ノーベル賞

登録日:2022/10/08(土) 20:46:15
更新日:2024/11/09 Sat 08:04:22
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ノーベル賞とは、世界の様々な部門で顕著な功績を残した人物に贈られる賞である。


概要

スウェーデンの科学者、アルフレッド・ノーベルの遺言によって制定された賞で、
物理学、化学、生理学・医学、文学、平和および経済学の6部門が制定されている。

選考は平和賞以外がスウェーデン、平和賞のみノルウェーで実施される(理由は後述)。
候補・ノミネート者は公式には発表されず、選考も秘密裏に行われる。
そのため、たとえニュースなどで「有力候補」などと取り沙汰されても、実際には選定の議題に挙がっているのかすら知る事はできない。
選考内容は50年間秘密裏に保持されるが、50年過ぎた場合は要求があれば公表される。

受賞者及びその研究内容は人類史および世界史に残るものが多数だが、
その一方で有力候補と言われながら当時の国際情勢や政治的事情から授賞に至らなかった研究者も多数存在する。
「ノーベル賞を取り損ねた人々」という項目にそれらの人物はまとめられているので、気になる方はそちらを参照のこと。

受賞する基準の一つとして、何の役に立つのか/何の役に立ったのかがはっきりしていないといけない、というルールがある。アインシュタインが相対性理論で賞を貰えなかったのも、考案当時は相対性理論の使い所が見つからない=何の役に立つのかがわからなかったからである。

受賞対象は世界各国の研究者で、複数人による共同研究や、共同ではないが複数人による業績が受賞理由になる場合は、一度に3人まで同時受賞することができる。
また、平和賞のみ団体も対象となる。

1974年以降は授賞決定発表の時点で本人が生存していることが授賞の条件とされている。

毎年10月上旬に受賞者が発表され、ノーベルの命日である12月10日にスウェーデンのストックホルムとノルウェーのオスロでそれぞれ授賞式と晩餐会、記念講演会が実施される。
授賞式には賞状・メダル・賞金の3点が授与される。

この地球上のありとあらゆる賞の中で、権威・知名度がトップクラスと言っても過言ではなく、現時点で不可能な発明や技術に対し「ノーベル賞級の○○」という比喩表現が使われるほか、学術・技術部門の賞を「○○界のノーベル賞」とたとえることもある。


歴史

スウェーデンの化学者アルフレッド・ノーベルは、強力な威力を持つが衝撃に非常に弱い化学物質「ニトログリセリン」を改良して、扱いやすく且つ強力な爆薬「ダイナマイト」を発明する。
ダイナマイトはその手軽さから土木工事の場面や戦争で手広く利用され、それを製造するノーベルも多大なる富を築いた。
ノーベル自身はダイナマイトで戦争……人殺しを行うことを快くは思っていなかった*1のだが、彼の想定に反してダイナマイトでの戦争は激化。あまりに戦争に使われすぎて、戦争が止むと同時にノーベルの会社が傾くほどの需要があったという。
そんなある日ノーベルは「死の商人、死す」自身の死亡記事が新聞に掲載される事態に遭遇する。
実際はノーベルの兄が死亡したのを取り違えた新聞社のミスだったが、自分が世間から「死の商人」呼ばわりされていたことを知ったノーベルは自身の死後について考えるようになる

そして死の1年前となる1895年に遺言が完成、その中で「ノーベル財団を設立し、その基金の利子を前年に人類のために最大たる貢献をした人々に分配する」というノーベル賞の骨格が完成し、1901年から選考が開始された。

その後、1968年にスウェーデン国立銀行が設立300周年記念事業として経済学賞を設立して現在に至る。
但し、ノーベルの子孫は経済学賞についてはその存在を認めておらず、名前を使うのはやめてほしいと訴えている。

受賞部門

  • 物理学賞
選考機関はスウェーデン王立科学アカデミー。
物理学の分野において重要な発見を行った人物に授与される。
天文学や原子物理学、地球科学からの受賞者が多い。

  • 生理学・医学賞
選考機関はカロリンスカ研究所。
その名の通り医学関係での重要な発見を(ry

  • 化学賞
選考機関はスウェーデン王立科学アカデミー。
その名の通り化学の分野において(ry

  • 文学賞
選考機関はスウェーデン・アカデミー。
文学の部門において、理念を持って描かれた作品について表彰するもの。
本賞は作家のみならず異業種の人物が受賞する例もあり、
過去には政治家のチャーチルやシンガーソングライターのボブ・ディランの受賞例がある*2
2018年は選考委員のセクハラ問題から選考が一時的に見送られ、同年の受賞者は翌2019年に同時表彰された。

日本では近年、村上春樹の受賞に期待する人々で盛り上がるのが風物詩となっている。
……実際には候補に挙がっているのかすら不明なのは前述の通りなのだが。

  • 平和賞
選考機関はノルウェー・ノーベル委員会。
この賞のみ、かつて同君連合を結成していたスウェーデンとノルウェーが分離した際、両国の和解と平和を祈念する意味合いも兼ねてノルウェーで選考が実施される。

世界各国の問題について解決に貢献した人物・団体に表彰される。
…なのだが、受賞時点での国際情勢に大きく影響されやすく、学術部門と比べて客観的実績が反映されているとは言い難い。
受賞に際して国・団体単位でロビー活動が行われているともされ、必ずと言っていいほど批判の声が挙がる。
また、受賞者がその後、賞の理念に反する行為をやらかしてしまう例も少なくなく、その点からノーベル賞のいらない子扱いされることも。

25年間、平和賞委員会に携わってきたゲイル・ルンデスタッド氏による暴露本『平和の秘書、ノーベル賞との25年』ではたった5人のノルウェー人によって決められていることが語られたという。

  • 経済学賞
前述の通り1968年に新設された賞。
正式な名称は「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」で、
賞金もノーベル財団ではなく国立銀行から拠出される。
選考機関はスウェーデン王立科学アカデミー。
前述の通りノーベルの子孫から批判を受けているほか、
受賞者は西欧型の資本主義学者が大半のため、その点でもノーベル賞としてふさわしくないという指摘もある。
2022年現在、日本人の受賞者が存在しない唯一の部門である。

架空の部門

  • 殺人賞


主な受賞者

◆ヴィルヘルム・レントゲン(1901年物理学賞)
第1回の記念すべき物理学賞受賞者。
X線を発見し、これを用いた撮影法がレントゲンと呼ばれることに。

◆マリー・キュリー(1903年物理学賞・1911年化学賞)
ご存じ世界史の教科書でもおなじみキュリー夫人。ポロニウム、ラジウムの発見など、放射能に関する研究により受賞。
当時としては数少ない女性受賞者で、氏の受賞がノーベル賞の知名度を大きく上げたとされる。
物理学賞は夫・ピエールと共に受賞、また長女・イレーヌも1935年の化学賞を受賞しており、2部門受賞・夫婦受賞・親子受賞という到底出てこないであろうトリプル記録も持つ。

◆ロベルト・コッホ(1905年生理学・医学賞)
結核菌を発見したことで受賞。
「近代細菌学の開祖」と呼ばれ、現在もドイツの研究所にその名を遺す。

◆アルバート・アインシュタイン(1921年物理学賞)
みんな大好きアインシュタイン先生。ハリウッド映画ではよく間違っていたことにされる先生でもある。
相対性理論で受賞したと勘違いされがちだが、実際は光電効果の法則の発見により受賞している。

◆ジョン・ジェームズ・リチャード・マクラウド(1921年生理学医学賞)
糖尿病治療・予防の役割を果たす物質・インスリンの発見者としてノーベル賞を受賞した人。
……なのだが、このマクラウド氏、単に研究室を貸しただけであり、実際にインスリンを発見したのは、彼から研究室を借りたフレデリック・バンティングという人。
旅行から帰ってきたマクラウドはバンティングの研究がうまく行っているのを見て研究を手伝い、実証実験に成功したことでバンティングと共にノーベル賞を受賞した。当然というかなんというか、バンティングは便乗しただけのマクラウドが一緒に受賞したことにガチ切れしたそうな。
一応バンティングはカナダ政府からノーベル賞のことを褒められ「死ぬまで研究費を出す」という約束も取り付けたので、めでたしめでたし……で、いいのだろうか?

◆湯川秀樹(1949年物理学賞)
中間子の発見の功績から日本人初のノーベル賞受賞。
敗戦直後かつ連合軍占領下の日本で大きな話題になり、日本国民に大きな力を与えた。
晩年は反核運動に力を入れていた。

◆ジャン・ポール・サルトル(1964年文学賞)
フランスの哲学者。
世界で最初に自らの意思で受賞を辞退した人物。

◆川端康成(1968年文学賞)
「雪国」「踊り子」と一度は誰もが聞いたことある作品でおなじみ。
日本の美や心を表現した作品が評価され、日本人初の文学賞を受賞。

◆佐藤栄作(1974年平和賞)
核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」の「非核三原則」を提言したことで、日本人では初めて平和賞を受賞。

◆マザー・テレサ(1979年平和賞)
一度は名前を聞いたことがあるであろう、カトリック教会を代表する修道女
恒例となっている受賞時の晩餐会を、その費用を貧しい人に分配してほしいとの理由で中止にさせており、これはノーベル賞受賞者では唯一の事例。

◆アウンサンスーチー(1991年平和賞)
ミャンマーの独立運動家。
自宅での軟禁中に民主化運動を訴えて受賞したが、ロヒンギャ難民問題への消極的な姿勢から批判も大きくなった。
2021年に発生した軍事クーデター以降、再度軟禁の憂き目に遭っている。

◆キャリー・マリス(1993年化学賞)
新型コロナウイルスで一気に有名となったPCR検査法を発明した人物。
尤も氏は感染症の検査に対する使用は否定的だったとされる。

◆田中耕一(2002年化学賞)
純粋な研究者ではなく、受賞時点で島津製作所勤務のサラリーマンだったことから大きな話題を呼んだ。
勤務の帰り際*3にいきなり電話がかかり、そこから一瞬にして世界が変わったと当人は述べている。
大の鉄ヲタでもあり、ノーベル賞受賞のインタビューでは「一番うれしかったのが500系のぞみに乗れたこと」という珍コメントを残している。

◆ワンガリ・マータイ(2004年平和賞)
ケニアの女性環境運動家。
「もったいない」を「MOTTAINAI」にしたことで知られる。

◆バラク・オバマ(2009年平和賞)
「Yes,We,can」でおなじみアメリカ大統領。
就任9か月という驚異的な早さで平和賞を受賞した。
アメリカ大統領経験者での受賞はジミー・カーターに続く2人目で、現役時点の受賞はこれが初めて。

◆ラルフ・スタインマン(2011年生理学・医学賞)
樹状細胞の研究による受賞だったが、受賞決定の3日前に亡くなっていたことが発表直後に遺族から伝えられる。
前述の通り本来没者には授与されないが、「生存しているとの前提のもとに決定された」というところから、特に取り消されずそのまま授与された。

◆山中伸弥(2012年生理学・医学賞)
iPS細胞の発見で、再生治療の可能性を大きく広げたことでおなじみ。
喋りが立つからか、近年ではNHKの人体系特番などで司会を務めることも。

◆赤崎勇・天野浩・中村修二(2014年物理学賞)
青色LEDを発明した3者への受賞。
特に中村氏は自身が在籍していた日亜化学に対し、研究に対する報酬を巡って訴訟を起こしたことで話題を呼んでいた。

◆マララ・ユスフザイ(2014年平和賞)
パキスタンの女性人権運動家。17歳での授賞は史上最年少で、未成年での授賞は史上初。

◆吉野彰、ジョン・グッドイナフ、スタンリー・ウィッティンガム(2019化学賞)
リチウムイオン電池の開発に貢献。
ただしリチウムイオン電池の「実用化」に関しては吉野氏の務める旭化成よりも先にソニーが実現しており、
当初はソニーでリチウムイオン電池の研究開発の中心だった西美緒氏も対象ではないかと見られていたが、
実際には概念の確立などの「開発」の部分が重視された模様。

◆日本原水爆被害者団体協議会(2024年平和賞)
世界で唯一の被爆国であり、1954年にビキニ環礁で実施した水爆実験に伴う原水爆禁止運動を受けて設立された組織。通称被団協。
「長年の並外れた努力が核のタブーの確立に大きく貢献した」ことで、日本では50年ぶり、団体では史上初となるノーベル平和賞受賞に輝いた。


余談

  • ノーベル賞の発表直前となる毎年9月頃には、論文の被引用件数や重要度の観点から優秀賞を決める「クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞」*4という賞が存在する。その内容からノーベル賞の事前予想賞とも言われているが、実際には受賞者が100%出るわけではないので、競馬新聞程度のクオリティと見たほうがいいだろう。
  • ノーベル自身が創設したのは5つで、それに現在は経済学賞が加わっているが、「数学賞」や文学以外の芸術関連の賞は存在しない。正確な理由は不明だが、ノーベルがこれらの分野に興味関心を持たなかったからとも、直接研究成果が人類に貢献する分野に絞っているためとも言われる。
    • 数学に関してはフィールズ賞が実質的な数学分野のノーベル賞になっているため、今更新設する意味合いが薄いことも理由だろう。
  • メディアでは「国別のノーベル賞受賞者数」というランキングが掲載されることが多いが、ノーベル財団の公式には国別の受賞者一覧表は存在しない。これは、ノーベルが遺言で「賞を授与するにあたって候補者の国籍は考慮しない」という一文を遺したことに起因する。
  • ノーベル賞とは逆に「面白く、そして考えさせられる」研究や成果を残した人に対して贈られる賞「イグノーベル賞」も存在する。
    つまりバカで笑えるだけではダメで、一見珍妙だが意外な効果をもたらしたり等が求められる賞である。
    「夫のパンツに吹きかけることで浮気を発見できるスプレー「Sチェック」を開発した功績に対して」だとか、「床に置かれたバナナの皮を人間が踏んだときの摩擦の大きさを計測した研究に対して」だとか、「前かがみになって股の間から後ろ方向にものを見ると実際より小さく見える「股のぞき効果」を実験で示した研究に対して」だとか、いい感じにくだらない内容のものが多いので、ヒマなときに一覧を見てみると楽しめるかもしれない。
    ちなみに、日本とイギリスはこのイグノーベル賞の受賞常連国であり、今ここで挙げた3例の研究をしたのは全員日本人である。


追記・修正は人類史に功績を遺す発見を見届けてからお願いします。

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最終更新:2024年11月09日 08:04

*1 ノーベル自身は戦争に使う想定でダイナマイトを作ってはいたのだが、現在の核兵器よろしく「抑止力」として使われることを望んでいた。

*2 1958年以降は専業の文学者という規定が新設されたが、実際には対象を芸術分野に限定したものとされる。

*3 受賞者の発表は日本時間では18時30分前後に行われるため。

*4 2017年まではトムソン・ロイター引用栄誉賞という名称だった。