SCP-6470


登録日:2023/01/10 (火) 03:42:09
更新日:2025/04/21 Mon 12:36:29
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話すことなんて何もない。気になることも何もない。そんな新しい日常。



SCP-6470はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスThaumiel
メタタイトルは後述。

当記事は非常に短い。特別収容プロトコルと説明がたった2文しかなく、他全部合わせても日本語版でたった800字ほどしかない。
しかしその情報量で「語らずに」語られるその世界観は大いに想像力をかき立てられるものになっている。


特別収容プロトコル


現在、財団はSCP-6470を迅速に生産し、一般公衆に配給するために、主要な政府機関及び要注意団体と協力しています。
全人類へのSCP-6470の投与が急がれています。

なにやらのっぴきならない事態が発生しているらしく、財団は奔走しているようだ。
投与、というとSCP-6470は薬か何かだろうかと予想できる。投与にあたって記憶処理など一切しないところを見るに察することはできるが、この記事においてはヴェールが破れている。財団や要注意団体はもはやその存在を隠していない。それほど深刻なことが起きているようだ。

説明


SCP-6470は、2030/06/22に財団が開発に成功した異常な薬液であり、一般での名称は"パガニーニ経口薬"です。
人間がSCP-6470を消費すると、急速に発声機能が失われ、声帯は振動しますが、声が出なくなります。

報告書本体、以上。
要約するまでもなく、飲んだら声が出なくなる薬。それがSCP-6470である。しかし通常であればデメリットしかないその液体がThaumielクラスに指定され、財団は全人類に投与させるべく奮闘している。

……「声を出してはならない」ことは確かだろうが、一体、この世界に何があったのだろうか。
それは補遺において語られ……ない。

補遺


"沈黙時代"における一般規定
誤伝達部門

(第12版)

報告書の残りは、財団の誤伝達部門が一般に対して発表した規定文となっている。
誤伝達部門の担当するオブジェクトは、だいたい報告書の様子がおかしい。詳しくはSCP-2434-JPの方に書かれているので参照願いたいが、正確に説明できない異常性を持つオブジェクトについて説明しなければならないので、どうあがいても普通に報告書を書けないのである。
通常フォーマットで平易に報告書が書けてるならまだマシで、極めてわかりづらい表現方法を強いられたり、上記のやかんのように報告書じゃなく取説を書かされたりする。
……そう考えると、ある意味でSCP-6470については、最悪の部類に入るだろう。

注意: 本規定はSCP財団、世界オカルト連合、国際連合、及びその他の様々な組織によって施行されています。あなたとあなたの家族の命を守るために、必ず各条項を遵守してください。

1. どれほど小さな声量であっても、決して喋らないでください。パガニーニ経口薬を入手次第、直ちに服用してください。

ということで、全8項を数える規定文を見ていく。最初はSCP-6470についてである。
表題の「沈黙時代」の通り、この世界は誰一人声を出してはならない状況に陥ってしまったらしい。

2. 落ち着いて、喋らない限り安全であることを常に覚えておいて下さい。もしあなたの周りに極度の苦痛の兆候を示している人物を見つけた場合は、あなたの安全を確保するため、苦しんでいる人物とあなたの間にすばやく15mの距離を確立してください。

おそらく文脈からして、二文目は「喋ってしまった人」についてだろう。距離を取れ、ということは苦しんでいる人はもう助からないので自分の安全を確保せよということらしい。
具体的にどういう形で犠牲になるのかが示されていないが、爆発するとか、一定距離以内だと影響が伝播してしまうとかだろうか。それとも、ただ単に示せないのか。



3. 触れないでください。危険です。

……ん?



4. 反撃しないでください。無意味であり、危険です。

「何に?」そう思うだろう。
だが今や、そう聞かれても絶対に答えることはできない。なぜならば。



5. いかなる手段(筆記、画像、動画など)でもそれについての記録や会話をしないでください。そうしないと、あなたの命は危険に晒されます。




致命的な情報災害実体が、




6. 通常通りの学習、仕事、生活を続けてください。あなたの側に何もいないふりをしても問題ありません。




今もずっと、はっきり分かる形で、「いる」からだ。
誰も彼ものすぐそばに。



SCP-6470

遍在(Omnipresent)



当然ながら、この異常事態の本体はSCP-6470ではなく、この情報災害実体である。
さすがの誤伝達部門も、一切の記録を許さない「それ」の報告書は作れないだろう。
一切直接伝達・記録できないというと未定義が連想できるが、あれは反ミームにより伝達・記録の試み自体ができないのであって、こちらはできるけど殺されるという点で異なる。
その方面だと似た異常性があったSCP-790-JPには記録者が死ぬと同時に記録の方も修復不可能に破壊されるという性質があったが、「それ」には特にそういう記述はない。しかし、あちらは記録が作成されてから異常性の発動までにタイムラグがあるのに対し、こちらは記録した瞬間に発動するのだろう。なんせ、いつもそこにいるのだから。
だから、結局記録を作成することができない。できたとて保存や投稿する間もなく狩られる。

おそらく、「それ」はある日突然世界中に蔓延ったのだろう。どこから来た何なのかは報告書を読む我々には全く分からない。そもそも物理的実体なのかどうか、他人についている「それ」は見えるのかなど、実際に見えているこの世界の人なら多少の情報はあるだろうが、分かったとしてもそれを伝えることと記録することは絶対に許してくれない。
その瞬間、おのずとヴェールは消し飛んだ。

あまりに広範囲に、あまりに短時間に、あまりに脅威的な異常存在が満ちてしまった。声を出してはいけないとわかるまで、どれだけの人が犠牲になっただろう。例えばそれが理解できない幼児以下の子供や目の見えない人はもうほとんど残っていないのではなかろうか。そしてどうにか対処しようとする財団やその職員にとっても状況は同じだったはず。
こんなもの、確保も収容も保護もできない。少しでも人類を守るために研究は進めているが、多くの職員が犠牲になったであろう財団にとってはその進捗もおぼつかないだろう。

7. 人の声を録音したものも危険であるかどうかは現在研究中です。追って通知があるまで、音楽プレーヤーなど、人の声を再生する可能性のある機器は使用しないでください。
8. この規定は研究の進歩に伴い、SCP財団により更新されます。注目を続けてください。

SCP財団
2030/06/26

なんだかんだSCP-6470の初作成成功から4日で「入手次第、直ちに服用してください」と一般に呼びかけることができるくらいには頑張っているらしい。



記事自体はこれで以上となるが、この世界の人類が余儀なくされた変化はいくら考えても尽きない。
いくらSCP-6470を飲んで、「それ」に触れる事さえせずにいれば今まで通り安全だと言われても、その脅威が去らない限りは人類は自ら声を失い、常に喉仏にナイフを突きつけられたような状態でいることを強いられたのだ。

自分のそばのコレは一体何なのか。分からない上に反応してはならないなんて耐えられるのか。
もう何の歌も歌えないし聞けないのか。人と会って話すことが敵わないのか。
こんな状態が、いつまで続くのか。



どれだけ恐ろしくて、悲しくて、肺と喉を動かしても、その口からはもう何も音が出てこない。



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最終更新:2025年04月21日 12:36

*1 SCP-CN-2469からオブジェクト名だけ変えたのではなく、きちんとSCP-6470の中国語訳として投稿されている。言い回しにやや差異がある