SCP-2299-JP

登録日:2021/07/24 Sat 10:48:47
更新日:2024/11/18 Mon 18:42:35
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SCP-2299-JPとは、怪奇創作サイト「SCP Foundation」におけるオブジェクトの一つ。
オブジェクトクラスはKeter。

特別収容プロトコル


SCP-2299-JPはサイト-8163の標準人型実体収容セルに収容され、標準的人型実体取り扱いプロトコルが適用される。
当該人物のスマートフォンは異常性研究のため小林博士によって管理される。

一方、SCP-2299-JP-Aは未発見、未収用であり、早期発見と収容が望まれている。

説明


SCP-2299-JPは桜場愛奈という成人日本人女性。
彼女のスマートフォンには「Watching Over Everyday」、通称WoEがダウンロードされている。
これはとある企業によって2012年に開発された位置情報共有アプリで、インストールした人物同士をメンバーに設定することで位置情報を互いに確認できるというもの。要は見守りアプリである。
このアプリは開発元の倒産で2016年サービス終了したはずなのだが、愛奈のスマートフォンにダウンロードしてあるそれはなぜか削除が不可能になっている。

一方、SCP-2299-JP-Aは愛奈の母親である桜場妙子さん。
彼女は2016年に事故で亡くなっており、スマートフォンは処分されたのだが、なぜかメール、LINEを通して娘の愛奈にメッセージを送ってくるのである。発信元の特定はいまだできていないようだ。

補遺1 発見


1週間前に死んだはずの母親からのメールに気づいた愛奈は警察に相談。これによりSCP-2299-JPは発見された。
彼女はサイト-8163に護送され、小林博士のインタビューを受けることに。

彼女によると、市街でパンケーキを食べている最中に「またパンケーキを食べているの?」というメッセージが届いたのが最初だという。
実のところ、母親の妙子さんは生前から「今何をしているのか」「どこにいるのか」といったことをLINEを使って聞いてくる事が多かったのだという。WoEを利用しているため何をしているのかがわかるにもかかわらず、である。

愛奈のスマートフォンのWoEはなぜか削除できず、動作も普通に行われていた。
ある地域を徒歩で移動していることになっている母親の位置も確認することができる。妙子さんのスマートフォンは処分されたはずなのに…
とにかく彼女のスマートフォンは押収、愛奈はSCP-2299-JPとしてしばらく過ごすことになった。

関係者にはカバーストーリー「交通事故の後処理」が流布された。

補遺2 実験


異常性解明のため、数回の実験が実施された。

  • 実験記録2299-JP.1(2016/4/30)
実験内容:2299-JPに小林博士監視の元自由に行動させ、スマートフォンの変化を確認。
結果:とあるデパートで様々な店舗を回っている途中、「あまり帰りが遅くならないようにね。」というメッセージがSCP-2299-JP-Aから届く。「分かった」と返信するとすぐに既読マークがついた。

異常性の概要は掴めたが、有力な手掛かりはなし。

  • 実験記録2299-JP.4(2016/5/11)
実験内容:小林博士が2299-JPのスマートフォンを持ち運び、2299-JP-Aの反応を確認。
結果:状況に変化はなかったが、翌日の深夜に「今日は友達と遊んだの?お金の使い過ぎには気をつけなさいね」とメッセージが2299-JP-Aにから届く。

持ち運ぶ人間は関係ない模様。何故友達と遊んでいたかという結論に達したかという理由は不明。ここまでは娘想いのやや過保護気味なお母さんといった感じ。

  • 実験記録2299-JP.5 (2016/5/13)
実験内容:2299-JPに自由に行動させ、2299-JP-Aからのメッセージが届いた場合は会話を行わせる。
結果:デパートに行くと2299-JP-Aより電話が届く。
以下はその会話内容。


SCP-2299-JP-A:愛奈、久しぶり。それにしても最近よくデパートに行くね。そんなに買いたいものがあるの?

SCP-2299-JP:あーいや、ちょっと用事があってね。ちゃんと勉強もしてるしいいでしょ?

SCP-2299-JP-A:本当にしてる?今度のTOEICこそは800点越して欲しいな。

SCP-2299-JP:ええとね、800点取るのって結構難しいのよ?最初の300点から650点台まであげただけでも充分だと思うんだけどさ。

SCP-2299-JP-A:うーん、でもこれからの時代は英語が重要になるよ?頑張っていかないと時代の流れに遅れるよ。

SCP-2299-JP:はぁ…うん、そうだね。ところでお母さんは何してるの?

SCP-2299-JP-A:今?今はWoE見てるよ。そういえば一昨日は友達と遊んだの?2

SCP-2299-JP:え!?あー、いや、そうだよ。ほら友達に振り回されてね。…ええとさ、なんでそう思ったの?

SCP-2299-JP-A:いや、一昨日のWoEの動きが貴方らしくないなーって。貴方はいつも、デパートに入ったら最初に本屋に寄るでしょう?でも一昨日は最初にネックレス売り場に寄ったじゃない。

SCP-2299-JP:…ええとさ、何…一昨日はずっとWoE見てたの?というか私の動きを全部把握してるの…?

SCP-2299-JP-A:そうよ。貴方に何かあったら心配だからね。まぁそんな事はどうでもいいけど、ネックレスって…もしかして新しい彼氏でもできたの?

SCP-2299-JP:[長い沈黙] …違うよ。それにそんな事お母さんには関係ないでしょ。

SCP-2299-JP-A:えぇ?家族なんだし、関係あるでしょ。前の彼氏とはどうなったの?

SCP-2299-JP:前?[沈黙] …お、お母さんが……いや、何でもない、ええと…ごめんなさい、気にしないで。切るよ、じゃあね!

2299-JPが精神的苦痛を示したため実験終了。

見守り…というか監視がしっかりしている模様。前の彼氏とはいったい?

補遺3 インタビュー


上記実験5の後、SCP-2299-JPは強く動揺し、多量の発汗などが認められたため実験は中止。
数日後にカウンセリングと調査を兼ねて小林博士がインタビューを実施した。

2299-JPはまず「前の彼氏」について話してくれた。
彼とは高校3年の5月に付き合い始めたのだという。ごく普通の恋愛だったそうだ。
付き合い始めて1月ほどたったころ、母親の動きがどこかおかしいことに彼女は気づいた。いつも家にいる母親が、妙に家を空けることが多くなったのだという。

7か8月、彼女は彼氏と二人で海に行った。彼女曰く人生で一番楽しい時間だったらしい。
思い切って彼にキスを迫ってみると、彼も唇を合わせてくれた。

…が、ふと目を開けて周りを見てみると、彼女はレンズの反射光に気づいた。
なんと母親がスマートフォンを構えて、その場面を盗撮していたのである。
さらに、あとでこっそり母親のスマートフォンを確認してみると、ほかにも盗撮写真はあった。
彼との登校や一緒に行ったケーキバイキングの写真まで撮られており、彼女は強い恐怖を感じたのだった。

彼氏にはこのことを伝えて慰めてもらったが、たまたま見つけた彼のTwitterの裏垢には自身も彼女とともにも監視されていることへの不安がツイートされていた。
受験期や倦怠期だったこともあるが、結局このころから二人は疎遠になり始めたのだという。

母親にストーカー行為をやめるように頼んだのだが、彼女は「子供の成長を見るのが楽しい」と取り合ってはくれなかった。
ならばとWoEを削除しようとしたが、それはなぜか削除できなかったのだ。
結局どこに行っていても、何をしていても母親の目を感じるようになった彼女は引きこもりがちに。大学に合格して一人暮らしになっても行動を把握されにくいデパートに行くようにしていたのだという。

母親が事故で死去すると、自由になったと感じた彼女は、数年間行っていなかったパンケーキ店を訪れた。
その時にメールが届き、警察に相談し…という経緯で財団に収容された。

ただ、彼女は母親の感情を異常だとは思っていなかった。子供の成長を見守るのは楽しいことで、これも親の愛ゆえの行動なのだと。ただ、その「正常」に彼女は苦しめられているのだ。
小林博士は解決協力を約束した。

補遺4 追加実験


  • 実験記録2299-JP.6(2016/5/18)
実験内容:2299-JPの保有するスマートフォンを解約し、別のスマートフォンを契約。
結果:不明な要因ですでにWoEがインストールされていた。
逃げられなさそうだ。所有権がトリガーとなっているのだろう。
なお、元のスマートフォンのアプリは削除され、非異常になった。

  • 実験記録2299-JP.7(2016/5/23)
実験内容:実験6で得た異常なスマートフォンを改造し、行動記録、異常性探知、財団に関する発言の検閲の機能を追加。
結果:次のようになった。

使用App 平均使用割合(%)
SNS 43%
WoE 24%
検索エンジン 18%
ゲーム 8%
動画配信サービス 7%
なお、どのアプリにも異常ベクターはなかった。
分析:これまでと変わらない頻度でSNSを使用している模様。
また、『幽霊 科学的見地』『WoE 会社』などの情報を積極的に調べてメモ帳に見解を連ねている。

手掛かりは特になし。てか、これ監視じゃね?
実験のためにしては過剰すぎる気が…

  • 実験記録2299-JP.8(2016/6/10)
実験内容:2299-JPの位置情報機能を停止。
結果:実施から2分後、2299-JP-Aより位置情報をオンにするよう求めるメッセージが届く。
着信もあったがこれを無視。すると2299-JP-Aは短時間のうちに多数の着信を行う。2299-JPは恐怖したが指示によりすべて無視。
状況進展が見られないため位置情報を解除すると、「やっと貴方の位置が分かった。どうしてこんな事したの?それとも何か困ってることがあるの?もしそうならいつでも言ってね。」というメッセージが届く。
その後、2299-JP-Aに対しては「スマホを買い替えたため設定がよくわからなかった」というメッセージを送信。
既読にはなったが返信はなかった。

数分ごとに電話を鳴らしてくるかなりガチなストーカーっぷり。しかし状況改善の道は見えない。
いったいどうすればいいのか。


(1件)の更新があります!























更新ファイル:SCP-2299-JP


2016年6月23日、収容セルにてSCP-2299-JPが死亡しているのが確認された。
スマートフォンのケースを割り、それを壁に打って鋭くすることによって作った刃物を利用して何度もリストカットを行い、最終的に失血死したのだ。痛々しい…
また、2299-JPはこの様子をスマートフォンを用いて撮影していた。
以下はその記録である。

撮影記録 SCP-2299-JP


収容セル内の物品は丸みのあるものや柔らかいものが大半であり、自殺にはスマートフォンのケースを使ったのだと語った。
が、そんな刃物ではなかなか傷は深くならず、何度も繰り返し手首を切っていく。

そんな中、彼女は自分が死ぬ理由を「自分が変わっていくことに耐えられなかった」と説明した。
彼女は「自分は『見る』ということが好き」なのだと語った。
実は偶然見つけたという元カレの裏垢も、実はだいぶ前に見つけていたものだったのだ。

私は、彼の裏アカに粘着していました。プロフィール写真とか気に入ったツイートをスクショしたり、暇さえあれば彼の裏アカを眺めてました。[泣きながら笑って]…結局、私はお母さんと何も変わらない。
そして何より…WoEを見るのが、楽しくてたまらないんです!お母さんがどこにいるのか、どういう風に移動しているのか、今何をしているのか…何の役にも立たない情報なのに、把握するのがとても…支配しているかのようで、楽しいことに気付いてしまったんです!小林さん、貴方もそう思いませんか!?

彼女もまた、自身の母親のように、誰かを見て、動向を把握するという喜びを知ってしまったのだ。
日に日にWoEを使う時間が長くなっていき、WoEに縛られる中毒者、依存者になっていることに彼女は気づいた。
もう普通の生活に戻ることはできないと彼女は察したのだ。
SCP-2299-JP…いや、桜場愛奈はこう叫ぶ。

それでもなお、これは正常なんだと私は思っています。見ることの楽しさ…小林さん、貴方もそう思いませんか?もっと正確に言うと、観察する、監視する楽しさです!もしかしたら、実験とかこつけて、私の行動を把握しようとしたりしてませんでしたか?それが当たってたとしたら…なおさら、これは正常だ!当たり前で、ごく自然な反応だ。きっとそうだ…[小声で]私何言ってんだろうな…

…実験記録5を参照してほしい。果たして、彼女の操作内容をそこまで把握する必要はあるのだろうか?

私は…怖いんです。いつか私も、お母さんのようにWoEに取り憑かれたようになるんじゃないかって思ったんです。これが解決しても、私は昔のように純粋には戻れない。それがもう耐えられないから、ここで死ぬことにしました。小林さん、こんな考え方をする私は…もう、狂っていますか?異常ですか?

(SCP-2299-JPは脱力し、地面に倒れる。その時、右手が収容セル内の家具に取り付けられた監視用隠しカメラにぶつかり、外れる
。SCP-2299-JPはそれを手に取る。SCP-2299-JPは笑う。)

やっぱり、ずうっと見てたんですね。

[記録終了]


桜場愛奈は死んだ。「誰かを監視する」「誰かを知ろうとする」喜びと、それに気づいた自身への絶望とともに。

なお、調査の結果、小林博士がこの様子を隠しカメラを利用して観察していた可能性が高いと確認された。
本当なら保護すべきオブジェクトの死を黙って見ていたことになり、財団の理念に反する行動である。許されることではない。

オブジェクトによる何らかの干渉を疑われ、小林博士には異常性に関する検査が実施された。
が、彼の検査結果はどれも正常だった。

愛奈の死から8時間後、SCP-2299-JPより次のようなメッセージが届いた。

今、私の目の前に愛奈が居ます。死んだような目でずっと笑っています。私を見て、『やっと会えたね』と言って、笑っているんです。
もし誰かがこのメッセージを見ているなら、知り合いであるのなら、聞きたいことがあります。
私の娘は、こんな人間じゃなかったはずです。
誰がこの子をこんな風にしてしまったんですか?

自分の娘を見守る母。母の動向を知ろうとする娘。
他人を知ろうとする欲求、そして知る喜びは人間として普通の感情、「正常」である。そして、この二人の間の愛情はすれ違っていても、確かに存在した。
だが、他者への過剰の観察および監視、これは「異常」であろう。そこにあるのが「愛情」だとしても。

そもそも「正常」とは、いったい何なのか?



SCP-2299-JP
「正常恐怖症」



インターネットは距離を縮める。
物理的な距離も、親子の距離も、生死の距離も。

正常と異常の距離も。





余談


この作品は「愛のコンテスト」のために書かれた作品で、結果は準優勝であった。皮肉が効いてるなあ…

著者であるponhiro氏曰く「実話をモデルにした」とのこと。位置情報アプリは現実でも発展しているし、現実に起きてもおかしくない…と思わせる。
また、様々な解釈ができるようにあえてあいまいな形式にしたらしい。


追記・修正は「正常」が恐ろしくない人だけがよろしくお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-2299-JP 正常恐怖症
by ponhiro
http://scp-jp.wikidot.com/scp-2299-jp

SCPフレーバーテキスト集
http://scp-jp.wikidot.com/scp-flavor

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最終更新:2024年11月18日 18:42