ファイターズヒストリーダイナマイト(漫画版)

登録日:2022/01/16 Sun 21:33:40
更新日:2024/03/12 Tue 17:50:06
所要時間:約 12 分で読めます




本項では、ゲーム作品『ファイターズヒストリーダイナマイト』の漫画版について解説する。


概要

タイトル通り、データイースト株式会社の発売した格闘ゲーム『ファイターズヒストリーダイナマイト』のコミカライズ版として発表された作品で、
新声社の「コミックゲーメスト」誌にて1994年9月号から1995年9月号にかけて、およそ一年間連載されていた。
作者は津雲幻一郎。単行本はゲーメストコミックスより全2巻。

格闘ゲームのコミカライズ作品と言えば、かの有名な『ストリートファイターII V烈伝』に『ボンボン餓狼』等といった「怪作」が有名だが、
そういう意味では知名度こそそれらの作品には劣るものの、本作は中々に凄い。何と言っても、登場人物の名前やキャラデザイン以外、原作ゲームと共通するものがほぼ全く無い
原作ゲームがデコゲーらしい奇天烈さと格闘ゲームとしての真っ当さを組み合わせたかのような独特の味のある作品だったのに対し、
本作は全編通して設定もシナリオも完全オリジナルの独自路線を突っ走っており、この手の原作改変メディアミックスの中でもかなり清々しい部類の作品に仕上がっている。
原作ゲームに思い入れのある読者なら眉を顰めてしまう側面も無きにしも非ずだが、一漫画としてのクオリティは決して低くない「良作」であるため、
中古で手に取る機会があれば読んで損のない一作と言えるだろう。

著者である津雲幻一郎氏は、本作以前には『ウィザードリィ』の漫画を執筆していた事が確認できるが、本作以降の作家活動は全く音沙汰がない。
ちなみにコミックス第1巻のあとがきで、「ゲームはほとんどしません(ドラ○エぐらいしか…)」と原作にほぼ全く触れてない事をぶっちゃけていたりする。


あらすじ

舞台は大阪府。26歳の高校生・溝口誠は、長年通っていた学校に退学届けを出し、武闘家として日本中を回っての武者修行を宣言していた。
従妹の亮子や彼女の千絵にも心配され、溝口自身も口では言えない何かに対して煮え切らない想いを拭えずにいる日々を過ごしていたが、
ある夜、偶然にも一人の外国人・柳に血痕の付着した封筒を渡された事で、そのお節介焼きな気質もあってか、大きな事件へと首を突っ込んでいくことに。

一方、日本に密入国した青年・李典徳もまた、師の仇として亮子の祖父・嘉納厳五郎の命を狙うも、亮子の姿に攫われた妹・玲花の面影を見て引き下がる。
師の仇と妹の行方を探す李は、後日亮子に接触し、厳五郎のもとに滞在して敵を追う事を選択する。

溝口と李、生まれも目的すら異なる二人の男の道筋が、一つの陰謀を追い求める中で交わろうとする―――。


登場人物


味方勢力

本漫画の主人公。まぁ原作でも『溝口危機一髪!!』ではそうではあるし、シリーズが出なくなって以降どころか、デコ倒産後すら需要があるFHの顔となっていったが。
原作同様高校を留年し続けている26歳……だが、基本物語がシリアス一辺倒なためここら辺の設定のみ若干浮いている気がしないでもない。
なお、原作ゲームだと28歳なので年齢、人格…etc.ともに漫画の方がマシになっている。
キャラデザは作者の画風故か多少濃さが薄まり男前になっているものの、コミカルな面があまり描写されない点を除けば、
基本誰お前状態な登場人物の中では比較的原作ゲームに(まだ)近いキャラ付けがされており、
ぶっきらぼうなところこそあれど、基本的には人情に熱いお節介焼きな性格の持ち主で、他人への気配りや、失態の謝罪もできる好人物として描かれている。
喧嘩100段の腕の持ち主で、6~7年前には荒れてた時期があり、大阪全域をシメて今でもヤクザにすら恐れられているという。

当初こそただ当てずっぽうに武闘家を目指す事を宣言したり、李に対する対抗心から独断で突っ走り敵に捕らえられるなどの面も見られたが、
戦いの中で命の恩人であるザジィの死に直面するなどの出来事を経て、人間的にも武闘家としても真の成長を遂げてゆく。
本漫画では基本的に波動拳的な技は作中であまり使用されないが、彼のみマーストリウスとの対決で「タイガーバズーカ」を使用して決着をつけた。

  • 李典徳(リーディエンドー)
溝口と並ぶ、本漫画もう一人の主人公。八極拳の使い手。
彼も原作に比べてかなり若い風貌のイケメンなキャラデザになっており、性格はストイックな格闘家気質といった風に描かれている。
師の劉建徐を殺害し、妹の玲花を攫った犯人を追い求めて来日。
当初こそ犯人と疑った嘉納厳五郎を狙うも、亮子に妹の面影を感じてからは、柔和な地の性格も見せるようになった。

5年前に玲花の婚約者である兄弟子の(シオン)を助けられず喪ってしまい、それ以来妹に償うためにひたすらに力を追い求めてきた過去を持つ。
戦いの中、師を殺害し、妹を奪った張本人であるクラウンと遂に相対するが、その果てに直面した真実とは……

  • 嘉納亮子
本漫画事実上のヒロイン。17歳の高校生。溝口の従妹で、彼を「兄キ」と慕う仲。
柔道の腕前は高く、作中ではジャンを不意打ちに近い形で投げ飛ばしたりもしているが、大ボス格との直接対決は無く、基本的に「非戦闘要員枠」に収まっている。
李との出会いの中で彼に惹かれてゆき、やがては全てを失いつつある彼にとっての「最後の拠り所」へとなってゆく。

  • レイ・マクドガル
原作シリーズの主人公……だが、本漫画では完全にサブキャラの立ち位置に。更に格闘家ですらない
ロス市警の刑事で、中国系マフィアを追う中で来日。その最中で親友である柳刑事とザジィを立て続けに喪ってしまうも、復讐を決意して英美ともどもマフィアの本拠地にカチコミする。
……が、敵の黒服を複数名射殺する活躍こそ見せるも、マーストリウス相手には成すすべくなくコテンパンにされてしまい、
隠し持っていた小銃での反撃すらも肝心なところでジャムって逆にピンチに陥るなど、全編通してあまり活躍しているとは言い難い扱いであった。

  • ザジィ・ムハバ
空手道場を営む日本在住の外国人。35歳。レイと柳刑事とは知古の間柄で、彼らと共に中国系マフィアの足取りを追っていた。
物語中盤、マフィアに捕らわれた溝口と玲花を助け出そうと奮戦するが、その最中に因縁あるマーストリウスと激突。
奮戦してマーストリウスの片脚にダメージを負わせるも、銃撃された挙句、首元をナイフで裂かれるという凄惨な最期を遂げる。
しかし、その気高き意志は確実に溝口へと受け継がれることとなった。

  • 柳英美(リウヨンミー)
レイとザジィの友人であった柳刑事の娘。父の死に伴い、敵を討つために韓国から単身来日し、二人と合流する。
以降はレイと共にマフィアのアジトにカチコミするが、サムチャイ相手に終始劣勢だったりと、こちらもあまり活躍できなかった。

  • 大槻千絵
溝口の彼女。ちなみに溝口に彼女がいるのはメーカーの公式設定である。
ビジュアルは原作でイラストが出る前なのでオリジナル要素が強いが、すごい美人。恐らく溝口と同年代。
色々と心配な溝口と異なり、ナース服で彼と食事している描写がある事から看護師として働いている事がうかがえる。
また学生時代の成績も優秀だったようで、溝口が持ち込んだ「天ノ書」の漢文を3分の2ほど邦訳して見せており、
明確な描写こそないが、恐らくは彼がタイガーバズーカ(に相当する技)を習得できたのもこのおかげと思われる。
溝口の事を信頼しつつも、彼が危険な橋を渡ろうとするときは叱咤し、またその上で彼の覚悟を理解した後は背を押して送り出す、非常にできた女性。

  • 嘉納厳五郎
亮子の祖父。原作設定では初代の時点で既に故人だが、本漫画では存命で、現役で柔術道場の主を務めている。溝口にとっても親戚の間柄。
本作における溝口と李を結ぶ重要人物。李の師である劉建徐とは、かつて共に王沢傑老師のもとで修業を積んだ間柄で、老師から秘伝書のうち一冊「人ノ書」を託されている。
厳しい面も見せるが、基本的には溝口や李を温かく見守る良き指導者ポジションの人物。

  • (リュウ)刑事
英美の父親。原作設定では彼も『ダイナマイト』時点で故人だが、本漫画では(ry
物語序盤でマフィアから奪った「天ノ書」を通りすがりの溝口に託したが、マーストリウスに致命傷を負わされた挙句、飛鈴の部下の狙撃によって落命する。


敵対勢力

原作ではコミカルな面も見られる面々であったが(そもそも悪役ですらなかった)、漫画ではサムチャイを除き全員がド外道そのものである。

  • マーストリウス
ある意味、本作のメインヴィランと言っても過言でない立ち位置の人物。
飛鈴の部下で、元アメリカ地下レスリングチャンピオンだが、その精神は武闘家としてあるべきものからかけ離れた「外道」そのもの。
粗暴かつ卑劣な性格の持ち主であり、いざ戦闘となれば銃器や刃物による不意打ちで相手を殺傷する事も厭わない。
物語中盤で溝口を助けたザジィを殺戮したが、終盤ではその報いとばかりに溝口のリターンマッチで惨敗する事に。

  • 劉飛鈴(リウフェイリン)
中国系マフィアの女頭目。表向きは京劇団を運営しているが、必要とあらば非道な手段も厭わない。
元はカルノフの麻薬組織の構成員だったが、クラウンの協力によって組織を裏切り独立した経緯を持つ。
クラウンに対して異性として惚れていたようであったが、彼が未だカルノフと通じていた事には気づいておらず、結果としてその情念は最後の最後で裏切られることに……

  • マットロック・ジェイド
飛鈴の部下。モヒカン頭にパンクな衣装に身を包んだヤク中のヒャッハーであり、捕らえられた溝口に薬物を投与するなどの拷問を行う外道。
武器はナイフで、作中では白昼堂々レイをこれで闇討ちするという暴挙にも及んでいる。
実態はカルノフの送り込んだスパイで、サムチャイが内通者のクラウンを始末したのを見計らって彼を始末するのが真の目的だったが、
その事実をうっかり口を滑らせてしまった事でサムチャイに真相を悟られ、彼の「ティーカウロイ」で蹴り倒された。

  • ジャン・ピエール
カルノフの手先として日本に派遣された男。嘉納厳五郎の持つ秘伝書「人ノ書」を奪くべく柔術道場をチェルノブ似の戦闘員達を引き連れて襲撃した。
女性相手には一見フェミニスト的な態度を取ることもあるが、その実は粗暴な人格の持ち主。普段は温和な口調だが、激昂すると露骨に口が悪くなる。
柔術道場から「人ノ書」を奪う事には成功したが、結局その直後にマーストリウスに頸の骨を折られて死亡、漁夫の利となる形で秘伝書を奪われてしまった。

  • サムチャイ・トムヤムクン
カルノフが送り込んだ刺客。金さえ貰えばどんな暗殺もこなすと豪語するが、女子供には手を出さない主義。
カルノフからクラウンの抹殺命令を受けて来日、飛鈴のアジトに赴くが、マットロックが自身の暗殺命令をカルノフから受けていた事を知り、組織から離反。
マーストリウスが溝口に敗れた後は、李にクラウンの行き先であるカルノフの居場所を教えた。

  • カルノフ
本作の黒幕とも言える人物。ロシアで新興宗教団体を運営する教祖だが、その実態は麻薬組織の首領で、自らを「神の使い」と吹聴する悪党。
自らの一族が追い求めてきた3冊の秘伝書を我が手にするため、クラウンを使用して暗躍する。
コミックス2巻の後書きによれば、その父親はかのグレゴリー・ラスプーチンであるという設定もあったとのこと。

  • クラウン
恐らくビジュアル・設定ともに本漫画で最も原作から原型を留めてないキャラクター。控え目に言って「仮面を被った人物」という点しか共通項がまるで無い。
カルノフの手先として暗躍する仮面を被った男で、組織を裏切った飛鈴の元に二重スパイとして身を置きながら、秘伝書を集めるため暗躍していた。
物語終盤で飛鈴を切り捨て、自らの抹殺命令を出したカルノフすらも返り討ちにし、李と相対するが……


漫画オリジナルキャラ

  • 劉建徐(リウチェンシュー)
李の師匠。厳五郎とは同門の間柄で、秘伝書「地ノ書」を王沢傑より託されていた。
物語開始時点で命を奪われ、その犯人を厳五郎と誤解した李が来日する切っ掛けとなった。

  • 玲花(リンホワ)
李の妹で、赤髪の少女。建徐が殺害された際に何者かに攫われてしまっており、彼女の行方を探す事も李の目的の一つであった。

  • 王沢傑(ワンツーチェ)
厳五郎と建徐の師とも言える人物で、武術・仙術ともに極めた達人。
自らが永らく守り続けてきた秘伝書のうち2冊を、それぞれ厳五郎と建徐に託したが、その直後に息子・元雲の手によって火を放たれ殺害される。

  • 王元雲(ワンゲンウン)
王沢傑の息子だが、その素行の悪さゆえに秘伝書を託されなかった放蕩息子。
父を殺害して「天ノ書」を奪い、他の秘伝書をも奪うべく雄を差し向けたが、彼が自らの使命に気付くまでの間にカルノフに抹殺された。


秘伝書

本漫画の要となるアイテム。
王沢傑老師が永らく守り続けてきた「仙道書」であり、うち2冊が厳五郎と建徐に託されていた。
その実態は、太古より伝わるあらゆる秘法が記された「魔導書」を中国的な解釈で仙道書として書き写された写本とも言うべき代物であり、
大本の魔導書が現存しない今、カルノフはこれを手に入れ強大な力を得る事を目的としていた。

  • 天ノ書
気功法の極意が記された秘伝書。
老師が死した際の火災で失われたと思われていたが、実際はその息子の元雲の手により持ち出され、彼の死後はカルノフの手に渡っていた。
経緯は不明ながら柳刑事が持ち出し、結果的に溝口の手に渡り、千絵の努力の甲斐もあって、彼が「タイガーバズーカ」を習得する道しるべとなった。

  • 地ノ書
仙薬の調合法の極意が記された秘伝書。
建徐に託されていたが、物語開始前にクラウンの手によって奪われる。
麻薬の調合法すら記されており、これを投与された溝口は中毒にこそならなかったものの、一時生死の境を彷徨う羽目に陥ってしまった。

  • 人ノ書
体術の極意を記された秘伝書。
厳五郎に託されていたが、物語中盤でジャンに奪われ、更に彼を殺害したマーストリウスの手によってマフィアの元に渡る。


追記・修正は、秘伝書を3冊全部揃えてからお願いします。

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最終更新:2024年03月12日 17:50