たぬきケーキ

登録日:2021/11/19 (金) 21:46:51
更新日:2024/11/26 Tue 09:37:50
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出典:たぬきケーキ通販・和洋菓子のお店 菓子工房シマヤ
サイト運営者:菓子工房シマヤ



たぬきケーキとは、ケーキの一種である。

概要

スポンジを土台としてバタークリームでたぬきの形をした頭を作り、全体をチョコレートでコーティングしたケーキのこと。
土台のスポンジはロールケーキを用いているものが多いとも言われており、これはロールケーキが流行した時期とたぬきケーキが広まった時期が重なった影響があるのではないかともされている。
たぬきの形を作るには一定の硬さがあるバタークリームが重要だが、生クリームを使うパターンも一応あるらしい。

定義について、明確なのは「たぬきの形をしたケーキであること」くらいだとも言える。
特にたぬきの形や味付けの方法は、職人さんによって多種多様。つまり、お店や職人さんのカラーが非常にわかりやすく現れるという点でも興味深い。
これがたぬきケーキの最大の特徴として挙げられ、各地のたぬきケーキの違いを考察している人もいる。

ちなみに、味や製法だけではなくお店や地方によって名前も異なることもあり、「ぽんぽこ」「ぽん太」「ブレロ」「ドラえもん」などの呼び方もあるとか。


歴史

◇起源と発祥、普及

昭和時代に生まれたということは確か。
特に戦後間もなくの1950年代は、戦中よりもお菓子の材料が格段に手に入りやすくなり、また再び甘い物を求めるだけの余裕も出てきつつあった社会のニーズに応えるように、洋菓子作りの修行をしたり店を開いたりする人々が目立ち始めていた。
そのような時代背景から、全国各地でも同業者の勉強会や弟子入りなどの交流も盛んで、この最中にどこかで発生したたぬきケーキを他の職人さんが学んで広まった、とされる。
更に、高度経済成長期の1960年代に洋菓子店が各地で乱立したが、その店舗の多くにたぬきケーキは置かれており、1960年代~1980年代の時代には洋菓子店における定番の位置を獲得していたようだ。
動物系のデザインだったため、子供たちに人気だったのではないかとの分析もある。

だが、それ以外は実は未だに詳細が判っていない
現在、ファンによって発掘されたたぬきケーキに言及している最古の資料は1950年代に出たものだが、戦前に開発された「廿日(はつか)ねづみケーキ」がルーツだとする説も。
最も早く確認されているたぬきケーキは、主に普及していた作り方とは異なるタイプなので、それが現在のもののベースだと断言できるかは疑問の余地があるが。

また、起源だけではなく「何故この世に数多いる動物の中からたぬきが題材に選ばれ広まったのか」という理由も不明。
チョコレートがたぬきの体色と被るから、たぬきは日本固有の種なので舶来の種よりも馴染み深かったから……だとか色々考えられるとはいえ、憶測の域を出ない。茶色の動物は他にもいるので、考えた人がたぬきを抜擢した理由が判明する日は来るのだろうか……?
当時の勉強会ではたぬき以外の動物を模したケーキが紹介されたようだが、何故か普及したのはたぬきの形のものだったらしい。
これは「当時の洋菓子店はかつて和菓子職人だった者が多く、たぬきケーキの技法が和菓子の練り切りと似た部分があったから、その技術の応用が利いたためではないか」とも言われている。

このように、一時期広まっていたがルーツが現在も詳らかではない辺り、意外とかなり謎に包まれたお菓子でもある。


◇衰退

ところが、普及を続けていたはずのたぬきケーキは平成を迎えるにあたって一気に「個体数」を減らしてしまうことになる。
昭和が終わりを迎える歴史の変化に伴ってケーキや社会の事情も変わり、以下のような逆風が吹き荒れたからだ。

  • バタークリームから生クリームへの移行
まず、たぬきの形を作るのに貢献したバタークリームが廃れたことが大きく影響した、と見る見方が強い。
たぬきケーキの誕生間もない頃は、生クリームは値段も高く長期保存が難しかったので、主流のクリームはバタークリームだった。
たぬきケーキは上述しているがこのバタークリームの性質を活かしたケーキ、要は時代に合った(合わせた)ケーキだったことは否定できない。

しかし、やがて生クリームの前述の難点が解消されこちらが普及すると、バタークリームを用いたケーキは一気に姿を消していく。
ということはつまり、それを使ったたぬきケーキも当然消えゆく運命を辿るほかはなかったのだ。

  • 個人洋菓子店が減った
コンビニスイーツや大手洋生菓子チェーン店が発展したことにより、個人経営の洋菓子店自体が減ったことに伴い、たぬきケーキを見かける機会も失われることに。
また、たぬきケーキを学んだ年齢層の職人さんが高齢化し引退が相次ぐようになり、そこで技術が次世代へ受け継がれず断絶してしまった。

  • そもそも作るのが面倒
たぬきケーキはそもそも技術が要る。加えて、1個作る度に手間が掛かる上、温度で見た目の完成度が左右されうるなど、ケーキの中では労力が必要なものでもあった。
スイーツが日々多様化していくなかにあって、手間が掛かるのに他のスイーツと比べて人目を引きにくくなり、作るメリット自体が薄くなったことも考えられる。
ある意味問題点が判りやすくなり、後の時代のスイーツに淘汰されたとも言える。

様々な問題点に当たったたぬきケーキは全国から姿を消していき、メジャーと呼べる存在ではなくなってしまった。
やがてその存在はマイナーになり、たぬきケーキを一切知らない世代が増えていったのだった。


◇現在、そしてリバイバルへ……?

たぬきケーキはかくして「絶滅危惧種」と評される程には衰退してしまった……。

だが、世の中からすっかり姿を消してしまった訳ではない。
老舗の個人洋菓子店などを中心に一部では辛うじて生き残っており、根強いファンもまだまだいる。
また、近年は昭和文化の再評価やSNSの普及などによって注目され、当時を知る人には懐かしの、知らない若者にはかえって斬新な「昭和のケーキ」として評価を受けることもある。

こうした動きに乗じて新規メニューとして開発する店も出てきており、リバイバルに期待する声もある。
一方でたぬきケーキを支えた個人洋菓子店の高齢化などによる閉店は止まらず、今後については未知数と言えるか。





追記・修正は、たぬきケーキを食べてからお願いします。

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最終更新:2024年11月26日 09:37
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