KAZUYAのメス(K2)

登録日:2024/01/21 Sun 00:08:10
更新日:2025/05/07 Wed 00:06:40
所要時間:約 22 分で読めます








だが……今は違う!!





KAZUYAのメスとは、医療漫画「K2」に登場する特別なメスの事である。
決して動物の雌のことではない。


概要


ドクターKこと西城KAZUYAが生前持っていた鋼鉄製のメス。
全部で10本存在し、それぞれのメスに1から10までのナンバリングと「K」の文字が刻印されているのが特徴。
これらは包丁職人の山崎(旧姓吹石)氏が手掛けた特注のメスで、かつてKAZUYAに命を救われ職人としての在り方も教わった恩から贈ったという逸話がある。

本作におけるメスは、KAZUYAの元患者の中でも当時の医療技術だと完治不可能な病を患っていたり、患者の事情で手術が出来なかったり、治療を行うKAZUYA自身がガンに侵されて手術できなかったりといった様々な事情から、まだ治療が完了してない人たちに対して診察券代わりに渡されている。
これにはKAZUYAの「将来新たな治療法が確立される」願いや「後世の医者に治療を託す」遺志が込められており、その意味を知る者にとってメスの所有者は治療すべき対象となる。
当代のドクターKである神代一人もメスの意味を知り、所有者と出会った際にはドクターKの患者として接し、KAZUYAの真意を紐解きながら治療にあたっている。

なお、下記にあるようにKAZUYAの父西城一堡も同様の行動を行っていることから、(木村さんのような例外を除けば)少なくとも父の代から行われているやり方なのかもしれない。
KAZUYAの腕前なら大体の症例を治療できるので10本で済んでるのかもしれないが、この十本以外のメスがあった可能性もなくはないのかもしれない


というような所有者を治療してメスも回収する話が序盤では度々挟まっていたのだが、8本目が回収された160話を最後に作中時間&リアルタイムで13年もの間見つかっていない。
残る二人の治療が行われていない期間は最短でも四半世紀に及び、読者の間では「これだけ長い間放っておかれると治療を受けられず既に亡くなっているのではないか」と不安に思う声も上がっている。
一応、作中では所有者の体質や家庭の事情といった理由で20年越しに治療が行われたケースも確認されてはいるが……。
そのため「Kの一族にもかかわらずすでに治療されているのでは?」などの意見もあった。

また2023年5月に行われたK2のトークショー&サイン会では、作者の真船先生が残るメスに関して編集と打ち合わせしたという発言を残しており、どうやら忘れられたわけではない模様。
残る二本と患者の今後に注目である。


メスを持つ患者たち


No.1 綾部理沙氏

登場話数:159~160話「過ち」
病名:心房中隔欠損症
メスを授受した年:1990年→2011年

8番目に登場したメスの患者。
この患者を最後にメスの登場が長らく止まっている。

母親を早くに亡くして父親と二人暮らしをしているOLで、病もあって自分では結婚生活に耐えられないと考えており、勤めている会社の若社長からプロポーズされた際には理由を伏せて断ったほど。
しかしプロポーズを断った翌日、心房中隔欠損症が原因で肺炎を起こして帝都大学の病院に入院し、大垣教授を伝って一人がメスの存在を知る事となった。

理沙さんの父親によると、心房中隔欠損症は生後間もなく発見されたものの、治すためには胸を大きく切り開かなければならず、それは即ち醜い傷痕が胸に残る事を意味していた。
娘にそのような負担を背負わせたくなかった父親は傷を残さずに治療できる方法を必死に探し、ドクターKと出会う事に成功する。
KAZUYAは理沙さんを手術するにあたって体重が15kg以上になる3年を待つように言いながらメスを手渡し、
当時バブルに乗っかって会社の経営が順調だった父親も大金を支払うと約束して待つ事にした。
それが21年前の1990年における出来事であり、約束の年に何故かオペが行われなかった事を一人も大垣も疑問に思うが…

+ 父親として
理沙さんの肺炎もおさまった頃、一人は心房中隔栓による経皮的カテーテル閉鎖術を行った。
これは左右の心房を隔てる壁に空く穴に対し、カテーテルでアンプラッツァー閉鎖栓を両側の心房に展開して塞ぐというもので、患者の胸に傷を残さず負担も少ない術式だった。

手術は無事に成功して心房中隔欠損症も治り、若社長は改めてプロポーズするが…それでも理沙さんは結婚を頑なに断った。
この様子を見た一人と大垣は何があったか察し、理沙さんに場所を尋ねて父親が行きつけにしているという居酒屋へ向かった。
二人は理沙さんがプロポーズを断った事を父親に伝えた上で、18年前にKAZUYAならできたはず*1のカテーテル閉鎖術が行われなかった理由を父親側が約束を破ったためだと看破する。

実は、KAZUYAと約束した3年の間にバブルが崩壊して会社も財産も吹っ飛んだ父親は手術費の大金を用意できなくなり、娘の病が命に別条はないものと分かると見て見ぬふりをするようになっていた。
金策のために再起を図って設立した会社は尽く倒産し、やがて妻が心労で亡くなってしまったが、それでも理沙さんは病を抱えながら献身的に自分と家を支え続けてくれた。
今まで苦労を掛けてきた分、娘には幸せになって欲しいと思っていただけにプロポーズを拒む理由が父親には理解できなかったが、一人はいつまでもフラフラして放っておけない父親自身が原因と指摘し、娘のためにできる事を促して立ち去った。


「金などなくても…」

「父親としてできることを考えろ」


二人の言葉にハッとさせられた父親は帝都大学の病院へ立ち寄り、入院している理沙さんに涙ながらに謝っていた。

1ヵ月後、ようやく働くようになった理沙さんの父親は早朝のバーガーショップで清掃作業に勤しんでいた。
父が地に足を固めた事で理沙さんの心配もなくなり、若社長の俊明くんと正式に婚約したようである。


No.2 高岩成司氏

登場話数:15~17話「2本目のメス」、337話「におい立つもの」
病名:脳動脈瘤
メスを授受した年:1999年→2004年

2番目に登場したメスの患者。
自身も現役バリバリの医者であり、学生時代に交通事故で頭部を強打した際にKAZUYAの手で救われた経験から憧れを覚え、医者という職業を志した過去がある。
医師としての使命感に燃えており、特にここ最近は夜通しで連続して手術を行ったりと寝る間も惜しんで日々の職務に励んでいる。

KAZUYAのメスをお守りのように扱っていて、手術を行う際に必ず使用する程。
これは事故に遭った時に渡された…というわけではなく、医者になったばかりの頃に封筒で送られてきたものらしい。
封筒には高岩先生が事故に遭った当時のカルテ及び血管造影写真も同封してあり、将来的に動脈瘤へと発展し得る脳の部位が指摘してあった。
しかし早急な治療が必要な大きさではなかったため、定期的な検査を受けて様子見しながら医者を続けていたのだが…。

そんなある日、勤め先の門前総合病院があるN県を強い地震が襲い、多数の負傷者が病院に運び込まれてくる。
高岩先生も現場に立つ者として懸命に治療に臨み、何人もの患者に手当てを施していった。
しかし、患者の一人である井川さんは腕の骨折を手術したにもかかわらず、高岩先生の初歩的なミスが原因でドロップハンドを起こしてしまう。
この医療ミスに対して本人も周囲の同僚も俄かには信じがたく思う中、現場にやって来ていた一人が事の真相を告げる。

+ メスの意味
「もういい加減に認めたらどうだ」

「今のお前は……脳動脈瘤が破裂寸前の状態だ!」


KAZUYAが指摘した高岩先生の脳動脈瘤は破裂寸前の状態にまで進行しており、頭痛や目まいといった形で既に症状として出始めていた。
この事は本人も自覚していて、一年前の定期検査で動脈瘤が急激に大きくなり始めている事を知ったのだが、同時に手術の後遺症でメスが握れなくなるかもしれない不安も過ぎっていた。
悩み抜いた末に、動脈瘤が爆発する最後の瞬間まで医者として一人でも多く救う覚悟を決め、無茶とも思えるような働きをしていたのである。
死と隣り合わせの焦燥に駆られる日々の中で、KAZUYAから授かったメスはいつしか高岩先生の心の支えになっていた。

しかしKAZUYAのメスとは所有者に治療が必要なサインであって、その者に無理を強いるものではない。
そして実際に医療ミスを犯すほど症状が表れている事実から、高岩先生もようやく自分が治療の必要な患者である事を認め、一人に被災者たちの治療を託して手術に臨んだ。
術中に余震が発生するアクシデントも見舞われながらも、一人は脳血管内治療法の手術を見事成し遂げ、動脈瘤も無事破裂の危機を免れた。

術後、意識が回復した高岩先生は医療ミスについて井川さんに謝罪するが……なんと麻痺したはずの腕が普通に動いていた。
実は骨折の手術後、一人から高岩先生の病状を聞かされた上で手術を受けさせるために一芝居打つ事を頼まれた井川さんは快諾し、腕に細工を施してもらった上で手術が失敗だったと思わせるべく嘘を演じていたのだ。
真相を打ち明けられ、高岩先生は戸惑いながらも安堵の笑みを浮かべていた。

一ヶ月後、現場に復帰した高岩先生は急患のオペをこなしていたが、その手にKAZUYAのメスはなかった。
今までメスに頼っていた事を自覚し、医師としての再スタートを切るために一人へ返したからである。
これからは自分自身の力で、少しでもKAZUYAに近付くために。



それから十数年後、門前総合病院にガス壊疽を起こして居合わせた医者に足を切断されたという患者が運び込まれてきた。
そのマントを羽織った若く屈強な医者による処置は、医療器具が満足に揃っていないバスの車内で行われたにもかかわらず極めて的確なものであり、高岩先生はKAZUYAと一人に次ぐ若きドクターKの到来…新たな伝説の始まりを予感した。

患者の名前の元ネタは平成仮面ライダーのスーツアクターとして知られる俳優の高岩成二氏と思われる。
無謀な行動に走ったとはいえ病と治療失敗のリスクを鑑みての選択、しかも他人のための行動であり、元ネタと思われる高岩氏が演じてきたヒーローさながらのカッコいい人物として描かれている。


No.3 小久保大助氏

登場話数:69~70話「2本のメス」
病名:狭心症
メスを授受した年:1987年→2007年

5番目に登場したメスの患者。
KAZUYAのメスのみならず、父にして先々代Kである西城一堡のメスも所持しており、三代にわたってドクターKの治療を受ける事になった異色の患者である。
また、確認されている患者の中ではメスを渡された年が最も古く、恐らくは小久保さんからメスを診察券として渡すKAZUYAの習慣が始まった可能性が高い。

小久保さんは40年以上も前に狭心症を発症し、その時には一堡が当時一般的でなかったバイパス手術で一命を取り留めてくれた。
ただ小久保さんの若さで狭心症を患った原因が一堡には分からず、場合によっては再発する可能性も伝えた上で自身のメスを診察券代わりに手渡し、再発時には自分の意志を継ぐ者が必ず治療する事を約束した。

それから20年が経ち、小久保さんの心臓は以前と異なる血管で狭窄が起きて狭心症を再発してしまう。
小久保さんは当時のドクターKであるKAZUYAを何とか探し当てて一堡のメスを提示し、KAZUYAもそれに応えてこれまた当時一般的でなかったカテーテルによる血管バルーン拡張術を行い、再び治す事ができた。
術後、父と同じようにKAZUYAも自身のメスを小久保さんに託し、再発した際には一族の者に頼るよう伝えた。

そして現在、三度目の狭心症を発症した小久保さんはドクターKがいると噂される村を探し当て、当代のKである神代一人の元に来ていた。
今度は二度目と同じ血管で狭窄が起きていたが、動脈硬化が原因でカテーテルを挿入するのは厳しく、かと言って開胸してのバイパス手術も高齢のためにリスクが大きすぎる…という八方塞がりな状況に陥ってしまう。
富永も村井も頭を悩ませる中、一人は「一堡やKAZUYAのように最新の方法で治せないか」と訴える一也の声を受け、この時代に生まれようとしている新たな治療法と、それを通して医者が本当に継ぐべきこととは何かを富永と一也に教えようとする。

+ 医者とは何か?
一人が狭心症の治療に用意したのは、なんと結石破壊用の衝撃波発生装置
これでごく低レベルの衝撃波を小久保さんの心臓100ヵ所ごとに200発も連続照射し、同じ事を日に三回、3ヵ月かけて繰り返すという治療だった。
心臓を治すはずが関係ない装置で謎の行為を繰り返す様子に、富永も一也も困惑するしかなかったが…変化は確かに表れた。

予定通りの3ヵ月後、精密検査で示された小久保さんの心臓にはなんと狭窄した血管の周りに何本もの新しい血管ができていた

一人が語るところによると、近年の研究で明らかになった「血管細胞に衝撃波をあてると発生する一酸化窒素ができ、それこそが血管を拡張させる」という性質を利用し、狭窄した血管の周囲に衝撃波で一酸化窒素を生じさせ、新たな血管を作り出していた。
これによって狭窄している血管その物は治せなくとも血流が確保され、手術もなしにバイパスができたも同然の効果を得られたのである。
今後はこうした再生医療が医学のカギを握るとして話を結び、一人がこの治療を通して伝えたかった事を富永は理解する。

医者とは病気や怪我を治すだけでなく、人間が本来持っている治癒能力を喚起させて後押ししてやる存在であり、医者が本当に継ぐべきものとは患者の命である事を。

こうして狭心症が治った小久保さんは退院できるようになり、再び自分を救ってくれたドクターKにお礼を言った上で、またいつか再発した時の診察券として一人のメスを貰えないか頼んだ。
一人も未来のドクターK…一也の肩に手を乗せながら快く引き受けた。


「この先たとえどんな難しい症例であろうと ドクターKの遺志を継ぐ者が……」

「必ずやあなたの治療をやり遂げるでしょう」


No.4 山脇静男氏

登場話数:112~113話「メスと寿命」
病名:変形性膝関節症
メスを授受した年:1995年→2009年

7番目に登場したメスの患者。
家族で八百屋を営んでおり、右膝に埋め込まれた人工関節にガタが来たため、持っていたドクターKのメスを頼りに一人のもとを訪れた。
山脇さんは17年前に変形性膝関節症で右膝を痛めて貴島という医者に人工関節の手術をしてもらったものの、術前の「手術をすれば今後ヒザ痛に苦しむことはない」という説明に反して今になって痛みがぶり返し、とんでもないヤブ医者だったと述懐している。

話を聞いた一人は、メスを持っているにもかかわらずKAZUYAが治療に携わっていない事を怪訝に思ったが、山脇さんの胸の手術痕を見かけてKAZUYAは膝ではなく胸のオペしていた事を察する。
ただ、メスを入手した経緯は山脇さん本人も正確に覚えておらず、「15年くらい前に一時期動悸と息切れが続いた事があり、それが原因で倒れた事がある」「気が付いたら手術は終わっており、枕元にメスが置いてあった」「それ以来動悸と息切れも起こらなくなった」以上の事が分からなかった。
通常は骨切り術で対処すべき場面に人工関節を選んだ貴島という医者の判断も気になり、一人は実際に会ってみる事にした。

一人の訪問を受けた貴島先生は当時の判断の理由を尋ねられても口を閉ざしていたが、KAZUYAのメスを見て山脇さんが存命である事を知り、全てを語り始める。
山脇さんが抱えていたもう一つの病、そこにKAZUYAが如何にして関わったのかについて…

+ 先生の思いやり
貴島先生も当初は耐用年数の長い骨切り術に臨むつもりだったが、動悸と息切れが気になり術前の念のための検査で山脇さんが拡張型心筋症*2も患っている事を知る。
この病気に対して当時は臓器移植以外には決定的な治療法がなく、診察当時の1992年は臓器移植法が施行前で臓器移植も不可能であり、しかも山脇さんの場合は近い将来重い発作を起こす状態にあり、当時はまだ息切れや動悸で済んでいるが数年以内には死に至る事が確定的だった。
だが、まだ働き盛りで子供を養わなければならない山脇さんの意志に応えるべく、たとえ耐用年数が短くてもより早く日常生活に戻れる人工関節置換手術を敢えて選択した。

膝が治り働けるようになった山脇さんの八百屋は大いに繁盛したものの、手術から3年後*3にとうとう拡張型心筋症の発作が起きてしまう。
病院に運ばれてきた時には手の施しようもなく、貴島先生は藁にも縋る思いで先輩の柳川教授に相談を持ち掛けると、一人の男を連れてやって来てくれる事になった。
他でもないその男こそ、柳川教授の教え子にしてドクターKの異名を持つ西城KAZUYAであった。

KAZUYAの技量は凄まじく、公式記録より2年も早い日本初のバチスタ手術でもって山脇さんの拡張型心筋症は完治した。
術後、貴島先生は良かれと思って埋め込んだ人工関節の耐用年数の問題から再手術が必要となった事に気付き、人工関節にしたのは自身の判断ミスだったのでは無いかとKAZUYAにそのことを相談したが、KAZUYAはその行為を判断ミスではなく思いやりだったと肯定し、山脇さんに「人工関節交換は自分の仕事」と自分のメスを渡すよう言い含めて去っていった。


「そのメスのあるところ 必ずドクターKは現れる」

「人工関節の再手術は……私の仕事です」


事の真相を知った一人はKAZUYAの再手術を受け継ぎ、人工関節の交換を行った。
山脇さんも知らなかったとはいえ恩人への数々の侮辱を反省し、退院して歩けるようになったら改めて会いに行く事を決心する。

17年前の思いやりがようやく実り、1ヵ月後には家族を連れて貴島先生にお礼を言う山脇さんの姿があった。


No.5 土門貞治氏

登場話数:9話「遺産」、10話「メス」
病名:後縦靭帯骨化症(OPLL)
メスを授受した年:1999年→2004年

最初に登場したメスの患者。
全国に八千五百の門弟を持つ「講空館カラテ」の館長だが、病のために半ば寝たきりのような状態になっている。

事の発端は5年前にあり、手にしびれのような違和感を覚えた土門館長は治療をドクターKに依頼したのだが、なんとKAZUYAは満足な治療もせずに館長を放置
結果として土門館長のしびれは痛みを経て麻痺にまで発展し、寝たきりの生活を余儀なくされてしまう。
この誤診に激怒した支部総長の明智矢須率いる講空館の門弟達は、全国の医大にドクターK宛ての脅迫状を送るという報復を敢行する。
その中の西海大に送られた1枚から事態を知った一人は講空館の支部に赴き、土門館長の治療を再開した。

KAZUYAが遺した土門館長のカルテには、5年の要経過観察と共に「ハリに託す」という意味深な一文が書かれていた。
また、土門館長とKAZUYAが最後に交わした会話の中では、若き館長が頭上3mの木の枝を蹴り上げた逸話から同じ高さで設置された講空館のについても話したそうだが…?

+ 「ハリ」の正体
土門館長は明智に対して「最後の稽古」と評し、かつての自分と同じように梁を蹴り折るよう命じる。
5年間の修練が実を結んで明智の蹴りは見事に梁を粉砕し、中からはなんとKAZUYAのメスが出てきた。
この時、一人はKAZUYAと土門館長の約束を理解する。

5年前、もしKAZUYAによって土門館長が手術を受けた場合、武道家を続ける事は出来なく武道家を引退しなければならなく、土門館長は武闘家として引退前に跡目を育てなければならないと考え、明智が館長として相応しい男になるその日まで治療は受けない事を誓っていた。
しかし、その頃にはKAZUYAもガンに蝕まれて明日も知れぬ体になってしまっており、土門館長の治療は誰か託すしかなかった。
そこで梁の中にメスを仕込み、土門館長の最後の仕事が果たされたその時にメスをもって治療を果たせというメッセージを残す事にした。

自分亡き後でも、遺志を継いだ者が現れる事を信じて…


(このメスは……ドクターKの遺志……!!)

(たしかに俺が受け継いだ !!)


KAZUYAの治療を引き継いだ一人は手術を行い、全てのOPLL切除に成功。
病が完治した事で土門館長も後腐れなく引退し、講空館カラテ館長の座は明智に受け継がれた。
ドクターKとお互い跡目に恵まれた事で、元館長は満足げに微笑んでいた。


No.6 ---

NO DATA


No.7 徳光剛造氏

登場話数:29~30話「死に金」
病名:心房細動
メスを授受した年:1995年→2005年

3番目に登場したメスの患者。本エピソードはK2におけるドクターTETSUの初登場回でもある。
心臓を患って車椅子で生活しており、二人の秘書を侍らせている。

金のためなら何でもやってきた悪徳社長で、商売柄人に恨まれ命を狙われる事が多く、KAZUYAとも商売仇に銃で撃たれた際の手術で出会った。
金に汚い徳光社長も命を救われた恩から多額の治療費を支払おうとしたのだが、KAZUYAからは「そんな死んでいる金は受け取れん」と拒否され、しばらくして不整脈で倒れた際にも駆け付けて治してくれたものの、やはり同じ理由で治療費を断られてしまう。
徳光社長がようやく意味を理解できた時には当のKAZUYAがこの世を去っており、今は自分の金が生きた物となる所を見届けるために生きようとしている。

患っている心房細動は一人とTETSUによる検査で発覚したものの、少し不可解な点があった。
以前に不整脈を起こした際、KAZUYAの手術で心臓にペースメーカーを埋め込められたのだが、4~5年でバッテリー切れを起こしているはずが何故か徳光社長は10年間も生きてこられた。
この事に対してTETSUは社長の悪運と片付けたが、一人は本当に運だけなのか疑問に思った。
そして手術で徳光社長を開胸した時、二人はKAZUYAの驚くべき仕掛けを目の当たりにする。

+ 生きた金の使い道
社長の心臓に埋め込まれていたのはペースメーカー…ではなくICD(体内埋め込み型除細動器)だった。
これは異常細動が起きた時のみに作動する仕組みで、10年もの間バッテリーが切れなかったのもそのためだった。
しかし不整脈の手術が行われた当時はまだICDが普及しておらず、一人とTETSUはKAZUYAのハンドメイドによる特注品と察し、10年前何があったのかを理解する。

心房細動という病気に対して当時は根本的な治療法がまだ確立しておらず、KAZUYAでも完全に治す事は叶わなかった。
そこでICDによる10年間の時間稼ぎを行い、社長の命を繋ぎ留めながら新たな治療法が確立される将来に賭ける事にした。
TETSU「アイツ手が出せねえもんだから、こんなもんで茶を濁してやがった!」

そしてKAZUYAの読み通り、医学はこの10年で飛躍的な進歩を遂げていた。
心臓手術に関しても新たな方法である心腔内マッピングが開発され、心房細動の原因箇所を映し出す事が可能になり、患部を焼き切る事で手術は成功に終わる。
術後の経過も良好で、徳光社長は心臓に関する心配をせずに済むようになった。

社長の悪運の強さを笑うTETSUだったが、秘書の二人は社長が悪人ではなく、恵まれない子供への支援もしている事を明かす。
既に不法な地上げからも手を引いており、これまで貯めた金を使って総合的な養護施設を造るつもりなのだという。
KAZUYAの願い通り社長は生きた金の使い道を知り、施設が完成するまで生き続けようとしていたのである。

話を聞いたTETSUは「むしずの走る金は受け取らない」というKAZUYAとは真逆の理由で社長からの報酬を拒み、KAZUYAのメスに免じて患者の事を一人に託して立ち去った。
去り際、手術を共にした医者から卓越した技術力を持つ一人が何者なのか聞かれると、邪悪な笑みを浮かべながらこう答えた。


「あいつの名前かい……?」

「ドクターK……だとさ」


No.8 川村良二氏

登場話数:44~45話「刃のないメス」
病名:1型糖尿病
メスを授受した年:1999年→2005年

4番目に登場したメスの患者。
一日三度のインスリン注射で何とか血糖値をコントロールしてきたものの、ある日低血糖昏睡を起こして街中で気絶し*4、帝都大学の病院に運び込まれた。
糖尿病の事は十年以上にわたって苦しめられてきただけに個人でも勉強し、完治するために必要な膵臓移植には強い希望を抱いている。

KAZUYAとは川村さんの方から会いに行っており、臓器移植のプロという噂を信じて何年もかけて探し出し、借金までして治療費を用意した上で手術を依頼していた。
ところが、KAZUYAは治療費が半分にも足りないとして手術を断った挙句、糖尿病に苦しむ川村さんの訴えにも「今は耐えるしかない」とだけ言ってメスを手渡したという。
自分を突き離したKAZUYAに対して川村さんは深い憎しみを抱いており、「ドクターKの治療なんか受けずとも生きてやる」と心に誓って日々のインスリン注射にも耐え忍びながら生きてきた。

なお、川村さんの所有しているメスはKAZUYAが渡す際に折った事で刃の部分が捻じ切れている素手で鋼鉄を折れる握力って…
一人はこの「刃のないメス」からKAZUYAの思惑を突き止めようとするが…?

+ KAZUYAの真意
実は川村さんには三尖弁形成不全*5という先天性の心臓疾患があり*6外科的な治療が不可能な身体だった。
移植手術も当然行えず、膵臓移植に過度な期待を抱いている川村さんがこの事を知れば自暴自棄になる可能性をKAZUYAは危惧した。
そこで心臓の件と手術できない事実を川村さんに隠し、忍耐が必要なインスリン治療に臨めるように自分が悪役となる事を買って出た。そしてガンに身体を蝕まれていたKAZUYAは、将来の医療進歩に希望を託すと共にメスの刃を折ることで、刃の無いメスに「メスを使わずに治療せよ」と言うメッセージを残した。


「私を憎むことで生きる気力となるなら……喜んで憎まれ役を引き受けましょう」


今を耐えればいずれ実現するメスが必要ない移植も受けられる事を予見し、そんな思いを「刃のないメス」に乗せて川村さんへ託していたのである。

そして川村さんの忍耐の日々は功を奏し、インスリン治療も限界を迎えたその時にはメスを使わない膵臓移植である膵島移植の治療法が確立されていた。
メスからKAZUYAの意図をくみ取った一人は川村さんに膵島移植を行い、二度の移植でほぼ100%のインスリン離脱率を記録する。
ついに日々のインスリン注射も必要なくなり、インスリン治療から解放された川村さんは無事退院した。


No.9 川口誠造氏

登場話数:96~97話「6本目のメス」、119~120話「お守り」
病名:副鼻腔内膿疱
メスを授受した年:1998年→2008年、2009年

6番目に登場したメスの患者。
戦場カメラマンとして長年活躍してきた人物だが、最近はカメラを扱う上で命とも言える視力が急激に低下してきたため、引退を考えている。

かつて川口さんはR国の内戦を取材した際、ゲリラのショットガンによる散弾を全身に浴びて生命の危機に瀕し、偶然居合わせたKAZUYAに命を救われた事がある。
その時手に握らされたメスはお守りとして大切に扱っており、雑誌の引退取材で取り上げられた事によって一人の知るところとなった。

川口さんのもとを訪れた一人はメスの意味と目が治るかもしれない可能性を伝え、病院で詳しい検査を行って視力低下の原因を突き止める。
それは過去に受けた散弾の中でも鼻の奥…副鼻腔内に残った一発が炎症を起こし、巨大な膿疱ができて視神経を圧迫していたためだった。
これなら当時なかった内視鏡技術を用いて治療できる…と思われたが、散弾の詳細な位置を調べると視神経ギリギリの場所にある事が発覚し、失明も十分有り得る非常にリスキーな手術を強いられてしまう。

また、妻の友子さんはこれ以上夫を戦場に送り出したくないとして手術に乗り気でなく、これには治る可能性がゼロではないと考えている一人も複雑な表情を浮かべた。
不利な条件が重なる中で、川口さんの下した結論とは…。

+ 医者のような存在に
数日後、川口さんはドクターKに救われた命を無駄にしないため、そしてある決意も固めて手術を受ける選択をした。
一人もKAZUYAのメスにかけて全力を尽くす事を誓い、手術が行われた。

難点だった位置の危うさは画像ナビゲーションシステムで補い、体内と器具の場所をコンピュータ画面に表示する事によって内視鏡が視神経を傷付けないよう万全の体制が整えられ、一人の技巧もあって手術は無事終了。
術後、再び戦場に旅立ってしまう夫を心配する友子さんに対し、川口さんは詫びた上でまだやるべき事が残っていると語った。

後日開かれた自分の写真展にて、川口さんは来場者達の前で引退の撤回を宣言する。
10年前の弾丸が突然視力を奪いかけた自身の経験を通し、同じように地雷が不発弾として牙を剥いている実際の戦地に対して自分がやるべき事を理解したからであった。


「私は……弾丸を摘出してくれた医者のような存在になりたいと思う !!」


友子さんから始まった拍手のもと、川口さんの戦場カメラマンとしての続投は大いに祝福された。

後にC国へと取材に向かった川口さんは現地で重傷を負い、一人が再び治療を施す事になるのだが、それはまた別のお話。


No.10 ---

NO DATA


余談


  • 前々作「スーパードクターK」のとある回では、温泉旅館「雲龍」の一人娘である道代という少女がKAZUYAと再会できる事に期待してマントからメスを一本パクるという行為に及んでおり、「一人たちと出会った場合にはKAZUYAの患者として勘違いされるのでは」とファンからネタにされている。



追記・修正は素手で鋼鉄製のメスを折ってからお願いします。

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最終更新:2025年05月07日 00:06

*1 日本では承認はまだだったたが、この3年間の間に負担の少ない手術として臨床・治験データも十分そろっていた。

*2 心室壁の拡張・肥大をきたすことにより、心筋に障害をおよぼし収縮不全・うっ血性心不全に至る予後不良の疾患。根本的な治療は心臓を取りかえる移植以外はない

*3 貴島先生の予想より早かったらしい

*4 本人曰く今回だけではない

*5 血液の正常な流れを保ち逆流を防ぐための弁が正常に働かない症状のこと

*6 自覚症状は無く、心エコーで検査した限りでは症状はごく軽いものであり、多少の息切れや浮腫は糖尿病の影響と思い込んでいた