登録日:2024/11/29 Fri 12:10:56
更新日:2025/03/13 Thu 06:31:09
所要時間:約 11 分で読めます
※日本語未翻訳作品のため作品名や登場人物名など一部意訳を含みます。
“
The Call of Poohthulhu”(プートゥルフの呼び声)は、A・A・ミルンが創作した『クマのプーさん』(Winnie-the-Pooh)を題材に、
ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの
世界観を混入した短編小説アンソロジー。
2022年5月にカナダの出版社、April Moon Booksから刊行。同社の創業者でもあるニール・ベーカーが企画・編集を担当した。
カルメン・セラが表紙と挿絵を担当しており、表紙はプーと仲間たちが描かれているがカンガの尻尾やピグレットの腕がタコの触手のようになっているなどどことなく不穏。
【概要】
そもそもの始まりはニール・ベーカーの冗談で、アメリカでは原作小説の著作権が2022年に切れ
パブリックドメインとなったことを知った彼が「『プートゥルフの呼び声』っていいアイデアだと思わない?」とSNSに投稿したところ、多くの作家が書きたいと申し出て本当に出版されることになった。
一部の作品を除き基本的に『プーさん』由来のキャラクターは原作通りの性格で描写されている。特に陰気で悩みがちなイーヨーは、ラヴクラフト的な作風と相性が良くほとんどの作品に登場し、10作中3作で主役に抜擢されている。
プーさん達が、クトゥルフ的恐怖に対峙するという作風から原作における恐怖の象徴ゾゾとモモンガーの名もよく挙がる。神話生物を見て「変わった姿のゾゾとモモンガー」。神話生物と比べて「ゾゾとモモンガーと同じぐらい怖い」、「ゾゾとモモンガーの方が怖い」など。
企画時点でパブリックドメインとなっていたのは原作1作目だけのためティガーは登場しない。
【作品一覧】
■『境界のセロリ』“The Celery at the Threshold"
作者はジョン・リンウッド・グラント。
A・A・ミルンが息子のクリストファー・ロビンにせがまれて物語を読み聞かせるという導入から始まる。そのため恐怖要素はなく童話的。
あらすじ
(原作の北極の冒険に続き)今度はプー達が南極に出かけ、そこで出会った新しい友達小さな古のものとドロシー・ジェーンと一緒に冒険を繰り広げる。
登場人物
南極に住む不思議な生き物。タイトルのセロリとは彼の見た目から。
地下深くの自宅で目覚めた際に特殊な印が刻まれた玄関の扉が失くなっていることに気付いて探している途中プー達と出会う。
ショゴスをとても恐れており、プー達から聞いたモモンガーの情報から多分同じものだと認識する。
考古学者の少女。プー達と共に小さな古のものの扉を探す協力をする。
地下深くにいた小さな古のものの家族。プー達にここが南極じゃないことを教え、自分たちは昔はそこに住んでいたと語る。
小さな古のものを送ってくれたお礼に南極(南の棒)をプレゼントする。
■『とても黒い山羊』"The Very Black Goat"
作者はクリスティン・モーガン。
あらすじ
クリストファー・ロビンとプーさんが森のまだ探検したことのなかった場所で、少女アニザと山羊のチャグと出会う。
アニザはロビン達を母親の待つ自宅で歓迎すると森の奥に連れて行こうとするが、ロビンが断ると豹変して襲いかかり、巨大な彼女の母親も姿を見せる。
登場人物
チャグと二人でトリュフを探していた少女。
母親と千人近い兄弟と共に森の奥に昔から住んでいたと語る。
黄ばんだ不揃いな歯と不潔な顎髭の生えた黒い山羊。縫い目がありプーさん達と同様にぬいぐるみと思われる。
歩く度に森を揺るがすほどに巨大な何か。直視したクリストファーは心神喪失状態に陥り、正気を取り戻した頃には冒険の記憶を失っていた。
ロビンの危機に勇気を振り絞り、普段からは考えられない気迫でチャグに立ち向かい絞め殺す活躍を見せる。
■『黒い沼へ還る』"Back to the Black Bog"
作者はリー・クラーク・ズンペ(Lee Clark Zumpe)。
あらすじ
100エーカーの森に落ちた隕石による動物たちが変異し凶暴化する異変にイーヨーともう一人のイーヨーが立ち向かう。
登場人物
主人公。内心では100エーカーの森で自分が一番賢いと考えている。
隕石の危険性にいち早く気付き隠したが、ロビンとオウルが持ち去り生態系が歪み始めたため回収し廃棄するために立ち上がる。
イーヨーの尻尾から生まれたそっくりさん。隕石の影響で生まれた存在だが、並行世界のイーヨーの記憶を持っているらしく隕石の廃棄に協力する。
隕石を研究するためにイーヨーの忠告を無視して探し出し持ち去る。結果、2人とも知性を失いロビンは凶暴な蛮人にオウルは「カーカー」と鳴く鳥に成り下がる。
隕石の影響で4足歩行で歩く見た目は獰猛そうな熊になる。
■『エドゴグは何処で吼えるのか』"Where Howls the Edgog"
作者はピート・ローリック。
あらすじ
大雨でピグレットの家の生垣が崩れたことで結界が破れ異次元の獣エドゴグの群れが100エーカーの森に現れる。
ピグレットとプーは、ピグレットの家に籠城してエドゴグに立ち向かう。
登場人物
荒野の異次元世界に棲息する獣の一種で、唯一プー達の世界に侵入しようとする。
ピグレットの家の生垣は彼らの侵入を防ぐ結界となっていたのだが、嵐で一部が崩れたことで姿を見せる。
プー達の抵抗をものともせず彼らを襲う。
何もしなくても森がじきに滅びることを知っており、ピグレットが同族のホグソンの子孫と気付いたことで手を下すことを止めて帰還した。
プーはピグレットの体に彼らに変異しつつある兆候を見つける。
ピグレットの曽々々々々々々々祖父。
異次元を冒険したことがあるらしく、一般常識には欠けたが異次元のことについては詳しく妻のフランソワーズに語って聞かせていた。フランソワーズがその話を一冊の本に纏めて子孫に遺した。
■『壺に似た頭』"Head Like a Jar"
作者はエドワード・M・エルデラック。
あらすじ
ビリー・ムーンはグレイザーの儀式の阻止に失敗し、召喚されたヒース・ファ・ルームフスに刺し貫かれる。
100エーカーの森は、真に黒い闇にあらゆるものが飲まれ動物たちはゾゾが起こした嵐だと恐れていた。ピグレットは仲間を探して闇の中を進み、罠を使ってゾゾに対抗するラビット達と合流するが計画は失敗に終わりラビット達は闇に呑まれてしまう。
ピグレットは名前も顔もほとんど思い出せなくなった親友に会うために闇の中を進む。
登場人物
ダートマスで古書店を営む男性。数多の魔導書に精通しており盗まれた魔導書インフェルナリウスを取り戻すためグレイザーを追っていた。
作家の父が自身をモデルにした本を出版したことで、同年代の子供達から酷い虐めを受けて育ち父とは疎遠となり名も捨てている。
A・A・ミルンの実子クリストファー・ロビン・ミルン。
100エーカーの森は彼のドリームランドであると同時に、『クマのプーさん』の物語を読み愛した世界中の人々のドリームランドであり、その中心人物であるクリストファー・ロビンはランドルフ・カーターにも匹敵する影響力を持つ。
プーさんと再会し、子供の夢を取り戻したロビンにとってはクトゥルフの悪夢ももはや敵では無かった。
原作者である彼もまた100エーカーの森に強い影響力を持つ。
ヒース・ファ・ルームフスと対峙するロビンの前に現れ、彼が幼かった頃のように悪いゾゾをやっつける物語を読み聞かせる。
ヒース・ファ・ルームフスを崇拝し召喚の儀式を行った男。
インフェルナリウスの元の所有者。“事故死”するが、その前にビリーにインフェルナリウスを託していた。
- ヒース・ファ・ルームフス(Heth-Fah-Loomf'th)
クトゥルフに創り出された悪夢の眷属。夢を喰らい真っ黒に染め上げることで夢見人の心をも喰らい、そこを足掛かりに他の夢も侵し最終的にはドリームランドの全てを喰い尽くして黒く染め上げる。
闇の中から赤い目だけを覗かせヒース・ファ・ルームフスの恐ろしさを語り続ける。
ピグレットの親友だが、ピグレットは何故か再会するまで彼の存在をほとんど忘れていた。
ヒース・ファ・ルームフスを変わったゾゾと認識するが、数百匹のゾゾに襲われる夢を見た直後だったので全く恐怖心は抱かない。
何故か闇に呑まれることなく、喰われ消え去ったはずの動物達もプーの行動に併せて姿を取り戻す。仲間達と再会した後、一番の大親友に会いに行く。
用語
キタブ・アル=アジフに記された手順でエイボンの書、カルナックの書、カルナマゴスの遺言、ポナペ教典、妖蛆の秘密、トート・アモンの巻物から抜粋した記述を纏めて製本したというトンデモ
魔導書。
■『101エーカー目の発見』"In Which We Discover the 101st Acre"
作者はロバート・P・オットーネ。
クリストファー・ロビンが100エーカーの森を去り月日が過ぎ、霧とその中に潜む巨大な何かが森を飲み込み始めた。
オウルは霧の動きに警戒していたが、ある日霧は急速に動き始め動物達は次々と貪られていく。
■『イーヨー 友達を作る』"Eeyore Makes a Friend"
作者はジャクソン・パーカー。
あらすじ
100エーカーの森のイーヨーの家の近くに隕石が落ち、様子を見に行ったイーヨーはクレーターに埋まった球体の声を聞く。球体はイーヨーの願いを聞いて現れた流れ星だと語り、イーヨーは彼に木の枝や泥で自分に似せて作った体を与えて友達となる。
それから数日が過ぎ、久々に家を離れたイーヨーは100エーカーの森の動物達がまるで旧知の仲のように親しげに自分に話しかけてくる異常事態に困惑する。
登場人物
誰かに遊びに誘われても断るが、本当は彼らと仲良くしたかったと彼らと遊ぶ自分を想像しては無理矢理にでも自分を連れ出さなかった彼らに対して苛立ちを募らせる偏屈な性格の持ち主。
もう一人のイーヨーと出会ってから体調を崩しがちで家に籠もる。
隕石の球体から作られたもう一人のイーヨー。イーヨーの唯一の友達。
■『カンガがとても疲れた時』"When She Was Very Tired"
作者はリサ・カニンガム。
森の動物達が自分たちが作者に与えられた役割に従い行動していると自覚して同じ話を何度も繰り返している世界観。演技が上手く作者が違和感を抱かなければアドリブが許されることもあるが、許されなければ酷いしっぺ返しを受けるため基本的にはみな同じことを繰り返している。
あらすじ
カンガはルーと共に暖かな池で遊んでいたが、お昼寝から目覚めると雪に埋まっていた。台本にない事態に彼女がパニックを起こしていると、台本にない黒い山羊が現れて彼女にドレスを差し出す。
登場人物
登場人物の一人だが作者(神々)から直接啓示を受けたことがあり、神から愛されているのだと信じている。一方でルーと共に森から逃げだして普通の動物として暮らしたいと考えることもある。
シュブ=ニグラスの眷属。
森の動物達の友達の男の子。時々別人に代わるがロビン以外に人間の男の子は存在しないため、動物達は彼がロビンだとすぐに理解する。
用語
森の動物が浸かればゆっくりと傷が癒える不思議な黒い泉。
死んだ動物とクリストファー・ロビンには効果がない。
■『イーヨー・カーターの陳述』"The Statement of Eeyore Carter"
作者はケビン・ウェットモア。
『ランドルフ・カーターの陳述』をプーさん達で再現した物語。
「バカめ。プーさんは死んだわ」
■『エーカーウッド』"Acrewood"
作者はジュード・リード。
一部の登場人物に原作キャラクターと同じ名前を付けているだけでほとんど原作無関係。
あらすじ
リチャードとジョー夫婦は、息子クリストファーを連れて車で旅行に出かけたがエーカーウッドに迷い込む。
エーカーウッドは黄色い毛皮の熊に似た古の怪物を崇拝するカルトの巣窟で一家は生贄に捧げられそうになる。
リチャードは貪られ、クリストファーを庇うジョーは死か、住人に加わり熊との混血児を孕むか選択を迫られる。
【余談】
本作以外にも『プーさん』がパブリックドメイン化した際、ホラー要素を組み込んだ作品は幾つか出ている。映画『プー あくまのくまさん』が有名だろう。
小説ではジョー・モンソンが企画した“The Horror at Pooh Corner”が存在し、こちらもラヴクラフト風を意識した作品が含まれる。
ゲームでは『Hundred Acre Wood』が開発中で、こちらもクトゥルフ神話の要素を加えたことが告知されており“Poohthulhu”は拡がりを見せている。
追記・修正お願いします。
- 概要やあらすじ読んだだけでも、なかなかに名状しがたいブツに仕上がってるな…(おめめぐるぐる -- 名無しさん (2024-11-29 12:16:50)
- よくよく考えると原作プーさんの時点で「動くぬいぐるみ」という名伏しがたい存在な気がしないでもない -- 名無しさん (2024-11-29 19:53:35)
最終更新:2025年03月13日 06:31