SCP-1062-JP

登録日:2021/10/05 Tue 22:03:00
更新日:2025/03/15 Sat 17:10:36
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幸福に死ねる一族のお話


SCP-1062-JPは、シェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスはSafe……開始時点では。
この時点で嫌な予感がするという方々、当オブジェクトは極めて小規模で、世界や財団を苦しめる代物ではないのでご安心を。
こじんまりしてるからって苦しくないとは限らないんだが。


特別収容プロトコル


大前提として、当オブジェクトは特定の条件を満たす人物SCP-1062-JP-1に対し、生涯一度だけ発生する異常現象……財団的に言えば異常なイベントである。
条件は極めて限定的で、財団は全てのSCP-1062-JP-1を特定完了しており、その人数は20人に満たない。
その上での収容プロトコルが以下の通り。
  • SCP-1062-JP-1を観察・保護し続けろ。定期的に彼らへのカウンセリングを行え。
  • SCP-1062-JP-1自体の収容はイベントを励起しかねないので避けること。
  • イベント発生が予測される事態にはあらかじめエージェントを配置すること。
  • イベントが発生した場合、標準死亡偽装プロトコルに則り適切に対処せよ。
まぁ、ここから分かる通り、イベントが発生するとSCP-1062-JP-1は大抵はお亡くなりになる。

なお当オブジェクトの報告書には特記事項として、
性質上再現実験のしようがないし、観測例も少ないんで客観的検証はほぼできてない点に留意せよ
とある。
報告書の記載も、それを基にした本項目の記述も、SCP-1062-JP-1の主観的意見に大きく依存しているところはご理解願いたい。

概要


ではオブジェクト自体の説明に移っていこう。
本オブジェクトは奈良県に住んでいたお婆ちゃん田宮セツとその血縁の皆様に突如起こる異常現象である。
一生に一度しか起こらないその現象は、彼らの目の前にある物体が垂れ下がることで幕を開ける。
ある物体が何かって?


首吊り縄。


見た目の材質は発生した場所に応じて微妙に差異があるようだが、
「紐状で」「先端に輪っかがあって」「高さは頭上とそれなりに高く」「どういう見た目にしろ成人男性一人分以上を問題なく吊り下げられるほど強靭」
という代物は、”異常な首吊り縄”と言えば十分だろう。

ではどういう時にこの首吊り縄が降ってくるのかというと、とても幸せな事が起きた瞬間+α
+αが何なのかはよくわかってないのだが、とにかく降ってきた首吊り縄はセツの血縁……つまるところSCP-1062-JP-1にある確信をもたらす。
今この瞬間こそ、間違いなく幸せの絶頂である。そんな確信を。
……その確信が首吊り縄と共に現れた結果、多くのSCP-1062-JP-1が自殺を選ぶことになる。
今が幸福の絶頂であることの結論__最早二度と今ほど幸せになることはないという推論に耐えかねて。

こうして起こった自殺はなんら苦痛をもたらさず、また自殺者の周囲の人々に”幸せな死”であったとして祝福される。
この異常な反応は血縁だけに留まるものではなく、あらゆる親族・友人・恋人・その他関係者、
更には自殺者の対応に当たった警察官や医師まで同じように祝福するというのだから第三者としては空恐ろしいばかりである。

とまぁ、明らかにその自殺は異常ではあるのだが……実際のところ彼らの自殺の意思が異常なものなのかは判断しがたい。
SCP-1062-JP-1は血縁であり、お互いに血縁の”幸せな死”を目撃し、それを祝福してきた者たちである。
彼らはその時が来た際に自殺することが、皆に祝福される安らかな最期であることを身に染みてわかっている。
そして主張する限りにおいて、彼らは別に自殺を強要されてはいない。首を吊らずに生きていくことは出来るのである。
……そうして生き残ったSCP-1062-JP-1で「あの瞬間より幸せになれた」と思っている人物は絶無だが。
彼ら自身は、その首吊り縄は未来も、それに対する当事者の反応も全て知っているのだと信じている。
その真偽は判別不可能だが……彼らの言い分自体は、一つの考え方として理解はできる余地はある。


※※※注意※※※

元の報告書も本項目も、断じて自殺を奨励するものではない。
以上を了承の上で冷静に事態を受け止められる方のみ、以下を閲覧してほしい。









一族の歴史


報告書ではSCP-1062-JP-1一同の家系図と彼らのイベント発生状況が纏められているが、
本項目ではその内容を時系列で見ていこうと思う。
元の家系図の表記に倣ってSCP-1062-JP-1該当者の名前を太字で表記し
その上でイベントに沿って自殺を選んだ者は赤字それ以外の要因で死亡した者は青字で表記する。

SCP-1062-JP前史

1923年に生を受けたセツは、田宮太助に嫁入りし田宮家へと入る。
上から順に長男の、長女久恵、次女由美、次男正志と子宝に恵まれた彼女であったが、
ある事件に巻き込まれたことが(おそらく)契機となり、後にSCP-1062-JPを発生させることとなる。

1955年6月6日、正志が行方不明に。三日後の1955年6月9日、暴行を受けた変わり果てた姿で発見された。
他殺であることは明らかであったが、犯人はついぞ捕まることはなく、後に残ったのは一切の救いなき死を遂げた末息子の躯のみ。
セツの心痛はいかばかりであっただろうか。

……なお財団の追跡調査において、この事件自体には異常性を確認できていない。

1990年6月9日

正志の逝った日からちょうど35年後、最初のSCP-1062-JPイベントが発生。
セツが仏間で、荒川泰造のもとに嫁いだ由美が寝室でそれぞれ縊死。
セツの遺品からは何かしらの儀式的行為に彼女が没頭していた痕跡が残っており、
彼女の祈り——おそらくは”せめて皆が安らかに死ねますように”——が何かしらの形で叶ったことが異常性の根幹であると見られている。
最初に逝った二人の契機となる事件が何かは分かっていないが……或いは、絶頂の時は既に過ぎていた、ということなのかもしれない。

1996年5月18日

大村兵二との間に久恵が設けた次女明子が高橋敏と結婚。

この年になっても仲が良くて、一緒に買い物に出かけられるような、
お父さんとお母さんのような夫婦になれるよう、お互いを理解しあって歩んでいきます。

と父母にスピーチを送り、高橋家も含めた親族一同への挨拶を済ませ、そして首を吊った。享年25。
末娘の幸福を見届けた久恵もまたその場で首を吊る中で式は粛々と進行。
終了後に二人は自然死として処理されたが、出席したが当時の映像を残しており……

2000年3月4日

由美の一人息子にあたる荒川誠の長女千佳、志望大学に合格。
中学・高校受験には失敗し、懸命に勉強してきた結果が報われたその日、本人曰く”輪っか”と出会う。
煩悶の果てに「自分の人生のピークが今である」ことを受け入れきれず、自殺を拒否。

2002年5月12日

村上家に嫁いだ久恵の長女美和健太美佐子の兄妹から母の日のプレゼントを受け、その場で首を吊る。
直後に兄妹に対してもイベントが発生し、健太は自ら生を終えた。
……最愛の母を失った瞬間、残された子供たちの生涯は暗転してしまったらしい。
内心母親の死を待ち望んでたとかではないと信じたい。

2006年12月24日

千佳の弟である幸助がプロポーズを敢行。
見事聖夜のプロポーズは成功し、歓喜と共に首を吊った。

2007年某日

家族閲覧用にYoutubeへ明子の結婚式映像を投稿。
財団がその異様な内容を把握し、イベントがSCP-1062-JPとして把握される。
なお全くの個人用アカウントだったため映像記録の隠蔽は特に問題なく間に合ったらしい。
当オブジェクトは収容するだけならあくまでもSafeクラスに留まる大人しい奴なのである。
……半分ぐらいは周囲への精神影響で自己収容してるところがあるからなんだが。

2007年5月29日

美佐子が事故死。
久恵の子孫はこの日断絶した。

2007年8月11日

の唯一の孫娘、がピアノコンクールで準優勝。
と彼女の父親、そしてがイベントに遭遇し、だけが首吊りを行わなかった。
この時点でセツの曾孫世代は千佳以外残っていない。

2008年11月3日

修が病死。の子孫も断絶したことになる。
果たして彼はイベントとの遭遇時この病に気づいていたのか、それは報告書からは分からない。

2009年5月2日

千佳、宮崎翔と結婚。なお彼女にとって本意ではないデキ婚だった模様。
経緯はともかく送り出す父にとっては感慨深いものがあったようで、
その場で首を吊った。これで孫世代も全滅し、千佳は当時時点唯一のSCP-1062-JP-1となる。

2009年7月4日

財団、唯一の生存者である千佳にインタビューを行う。
少なくとも彼女にとって、大学合格時が人生の絶頂であることは否定できるものではなかった。
就活には失敗し、大学合格の日が唯一努力が報われた日となった。
予定外の妊娠によって結婚へと至り、デキ婚を揶揄されるところも多かった。
大学で頑張れば、就職すれば、結婚すれば、子どもが出来れば、きっと他にも幸せな事がある……
そんな淡い願いは今の所叶わず、彼女は予期せぬ結婚生活への不安を抱えながらも、しかし懸命に生きていた。

最も幸せな瞬間が大学合格の日だった、それはきっと間違いではない。
でも、子どもと共に生き、子どもの幸せを見届け、その中できっと2番目、3番目の幸せは見つけられる。
「あの時死んでおけば」との後悔は拭えなくても、それなら納得して生きていくことはきっとできる。

そう信じて彼女はなおも生きている。過ぎ去った最良の日を抱えて。
財団もまた、彼女と共に生きていくのだろう。




追記・修正は最良ならざる日々を噛みしめてお願いします。
























2009年9月16日

千佳のお腹の中の子は、臍の緒が首に絡まって死んだ。
関係者が皆祝福したその死は明らかにイベントによるものだったが、
財団は彼の身に契機となる”幸せな瞬間”が訪れたとは想定できず、懸命にその発端を調査している。

なお、報告書では2009年9月16日という日時が”嘆きの水曜日”ハブへとリンクしている。
日本支部81管区で同時多発的収容違反が発生し甚大な被害が出た”嘆きの水曜日”、その当日に未だ産まれざる子の幸せは終わった。
それが何を意味していたのかは、誰にもわからない*1


そして、一人の女性の唯一の望みは、絶たれた。

2009年12月2日

千佳が自室で首を吊って死んだ。
その死は警察に通報され、首吊り自殺が当然もたらす反応を以て周囲に受け止められた。
つまり、この縊死に異常は何もなかった。




子の安らかなる最期を願った、残された母の末裔。
その結末は……安らかに眠る子と、残された母の絶望。










SCP-1062-JP 絞福論

OC:Safe Neutralized





きっと全消しは辛いですし、項目もこれからどうなるか解らないです。
でも、wiki籠りが育ってから少しでも追記修正してくれれば、
立て主もそれなりに幸せになれるのかな、と。



CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-1062-JP - 絞福論
by izhaya
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1062-jp

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最終更新:2025年03月15日 17:10

*1 著者であるizhaya氏はディスカッションにて「『嘆きの水曜日が起きた後の世界に生まれても幸せになれない』と異常性が予知したのではないか。」「嘆きの水曜日事件以降幸せにはなれなかったことだけが真実」「当日何があったかは想像するしかない」と述べている。