それからのシンデレラ

登録日:2020/11/18 Wed 14:20:24
更新日:2024/12/21 Sat 14:11:26
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魔法使いのおばあさまのおかげで、あこがれのお城に住めることになったシンデレラ。さあ、そこでシンデレラをまっていた運命は……。
シンデレラは、しあわせになれるのでしょうか。

シンデレラ姫 後編=「それからのシンデレラ」

『それからのシンデレラ』とは、堀田勝彦氏による小説作品(児童文学)。1991年に光陽出版社より出版された。全1巻。

タイトルから分かる通り、世界的にも有名な童話『シンデレラ』の後日談という形式で執筆された小説。内容は3部構成となっている。
王子様に見初められたシンデレラは果たして幸せになれたのか、玉の輿に乗る事だけが本当の女の幸せなのか……というテーマで執筆されている。ページ数は400頁越えと中々にボリューミーな作品であり、所謂「童話を題材にした二次創作」としては決して低くないクオリティで纏まっている。
現在は絶版だが、大きな図書館などには置いてあるケースもあるため、もし目にする機会があれば手に取ってみるのも悪くないだろう。
言うまでもなく『シンデレラ』の余韻をぶち壊すかのような内容であり、原典の童話にロマンを持っている読者は触れるのを避けた方が賢明かもしれない。
なお、本作の原型となってるのはあくまで大衆的な童話となっている『シンデレラ』のイメージであり、グリム兄弟の記した原著『灰かぶり姫』とは異なる*1

ちなみに著者の堀田氏は本業の作家ではなく、神奈川県の夜間定時制高校に勤めている講師(1991年当時)である。
元々は当時小学生だった著者の娘に向けて語った創作童話がベースで、それを編集者と共に手直しして出版したのが本作であるとの事。


あらすじ

魔法使いのおばあさまの助力を得、王子様に見初められて入城を果たしたシンデレラ。
だが、憧れていたお城は王族や貴婦人達の権謀術数や妬みに塗れた「この世の澱み」とでも言うべき世界であり、シンデレラの望んでいた世界とは程遠かった。
相次ぐ隣国との戦争に明け暮れる中、最初はシンデレラに「砂漠のシリウス」なるダイヤモンドを贈り与えた王子も、やがては美しいだけで政治や権謀術数に疎い彼女から心が離れてしまう。
やがて、最初は自国の民や財源を食い潰しながら上手くいっていた戦争も、次第に敵の勢力に押されていき、遂には城は奇襲を受けて落城。
魔法使いのおばあさまに助けられて「お城」という地獄の窯から逃げ出したシンデレラは、辿り着いた森の中でタワリという猟師の男に助けられる。
自身の素性を知ってもなも一向に介しないタワリに惹かれたシンデレラは彼と結ばれ一子を設けるが、やがて彼女のもとに落城した国を占領した新国王の魔の手が迫る……


登場人物

第1部「砂漠のシリウス」

  • シンデレラ(シンシア)
言わずと知れた『シンデレラ』の主人公で、本作の主役。
念願叶って入城したはいいものの、市井あがりの娘という経歴から周囲の貴婦人達からは陰湿なイジメを受け、軍事などに疎かった事からステア王子からの心も離れてしまい、結果として酒に逃げるようになってしまうなど、陰鬱な日々を過ごしていた。
やがて国が戦争で推し負けられてしまった事で、城は落城。魔法使いのおばあさまの手助けによって城から逃げ出し、その先で出会ったタワリによって森の集落に匿われる事となる。
以降は「シンシア」の偽名を名乗り、集落での自給自足の生活の中、タワリと一子を設けて慎ましくも幸せな日々を過ごすが、国を新たに支配した勢力の元ではお尋ね者である事は変わらず、やがて新国王の魔の手が伸びる事に。
城での生活では市井あがり故に何処となく頼りないところもあったものの、森での生活を経て、徐々に「国」が一握りの人々の所有物ではなく、全ての個人個人の物であるという確固たる意識を持つようになった。

  • ステア王子
言わずと知れた王子……だが、その実態は戦場で命尽きようとしている一兵士の事に目もくれず酒とチェスゲームを楽しむことを優先し、そのくせ戦場では常に安全地帯でまともな指示すら出さず踏ん反り返り、実父である国王を相手にしたパワーゲームに勤しむ酷薄な人物。
言ってしまえば「釣った魚に餌を与えない」タイプの男で、シンデレラの事は当初こそ、戦利品として手に入れた「砂漠のシリウス」を与えるなど本当に愛していたようだが、やがて政治手腕などに疎い彼女から心を離れ、別の国の「ダイアナ姫」と心を通じるようにまでなってしまった。
落城後は国自体が侵略されてしまったが、ステア王子がその後どのような道程を辿ったかは作中で全く描写が無く、事実上物語からフェードアウトしてしまう。

  • 魔法使いのおばあさま
言わずと知れた、不遇だったシンデレラに手を差し伸べた魔法使い。
落城から落ち延びて追手に捕まる寸前だったシンデレラの前に現れ、彼女がかつて憧れていた城での日々を「悪魔の巣」と形容したのを見て、それを理解させること事が最初からの目的だったかのように彼女を宥め、彼女を逃がすためのカボチャの馬車ならぬ「灰色の競走用の馬車」を用意した。
その後、新国王に囚われたシンデレラの前に再び現れ、彼女を逃がす手助けをしようとするも、あくまで「一人の人間として悪政に立ち向かう」事を決意したシンデレラの覚悟を認め、彼女を見届けてツンピとドンコともども魔法の国へと帰還した。

  • ツンピとドンコ
シンデレラが意地悪な継母のもとで過ごしていた頃からの友達である2匹のネズミで、魔法使いのおばあさまによってカボチャの馬車ともども馬に変えられたのも彼ら。
落城から落ち延びたシンデレラの前に再び現れ、安全な脱出ルートを確保し、魔法使いのおばあさまの元に導いた。
その正体は、魔法使いのおばあさまがシンデレラを助けるために魔法の国から送り込んだ2人組の天使。


第2部「神鹿(ゴッドディア)」

  • タワリ
第2部以降の実質的な準主役。
森に落ち延びたシンデレラを獰猛な狼から救った髭面の猟師で、彼女の素性に気付きながらも、シンシアの名を与えて共に森の集落で過ごす中で結ばれた。
普段は無口かつぶっきらぼうなところもあるが、その本質は家族や仲間を誰よりも大切に想う好漢と言うべき人物で、集落が冬の飢饉に陥った際には、シンデレラ達に誤解されながらもただ一人食い扶持を求めて神鹿に挑んだ。
物語終盤、新国王に囚われたシンデレラを助けるため、単身処刑場に赴くが……

  • ヌー
シンデレラがタワリとの間に産んだ男子。

  • アンドレ
シンデレラとタワリが住む森の集落の住民の一人で、常に薄ら笑いを浮かべた下品な男。
元より美人で評判のシンデレラに色目を使っていたが、ふとした事で彼女が落城から生き延びたシンデレラ本人であることを知り、その事実の他言無用を条件に彼女から「砂漠のシリウス」をかすめ取ってしまう。
結局「砂漠のシリウス」は百人隊長に詐欺同然でシンデレラの身柄ともども奪われてしまい、森の集落からも去らざるを得なくなってしまった。

  • 神鹿( ゴッドディア )
タワリ達が狩場としている森に住む「ヌシ」と言える巨大な鹿。
凶暴な性質のみならず、人間すらも手玉に取る知性を有しているが、最期はタワリとの知恵比べと根競べの末に敗れ、森の集落の人々が冬を越すための糧となった。
しかしこの一件が、森で庶民が狩りを行う事を禁じた新国王の悪法に引っかかってしまい、シンデレラ達の運命を大きく左右してしまう。

  • 行商人
タワリ達が懇意にしている行商人。
行商に際してタワリから神鹿の毛皮を提示されるが、その際に彼らが知る由もなかった国の現状を伝える役割を担った。

  • 百人隊長
国を新たに支配した勢力傘下の百人隊長。アンドレから詐欺同然に得た情報と「砂漠のシリウス」を元手に、シンデレラを捕らえてしまう。
その後、シンデレラや森の集落の人々の生活を賭けたタワリとの一騎打ちと称した出来レースに際して、相手役として選出される。


第3部「稲妻の騎士」

  • フォンベルトII世
シンデレラが元居た国を侵略し、新たに支配した勢力の国王。
前の権力者同様に国政を自分たちの思うがままに支配し、自分の楽しみの都合で、森の住人が獲物を狩ることを一方的に禁じてしまうなどの悪政を行う暴君。
一方で、国民の人気を気にして良識ある王のあるふりをしたり、軽はずみにした約束を守らざるを得ない状況に苦慮するなど俗物的な一面も見せる。


用語

  • 砂漠のシリウス
ステア王子が最初の戦争で相手の国から奪い取った戦利品の一つとして入手した大粒のダイヤモンド。
勇敢な若者に纏わる伝説が付随しているとされるが、その実態は国王に約束を裏切られた若者の憎しみが染みついたとも言うべき呪いのダイヤモンドであり、「死に神の微笑み」の別名を持つ。
作中ではステア王子⇒シンデレラ⇒アンドレ⇒百人隊長という順序で人手に渡り、結果としてそれを手にした者に次々と災いをもたらす等、作中のキーアイテムとしての扱いがなされている。

  • ガラスの靴
『シンデレラ』を象徴するアイテム……だが、入城後に過酷な経験しかしなかったシンデレラにとっては忌まわしき物品に過ぎなかった。
本作ではシンデレラ以外の人物が靴を履けなかった理由として「魔法使いのおばあさまが靴の中に潜んでいたから」という解釈がなされている。


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最終更新:2024年12月21日 14:11

*1 邦訳本などで原著を読めば分かるが、グリム兄弟の『灰かぶり姫』には俗にいう「魔法使いのおばあさま」に相当するキャラクターは登場しない。