ザ・フライ2 二世誕生

登録日:2024/10/19 Sat 19:34:49
更新日:2024/12/30 Mon 09:09:14
所要時間:約 17 分で読めます





人間でない子供が(Like Father.)
この子の成長が楽(Like Son.)しみだ。



【ザ・フライ2 二世誕生】

『ザ・フライ2 二世誕生(原題:The Fly Ⅱ)』は、1989年2月に公開された米国のSF・ホラー映画。
日本では1989年5月3日に公開された。
配給は20世紀フォックス。

86年に公開されて世界的なヒット作となった『ザ・フライ』の直接の続編であり、ストーリーも地続きになっている。
デヴィッド・クローネンバーグはタッチしていないものの、
前作でアカデミー賞を獲得した特技監督のクリス・ウェイラスが、彼のキャリアとしても極めて珍しい映画自体との監督も兼任しており、美術面では前作のクオリティを維持━━というか、予算が増額された分だけ前作より優れている部分も普通に多い。
脚本は主にスティーヴン・キング作品の実写化を多く手掛けた映画監督のミック・ギャリスが纏めたようだが、その縁からか其れ等の作品で脚本を担当し、後には自身も有名映画監督になった『ショーシャンクの空に』や『ミスト』のフランク・ダラボンも共同作業者として名前を連ねている。

主演はエリック・ストルツ。

【概要】

『ザ・フライ』の直接の続編。
タイトル通り、主人公は前作の主人公であるセス・ブランドルとヴェロニカの間に生まれた“息子”であるマーティン・ブランドルであり、彼の誕生から物語が始まる。

前作『ザ・フライ』が『蝿男の恐怖』のリメイクだったのに対して、本作は『ザ・フライ』の続編であると同時に『蝿男の恐怖』の続編である『蝿男の逆襲(Return Of Fly)』(1959年)のリメイクでもあるという位置づけ。
ただし、前作同様にオリジナルとは基本となる展開*1以外は殆ど全ての面で変更されている。

前作が余りに素晴らし過ぎたためか、前作が諸手を挙げて賞賛されたのとは対照的に批評家からは殆ど否定的な声しか出されなかった。
しかし、前作のファンや一般の視聴者層からのウケは決して悪いものではなく、このテの続編企画としては珍しい成功例であるとされる。
映画好きからも理想的な続編として名前を挙げられることすらあるのだが、上記の前評判や前作にあった美学すら感じさせる悲劇性が失われていたためか*2作品人気は前作には及ばなかった。
また、前作のメインキャストからヒロイン役のジーナ・デイヴィスには再出演のオファーが出されていたのだが、デイヴィスは「出産シーンだけはイヤだ」として出演を固辞したので別の女優に変更されると共に出番が大幅に減らされている。
……一方では、デイヴィスが出演を断ったのはそもそもが「シナリオの方向性を気に入らなかったから」と言う話も伝えられており、ヴェロニカ役を気に入っていたデイヴィスは出演に前向きだったものの『2』のシナリオを見て失望し、本作とは別にヴェロニカを主人公とした企画を進めようとしたこともあったらしい。

結局、前作からはジョン・ゲッツのみが出演。
ジェフ・ゴールドブラムは前作の映像を流用したインタビュー映像のみの出演に留まっている。

以上のように、前作の悍ましい世界観ながらも格調高い悲劇性を気に入っていた批評家やジーナ・デイヴィスからは批判された本作だったが、繰り返すが一般の視聴者層や前作のファンからは決して悪くない評価となった。
寧ろ、本作の方向性を受け入れられる層からは続編までを含めて完結する物語になっていた、との意見も出されている。

【物語】

セス・ブランドルの衝撃的な死から少し後━━。

バートック産業はセスの子供を宿したヴェロニカを保護していたが、急激に胎内で成長した“ハエ男の子”により予想外のタイミングでヴェロニカが産気づく。
慌てて自社のラボにヴェロニカを搬送したカンパニーの医師チームは、ヴェロニカが狂乱して必死に堕胎を訴えるのを聞かずに出産準備を進める。

そして、かつて自らが悪夢で見た通り巨大なウジ虫を産み落としたヴェロニカは自分が生み出したものを見て余りの衝撃に意識消失……そのまま死亡してしまう。

そして、ヴェロニカの死んだ陰で産み落とされたウジ虫が裂けて中から産声があがり、医師チームは可愛らしい人間の赤子を中から取り出す

そう、これは“ハエ男”セス・ブランドルの息子━━
マーティン・ブランドルの物語。

【登場人物】

※以下は更なるネタバレ含む。
※吹替はソフト版・テレビ朝日版(日曜洋画劇場版)の順番。

  • マーティン・ブランドル
演:エリック・ストルツ/吹替:山寺宏一堀内賢雄
本作の主人公で、前作の主人公である“ハエ男”と化した後のセス・ブランドルとヴェロニカの息子。
“ハエ男”となったセスの天才的な頭脳と遺伝子情報をそっくりと引き継いでおり、遺伝子の一部に誕生時から暫くは覚醒していない“ハエ”による異常な部分(ゴースト遺伝子)を秘めていた。
誕生直後(以前)からバートック産業では興味深い実験対象であり、マーティン自身も全く眠らずに過ごしたことから24時間の監視を付けられながらすくすくと成長━━5年程で成人となる
誕生時より父親譲りの天才的頭脳を発揮して子供の時点でラボで働くレベルの科学者すら凌ぐ程の頭脳の持ち主であり、3歳時(10歳前後相当)には厳重なセキュリティを突破して侵入禁止とされたレベル4の機密区域に侵入……実験用動物として飼われていたゴールデンレトリバーと仲良しになり人生初の友達を得るも、その犬が奇妙な装置の実験により合成に失敗して怪物になるのを目撃してトラウマを植え付けられる。
……実は、その奇妙な装置こそが実父セスの創造した“テレポッド”であり、マーティンは成長しきった後にバートックより“テレポッド”の完成を依頼され、最初は断っていたもののトラウマに向き合うためにも研究の完成を引き受ける。
研究を開始したマーティンは、他の人間では無機物の転送にすら失敗していた状況から抜け出してみせるが、前作のセスと同様に有機物の再合成が壁になる。
……が、ここで有機物のサンプルを取りに出たことで後に恋人になるベスと出会う。
ベスのサボテンを見るも無残な姿に変えてしまう等、矢張り有機物の転送には苦労したものの、ベスに誘われたパーティーにて研究棟で殺されないままに世話を続けているという奇妙な生き物=安楽死させたと聞いていた転送に失敗したゴールデンレトリバーが未だに生かされていることにショックを受けるも、覚悟を決めて友達に会いに行き薬物で殺してやる。
この時の経験がヒントになったのか、前作のセスと同様に生物への理解(慈しみ)を補助AIに学習させることでテレポッドを完成させ、仲直りしたベスと結ばれる。
━━が、その直後より肉体が成長しきったことで眠っていた遺伝子の異常部分が覚醒を始める。
予め、自分でも己の肉体の秘密を探る中で別に人間が一人いれば相手に自分の異常な部分の遺伝子を移して欠損した部分を補うことで正常な肉体に戻れるという解答は得ていたものの、犠牲となる人間が必要となることから諦めていた。
急激に肉体が変化し始める中で監視生活が続行されていたことや、自分に纏わる資料を見る中で自分がカンパニーの実験動物に過ぎないことを知って脱走……ベスに助けを求めるも逃避行の中で蛹と化して身動きが取れなくなり、ベスの通報で駆けつけたカンパニーの警備兵達の手によりラボへ。
しかし、予想されていたよりも早くに成体となって蛹の外に飛び出すと、大嫌いな主治医のジェーンウェイを殺害。
身を潜めながらベスの救出とテレポッドへの到達を目指す。
演じたエリック・ストルツはベビーフェイスな容姿から当時のアイドル的な若手スターとして知られる人物で、同じくアイドル的なスターであったマイケル・J・フォックスがスケジュールの都合から一度は断っていた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティ・マクフライ役に決定して実際に撮影……もしていたものの、途中で降板させられてしまったというエピソードでも有名。
その元マーティ役が演じるのがマーティン……というのは特に他意は無い筈だが。
ちなみに、ストルツ本人は批評家には評判が悪かったが本作のことを気に入っているらしく、スクリーンで見た観客から「本気で絶叫した」と聞かされた時には「役者冥利に尽きる」と喜んだという。
実際、数々の青春映画に異物のように混ざってはいるがストルツにとっても代表作なのは間違いなく、また前述の通りで観客からの評価は元から高い作品である。


  • ベス・ローガン
演:ダフネ・ズニーガ/吹替:佐々木優子/松本梨香
まだキャリアの浅いバートック産業の若手社員で、不満を抱えながらも資材部の夜勤で働いていた時に訪ねてきたマーティンと出会い恋に落ちる。
明るく活動的な性格で、釣り好きが高じてボートを住居としている。*3
社内の友人達とのパーティーに誘ったことが原因で、マーティンが転送に失敗したゴールデンレトリバーが未だに生かされているのを知る切欠になってしまった時には逆恨みされてしまったこともあったものの、その後にマーティンの側から仲直りをしてテレポッドの完成を目撃。彼と結ばれる。
……が、マーティンが遂に肉体に変異を来し始めたことで強引に別の部署に回され連絡も絶たれてしまうが、何とかシステムをハッキングして電話をかけてきたマーティンに協力して逃亡を手助けするも、逃げた先のモーテルにてマーティンが蛹に変化して身動きできなくなったことで自らカンパニーに通報して身柄を確保される。
その後の検査では汚染(妊娠)をしていなかったことから成体となって監視から抜け出したマーティンへの人質として使われることに。
その後に姿を現した変異したマーティンを見ても、怪物の中に元々の人格が残っていることを直ぐに見てとりベスなりに援護してマーティンが警備兵を倒してバートックを捕まえるのに協力。
最後も、マーティンがバートックを共にテレポッドに引きずり込むのを見て逃亡中に“自分を治す方法”を聞いていたこともあり、マーティンの指示に従い起動キーを入力する……。
ベスも前作のヴェロニカ同様に、主人公とは互いに一目惚れに近い状況だったにも関わらず悍ましい姿へと変化していく主人公を見ても見捨てようとしないという献身を見せており、女(パートナー)を見抜く目の良さも父親譲りで、しかも父親とは違って間違った行動もしなかったマーティンなのだった。


  • アントン・バートック
演:リー・リチャードソン/吹替:穂積隆信/富田耕生
バートック産業のトップで、温和な雰囲気ながら本性は冷酷な企業人。
資金提供していたセスの死後にテレポッドの試作機を引き取って完成を目指させる一方で、もう一つのセスの発明品とも呼べるマーティンをヴェロニカの意向を無視して強引に誕生させ、生まれた後は厳重な監視下で育ててきた。
巨大企業のトップとあってか全く本心を見せずに他者と接することが出来るようで、その甲斐もあってかマーティンには父親代わりとして格別に信頼と愛情を寄せられていたが、それがマーティンにとってどれだけ重要な意味を持つのかをバートックからは全く想像出来なければ少しも理解しようともしていなかった。
常に一緒に過ごしていた訳ではなかったものの、バートックが見せてくれた耳からコインを出すマジックや“マジックワード(幸せの呪文)”という言葉をマーティンが大事にしていたことからも一方通行の愛情になってしまったことが残念でならない。
そういう意味では、結末にあれ程に酷い目に遭う必要があるか?……と言われることもあるものの、今回の物語の全てがバートックが用意した世界で起きた因縁の果ての結果であるので、間違いなく幾人もの運命を己の欲望で狂わせてきたバートックの自業自得の末路に相応しいものであったのである。


  • スコービー
演:ゲイリー・チョーク/吹替:池田勝/堀勝之祐
バートック産業の本社ラボの警備隊長で、セキュリティの責任者で強面のメタボ。
そのために、自由にマーティンの生活を覗き見ることが出来る立場にあり、仲間内では“社長のペット”としてバカにしていた。
品性下劣な性格で、マーティンとベスが結ばれた夜の映像をダビングして仲間内でポルノとして回覧し、挙げ句にはベス本人にもテープを感想付きで渡したことで、間接的にマーティンが自分が今も監視されていることを知らせる切欠を作った結構な戦犯である。
一応、物語を追っていくとベスが閉め出された時点でマーティンと接触できる手段が絶たれたなど、安全圏から煽っているだけのつもりではあったのだろうが……。
その後も、いざ脱出しようとしたマーティンの前に立ち塞がり殴り倒し、余裕綽々で捕らえようとした所を反対にマーティンに自分の身体能力の高さを自覚させることに繋がってしまい吹っ飛ばされて脱出を許してしまうなど、事態の悪化と共にバートックからの信用を無くしていく。
最後には狂気を増していくバートックに遂に反旗を翻すも時すでに遅く乱入してきた成体となったマーティンに部下達と共に殺害される。


  • ノーマン・シェパード
演:フランク・C・ターナー/吹替:千田光男/納谷六朗
ラボで働いている科学者で、マーティンの成長を見守る役目を持たされていた一人。
マーティンの知能テストを請け負っていたようだが天才であるマーティンには退屈そのものだった為か試験官であるノーマンの存在も含めて小馬鹿にされて悪戯の対象にもなっていた。
……が、態度でこそ威厳を示そうとしてやり込められることこそ少なくなかったもののマーティンを酷い目に合わせたことは一度もなく、そのためか成体となったマーティンからも自分の存在がバラされるのを覚悟した上で見逃されている。


  • ジェーンウェイ
演:アン・マリー・リー/吹替:沢田敏子/鈴木弘子
ラボで働いている医師でマーティンの主治医。
しかし、マーティンを幼児の段階で「全く可愛げのない怪物」と語るなど、偏見もあったのかも知れないが少しの愛情も持っていないことが窺え、冷酷な彼女の存在がマーティンに(表向きには)温和なバートックへの思慕を育てる原因になったのかもしれない。
マーティンが蛹から成体になって抜け出す瞬間に実験室に居たのは彼女だったが、それまでの恨みもあったのか明確な殺意を以てマーティンに殺害される。


  • ステイシス・ボランズ
演:ジョン・ゲッツ/吹替:塚田正昭/吉水慶
前作の関係者の一人で、自分の出生の事情を知る人物として逃亡中のマーティンとベスの訪問を受ける。
前作のラスト以降もヴェロニカに付き添っており、ヴェロニカ同様に堕胎の希望を出していたようだが無視され、出産によってヴェロニカが命を落とした後は山奥で隠遁生活を送っていた。(暮らしぶりを見るに、バートックから多額の補償を受けた可能性もある。)
変異が始まったマーティンの顔を見て憎々しげに「親父にそっくり」と語り、更にはヴェロニカを「自分の女」と評してセスにNTRたと語っているが、前作を見れば解るようにこれは大嘘
確かに自分も片手と片足を失い、最期にヴェロニカに寄り添いはしたが、そもそもがセスとヴェロニカの悲劇はステイシスの嫉妬が原因である。
……実際、本心ではそのことを解っているのかマーティンを頑なに拒否していたものの、別れ際にセスの最後の行動から変異した肉体を元に戻すヒントがテレポッドにあることを教え、追跡の目を少しでも誤魔化すために自分の車と交換していくように言ってくれる。


  • ヴェロニカ・クエイフ
演:サフロン・ヘンダーソン/吹替:高島雅羅/小宮和枝
演者が変わったが前作のヒロインで、ハエ男となってしまったセスの子供を宿した人類唯一の女としてバートック産業の監視下で保護という名のマーティン誕生までの経過を見守るモルモットとされていた。
ワンチャン、普通の人間であった頃のセスとの子供……の可能性もあったが、矢張り胎児に異常があったのか堕胎の希望を無視されて出産の時までを生かされていた。
……当初は、前作でヴェロニカを演じたジーナ・デイヴィスもヴェロニカ役に思い入れがあったことから今回も演じてくれるように監督のクリス・ウェイラス自らがオファーを出しに行ったのだが、前述の通りで本作の続編としての方向性に反感を持ったデイヴィスは出演を断り代役が立てられることになった。
尚、前作でも結構なトラウマシーンの一つになったヴェロニカが悪夢の中で巨大ウジ虫を産み落とすシーンだが、続編となる本作では悪夢の中よりも実際に生まれる巨大ウジ虫のデザインが強烈になっている。開始3分くらいだぞ何してくれとんねん。


  • セス・ブランドル
演:ジェフ・ゴールドブラム/吹替:秋元羊介/谷口節
前作主人公でマーティンの実父。
記録映像の中のみの登場。

【余談】


  • マーティン役として、当時のベビーフェイスな若手俳優の一人……として、ジョシュ・ブローリンもオーディションを受けていたらしいのだが、色々とやり過ぎて、遂には自分のエージェントから「この映画の件でもう君には連絡来んで(意訳)」とまで言われてしまったらしい。
    当人によれば、自分なりに蛹から蝿への変身を表現しようと、プロデューサー達の前で床に寝転がって暴れながら泡を吹く姿を見せてドン引きされたらしい……。


  • 実は原作の“蝿男”シリーズには、3作目として『Curse of the Fly(蝿男の呪い)』(1965年)が存在するが、本国でも大コケしたような作品だったらしく、長年に渡りソフト化のラインナップから外されるなどマイナー作のようで、顧みられないままにリメイク(『ザ・フライ』)シリーズも今作で終了になった。
    ストーリー的にも綺麗にまとまったし人気も落ちてしまったので当然とも言えるが。




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  • 1989年
最終更新:2024年12月30日 09:09

*1 前作の主人公の息子が父親の研究を引き継ぎ自らもハエ男になるも、最終的には自分の姿を取り戻す。

*2 そもそも今回はハッピーエンドだし……。

*3 実際に米国ではハウスボートという文化があり、劇中でも「最近の流行り」と語る一幕がある。