登録日:2024/08/30 Fri 19:21:00
更新日:2024/09/04 Wed 15:15:47
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「最近
爬虫類が流行ってるし、自分も飼ってみたいなあ。
と思ったけど、ちょっと調べただけでも用語とか難しすぎる……
バスキングランプとか紫外線ランプとかどれを買えばいいの?
温度勾配って何?
うう~、やっぱり爬虫類って難しいのかなあ……」
アオジタ「やあ」
アオジタトカゲとは、爬虫類のトカゲの中のアオジタトカゲ属に属するものの総称である。
本稿では、「ペットとしての」アオジタトカゲ飼育について述べる。
動物としてのアオジタトカゲの概要
主にインドネシアとオーストラリアに棲息する。
ずんぐりとして頭でっかちの独特のシルエットと、黒い縞の入った模様、名前通りの青い舌を特徴とする外見は、誰もが一度は見たことがあるだろう。
何でも食べる雑食性(重要)だが、野生下では主に動物の死骸や地面に落ちた果実を食べていると考えられている。
トカゲの中でもスキンクと言われるグループに属している。
実はニホントカゲもスキンクであり、以外にも両者は近縁。
なお、スキンクにはアオジタを筆頭に、イワトカゲやオオアシカラカネトカゲ、シュナイダースキンクなど、初心者でも飼いやすい種類が多い。オーストラリア産のイワトカゲはクッソ高いけどな
ペットとしてのアオジタトカゲ
まず飼育難易度について。
断言するが、
あらゆる爬虫類の中で最も低いものの一つ
と言い切っていい。
少なくとも昼行性トカゲの中では、群を抜いて飼いやすい。
同じく飼いやすいとされるフトアゴヒゲトカゲやオニプレートトカゲと比較しても、「バスキングと紫外線が必要ない」という点でアオジタのほうが飼いやすさは頭一つ抜けている。
初心者向け爬虫類としてまず名前が挙げられるレオパ(レオパードゲッコー)よりも飼いやすいとすら言われることからも、どれだけ飼いやすいかわかるだろう。
なぜ飼いやすいのか、順を追って説明しよう。
まず、必要な設備である。
以上。
本当に必要なのはこれだけである。
あとはお好みに応じて、レイアウト用のシェルターとかコルクとかを入れればいい(アオジタはあまり立体活動はしないが)。
なんと言っても、昼行性トカゲでありながら、バスキングと紫外線が必要ないというのが非常に大きい。
紫外線が本当に必要ないかは若干の議論があるが、ほとんどの飼育者は「紫外線無しで飼育しても何の問題も起きなかった」と報告している。
そもそもアオジタが住んでいるのは林床であり、野生下でもほとんど日光は浴びていないのだろう。
この時点で、「昼行性トカゲでありながらヤモリやヘビと同等の設備で飼える」というお得な奴である。
毎日必要なメンテナンスも、「インドネシア系の場合は霧吹きで湿度を保つ」という程度である。
水替えという手間のかかるミズガメなどとはまるで勝負にならない。
あまりにも飼いやすいので、上級者になると、爬虫類ケージすらも使わずに衣装ケースで飼うという人も多い。
流石に初心者のうちは専用のケージで飼ったほうが無難だが。
さて、設備面ではヘビやレオパと同等ということが分かったが、アオジタが飼いやすい理由はそれだけではない。
第二のポイントはエサである。
飼いやすい爬虫類とされるヘビでも、エサである冷凍マウスがどうしても受け付けない……という理由で飼育を断念する人も多いだろう。
その点、アオジタは、なんでも食べる。
こう言って語弊があるなら、「一般に爬虫類のエサとして扱われるものならほぼなんでも食べる」。
このため、まずエサで苦労することは無い。
具体例を挙げれば、各種昆虫、ピンクマウス、ヒナウズラ、野菜、果物など。
食べないのは葉野菜くらいである。
(言うまでもないが、人間用に味付けされた食品や、海水魚など本来食べないだろうと思われるものはあげないほうがいいだろう)
爬虫類向けの人工飼料は、ほとんど全て食べる。
レオパ用だろうがフトアゴ用だろうがカメ用だろうが食べてくれる。
また、アオジタ用の人工飼料も出回っているので使ってみてもいいだろう。
簡単簡単とばかり連呼するのもなんなので、注意点も述べておこう。
まず、飼育下で陥りがちなのがカルシウム不足からくるクル病や骨の変形、骨折である。
エサにはカルシウム剤を添付するのを忘れずに。
また、バナナなどの果物を非常に好む個体が多いが、本来は肉食がメインなので、糖分が多くてカルシウム不足になりがりな果物だけで育てないように。
水はかなり飲むトカゲなので、水だけは毎日入れてあげよう。
手のかからないトカゲなんだからそれくらいはこまめに見てあげたい。
インドネシア系のアオジタの場合は湿度も必要なので、霧吹きも忘れずに。
床材は、インドネシア系ならヤシガラや腐葉土などの湿潤系、オーストラリア系なら乾燥系がいいだろう。
ペットシーツという手もあるが、これは湿度不足になりがちだし、床材に潜るのを好むトカゲなので相性はイマイチ。
と、注意点もあることはあるが、本当に飼いやすいトカゲである。
昼行性トカゲを飼いたいけど自信がない……という人にもおススメできるトカゲと言える。
逆に言えば、アオジタばかり飼っていても爬虫類飼育のスキルは上がらないのだが
繁殖
飼育は簡単なアオジタだが、繁殖となると話は変わってくる。
といっても、雄と雌を揃えれば、繁殖させるの自体はそこまで難しくない。
冬期にクーリング(温度を下げる)して、温度が上がる春先に交尾させれば高確率で成功する。
だが、ここで大問題が。
このトカゲ、そもそもオスメスを判別するのがめちゃくちゃ難しいのである。
これはスキンク全般に対して言えるのだが、ショップ店員や専門家でも普通に間違うくらいであり、「これ」という判別方法は存在しないと言っていい。
一応、「頭部の横幅が大きく、胴体が相対的に太いのがオス」と言われているのだが、はっきり言ってオスとメスと並べられて見比べてもわからないレベル。
何百匹も見てきたブリーダーとかいうレベルになってやっと判別できるというレベルなので、初心者が判別しようとするのははっきり言って無謀。
よって、繁殖を狙うなら、親候補は複数用意しておこう。
なお、繁殖期に同じケージに入れれば、オスメス同時なら繁殖行動を起こすので、そこでやっと判別ができる。
ツチノコ=アオジタ説
アオジタについて語るにはこれを避けては通れないだろう。
日本を代表するUMAである
ツチノコについて、
「その正体はアオジタトカゲ!!」という説がまことしやかに語り継がれている。
確かにアオジタは手足が無ければツチノコそっくりに見える。
さらに、「ツチノコの目撃例が増加した1970年代は、アオジタが輸入されて飼育され始めた時期と一致する!!」というまことしやかな説明も付けられる。
これについては、爬虫類飼育専門誌「ビバリウムガイド」の編集長である冨水明氏が、「実はうちのアオジタが全ての発端」という打ち明け話をしている。
ビバリウムガイドの75号で冨水氏が語っているところによると、その昔冨水氏が自宅の庭先でアオジタを世話していたところ、見知らぬ男がやってきて、
「まるでツチノコみたいなトカゲですね」
などと言って、写真を撮って去っていった。
そして数日後、とあるスポーツ新聞に、「これがツチノコの正体だ!!」という煽り文句とともに、冨水氏が飼育しているアオジタの写真がバッチリ掲載されてしまったのだという。
この記事が孫引きされて広まったのが「ツチノコ=アオジタ説」らしい。
では、この説の信憑性はどの程度あるのか?
残念ながら事実である可能性は極めて低いと言わざるを得ない。
アオジタが輸入され始めたの当初は、現在と比べたら爬虫類の飼育者など遥かに少なかった。
おまけに、ツチノコの目撃例は農村や山間部に集中している。
そんなところに当時の爬虫類の飼育者が集中して住んでいたとも思えないし、逃げたり遺棄されたアオジタがそんなところにばかり出るというのは解せない話である。
なお、「ペットとして輸入されたものではなく、木材などに交じって国内に入ってきたものがツチノコの正体ではないか」とも言われるが、それなら目撃例は港の近くの海岸部に集中するだろう。
ちなみに、爬虫類専門動物園IZOOの園長であり、爬虫類即売会イベントの主催も長年している動物商の白輪剛史氏は、1980年代に「ツチノコ=アオジタ説をテレビで紹介したいので、手足を切断したアオジタを用意してくれないか」と依頼されたことがあるという(当然断ったという)。
人の心とか無いんか
代表的なアオジタトカゲ
インドネシア系
さて、ここまで散々初心者向けと煽ってきて今更なんなのだが、爬虫類初心者が「じゃあアオジタくんを買ってこよう!!」と思ったら、まずぶち当たるのが分類のややこしさという問題だろう。
「え、こっちのショップではオオアオジタトカゲとだけ書かれて売られてたのが、こっちのショップではオオアオジタ(ハルマヘラアオジタ)とかってなってる? これって違うものなの?」
となって混乱する人も多いはず。
これはインドネシア系に特有の現象であり、なんでこんなことになってるかというと、特にインドネシアから来るワイルド(野生)個体は、採集地が違うというだけで違う名前を付けられていたり、おそらくまだ未記載の種が紛れ込んだりしていると思われるからである。
「自分だけのお気に入りのアオジタを見つけられればそれでいい」という人ならともかく、こだわりたい人には大問題だろう。
ここではとりあえず、生物学的に広く認められている分類を基準に紹介する。
最もオーソドックスなアオジタ。
わかりやすく言うと、爬虫類のことをよく知らない
お母さんに「アオジタ買ってきて」と言ったら、高確率でこいつを買ってくるだろう、というアオジタ。
別名として
「アンボンアオジタ」がある。
それとは別に「ハルマヘラアオジタ」「セラムアオジタトカゲ」「ナビレアオジタトカゲ」などという名前で売られていることもあるが、これらはわかりやすく言えば「商品名」みたいなものだと思えばいい。
これらはインドネシアの地名であり、その島で採集されたオオアオジタトカゲに、特に別の名前を付けて売っているのである。
これらが亜種レベルで違うものなのか、単に別に島に住んでいる個体群というだけなのかはまだよくわかっていない。
こだわりたい人は、購入時に産地も聞いておくといいだろう(現地のシッパーの時点でよくわかんなくなってて、ショップの人には判断しようもない場合も多いが)。
飼育は特に言うこともなく、簡単。
ちなみにこいつは人為繁殖もされており、「アザンティック」という色変個体が固定されているようだ。
オオアオジタトカゲの亜種としてはっきり分けられているアオジタ。
アオジタの中では身体が細長く、ニホントカゲよりの体形。
柄も特徴的で、インドネシア系の中でも一目で見分けることが可能。
比較的珍しいアオジタ。
インドネシアからパプアニューギニアにかけて生息している。
そのためか、インドネシア系としては気持ちオーストラリア系に近い雰囲気がある……かもしれない。
オオアオジタの次くらいによく見るアオジタ。
生息地はインドネシアなのでここに入れたが、系統的にはオーストラリア系のアオジタに近いらしい。
まあ、生息環境はインドネシア系と同じなので、飼い方も同じでいいだろう。
クセがなくて飼いやすい奴らばかりのアオジタの中にあって、こいつは例外的に
気性が荒いという特徴を持つ。
そのため、アオジタの中では比較的
上級者向けか。
オーストラリア系
インドネシア系とは異なり、湿度はそれほど必要としない。
飼いやすい爬虫類が揃っているオーストラリア産の爬虫類の例に漏れず、飼いやすさで言えばインドネシア系よりも上。
ただし、値段はインドネシア系よりもかなり高い。
これは、オーストラリアは野生爬虫類の輸出を全く認めていないため、流通するのはすべてCB(人為繁殖)個体であるためである。
飼いやすいのがウリのアオジタの中にあって、さらに頭一つ抜けて飼いやすいのがこのキタアオジタ。
インドネシア系と違って乾燥にも強く、さらに低温にも強く、何でも食べて病気もしない。
これでバスキングと紫外線がいらないんだから、「もっとも飼いやすい爬虫類」に推す人が多いのも無理はない。
お値段をインドネシア系と比べると躊躇してしまうかもしれないが、ベビーを見かけたら買って損なしの良トカゲである。
この辺からお値段が初心者向けではなくなる。
元の生息地ごとに「クイーンズランド」「ニューサウスウェールズ」などという地域名(ロカリティという)を付けられて流通している他、色変個体のバリエーションも。
収集欲をそそる奴だが、お値段が……
海外の即売会や展示イベントではよく見るが、日本ではアオジタに高額を払う人があまりいないためか全然愛好家を見ない。
なお、インドネシア系のオオアオジタの一部個体群を「ヒガシアオジタトカゲ」として売っていることもあるので注意。
いよいよ数十万円台の世界に突入する。
富豪向けのオーストラリア系アオジタの中では比較的見るほうだが、おおよそ30万~50万ほど。
どうせ飼うなら繫殖を目指したいところだが、そうなると100万円単位の金がかかるだろう。
一般庶民は、イベントで見て楽しむくらいしかないアオジタである。
しかし、上には上がいて……
アオジタの頂点。
一匹100万円~数百万円の世界である。
というか、こいつらになるともはや日本で見ること自体が珍しく、即売会に年に一回出るかどうかというところ。
しかし、大抵即売会終了までにsold outになっているので、世の中には金持ちのアオジタマニアが世間の予想以上に多いらしい。
最後に
とにかく飼いやすい!!初心者向け!!として喧伝されがちなアオジタであるが、初心者がある程度経験を積んでくると、「あまりにも手がかからないので、飼っていてもつまらない」という理由で手放してしまう、という話もよく聞く。
まあそれはそれで(遺棄などせず、ショップや他の飼育者にちゃんと引き取ってもらうのなら)一つの飼育スタイルではあるが、飼いやすいからといって、考えなしにアオジタばかり買いそろえるのは考えものだろう。
やはり本来なら、アオジタが好きで好きでしょうがない、という人にこそ長く飼ってもらいたいトカゲである。
追記・修正はニジアオジタの繁殖に成功してからお願い致します。
- ツチノコの正体? -- 名無しさん (2024-08-31 16:04:21)
- いちおう業者が山奥で育てて逃げ出したという可能性もあるけど、当時業者が生まれるほど需要があったかと考えると…。 -- 名無しさん (2024-09-02 09:54:33)
最終更新:2024年09月04日 15:15