SCP-2966

登録日:2023/01/28 Sat 03:22:00
更新日:2023/03/30 Thu 19:42:01NEW!
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今日、我々はトイレットペーパーのテクノロジーにおけるブレイクスルーを起こした。
これでもう、誰一人として汚れたケツの燃えるような痛みを感じずに済むのだ!
しかも、コイツを応用してティッシュ、もっと言えば紙皿なんかの他の紙製品を作る方法が分かれば、きっと大儲けできる!

─ ███████ ██████████博士



SCP-2966はシェアード・ワールド「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つである。
項目名は『InfiniTP』



概要

こいつが何かというと、外見上はなんの変哲もない1ロールのトイレットペーパーである。
重さが数kg単位なことや、千切った紙が「散在した糞便物質を拭き取る上で非常に効果的」であることを除けば、性質的にも普通のものと変わらない。
要はめっちゃ快適にケツを拭けるトイレットペーパーが巻かれた重いロールというわけだ。

ちなみにこいつのケツ拭き紙としての快適さは相当なもので、とあるDクラスからは「非常に心地よく、効果的で強靭」などと評価されている。
挙句の果てに一部の職員からも「こいつから千切った紙をロールし直して財団施設で使いたい!」という要求まで出たほど。なおこの要求は却下された。



こいつの異常性は極めて単純で「どれだけ使っても紙がなくならない」というもの。
収容されてから既に二桁km以上も紙が取り出されてきたが、ロールが小さくなる様子は全くない。
また、重さについても一度だけ起きた「ある出来事」の際を除いてほとんど変化していないようだ。

しかし研究の結果、いわゆる「無から紙を発生させる」といった性質はないことがわかっている。
かといって異次元や異空間から紙を取り寄せているというわけでもないらしい。
後者に関しては調べ方が気になるところである

ではどういう理屈かというと、こいつはなんとエネルギーを物質に変換する能力を有している。
要するに、取り出された紙の量に応じて周囲のエネルギーを吸収することで紙を生成、補充しているわけだ。
これを実現している原理については案の定不明であるものの、何気に各種保存則に真面目に従っている割と珍しいオブジェクトの一つと言える。
本来珍しくあられては困るのだが



このトイレットペーパーを開発したのはカナダのとある植物学者だったようで、これ自体も彼が所属していたと思しき研究施設から発見された。
彼のオフィスから一緒に回収された日誌曰く、こいつは財団も知らない物質やら電磁波やらが関わる謎の原理に基づいて機能しているらしい。
なんでも「クオタニウム」や「ヨタ線」などといった要素が用いられてるんだそうな。

なお、報告書では何らかの要注意団体との関連性については特に言及されていない。
もっともこの研究施設自体が異常な技術を取り扱っているような場所であった可能性は大いに考えられるが。

彼がこれを作ろうと思った明確な理由については、後述するが訳あってあまりわかってはいない。
だが異常にケツを拭きやすいことや、項目冒頭のような文を日誌に書いていることから何となく察しはつく。
どうやらいわゆる環境問題への対策などといったアレコレではなく、単に金儲けケツ拭き紙への不満が主な動機だったようだ。

当然植物学者にとって新しいトイレットペーパーの開発など明らかに専門外である。
案の定というか周囲からもバカ呼ばわりされたらしいが、なんと彼は先述の「クオタニウム」に関する論文を独力で読解。
相当な費用はかかったものの、読み解いた理論を応用することで見事こいつの開発に成功した。
ケツを拭くことへの執念もここまで来ればむしろ賞賛に値すると言えるだろう。

そしてこの技術は項目冒頭の文の通り、他の紙製品の生成にも応用できる可能性があるらしい。
金儲け云々の話は一旦置いておくとしても、実際のところ世界中で使われる紙やらパルプやらの生産量は年間数億トンにも上る。
そしてそれに伴う森林伐採などの問題が徐々に深刻化しているのも事実である。
このトイレットペーパーはこういった問題の解決手段を確立する上で大きな助けとなるかもしれないのだ。

私腹やらケツやらへの執着はともかく、彼にはこれからも頑張ってほしいものである。


























E = mc2

かのアインシュタインが導き出した、質量とエネルギーの等価性を表す式である。
Eがエネルギー [J] 、mが質量 [kg] 、cが光速度 [m/s] なわけだが、光速度とはすなわち 299792458 m/s
時速にしておよそ30万キロという凄まじく大きい値であり、しかもこの式ではこれが2回もかけられている。
これを見れば、わずかな質量の物質であろうと生成には莫大なエネルギーが必要になることがわかるだろう。

そして、SCP-2966があくまでも保存則に従っているということは、当然異常性に関してもこの式が前提となっているということ。
これこそが、こいつのオブジェクトとしての性質を語る上で最も重要なポイントと言える。危険性や厄介さを示すという意味で。





<「このトイレットペーパーを作ったのは誰だあっ!!」


まず、こいつは周囲のエネルギーを吸収することで取り除かれた紙を補充するわけだが、このプロセスの進行速度がとにかく滅茶苦茶に速い。
具体的にはこいつから少しでも紙を千切った瞬間、千切った紙の質量に応じたエネルギーが周囲からほぼ一瞬で失われるレベルである。
この際に失われるのは主に熱エネルギーだが、実験により音波など周囲の熱以外の運動も減衰することが判明している。
つまり単に優先度が異なるだけで、吸収できるエネルギーの種類に制限はない可能性が高い。
更には距離なども関係ないらしく、紙を生成するだけのエネルギーが周囲に不足している場合はそれに応じて範囲もひたすらに拡大していく。

これが何を意味するかというと、もしも適切なエネルギー源がない状態でこいつから紙を1シート*1でも千切り取ろうもんならさあ大変。
その生成に必要となるだけのエネルギー、つまり単純計算でキロトン単位のTNT爆薬に相当するほどのエネルギーが瞬時に吸収される。
そしてその分の熱エネルギー消失によって周辺一帯の温度が一気に絶対零度付近まで低下することになるわけだ。
まるでケツ拭き紙が氷魔法を発動しているとでも言わんばかりの凄まじい光景である。



そしてもう察しただろうが、人間がこれを使って生成に巻き込まれようものなら無事では済まない。
体温はもちろんのこと、場合によっては生体電気や血液の運動といったその他のエネルギーも根こそぎぶっこ抜かれて即死する。

想像してみてほしい、今にも漏れそうな状況で必死に駆け込んだトイレの中にこいつが設置されていた場合に起こりうる惨劇を。
間に合ってスッキリし、さあケツを拭こうとロールに手を伸ばし、やけに手触りがよく快適そうな紙を上機嫌にガラガラと引き出したときにはもう遅い。
直後にトイレの周りには突然の氷河期が到来。
その中心となる個室内には紙を千切ったときの姿勢で固まっているケツ丸出しの凍死体が残されることになるだろう。惨すぎる……

しかも開発者の日誌曰く、このぶっ飛んだ性質は意図的に搭載されたもの。
というかこれを実現するために使用したのがさっき言った「クオタニウム」という物質である。論文読み解けなきゃよかったのに
なんでも「真に無限と言えるほどのロール」を目指そうとした結果こうなったらしい。それでまともに使えなくなってんだから世話ないわ。
あともう先に言ってしまうが、この性質は最終的に彼自身の死因にもなっている。



既にこの時点でかなり理不尽な異常性ではあるものの、ここまでならまだ「使わなければいい」というだけの話で済む。
だがしかし案の定こいつはこれで終わらない。
考えてもみてほしい。こいつはエネルギーから物質を生成する、つまり事実上の対生成を実現しているわけだ。
ならばそのができない道理はないのである。

こいつが使用されない、つまり紙が千切られないまま1分以上経過すると、なんと今度は逆に自身を構成する紙をエネルギーに再変換して放出し始める。
おまけにこのエネルギー放出の速度は1分刻みで指数関数的に増大する。なんで?

この放出が発生する際もさっきの紙を補充する異常性は保たれており、再変換を紙の消費と見なしてエネルギーの吸収を行う。
これによりエネルギーの変換と再変換が打ち消し合った状態となるため、しばらくの間は外見上でも特に変化は見られない。
しかし実際は再変換の方の速度だけが指数的に上がっていくため、8時間ほどで均衡が崩れ始め徐々にα線が観測されるようになる。

そして最後に使用されてから二桁時間が経過した時点でこいつは臨界期に到達する。
こうなるとエネルギー放出速度が指数的な発散によって無限大になるため、先程までの均衡は完全に崩壊してしまう。

その結果、こいつは自身の全質量をエネルギーに変換し放出することで凄まじい大爆発を引き起こす。

……これトイレットペーパーの話ですよね?

元々の重さや臨界時における残存質量がわからないため、正確な爆発の規模については断定できない。
だがkg単位の質量が全てエネルギーに変換されることを踏まえると、恐らく低く見積もってもビキニ水爆の約1.3倍程度の威力は間違いなくある。
最悪の場合ではみんな大好き史上最強の核兵器であるツァーリ・ボンバおよそ4発分というトチ狂った破壊規模になる可能性まで考えられるのだ。

「管理された核爆弾はSafe」の例え話といい、オブジェクトを語る上で核はよく引き合いに出される存在である。
そう思うとこいつは実にわかりやすい。まさしく 「勝手に爆発する核爆弾」 という表現が最も似合う代物だと言えよう。



ここまでの異常性から考えられる適切な対処法とは、詰まる所「8時間ごとに紙を少しだけ千切って経過時間をリセットする」という方法である。
……のだが、それに関してもこいつは一筋縄ではいかない。
どうやらこいつには「使用した」と見なす上での判定基準が存在するらしく、最低でも一度に10シート*2以上紙が取り除かれることと定義されている。
つまりエネルギー吸収のリスクを恐れ、ちまちま紙を千切り取ったとしても爆発までのタイムリミットは更新されないというわけだ。嫌がらせか。

そんなわけで、財団はこいつを収容したコンテナの横に原子炉を隣接させてエネルギー源を確保。
そして8時間間隔で慎重に10シートを千切り取ることで臨界を防ぐという収容プロトコルを定めている。
更に収容施設はこいつ専用の基地とし、万が一に備えて監視、維持管理、警備の人員は最小限に抑えている。
現在は基地が人里離れた場所にあることから、他の大規模施設への避難や連絡のためのジェット機用滑走路の建設を検討しているらしい。
こんな危険物をロールし直して使おうとか言ってた職員ェ……



発見経緯

さて、こいつの開発者の人柄や出身地域については最初の方でも少し触れたが、具体的にどういう経緯で収容に至ったかはまだ説明していなかった。
とはいえ、さっき話したこいつの異常性から考えれば何が起こったかは概ね察しがつくだろう。
開発者が死んだ原因がこいつであることも既に言ってしまったのだから。



ある日、アメリカの国立気象局にいたエージェントが、カナダのとある地域の気温が異常に低下していることを察知した。
そのため財団はすぐに機動部隊を該当地域へと派遣。
そして着いてみるとあら不思議、その地域はなんと -108℃ という南極の最低気温*3すら下回るほどの低温と化していたのだ。
しかもその影響で地域内にあった森林が 1km2 にわたって完全に凍り付いていた。

そこで調査を行った結果、恐らく凍結した森の中に建てられていたであろう謎の研究施設を部隊が発見。
しかしいざ突入したところ、施設内には凍死体しか残っていなかった。

加えてこいつの影響による低温と電力喪失のせいか、施設の電子機器もことごとく破損しており調べられそうなデータが全く見つからない。
結局まともに証拠として回収できたのは、さっき説明した開発者のオフィスにあった日誌だけ。
おまけにこの日誌も、低温による影響で霜が降りていたせいで部分的にしか判読できないときている。
こんな有様なので、施設の詳細やこいつの作成方法などに関する情報は現時点でほとんど掴めていない。

そして肝心のこいつはというと、施設の実験室らしき場所において開発者と思われる人物の腕に抱えられた状態で発見された。
部屋には他にも複数の凍死体があり、恐らくこいつのデモンストレーションを行うところだったのではないかと考えられている。
これは想像だが、大方「無限にケツを拭けるトイレットペーパーが遂に完成したぞ!」などと言って他の研究者たちを集めていたのだろう。
そして無限性を証明するために景気よく一気に紙を引き出したりした結果がこの始末☆である。
集まった人々も、まさか自分達がいきなり気化冷凍法を喰らって施設ごと八寒地獄行きになるとは想像もしていなかったと思われる。



それにしても、開発者本人はこの事態を予想できなかったのだろうか?
事前に安全な動作確認をしてなかった点については、彼の慎重という言葉が頭に入ってなさそうなエキセントリックな日誌を見ればわからなくもない。
だがせめてどういう感じに機能するかについては計算やら何やらで予め求めているのが自然なはずである。
というかそもそも、冷静に考えれば紙の補充に対生成なんぞ利用しようものならエネルギー消費量が凄まじいことになるのはすぐ分かる。
それにそんな技術があるならもっと他に金になる使い方もあるだろう。トイレットペーパーの開発に使うにしては贅沢が過ぎる。
それだけ「汚れたケツの燃えるような痛み」とやらへの恨みが凄かったのかもしれないが……

果たして彼は自分が扱っている技術が有している潜在的な危険性を理解していたのだろうか。
気になるところである。



財団の物理学者らによって同一の定数を用いた手計算が行われた結果、██████████博士は計算の初期段階でE=mc2式中の2乗の位置を間違えていたという可能性が浮上しました。この間違いによって実値よりもはるかに低いエネルギー値が算出されたために、██████████博士はエネルギーから物質を安全に生成できるという考えを持つに至ったのだと考えられます。



E = m2c*4



……………



いやまあその、ほら…植物学者だったから……






インシデント2966-35A


そんな経緯もあって、財団はこのトイレットペーパーに見えるような何かを収容した。
だがしばらく経った頃「どうにかしてこいつの質量を減らせないかな?」と思い始めた。
なにせ凍結の方の異常性も確かにやばいが、真に厄介なリスク要素となっているのは破壊規模が凄まじい上に視覚的にも目立ちやすい臨界期の方である。
そしてその臨界期を脅威たらしめている要因は、こいつのトイレットペーパーとして見た場合の異常な質量の大きさにある。
それを減らせば臨界時のリスクや危険性も大幅に下げられる、と考えるのは自然なことだろう。

そこで財団は調査のために早速実験を行った。
まず極めて高出力な動力源をこいつの近くに設置し、常に過剰なほどのエネルギーが供給されるようにする。
そしてその状態で、こいつの紙をものすごい勢いで取り除いてみた
要はこいつが補充するよりも早く紙を消費することで質量が減らせるかどうか確かめようとしたわけである。



で、結果どうなったかというと、こいつは通常の経過時間を無視していきなり臨界期に突入した。

しかし幸いにもこのときの臨界は不完全なものだったらしい。
収容基地は爆散して中にいた職員も恐らく全滅したものの、先述の通り基地自体が人里から離れていたこともあってそれ以上の問題は生じなかった。
そしてこいつ自身は爆心地から無傷で発見されたが、調べてみたところ質量が三桁gほど減少していることが確認された。



この結果からわかるのは、少しずつではあるが質量を減らすことができるということである。
適切なエネルギー源の下で紙を高速で引き出し続ければ、補充速度を超えることで元の質量を臨界しても安全な域にまで落とすことも不可能ではない。
もっとも、この作業で質量を落とそうとする度に周辺一帯が破壊されるほどの大爆発が起きてしまうのも事実。
どっちにしろ危険性を抑えるというのはあまり現実的ではないかもしれない……

ただしその一方で、この事案はこいつの臨界が一度きりのものではないことも意味している。
つまり爆発しても少し経てば自身を再構築し、同じプロセスを繰り返す可能性が高いということでもあるのだ。

財団が機能不全に陥るなどの理由でこいつが現在の収容下から外れてしまったら、一体どうなってしまうのだろうか。
もしかしたら、地球上には大爆発氷河期が交互に発生する恐ろしい危険地帯が残されることになるのかもしれない……




追記・修正はケツを紙で拭いてからお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示


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最終更新:2023年03月30日 19:42

*1 メーカーによって多少の差はあるが、1シートは大体20cm前後の長さとされている。ミシン目が付いている製品だとよりわかりやすい。

*2 つまり先程の定義に合わせるなら約2m。

*3 -89.2℃。ちなみに北極では-71℃、日本では北海道の旭川で-41℃が最低記録。

*4 光速定数c=3億がなくなるだけでなく、質量mの乗数が増えることで計算結果はめちゃくちゃ減る(mはkgで計算されるため、トイレットペーパーみたいな軽いものならこの部分が1以下になる)。ただし質量が2乗されているということは、引き出す紙の量によって必要エネルギーが凄く増えるということでもあり、仮に1ロール一気に使おうもんならトイレぐらい狭い空間はマイナス数十℃まで下がる可能性がある。どのみち危ない。