代理によるミュンヒハウゼン症候群(MSBP)

登録日:2010/12/23(木) 07:18:50
更新日:2024/10/14 Mon 20:31:59
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※ご自身の健康問題については、専門の医療機関に相談してください

この項目では代理によるミュンヒハウゼン症候群(以下MSBP)について解説する。

その前に、


ミュンヒハウゼン症候群 (MS)


ミュンヒハウゼン症候群とは簡単に言うと怪我や病気を故意に捏造し、医師の診察や治療を要求するという病

1951年、医学雑誌『ランセット』誌上にてアッシャーが報告した。

この病気の特徴は大袈裟に病状を伝えるのではなく、明確に医師を騙そうという意志の下で行動している点である。
酷い場合には自分の体を傷つけ症状を作りだす、というケースも……。

嘘をついて病気になる、演じる、という点では詐病と似ているが、詐病の場合は病気になることで、本来の目的を達成する*1が、
MSの場合は病気になること自体が目的であるという点で、区別される。

医師がどれだけ誠意ある説明をしても聞き入れず、
しまいには騙す医者を探して病院を回る状態に陥った事例もある(ドクターショッピング)。

不要な検査や治療・投薬に加えて、時には自分の体をわざと傷つけることもあるため予後は悪い。
精神的分析はあまり進んではいないが、何らかの共通した精神的要因はあると考えられている。
また、MSの患者がMSBPである事例も報告されている。






代理によるミュンヒハウゼン症候群 (MSBP)


MSBPとは上のMSの特徴である自傷を自分の子供や扶養者に行う……という加害者の精神病理のこと。

端的に書くとわざと子供を傷つけて、「病気になった子供の親」を演ずるというもの

一種の虐待とも言えるが、他の虐待と著しく異なるのが「医者に対し協力的」であるという点である。

通常、虐待を行う親は医師によって虐待が見破られてしまうことを恐れるため医師を嫌う。
また、一般的な親でも治療が芳しくない場合は、医者に感情をぶつけることはよくある話であろう。

しかし、MSBPの場合親は医者に対して非常に好意的で、まるで自分が医療スタッフの一員であるかのように接する*2という。
この点が非常に特殊で、この病を最初に報告したロイ=メドウ医師もこれが発見するきっかけとなった、と論文で述べている。

また、虐待の由来が自己満足であり、愛情・過依存や憎悪に由来するもの(一般的な虐待や過剰な保護妄想など)、ネグレクトなどとは一線を画している。
上記の行動もこの辺が由来していると考えられている。

そして何より、患者を治そうという医師の熱意が結果として子供をより傷つけてしまうという点*3はこの病気固有の特徴だろう。


具体的な虐待行為としては、

  • ハンマーで足をメッタ打ちにする
  • タバコ、磁石などを飲ませる
  • 尿検査の検体を汚染する
  • 点滴に異物(尿など)を混入させる
  • 大量の高濃度食塩水を胃袋に注入する

などなど。ありとあらゆる手で病気を作り出す様は実におぞましい。

通常の虐待同様極めて発見及び検挙は難しい。
加えてMSBPの親は非常に巧みに周囲の人間を騙し、
「治療に積極的な親」として尊敬の目を集めるので虐待に気付かれることはほとんどないという。

病気を作り出しておきながら子供に対しても献身的な看護を行うので、周りはなおのこと気づきにくい。
バレそうになると病院変えて、また一からやり直すため発見することも難しい。
ひどい場合になると子供も自ら加担するようになってしまう場合*4も。

さらにこの病を疑うということは「親を疑う」ということであり、医師として判断が難しい側面は想像に難くない。
上にも述べられているが、親を疑う時点で、医師側も虐待に加担してしまっている場合もあり、
自分の首を絞めることにもなりかねないので目をつぶられてしまう可能性もある。

ちなみに最初に発見されたケースでは子供を囮にするという、極めてハイリスクな手段により現行犯逮捕に漕ぎ着けた。



1960年代末に報告されたこの病は医学界に一大センセーショナルを巻き起こし、発見者のメドウ医師は有名人となった。
一方でその特殊な性質と「MSBP」という単語だけが一人歩きしてしまい、大きな誤解を与えた例もある。
親が子供の症状を多少大袈裟に言った→MSBPだ!という決めつけなどが横行。
子どもが先天性の病気で死亡したのに、病院が「毒を盛った」と誤診した結果、
毒を盛ることができたのは母親しかいないということで母親に終身刑が言い渡されるという、
医療ミスの結果を親に押し付けたと言われても仕方のない冤罪さえあった(後に先天性の病気が発覚し、母親は無罪となっている)。


「MSBPは結果として医者の熱意が子供を傷つけるがそうした熱意は大変重要で、あらゆる親をMSBPと決めるのは医師として言語道断だ」
とメドウ医師は論文を締めている。





  • 余談

ミュンヒハウゼンとは、ドイツに実在した人物であり狩猟家・軍人だったが、大変なほら吹きとして有名だった。

この人物をモチーフに書かれた小説『ミュンヒハウゼン(ほら)男爵の不思議な冒険』によって知名度が上がって、ミュンヒハウゼンは嘘付きの代名詞となった。
アンパンマンにも彼をモチーフとしたキャラクターがいる(ホラ貝男爵)。

医者に嘘をつく病状に対しては、大変噛み合ったネーミングだと言えるだろう。


また、彼に似た境遇の日本人に八百長(八百屋の長兵衛)さんがいる。

八百屋の為の接待囲碁でいつも負けてあげていた→本因坊(囲碁の達人)と互角に戦いみんなビックリ→アイツはウソつき

というだけで悪いイメージで代名詞化してちょっぴりかわいそうである。



  • 創作におけるMSBP

一般的な知名度は高くない病であるため、サブカルチャーでの露出は少ない……ように思う。
当てはまる事例を知っている方は、順次追記されたし。

メジャーなのは『着信アリ』の登場人物か。

Memories Off 〜それから〜』の鷺沢ゆかりも近い……のかもしれない。傷つく対象がなので、猫スキーにはお勧めしない。




  • MSBPが登場する作品

『鬼子母神』
安東能明著のミステリー小説。土曜ワイド劇場で、黒木瞳主演でドラマ化もされた。
ミステリーなので詳しくは書けないが、解説も詳しいので興味があればぜひ読んで頂きたい。



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最終更新:2024年10月14日 20:31

*1 お腹が痛いといって学校を休む、わざと自分で骨折して兵役を逃れる、など

*2 何度か同じ手口を繰り返していると治療の流れや方針を理解しているため、親の側から検査や手技を次々と提案することすらある。

*3 不必要な検査や入院による拘束、場合によっては必要のない手術までもが行われてしまう可能性がある。

*4 親が自分のためにそういう行動を取っていると学習してしまう。