ボッキディウム・チンチンナブリフェルム

登録日:2025/03/14 Fri 00:40:59
更新日:2025/04/05 Sat 21:21:30
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ボッキディウム・チンチンナブリフェル厶(Bocydium tintinnabuliferum)とは、カメムシ目ツノゼミ科の昆虫の一種。
日本人は早川いくを氏の著書『へんないきもの』でも紹介されていた「ヨツコブツノゼミ」の名前で初めて知った方もいるかもしれない。





■概要

「ツノゼミ」という名前に違わずセミと同じくカメムシ目ではあるが、セミ上科ではなく独自のツノゼミ科に属している。
後述する通り非常に珍妙な姿をしており話題になるが、意外にもツノゼミ科の昆虫は世界に広く分布しており、日本でも16種程が見つかっているという。


■特徴

◇生態

日中は木陰や葉っぱの裏などに止まって身を潜め、夕方から夜間にかけて主に植物の汁などを吸って暮らしている。
吸収しきれなかった汁は飛翔の際余分なウェイトになるのを避けるために排出され、糖分を含むため集まってくる蟻などと共生関係にあるといった生態。*1実際その生態はセミというより同じカメムシ目のヨコバイやアブラムシなどに近似している。
そのためツノゼミ科一部の種は作物を吸汁して加害する害虫になっており、リンゴを加害する種等が知られている。

ボッキディウム・チンチンナブリフェルムはブラジルに主に生息し、夜間に活動して樹液に集まると考えられているが、発見報告例の少ない希少種であるため詳しい生態は依然として不明となっている。

◇形態

ボッキディウム・チンチンナブリフェルムが属するツノゼミ科は、前胸部の甲殻が発達したと見られる名前通りの角のような突起を備えているという特徴があるが、本種はその中でも特に(チン)妙な姿をしていることで知られる。

  • 大きさ
体長わずか5mmほど。日本でもよく見かける同じカメムシ目のツマグロオオヨコバイ*2と比べても半分以下の大きさしかない小昆虫である。
そのため生息地でも発見すること自体が困難なレア昆虫であるため、研究が進まない理由の一つとなっている。


出典:Wikipedia
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%82%AA%E3%82%AA%E3%83%A8%E3%82%B3%E3%83%90%E3%82%A4)
簡単なサイズ感の比較。見たことのある人なら分かると思うがツマグロオオヨコバイ自体もかなり小さい(体長11~13mm程度)昆虫であり、その半分未満というボッキディウム・チンチンナブリフェルムの小ささがよく分かる。

  • ツノ
なんとも説明のし難い、異様な形のアンテナのようなツノが頭に生えている。
頭上から1本の柱状のツノが立ち上がり、その先端は左右と後ろの3つに枝分かれしている。
後ろ向きの枝は真っ直ぐにツノのように伸びており、左右のツノは更に途中から2本に分かれ、その途中には毛の生えた球状の物体が付いている。

このツノは敏感なセンサー……ではないらしい。つまりなんでこんな見た目なのかは全くの謎。*3
しかし近年では、メスへの求愛の際に鳴き声を反射させるスピーカーのような機能を持っているのではないかという仮説も立てられているらしい。


  • 名前
ボッキディウム・チンチンナブリフェルム(Bocydium tintinnabuliferum)という学名は、属名のBocydiumと種小名のtintinnabuliferumに分かれ、tintinnabuliferumの部分が本種の固有の名前である。

Bocydiumの語源は「小さく素早い」あるいは「牛のような装飾を持つ」という意味のギリシャ語であるとされる。Bocydium属には他にも南米に生息する17種程が確認されているが、いずれもツノゼミ科の中でも特に奇異な姿をしている。

一方のtintinnabuliferumだが、こちらは古代ローマ時代に使われていた鈴の一種、チンチンナブルム*4に由来する。
チンチンナブルムは風鈴のような構造になっており、青銅などの金属で作られた人型、ないし動物型の像の各部から紐の付いたベルが吊るされた形をしている。
家畜の首に付けたり、ドアベルとして使ったり、魔除け、特に邪眼の使い手を退けるお守りとして店先に吊るしたりといった使われ方をされていたという。
勃起した男性器をモチーフとした、現代人の感覚からすると大変奇異な代物だが、古代ローマでは男性器は「豊穣のシンボル」「幸運をもたらす存在」ともされていたのだ*5
ポンペイ遺跡の住宅街エリアからも出土しており、当時のローマでは広く普及していたようだ。近年では『テルマエ・ロマエ』辺りで知った方も多いのではないだろうか。

この風習は後に勃興する原始キリスト教にも受け継がれてゆき、カトリック教会の儀式に使われる儀仗用の鐘もラテン語でチンチンナブルムと呼ばれている。

語源としてはtintinnō(チリンチリンと鳴らす)に「〜のための道具」を意味する接尾辞のbulumが付いてtintinnabulumとなり、さらにそこに「〜を持つ」という意味の接尾辞ferが付されたことでtintinnabuliferumとなったそうな。


出典:Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%A0)
紀元前1世紀頃のものと見られるチンチンナブルム。
※コンプライアンス配慮の為、画像の一部を加工しています。

ボッキディウム・チンチンナブリフェルムは、枝分かれした角に丸い球体のようなものが付いた特徴的な形状を像の各部にベルが吊るされた形状のチンチンナブルムに準えて命名されている。


  • フィクションでは
  • 天装戦隊ゴセイジャー』に登場する彗星のブレドランはこのボッキディウム・チンチンナブリフェルムがデザインモチーフ。
    ボッキディウム・チンチンナブリフェルム、というかツノゼミをモチーフにしたキャラクターは非常に珍しい*6が、あの珍妙な外見をスタイリッシュなクリーチャーに昇華させたデザイナーの手腕は秀逸の一言。ちなみにブレドランにとってこの姿は仮の姿なのだが、本人が意図的にボッキディウム・チンチンナブリフェルムを模しているのだとしたら理由とセンスが気になるところ




追記・修正は、この角の形に意味を見出しても見出せなくてもいいので気にせずお願いします。






なお、このヨツコブツノゼミは本当にこういう学名です。
日本語として読むと、膨らんで硬化(ボッキディウム)した特定の部位(チンチン)面白がって弄ぶ(ナブリフェルム)かの様な単語が揃っていますが、日本語ではないのでそういう意味はないです。







……期待しているところ本当に申し訳ないんですが、ここからスクロールしてもオチはないですよ。いや、マジで。

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  • 何故か勃ってしまった項目
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最終更新:2025年04月05日 21:21

*1 植物の茎や根などのエサに針状の口吻を刺して吸汁する食性は他のカメムシ目であるセミやヨコバイ、タガメ、アブラムシ、その他カメムシ類に共通する性質である。

*2 いわゆるバナナムシ。

*3 実のところツノゼミ科の一部の種は木の葉や樹皮などに擬態するように進化してきたらしい事が判明しているのだが、ボッキディウム・チンチンナブリフェルムとその近縁種に関しては全くもって合理的に説明がつかない異様な見た目である。

*4 「ティンティナブラム」や「チンチナブルム」とも言われる

*5 他にも生殖器を神聖視する文化は世界各地に存在し、我が国でもその信仰の表れとされる石棒が出土している。

*6 『テラフォーマーズ』の登場人物達は殆どがツノゼミをベースとした改造手術を受けているが、これはあくまで「昆虫以外をベースにした手術を受けた者でも昆虫型と同じ筋力や耐久力を獲得するための下地のようなものであり、デザインや特殊能力には反映されていない