SCP-2040-JP

登録日:2021/06/22 Tue 07:15:20
更新日:2024/01/31 Wed 17:39:02
所要時間:約 9 分で読めます




SCP-2040-JPはシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスはSafeだったが後にKeterに格上げ。
この記事はSCP-2000-JPコンテストに登録されたものである。テーマは「変遷」。

まずは説明に移ろう。

このオブジェクトが何なのかと言うと、とある県立の中学校を中心に発生した時空間異常である。
この時空間異常は半径500mの球状の範囲で発生しており、この中では時間の流れがすさまじく遅くなっている。
この空間の中には教職員18名、生徒75名、1名の委託業者の計94名が取り残されているが、
内部にいる人々(記事ではSCP-2040-JP-A群と表記)を救出する試みは成功しておらず、
また内部にいる人も自分たちの身に何が起こっているのか気づいてないだろうと推察されている。
現在の速度で境界に近づく時、境界に達するには200年以上の時間がかかる見込みである。

この現象は1987年3月17日に発生した。当時中学校は卒業式の時期であり、多数の目撃者がいたことから、全員への記憶処理が困難であることにより、
内部にいる人々の家族や関係者をEクラス職員(異常を目撃・あるいはその影響を受けてしまった人を雇用する際に組み分けられる)として雇用することにし、この空間を監視させることにした。
Eクラス以外の市民に関してはカバーストーリー『地盤沈下による崩壊』が適用されている。
雇用したEクラスはいずれも協力的であり、当初は停止したと思われていたものが、実際はすさまじくゆっくりした速度で動いていることを発見したのもEクラスであった。


そういうわけで特別収容プロトコル。
この空間の周囲1kmを封鎖し、一般人を侵入させないようにしている。
研究員はこの空間の横に併設されたサイトに常駐し、内部にいる人を記録装置で監視することになっている。
Eクラス職員が監視を行う場合、事前に配布したICカードを使用してサイト内の監視室に入室させる。だが外周からの目視に関してはその限りではない。

これだけだったのだが、現在は事案Aにより収容プロトコルの改定を会議中である。
そのため上記の収容プロトコルで不明な点があれば、実行する前に戸田管理官に連絡を行うこととしている。

なお、この報告書の閲覧自体にはセキュリティクリアランスを必要としていない。
今後同様の現象が起きた場合の対応や、このオブジェクトの研究次第では、他オブジェクトの収容に役立つ可能性があると判断したからである。


事案A

2018年3月14日、一般人が空間周辺まで侵入し、空間の様子を撮影、それを動画共有サイトに投稿される事案が発生。
この侵入者は日頃から廃墟や立ち入り禁止区域に無断で立ち入る動画を投稿していた。
動画は拡散される前に動画共有サイト運営にいる財団エージェントによって発見、大規模な拡散が起こる前に削除、
侵入者に記憶処理を施すだけであとは大きな混乱も起きなかった。
これによってサイトへの立ち入り調査が行われ、オブジェクトに対し杜撰な収容を行っていたことが発覚。
サイト管理者および担当博士は降格されることとなった。

その翌日、戸田博士が後任の管理者として決定し、サイトへの着任挨拶に向かう道中で事案Bは起こった。


事案B(戸田博士による映像記録付き)

会話記録であるのだがそのままにすると長いので一部割愛する。

戸田博士はEクラス職員である佐々木氏に道案内をしてもらっていた。
佐々木氏は表向きは一般社会で普通に働いており、仕事が忙しくなった影響もあって、学校に直接足を運んだのは5年ぶりとなっていた。
定期報告用の確認は「吉田のばあさま」が散歩がてらに行っていたのだが、去年の春ごろに腰を痛めて寝たきりになってしまった。
なので代わりに固定カメラを置いて監視を継続している。前任の博士はそれでもいいと判断したが、定期報告の頻度をどうすべきかを戸田博士に聞いた。
とりあえずは現状を確認してから判断すると佐々木博士。
佐々木氏が浮かない様子で返事をしたことを戸田博士が問いただすと、今まで担当になった人たちも似たようなことを言っており、
報告の頻度を増やしてもすぐに減らすよう指示があり、その担当者も長くて3年で他の研究所に行っていまった、と語る。
その理由をこう説明した。

無駄だと。
あの空間には変化が無いと。
1年にたった数センチの移動を変化と呼べるのかと。
戸田博士は少し黙るも変化であると答える。
すると佐々木氏はこう語る。

貴方たちの組織は、もっと危険で刺激的なものをたくさん管理しているのではないか、
それらに比べてただただ時間がすさまじくゆっくりに進んでいるだけの空間なんてつまらないのではないかと。
その程度のことに構っている暇があるなら、他のもっと危険なものに対処できるよう研究したいと思うはずだと。
科学は人を幸せにするものだと夢みていたが、
世界は常に危険にさらされ、いつ滅んでもおかしくない状況で、今を維持するのに精いっぱいという現実を見て、
未来を夢見ることも難しいのだろうと思い知ってしまった。

それに対し戸田博士は、
「そうならないためにも我々財団が活動している」
「それこそあの空間を研究することで時間の遅延についての研究が進み、他の危険な物品の侵攻を抑えることができるかもしれない」
と語る。

しかし佐々木氏は、その境界の中には入れないから研究もできない、変化はないから観察も無駄、おそらく変化があるであろう境界と中学生の接触も200年先、
触れたところで境界は消滅するのか、境界の範囲が広がるのか全く分からない、もしかしたら200年先に人類は滅んでいて、この空間がタイムカプセルになるかもしれない、
少なくとも今この瞬間にできることは何もない、とそう語る。
戸田博士が返す言葉もなく沈黙する中、佐々木氏はまた口を開く。

来年、年号が変わると。彼らは昭和の時に閉じこめられて来年令和になる。
つまり彼らは平成を知らないのだ。
それだけではない。空間の外で目撃する人々に何があったのかも、彼らは知る由もない。
生徒会長の妹さんに孫ができることも、3組の藤田氏の甥っ子が海外で個展を開くようなカメラマンになっていることも、
新婚だった古文の水嶋先生の旦那さんは再婚して幸せな家庭を築いたことも、出入り業者の宮永さんは津波で実家を失くしていることも、
校長先生の奥さんは最期まで校長先生が出てくることを願っていたことも、
彼らがそれを知るのはさらに年号がいくつも変わった後の数百年先なのだ。
佐々木氏はじめEクラス職員は、ただただ楽しそうに下校しようとしている内部の人々を外から見ているしかなかった。
そうするのがつらく、街を離れていく人が相次ぎ、今では活動している人がほとんどいない。
佐々木氏はそう語る。
それに対し戸田博士は、では家族が巻き込まれたわけでもない貴方がなぜここに残っているのかを聞いた。
言ったらきっと笑うだろうと言う佐々木氏に対し、笑わないと戸田博士が言う。
それを聞いた佐々木氏は語る。

佐々木氏には想い人が居た。
しかし春からはそれぞれ別の高校に通う予定だったので、せめて想いだけでも伝えようとした。
当時は携帯端末もなかったので、文房具屋で買ったレターセットに拙い文章で一生懸命に書いた。
それを想い人の委員長が読んでいることを確認すると、佐々木氏は校門で待っていたところ、この現象が発生した。
委員長は現在も30年かけてラブレターを読んでいる。
しかし今となっては別に告白の答えを求めているわけでもなく、ただあの姿をもう一度だけ見たい、できることなら助けたい。
今となっては40を過ぎた男が中学生の女の子を想い、科学者になることを挫折し、やりたくもない仕事をしながらこの寂れた街でおいて死んでいく。
気持ち悪いだろうと話す佐々木氏に、そんなことはない、それも貴重な意見だと話す戸田博士。
そうこう話しているうちに校舎入口が見えてきた。佐々木氏は外に出ている2人の紹介しようとしたが――――

そこには3人いた。
その加わった一人は、委員長だった。手紙を持った姿で走っていたのだ。
吉田のばあさまが何も言わなかったのは、おそらく5年間毎日見ていたからこそ、少しずつの変化に気づかなかったのだろうと戸田博士は推察する。*1
佐々木氏はなぜ走ったのか疑問に思ったが、戸田博士は分かっていた。
委員長は、佐々木氏に伝えたいことがあるのだと、手紙の返事を伝えたくて走り出してしまったのだと。


この事案により、内部の人が境界に接触するまでの時間が大幅に短縮されたことが判明した。
しかし接触によりこのオブジェクトがどういった変化を起こすかが不明なことから、オブジェクトクラスをSafeからKeterに変更、収容プロトコルも改訂されることとなった。

プロトコル改定に伴い、人員不足が懸念されたが、佐々木氏が元Eクラス職員の再雇用を提案し、これを実行。
結果、およそ8割の再雇用を実現し、懸念を解消することができた。
境界へ向かって走っているSCP-2040-JP-A-14、つまり委員長が今の速度を維持した場合、20年以内に境界線に到達する見込みである。


そして――――――














SCP-2040-JPの特異性の消失が確認された。消失の確認とともに特殊部隊が突入、内部にいた人々を保護した。
精神鑑定を含む各種検査を行ったが特に異常は確認されなかった。

財団は内部にいた人々に対し説明会を行った。
説明を受けた人々は大きく動揺したものの、概ね自身のおかれた立場を受け入れていた。
後日、内部にいた人々には、社会復帰プログラムを受講させることが決まった。
特異性が消失したため、許可が下り次第、オブジェクトクラスをKeterからNeutralizedに変更する予定である。


SCP-2040-JP-A群に対する説明会での挨拶

今は混乱していることだろう。受け入れるのは難しいかもしれない。
だが、私達はただただ嬉しいのだ。再び貴方達と出会えたことが、言葉を交わせることが。何よりも、同じ時間を共有できることが。

貴方達が下校している間に世界はとても便利になった。まるでマンガが現実になったような科学技術にきっと驚くことだろう。
全部教える。何があったのか、何が起こってしまったのか。少しずつ、少しずつ、一緒に前に進もう。

ただ、まずはこれだけ言わせてほしい。


ようこそ未来へ。 -佐々木研究員補佐


佐々木氏は正式に財団職員になっていた。
200年先以上のところが約20年先にまで縮まったことが判明したことで希望を見出した佐々木氏。
かつての想い人を守るために、彼は人類を守る「科学者」になったのだ。



SCP-2040-JP

ようこそ未来へ

Object Class:Neutralized





+ ちなみに
接触・消失した日時は2020年2月15日、境界に接触したのは茂みに隠れていたネコだった。





委員長じゃないんかい!!


このためディスカッションでは「委員長に接触してほしかった」という意見もちらほら見られた。
まさか、2「040-JP」だからねこですよろしくおねがいしますというわけではあるまいな……

また、ディスカッションでは委員長が走り出したことにより、ネコが驚いた結果境界に接触したと考察する人もいる。

追記・修正は数十年越しの返事を待てる人にお願いします。



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最終更新:2024年01月31日 17:39

*1 これだけだとなんだそりゃと思うかもしれないが、腰をやって寝たきりになってしまう「吉田のばあさま」はもしかしたら年を取って記憶力が衰えていたのかもしれない。