パブリックドメイン

登録日:2018/01/07 Sun 01:16:31
更新日:2025/05/04 Sun 16:56:39
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突然だがあなたはドン・キホーテ100円ショップで買い物をしている時、こんな経験をしたことはないだろうか?

「お、あのネズミのDVD売ってるじゃん。ドンキor百均も気が利いて……
え、英語日本語・韓国語に対応!?しかも100円(税抜き)!? それにパッケージがなんかただの紙パックだし何コレ、安いってか安っぽ!怪しいから買うのやめよ」

一見すると海賊版DVDにも見えるかもしれないが、ドン・キホーテや100円ショップで堂々と売っていることからもわかる通り、法律的には セーフ な代物だ。
かと言ってディズニーにちゃんと許諾を取っているわけでもない(同社は把握こそしているだろうが)。
ではなぜ、著作権に滅法厳しいことで知られるディズニーを尻目に、ミッキーたちの出てくるDVDを100円で売れるのかと言うと、その作品が「パブリックドメイン」だからなのだ。


そもそも著作権は何のためにあるのか?


著作権とは、自分の作った作品がどう使われるのか、創作者自身が決められる権利である。
厳密には複数の権利の集合体であるが、単に「著作権」と言う場合、「著作財産権(著作物を利用して収益や名声を得られる権利)」を指すことが多い(本項目もそれに倣っている)。

さて、著作権は本来、最初に作った人の権利を守るためにある。
最初に画期的なキャラクターやストーリーを考え出したり、それを綺麗なイラストやアニメーションに仕上げたりした人が努力して得た利益を、後からコピーしただけの奴にかすめ取られたら誰だって理不尽に感じるし、そんな社会では創作活動も委縮してしまう。
また、せっかく作った作品を他人が勝手に変えることを好まない作者も大勢いる。
だから「人様の作品を勝手に真似したり内容を変えたりしちゃダメ! 使いたいならきちんと許可取ってお金払ってね」と著作権(法)を定めたというわけ。
要するに、「最初に作った人」に創作を続けてもらいつつ、「この世にないものを作ってやる!」と奮起する人も絶えないようにするための権利なのだ。

しかしその一方で、広く社会に浸透し一般的なものになった創作物をいつまでも保護していたのでは、そのこともかえって創作活動を制限してしまう。
「創作物はどこまで/いつまで作者のものか?」というのは難しい問題だが、多くの国では、
「作者の死去、もしくは作品の公表後50年~70年くらい*1経ったらその作品は公共のものとし、いちいち許可を取らなくても使えるようにしましょう」としている。
国が決めたこの年月が過ぎて、「著作権切れ」状態になった作品が「パブリックドメイン」*2となるのだ。

ちなみに「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」は最初から二次利用を一定の範囲で許可するもので、パブリックドメインとは全くの別物。

たまに誤解する人がいるが、たとえ作品自体がパブリックドメインでも、それが書籍なら出版した版元、音楽ならレコード会社に著作権が存在する
例えばパブリックドメインの曲を演奏したCDを、奏者に無許可でアップロードしたらもちろん著作権法違反である。


パブリックドメインの例


小説

日本国の著作権法では、「作者の死後70年たつとパブリックドメインになる」と定められている。
2018年の改正によって延長されており、それ以前は死後50年だった。延長が遡って適用されることは無いので、「1967年までに死去した作者の作品は50年、1968年以降の場合は70年」で著作権が切れる。

パブリックドメインの小説が読める場所として代表的なのは「青空文庫」。
1997年開設という老舗のサイトで、2021年現在で1万作以上の小説・詩・エッセイなどが登録されている。端末さえあれば、明治~昭和期の文豪の作品が無料で好きなだけ読めるようになったとは実にいい時代ではないか(言い回しや表現は昔のままだし、新装版などのように親切な解説とかも基本無いので、読みにくさを感じることもあるが……)。
なお「青空文庫に海外文学が少ない」と感じた方もいるかもしれないが、これは翻訳すると翻訳者に著作権が発生するため。日本への紹介が遅かった作家は期限切れも遅くなる。
もちろん「翻訳者が亡くなって一定期間過ぎている」なら翻訳版でもパブリックドメインになる。
また、著作権の切れた外国文学を原作文章から独自に翻訳・公開するのは自由なので、意欲ある人は挑戦してみよう(青空文庫でも有志が翻訳した海外小説がいくつか読める他、シャーロック・ホームズ作品を英文から翻訳し公開している「コンプリート・シャーロック・ホームズ」というサイトもある)。

こうした無料で読める環境がある以上、これらの作品は「内容だけ」で新刊として売るのが困難になっているため、最近では有名漫画家に表紙を描いてもらうなどして差別化を図るとともに付加価値を付けている。


音楽

小説同様、日本では作曲者の死後70年が原則。

一時期ダイソーでクラシックの100円CDが販売されていた。
クラシック曲はその多くがパブリックドメインなので安価販売はしやすい。
ただ一言でクラシックといっても、その範囲は中世から20世紀まで人によって捉え方が様々で、有料演奏あるいは編曲を試みる際は作曲者の没年に要注意。
例えば『火の鳥』や『春の祭典』で有名なストラヴィンスキーは1971年没のため、2024年現在だと著作権が切れるまでようやくあと20年を切ったところ。


映像

映画の場合は作成関係者が多数存在するため、著作権の期限は公表から起算して70年。

前述のように「格安DVD」はドン・キホーテや100円ショップ、一部ドラッグストアで堂々と販売されている。
大抵は中国・韓国の格安印刷所を使った安価なもの。特典映像なども収録されていない他、タイトル画面やパッケージも本編映像をそのままキャプチャーしたものが多い(新しく書き下ろすわけにもいかないため)。

なお、 吹き替え版には別の著作権がある という事情から、 よく知られている公式版吹き替え音声は用いられない
パブリックドメインDVDは大抵どこにも吹き替え担当声優が書かれていないが、一説には 声優養成所の生徒を使っている ともされる。
真偽は不明だが、基本的に声優のクオリティは期待できないと思った方がいい。
(筆者が見たディズニーの短編アニメではやたら声が低いドナルドや、やけにイケボのグーフィーなどかなり違和感のある配役になっていた)
また、原語音声を完全に消し切れておらず、吹き替え音声と被っている箇所もあるなどクオリティは雑。
音声クオリティを求めるなら、ちゃんと相応の代価を支払って「原語版+字幕」で見た方がいいだろう(こちらも「公式翻訳版が使えない」という理由で違和感のある字幕になっているケースがあるが……。)。

ニコニコ動画やYouTubeにも平然とアップされているので、お金を払ってまで見る価値は薄いかも……?
まぁあっちは本来アウトなはずの山寺版ドナルドがアップされているので、法を遵守したいならこっちの方がマシだろうが。
ネタ的な意味で楽しむのが正解かもしれない。

時々、「製作者側が社会情勢や大人の事情ヤバイと思って公式DVDには収録していない作品」がパブリックドメインとなることで人の目に触れるというケースも出てくる。

ちなみに『サイボーグクロちゃん』はニコニコ動画に全話アップされているが、あれはパブリックドメインではない。
著作者はちゃんといるはずだが、制作会社の倒産などのゴタゴタで「著作権がどこにあるのかわからない状態」にあるため、規約違反を誰も訴えられず放置されているのが現状なのだ。
著作権法違反は親告罪*3なので法律的にブラックなわけではないが、 かなりグレー なのは事実である。
最近は「アマゾンプライムビデオ」などの有料動画配信サービスでも視聴できるので、コンテンツにお金を落としたい人はちゃんとそちらで観るのがいいのではないだろうか。


医薬品

正確には著作権ではなく特許権切れだが。
「ジェネリック医薬品」は大抵コレ。





追記・修正は初稿執筆者の死後70年が経過してからお願いします(嘘です)。

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最終更新:2025年05月04日 16:56

*1 最長はメキシコの100年。

*2 公有の財産という意味。

*3 権利を持つ人が告訴しなければ起訴できない犯罪