チェルノブ(ゲーム)

登録日:2021/11/10 Wed 00:00:35
更新日:2024/10/16 Wed 20:42:27
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行け! チェルノブ

我前に敵は無し


いけっ チェルノブ!

「わがまえに てきはなし!!」


『チェルノブ(英:CHELNOV)』は、1988年にデータイースト(DECO)が開発してアーケードで稼働が開始された2Dスクロールアクションゲーム。
ただし、画面は常に強制スクロールで右に進んでおり、チェルノブはボス戦以外で後ろに戻ることが出来ない。プレイヤーはそれに合わせて自機を操作する必要がある。
敵の出現パターン等も含めて、実際のプレイ感覚や攻略方法に関して言えば、寧ろシューティングゲームと呼んだ方がいい位のゲームデザインである。

なお、アーケード時の正式なタイトル名(タイトル画面に収められている名称)は『ATOMIC RUNNER CHELNOV 戦う人間発電所』……であったが、後に1992年にメガドライブにて発売されたコンシューマー版ではCHELNOVのみになっており、ストーリーも大幅に修正が加えられた。まともになったとは言っていないし、海外版では副題に“ATOMIC RUNNER”が残ったままである。……が、それでもアーケード版の強烈さを求めるユーザーの声は少なくなかったようで、1993年に電波新聞社より『ビデオゲームアンソロジーVol.2』として、高性能ゲームパソコンX68000にてアーケード版に準拠する形で移植された。

そして、コンシューマーでのリベンジということなのか、1997年頃に東京ゲームショウや秋葉原での一部店頭にて、デコが自社開発中のアーケードの完全移植を目指した形でのセガサターン用ソフトのデモプレイが展示、公開されていたのだが、結局は発売されることはなかった。

その後、2007年にパオンよりWiiのバーチャルコンソールでMD版が配信。
2020年にD4エンタープライズによりプロジェクトEGG内にてMD版、アーケード版の双方のWindows版が配信されている*1

また、元々BGMの評価が高いゲームであったのだが、2021年になってアーケード版とコンシューマー版の双方を完全収録したサントラが、初の『チェルノブ』単独タイトルで発売されるという嬉しいサプライズがあった。


【あらすじ】


■アーケード版
ある日、原子力発電所の爆発事故に巻き込まれた、炭鉱夫チェルノブ。
九死に一生を得た彼ではあるが、その体には、放射線の影響で異状能力が身に付いてしまっていた。
そして謎の組織デスタリアンが、その能力を狙って魔手を伸ばしてきた。
チェルノブとデスタリアンの死闘が、今ここに始まる。

■コンシューマー版
家族3人で宇宙開発用スーツの研究をおこなっていた若き科学者であるチェルノブは、ある日の夜更けにジョギング帰りに自宅を凶悪組織「デスタリアン」に襲撃されたことを知る。
妹のチェルシーはさらわれ、瀕死の重傷を負った父は、これまで開発していたスーツが、本当は来たるべきデスタリアンとの決戦に備え、対抗するための機能を内蔵した戦闘歩兵服であることを明かす。
怒りが頂点に達したチェルノブだったが、その直後にチェルノブ自身もまたデスタリアンに囚われ拷問を受けてしまう。
しかし、スーツの力で窮地を脱すると、復讐の誓いを胸に妹の救出とデスタリアン打倒のために走り出すのだった。

……と、いうわけでアーケード版のストーリーが移植の際に修正されるのも当たり前じゃい!……と、言いたくなる位に不謹慎極まるのが特徴で、このことがタイトルも含めて本作を日本のゲーム史上でも指折りの問題作として扱わしめている所以の一つである。
断っておくとというか冷静になって考えて欲しい所であるが、実は放射能や原子力の影響で怪獣超人が生まれるというのは定番ネタであったのだが、この『チェルノブ』の登場した時期には以前とは事情が一変してしまっていた。

……何しろ、本作の稼働開始の僅か2年前となる1986年に人類史上最悪の原発事故である“チェルノブイリ*2原発事故”が発生しており、
当時の世相は風評被害も含めて、創作の世界では夢のエネルギー扱いされることもあった原子力の負の側面に震えていたのである。

こうして、本作の嫌でも当該事件を想起させるタイトルと設定には、流石に多数の批判が寄せられることにNATTE SHIMATTA……という訳である。
というか、本作では他にも最終決戦が何故か自由の女神像の前で、決着後には何故かラスボスばかりか女神像までもが炎上してしまったりと、タイトルやストーリー以外にも不謹慎と捉えられかねない要素が多数存在している。
……ストーリー上ではチェルノブを追っている相手はあくまでも謎の組織デスタリアンであった筈なのに、戦いを終えた後にチェルノブが米軍に射殺されたと強く感じさせるラストとなっており、これについては自由の女神の爆破の件と絡めて、当時の冷戦時代を反映した合衆国へのロシア(ソ連)によるテロの暗喩とする意見があったりと、とにかく色んな感情が巻き起こる演出が連発されるのである。
後、原発や冷戦関連以外のネタとしては、本作の得点アイテムの名称が(円高)(ドル安)になっているのだが、これも当時の世相を反映したものではある。
……だからって、どうしても入れる必要があったネタとは思えず、以上のように悪フザけとしか思えない要素が多かったのも批判を集めた理由ではあったのだろうと考えられる。
……これに対して、デコでは『チェルノブ』は(先行して稼働、販売していた同社の)『カルノフ』の従兄弟であり事故とは関係ない」──といった斜め上の解答をしたことで知られているものの……。



【ゲームシステム】

操作は8方向レバー+3ボタンで、ボタンの内訳はショット/ジャンプ/振り返りの3種で、前述のようにボス戦を除いては画面は強制スクロールで常に前に進むので、攻撃の際にはショットの発射角度を変えたり、背後からの敵には振り返りを利用して攻撃を行う。
一応、しゃがむことで立ち止まることやジャンプ中の後退は出来るのだが、スクロールの端まで来ると強制的に走らされるので、猶予と呼べるものは殆ど無く素早い判断が求められる。
ジャンプが独特で左右にレバーを入れながらだと一回転しながら、ボタンだけだと垂直に飛ぶ。前者は斜め下にも攻撃できるが一点集中攻撃が出来ない、後者は範囲こそ狭いが連射できるといった違いがある。

また、システムとしては前述のようにシューティングゲームに近いものの、本作ではマリオ宜しく敵を踏んづけて攻撃することも可能で場合によってはそれを利用して前に進む場面があったりとアクションゲーム的な要素もあるので、操作性は悪くないものの、独特のゲーム性故に慣れるまでは手間取る可能性もあり、このことから概ねは高難度ゲーと言われることが多い。

ただし、慣れてしまえばパワーアップアイテムは大量に出るので復活パターンは楽ともされる。
尚、後方の敵への対処が振り返りとなっていることからも察せるように、如何にパワーアップして火力を増大させても、オプションが付いたりバリアーが付いたりといった要素は無く、最強状態にしても無双状態になることもないという、骨太にして絶妙の難易度の調整がされているとの評価も。
何れにせよ、ゲームデザインは狂っているがゲームその物は面白いし優れているという、デコゲーの代表格の一つに挙げられるのも納得の往年の名作である。


【ショット/パワーアップ】

初期装備は光子力光線で、以降はアイテムとして出現する各種武器アイコンを取ることにより装備を切り替えていくことが可能。
各種ショットのパワーアップは“UP”の文字アイテムで行われ、赤が火力。青が連射。黄が射程。各種三段階まで上がる。
尚、武器アイコンは同種のものを取ってもパワーアップの替わりにはならないので注意。
“J”の文字アイテムはジャンプ力アップで、一段階のみパワーアップする。

初期装備の光線銃。
赤色の銃型アイコンで切り替え。
基本ショットとはいえ、弾のスピードが速く連射も効くので、パワーアップさせると凄まじいことになる。
何故光子力なのかは不明。

  • エネルギーブーメラン
その名のように、一定距離で戻ってくる。
青紫のブーメラン(へ)型アイコンで切り替え。
ジャンプ中に放つと変則的な軌道を描いて戻ってくるが連射速度に難あり。

  • 光(火)輪
進む度に径が広がる炎の輪を直線方向に放つ。
青緑の巴型アイコンで切り替え。
効果範囲は広いが威力は低めで、画面端から打たないと最大直径にもならない。
コンシューマー版はパワーアップでショット自体が大きくなっていく。

  • 重力分銅
ゆっくりと円運動しながら飛んでいく棘球の塊を直線方向に放つ。
赤紫色の棘球アイコンで切り替え。
パワーアップさせることで同時に射てる弾が増えていき、最大で二連射分(八発)を画面内に射つことが可能。
威力こそ高いものの、限界分を出しきってしまうと当然の如く次が出せない、障害物に引っ掛かると塊の輪が崩れる等、癖が強すぎて慣れていないと十分な威力を発揮出来ないので、ある意味では本作を代表する装備にもかかわらず地雷武器扱いされていた。
コンシューマー版では塊の軌道が螺旋運動のような動きにアレンジされ、塊の範囲が狭まった替わりに多少は連射が効くようになり、高火力の遠距離攻撃として使っていけるようになった。

純粋な飛び道具では無いために射程は狭いものの、範囲内なら遮蔽物も無視して当てられる鞭攻撃。
緑色の鞭アイコンで切り替え。
パワーアップさせると同時に三本を繰り出すが、微妙に攻撃判定に隙間があったり、耐久力の高い相手に対しては十分な効果を得られないといった弱点があった。
コンシューマー版では効果範囲内に連続で棘付き鉄球を連射する……といった感じの攻撃にアレンジされており、相変わらず射程こそ短いものの、一転して全装備でも最大火力を誇るショットとなっている。

  • 赤城山ミサイル
誘導ミサイル
灰色のミサイル型アイコンで切り替え。
弾の威力は低いが誘導性能その物は高く、着弾時の爆風に巻き込むことも可能。
アーケード版では一回の連射で弾が重なって発射される為かパワーアップさせても単発ずつ射っているように見えてしまい効果が解り辛かったが、コンシューマー版ではちゃんと連続ミサイル攻撃といった感じとなり、効果も実感出来る。
武器名の元ネタはOVA作品『プロジェクトA子』との噂。


【余談】

  • 明らかに苦し紛れに発した『カルノフ』との従兄弟設定であるが、後にスラブ神話中にチェルノブとカルノフという兄弟神がおり、それが元ネタであると説明されていた……とされた時期があったものの、実際にスラブ神話に“Chernobog”という暗黒神は存在しているものの(『真・女神転生』シリーズにも破壊神に分類される悪魔として登場している)、カルノフに相当する神名は存在せず、これは厳密には嘘から出た実が結局は嘘だったというパターンである。


  • 漫画『孤独のグルメ』で主人公の井之頭五郎が「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」と言うセリフがあり、これを聞いた読者の中にチェルノブの「戦う人間発電所」を連想した人がいたとかいないとか。
    作者がチェルノブを知っているとは思えない。

  • 昨今のスマホゲームに『スーパーマリオラン』などのいわゆる「ランゲーム」が存在するが、本作はそのはしりとも言える。
    マリオスタッフがチェルノブを参考にして作ったとは(ry




OWATTE SHIMATTA
SHIKASHI KARE NIWA
TUIKI SYUSEI SARERU MADE
ANJYUNOCHI WA NAI
HASHIRE CHELNOV








エ ン ド

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最終更新:2024年10月16日 20:42

*1 MD版は2010年に先行して配信され、一度は権利の消滅により配信停止となっていたが2020年6月にアーケード版が配信されたのに続いて、7月より再度の配信開始。

*2 今後はウクライナ語のチョルノーブィリという呼び方が主となる。

*3 2019年1月31日『OBSLive』にゲスト出演した企画担当の伊井俊一氏の発言より。

*4 『カルノフ』に携わってたスタッフは特に明かされていないが、伊井氏は『カルノフ』『チェルノブ』と並ぶ“デコ三大奇ゲー”の残る一つ『トリオ・ザ・パンチ』の企画担当ではある。

*5 後、そもそも気軽に遊べるアクションゲームである『チェルノブ』で「そんなに開発期間がかかるか?」という至極当然の疑問もある。

*6 ただし、それでもチェルノブが死の間際に見た夢オチと解釈される内容ではあった。ちなみに、完全に世界観を同一としていいかは不明だが『ファイターズヒストリー~溝口危機一髪!~』にてラスボスで登場した時には「何とか生きていた」と説明されている。

*7 地味にやられパターンも増えている。例:O-TETEという手の形をした敵に触れると握りつぶされる。D-FEという盾持ちの敵を倒すとミサイルのように盾が飛んできて当たると死ぬ。