可能性の高い理論』に過ぎず、覆ることのない『絶対的な真理』ではない。
もし進化論よりもより簡潔に、より正確に生命の起源を説明できる理論が出てくれば、教科書の内容はそっちに書き換わる。それが科学である。

だが、前述のIDerは「進化論が正しいとは限らない。ならば同じく正しいとは限らないID説も同じ理論である以上、教科書に載せても無問題である。というより載せてないのはID説への差別だ！」と主張。あくまでID説を進化論と同様に教育すべきであると言い張ったのだ。
要するに一般教育にかこつけてキリスト教徒を増やすための内部工作を学校に仕込もうというものだ。

ヘンダーソン氏はこの暴論に反発したのだろう。あるいは宗教を教育に盛り込むことへの批判だったのかもしれない*1。
そこで氏は『大いなる知性』が具体的に何なのか明言されてこなかった*2ことを逆手に取り、「生物は空飛ぶスパゲッティ・モンスターによって創造された」とする宗教を創始する。

そして

IDer「ID説を教科書に載せないのはおかしい！ID説も載せろ！『大いなる知性』への差別をやめろ！」
スパモン教徒「そうだそうだ！『大いなる知性』こと空飛ぶスパゲッティ・モンスター様のことを学校で教えないなんておかしい！ID説を教科書に載せろ！」
IDer「……。（なんだこいつ）」

と盛大な皮肉をかましたわけである。
かくして、FSMは産声を上げたというわけだ。
以降IDerが何かを主張する度に空飛ぶスパゲッティ・モンスター教も便乗して「そうだそうだ！FSM様を(以下略」と同様の主張をぶつけ、煮え湯を飲ませ続けている。


その後のFSM

……てな感じに、信心もへったくれもない経緯で生まれたFSM。やはりというか教義にも悪ふざけ皮肉めいたものが多く、既存の宗教とは趣旨がだいぶ異なるのが特徴である。

ただし、今では単なる風刺を超えて、大真面目な宗教としての側面も持っている。
日本も含めて100を超える国に支部があり、オランダや台湾では実際に宗教として認可されている。
FSMは反宗教や無神論を押し通したり、他の宗教を完全に否定するものではなく、宗教の名の下に行われる凶行を否定しているのである。

ちなみに批判(？)の矛先はID説に限らず、いわゆる「宗教上の配慮」にも及んでいる。
たとえば、被り物無しで撮らないといけないルールの自動車運転免許証の写真を「宗教上の理由でザルを被らないといけない」(湯切りに使うんですか？)と言い張り、結局ザル付きの証明写真を撮るといった真似もしている。
反面、教義そのものは冗談宗教とあって緩い……というか結構グダグダ。気軽に入信も棄教もできる。

ちなみにFSM教の教義によれば、死後の楽園にはドリンクサーバーも漫画もWi-Fiも完備されているそうなので、ネットカフェが好きなWiki篭りは入信を検討してみるのもアリかもしれない……！？それ生きてるうちにネカフェ行った方が良くない？


FSMの主な教義

最も偉大なるスパゲッティ・モンスター神の寵愛を受けた人種、それは海賊である。
そのため偉大なるスパゲッティ・モンスター神を崇める者はみな、海賊の格好をしてビールを煽り、そしてストリップを観賞する。
宗教上の祭日は金曜日。パスタパクパク金曜日。
全てのドグマ(教義)を拒絶する。一見矛盾しているようにも見えるが、FSMで重視される教えの一つである。その拒絶ぶりはスパゲッティ・モンスター神が存在しないという可能性すら認めている。ただし、これは他の宗教を頭ごなしに否定するものではない。

スパゲッティ・モンスター教の特徴

◆昔の人類の背が低いのはスパゲッティ・モンスター様が人類の頭を押し付け、背が伸びるのを邪魔していたから。
現在は人類が増えすぎて、スパゲッティ・モンスター様の手が足りず、人類は背が伸び始めた。
◆祈りの言葉は『ラーメン』
◆入信する方法は、偉大なるスパゲッティ・モンスター様の偶像である麺を食べ、スパゲッティ・モンスター様と一体化すること。もっとも必須の入信方法はないので、「自分はFSM教徒である」と思うだけでも問題ない。
スパゲッティでなくとも麺類であればうどんや蕎麦、そうめんでもOK。ビーフンや排骨麺やフォーでも良いのかは未確認。
◆入信も棄教も自由。あらゆる人間の入信を歓迎している。入信するには他の宗教を棄教する必要はなく、他宗教の行事に参加することも認められている。寛大なるスパゲッティ・モンスター様は人類の全てを赦す。
◆献金などは一切必要ないが、公式のグッズとして聖典や聖職者叙任証明書などを購入することもできる。


いつの日か出雲大社にて海賊衣装の教徒が現れることを願って


追記・修正はラーメンに祈りを捧げてからお願いします。ラーメン。

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最終更新：2025年10月26日 02:52

*1 いちおう補足しておくと、進化論がOKでID説がNGなのは、進化論が研究と実験を下敷きにし、尚且つ人の利権や思想が介在しない「研究成果」だからである。逆に言えば、根拠となるものがきちんと明示できれば進化論でなくてもOK。たとえば、人間を超えた神っぽい何かが出てきて、実際に目の前で世界を作って見せつつ「この世界はワシが作った」と証言すればID説が認められるというわけ。

*2 明言すれば「公教育に宗教を持ち込むな」と論破されてしまうからである。