売国機関

登録日:2021/03/07 Sun 22:57:41
更新日:2025/04/21 Mon 01:26:42
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欧歴一九〇八年。終戦より一年。
”愛国者”の敵は、いつだって”愛国者”だ。

思想(イデオロギー)なぞ関係ない。ただ、愛国あるのみ。

思想(イデオロギー)なぞ関係ない。ただ、義務あるのみ。

“格好悪い”んだよ この平和は――!!

くたばれ――私の未来のために。

チュファルテク合同共和国は、今なお生々しい死者の記憶に囚われている。払った犠牲の無益さゆえに流した血の大きさゆえに、誰もが問わざるをえないのだ。

今が戦後か、束の間の停戦にすぎなぬのか、と。


◆概要


『売国機関』は原作:カルロ・ゼン、漫画:品 佳直による漫画作品。
新潮社のウェブコミックサイト「くらげパンチ」で連載中。2025年2月7日時点で既刊11巻。

戦争が終わった後、大国に振り回される小国を舞台に暗闘する特務機関を描く。

カルロ・ゼンの代表作『幼女戦記』のテーマが末期戦の悲惨さなら、本人に言わせれば『ハートフル&ほのぼの』なこちらは戦後の過酷さ。相変わらず同志のセンスは独特である。


◆あらすじ

欧歴一九〇八年、連邦と王国、二つの大国による戦争が終わりを告げてから一年。

両国に挟まれ戦場となったチュファルテク合同共和国は未だ動乱の只中にあった。

列強に押し付けられた『平和』を良しとしない者、共和国を利用し自国の利益にせんと目論む者たちによって。

ヨランダ・ロフスキ率いる特務機関『オペラ座』はそんな不安定な『平和』を維持せんと奔走する。

たとえ自国民にすら銃を向けてでも――


【登場人物】

※cv表記は単行本発売記念PVのもの

◆チュファルテク合同共和国

我が物顔でのし歩く連邦や王国を強く嫌う愛国者で、特務機関『オペラ座』を率いる現場主義の権化。階級は少佐。

まれいたそボイスのお姉さんだぞ。お前ら喜べよ。

最前線で戦い抜いた者たちには慈悲深く、献身的な貴族として振る舞う。かつて軍務で見殺しにした生き残りに石を投げられようとも抵抗しなかったが、塹壕貴族が勝ち取った『平和』のありがたみを理解しない自国民に銃を向けることには躊躇いが無い。
当初は主人公格だったが、モニカの出番が増えるにつれ裏方に回るように。なお、本物の貴族でもある。

士官学校を首席で卒業したばかりの新人少尉。
士官学校ではなまじ優秀だったためか、『戦後の軍人』という目線を期待されてか、過激な言動でヤバい人たちが集うオペラ座に赴任させられる。

なまじ理解力があったせいで、もう一人の主人公としての出番も増加。

戦場を知らないままヤバい職場に放り込まれて、ヤバいお得意先の厄介さ極まる案件という奇縁に恵まれ続け、少尉→中尉→大尉(最新刊)と、出世街道まっしぐら。

  • リーナ・マートン
オペラ座に所属する女性軍人。階級は准尉。
常に眠たげなどんよりとした目つきだが、面倒見よくモニカに現場を教えるチェーンスモーカー。
狙撃の腕も確かな元衛生兵。変装時には変装術を教えたデイブがドン引きするほど理知的で明るそうに振る舞っていた。

オペラ座所属の退役軍医中尉。
飄々とした気さくな法医学医。
容赦なく拷問まがいの尋問も行う。


  • ロベルト・マイナーク
オペラ座の課長代理で階級は大尉。元砲兵。
ヨランダの片腕。


  • ベルナルディーノ・バーク
オペラ座の一員。元工兵。
オペラ座一のジェントルマンだが、必要なら子供でも撃つ冷徹な面も。


グスタルボ
傷痍軍人。階級は軍曹。
ジェイコブの部下だったが、戦争末期にMIAとなっていたが、捕虜として生き延び、片足を失いながらも帰国。
路上で物乞いしていたのをヨランダが保護して以降は、義足を着用し、リーナ共々モニカの教育係を務める。


  • ジェイコブ
オペラ座の一員で階級は中尉。
首相官邸を襲撃した暴徒の鎮圧中、降伏した少年兵に背後から撃たれ死亡する。
ヨランダは洟垂れ扱いしていたが、無意識で彼に呼びかけてしまう場面もあった。


  • デイブ・クローリー
オペラ座の事務方担当。皮肉屋。


  • セルジョ・ハイネマン
退役陸軍大佐。
ヨランダ達を統率するオペラ座の局長。
王国と連邦に対する憎悪からいつ暴走するか分からない部下と軍部に悩まされる。


  • ハイネマン
参謀本部所属の将官で情報部長。
一見するとヨランダとは敵対しているように見えるが、
実際には参謀本部内の内通者を炙り出すために手を組んでいた。
王国弱体化のために社会主義者との協調を画策する危うい面も。


  • コハンスキ
共和国首相で連邦寄りの中道与党「統一国民党」党首。
善良な人物だが、協調主義ゆえに国民から弱腰と批判されている。
オペラ座はじめ軍部への警戒心が強く、ヨランダ等からは現場を知らないおめでたい男として酷評されているが、戦時下の政治家としては真摯に現状と向き合っている。
なお、情報部長ともども名前が出たのは連載から7年目ととても不憫。

  • マルグリッド・アドニ
共和国の親王国派野党である公正同盟党の党首で東部の有力政治家。
政争を優先し、王国からの工作も受け入れるその政治姿勢から愛国者であるオペラ座ら軍部から白眼視されてるが、政治家として東部地元民の考え(戦地になり、苦渋の決断で軍が後退・彼らの盾にされた憤りと今後の不安)に真摯に向き合っている。
本心は歯に衣着せぬ言動で周囲を辛辣にみている。

  • ペンデレツキ
連邦寄り過ぎた「統一国民党」に代わり、主義主張が正反対なはずの同盟党(のアドニの独断)の協力を得て与党になった王国強硬派の民主共和党党首。
現状を鑑みて穏当な発言するので当初は有能な都市部の有力政治家・・・と思われたが、
  • 「連邦寄りの西部農家にウケる穀物価格値上げ容認」
の数秒後に、自身の政党にすら根回しせずに
  • 「王国から輸入解禁による価格低下策」
を発表。ダメ押しで、
  • 「大幅な減税と大幅な工業投資を同時公約化」
という、「八方美人でとにかく誰にでもウケる政策をその場の思い付きで行う」どこか見覚えがあるポピュリズム政治家。

首相就任即、自政党が不信任を叩きつける前代未聞の事態にクーデターが起きるが、これを連邦軍と王国軍に鎮圧してもらおう=主権放棄しようとする様子を前に、ヨランダが「あのバカは本当するぞ!」と説得にあたることでクーデター部隊が降伏するなど、関係者全員にとっての胃痛の種になった。
この成果で得た人気を後ろ盾に、周囲にとってはデメリットしかない無茶苦茶な政策に協力させる運と生餌としての才だけは凄まじい。

  • タバコ売りの兄妹

路上でタバコなど日用品を売っている兄妹。
まだ幼いが、信用の置けない共和国通貨での取引は応じてくれないなど既にしっかりしている。

教会で働くおっとりしたシスター。
たびたび世界の愛について語っているが、その愛は一体何を示しているのか…

その正体は市井に紛れ込む王国のスパイ

仕事人間を謀殺するためには、表と裏から情報を流して疑念を植え付け、事態を引っ掻き回す裏ボスみたいなキャラクター。

  • トマス
モニカの同期。配属先は流通を取り仕切る港湾施設。
経済に強く、共和国の経済体制の不備に気付いて上申した結果、モニカと同様、出世頭&便利屋扱いの胃痛組に転身した

◆クライス連邦

  • ディアナ・フォン・バルヒェット
共和国に駐屯する連邦軍大佐。
合同調整局でオペラ座と協調姿勢を取りつつも、勢力拡大を画策するえげつない策謀家。

二人の息子を持つ肝っ玉かーちゃんでもある。


◆ガルダリケ王国

  • オルロフ
共和国に派遣されてきた元将軍の王国大使。
自分の息子が戦死したせいで、元共和国捕虜の王国軍人にすら冷淡。共和国を国扱いせず、首相の前ですら王国の領土のように「チュファルテク民」と呼ぶ超タカ派。

全方向から{『なんでこいつを大使に任命した』『コイツ早く死なねーかな』と嫌われていた貴族主義の権化だが、強硬派の王国外務大臣との縁で着任したと思われる。

記者会見中にシスター・テレサに唆された自国の大使館職員によって銃殺。その死は王国内の政治的理由で隠匿されたので外務大臣からも捨て駒扱いされていた可能性が高い。

  • イワン・ヴァシレヴィチ
オルロフの後任の駐チュファルテク大使。
政治工作をしたと思ったら融和に切り替えるなど、度々態度を変える風見鶏。離任後の考えを巡らす俗物さもあるが、オルロフと比べて穏当な姿勢を維持し、共和国や連邦とも対等に向き合う。
至極まともな外交官…だが、本国首脳部からの度重なる無茶ぶりと、現場の暴走や暴発に振り回される苦労人。

  • ルィバルコ
オルロフ大使の警護担当武官。階級は王国海軍少佐。

生真面目、実直、能力もある海軍将校の穏健派。
いらん事を始めかねないオルロフの抑え役だが、裏では諜報任務を命じられている。

シスター・テレサの思惑に乗せられて反オルロフ派を刺激してしまい、オルロフ襲撃事件を防げなかったばかりか、手榴弾で一時的に視力が低下した為に、共和国軍医に発砲するという大失態を演じてしまう。

劇中では周囲から妙な誤解や疑惑の目を向けられる傾向がある、ちょっとかわいそうな人。

【用語】


  • チュファルテク合同共和国
物語の主舞台。劇中のデフォルメ絵は馬。
かつては王国領の一部であり、連邦との緩衝地帯だったが、自由主義の高まりから連邦に接触して独立。
緩衝地帯の消滅を警戒した王国の侵攻に対抗する形で連邦も進軍。熾烈極まる塹壕戦の果てに大国の都合だけで停戦協定が結ばれ、強引な『平和』を押し付けられる。

排外主義者や社会主義者も数多く存在し、西部は農家が貧困にあえぎ、主戦場であった東部は薬物が蔓延。
金本位制が崩壊したことで自国通貨の信用が喪失。凄まじいインフレで大国の通貨でなければ支払いに使えないなど、復興は遅々として進まず、連邦と王国双方からの分断工作が進む。
モデルは恐らくポーランド。

  • オペラ座
『平和』維持活動を行う特務機関。
正式名『軍務省法務局 公衆衛生課 独立大隊』
連邦や王国とも協調し、必要とあれば自国民に銃を向けることから『売国機関』と蔑視されている。
新人のモニカを除く『オペラ座』の構成員は、『塹壕貴族』であり、戦時中から見てきた王国の残忍さと、自分たちを防波堤にしか思わない連邦に対する鬱憤と憎悪は計り知れないものがある。

  • クライス連邦
共和国西方に位置する大国。共和国の同盟国。
劇中のデフォルメ絵は犬。
政府は『安全保障の縦深』となる共和国各地に軍を駐屯させているが、余計な負担を増やす植民地や属国化、ましてや併合は望んでいない。
モデルはドイツか。

  • ガルダリケ王国
東の列強。共和国の元宗主国。
劇中のデフォルメ絵は熊。
元々自国領だった共和国が連邦側に加担するのをよしとせず、共和国の再併合を望み、開戦。
終戦後も『国境の安全保障上の問題』から、共和国と連邦双方に対する工作を行っている……が、本国では貴族主義の過激派と穏健派がせめぎあっているので方針が統一されていない。
モデルになっているのはロシアと思われる。





追記・修正は塹壕で泥をすすり生き延びた人がお願いします。

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