Punktown(世界観)

登録日:2025/05/05 Mon 04:21:08
更新日:2025/05/16 Fri 00:08:40
所要時間:約 14 分で読めます



※日本語ほぼ未翻訳作品のため作品名や登場人物名など意訳を含みます。


Punktown(パンクタウン)は米国の小説家、ジェフリー・エドウィン・トーマス(Jeffrey Edwin Thomas)が創出し展開しているサイバーパンク世界観*1

ダークサイエンスフィクションを基本として、ノワール・ホラー・ファンタジークトゥルフ神話など作品ごとに様々なジャンルの要素が加えられている。

ほぼ全作品が2025年現在未翻訳なため日本での知名度は低いが、海外ではブラム・ストーカー賞やジョン・W・キャンベル賞の最終候補にノミネートされたりSF文芸誌に度々再録されるなど高く評価されている。


近年はクトゥルフ神話TRPGにデータが追加され舞台設定に利用される、他の作家によるアンソロジー小説も出版されるなどシェアワールドとしての展開も行われている。




■世界観

時代設定は地球人類が宇宙に進出した近未来。機械工学やバイオテクノロジーが遥かに発展し生体と機械の融合や、有機物でできた機械の開発も行われている世界観。

人類は同次元内の宇宙人だけでなく、12の異次元世界とも接触し様々な異種族と関わりを持つようになり、
クローン人間などバイオテクノロジーにより造られた生命や、突然変異のミュータント、知性を持つオートマトンや、上記の次元とも更に異なる次元領域のアウトサイダーなども存在する。


地球人が惑星オアシスに建築し、その後多くの宇宙人や異次元人が移り住んだ巨大都市パクストン(通称パンクタウン)が主要な舞台。
テクノロジーは高度に発展しているものの種族の軋轢、機械・人造生物の権利問題、貧富拡大など様々な問題を抱え、スラムが拡がりストリートギャングが跋扈、薬物汚染に人造生物の反乱、邪神教徒の暗躍などなど日常のすぐ隣に危険が存在する。

「ブシドウ」、「カブキ」、「セップク」など地球の日本的な文化も多く伝わっており、女性たちの間では「ブリッコスル」ことが流行している。


■主な種族

  • 地球人(Earth people)

  • チョーム(Choom)
惑星オアシスの原住民。耳まで大きく裂けた口を持ち下顎の臼歯が発達した人型宇宙人。根菜が伝統的な主食。イルカのような愛嬌のある笑顔が特徴的。
地球人が来訪した時点では、地球の19世紀程度の技術力を持ち温厚な風土だった。他種族の来訪を歓迎して柔軟に取り入れることで共に発展したが乱暴な者が増えている。

  • カリアン(Kalian)
惑星カリ出身の灰褐色の肌を持ち、白目のない眼を持つ美男美女揃いの宇宙人。ターバンと金色な伝統衣装を身に付ける。
母星では離島などに住む一部の部族を除いて男尊女卑文化が徹底されている。女性の髪や肌の露出は顔を焼かれる重罪。
部族によって教義の内容に差異はあるものの種族のほぼ全員が悪魔神ウッギウトゥを信仰している。
パンクタウンでは若者を中心に露出の多い女性や信仰を捨てる者も増えて来ている。

  • シナニーズ(Sinanese)
異次元世界の惑星シナン出身の青い肌を持つ人型宇宙人。
地球人からは見分けが付かないが大国ハ・ジーン(Ha Jiin)と小国ジン・ハー(Jin Haa)の部族が存在し対立している。
ハ・ジーンは宗教を重んじる文化。女性の手の美しさを尊び、貴族階層の女性は固定剤で手を結晶化させている。

  • ティッキホット(Tikkihotto)
容姿はほとんど地球人と変わらないが、眼だけが硝子のように透明なイソギンチャク状の触手の宇宙人。暗闇の中でも機能する、空気中の微生物まで目視できるなど他種族に比べて著しく高感度な視覚を有する。
会話でのコミュニケーションは他種族と大差ないが、文字は多重に意味を込めた複雑な言語を使用。恋人への理解を深めるため体の穴に眼の触手を差し込む傾向がある。

  • コレオプトロイド(Coleopteroid)
忌々しい見た目の甲虫宇宙人。地球人の宇宙進出に貢献したことで一定の地位を得てはいたが、他種族からは嫌われトコジラミと蔑まれている。
リンボの死者の魂を啜り取り食料とし、紫色のガスを排泄する。このガスは強力なドラッグの原料となる。
アウトサイダーに対する知識・信仰心が豊富で度々召喚を企てる。ギャザラーの召喚を阻止された際に、リンボの存在と共にこれまでの所業が露呈。大規模に粛清された。
これらの経緯から、舞台次元出身の宇宙人というのは偽りでアウトサイダーではないかと疑惑を向けられることがある。実際、TRPGでは奉仕種族扱いで正気度判定も発生する設定にされている。

  • アヌル(Anul)
二本の細い首で支えられたシュモクザメのような頭部を持つ宇宙人。
オーブウィーバーと呼ばれる腫瘍病を罹患しやすい体質で、この病をパンクタウンに持ち込んだ元凶とも噂されている。
腫瘍を食べるために意図的に病を流行させていると陰謀論が囁かれ、実際薬で儲けるために感染をコントロールするという近い行為をしている。

  • ヴレッシ(Vlessi)
アヌルと同郷の吸血鬼と噂される謎の多い種族。
体と手足は細長く足先は蹄。頭部だけが巨大で項垂れたように前方に垂れ下げられている。頭は人間の骨盤のような形状で空洞だらけ、外見からは脳が存在するようには見えない。

  • アンツェ(Antse)
異次元出身の灰色の肌の無毛の人型種族。
年に一度、並行次元に棲息するヒラメと呼ばれる生き物を舞台次元に引きずり出し狩りを行う習慣を持ち、ヒラメの皮を加工した衣服だけを身に纏う。

  • ワイアイ(Waiai)
頭部が巨大でドーム状の人型種族。頭を取り囲むように頭蓋骨を貫通する歪曲した穴が開いている。目はなく超音波で周囲を把握する。
女性を神聖視しており、冒涜した者には命で償わせる文化を持つ。

  • ロ・ルード(L'lewed)
粘土のような肉体の異次元出身の種族。パンクタウンでは生命維持装置を兼ねた人間型の機械で活動する。
母星では猿のような下等生物の口から入り込み窒息死させて下腹部から出る宗教的儀式を行っている。この儀式を定期的に行わないと自他共に永久に穢れた者と見做される。
内心では人型種族を劣等種と見下しており、外交官特権を持つ大使が3名を殺害したことで種族単位で追放されそうになっている。

  • ミーヒ(Mee’hi)
シロアリサイズの小型の種族。パンクタウンでは人間型の機械に部族単位で乗り活動する。
他生物の死体内で暮らす生態があり、劣等種と見做した人型種族を巣にしたことで種族単位で追放されそうになっている。

  • ダクヴィビーズ(Dacvibese)
犬のグレイハウンドを後ろ足で立たせたような外見の宇宙人。
オアシスでは、あまり見かけられない種族でまだ文化の摺り合わせが進んでいない。不快に感じた相手の顔に唾を吐きかける文化を持つ。

  • ミュータント
突然変異者の総称。元となった種族とほとんど変わらない者から、手足も頭もないが思考力はある肉ボールまで程度は様々。

  • クローン
開発当初は法律の整備が追いつかず、様々な種族に乱造され生殺与奪も製造者に握られていた。
顔のパターン数が少なく簡単に天然の人間との区別が付けられる青の戦争に投入された地球人クローンの生き残りが、この呼び名で括られることが多い。
偏見の眼で見られがちな一方で、指紋や顔などが同一の人物が大量にいるため犯罪を行っても捕まりにくい利点を持つ。

  • ロボット
知性の有無、形状など様々。
人間種族の雇用を奪うためトラブルが多々発生している。
法令で人間の労働者が機械よりも多く存在するよう定められているが掻い潜る企業が後を絶たない。
パクストン・オートワークスで働いていたロボットの数体が労働者の反乱の混乱に紛れ逃走。工場から持ち逃げした機材を活用して子孫を製造して繁殖。資金調達と人間を堕落させて楽しむために脳に刺激を直接送り込みドラッグとして機能する装置を販売している。また、培養した人皮で人間に擬態してハニートラップや自爆テロを行っている。
100%有機物質で造られたブランクピープルと呼ばれるロボットは知能は低いがインプットされた命令に従順。倒産した施設などに放棄された者が野生化している。
その他、機械と有機素材の混合ロボットや人間の意識を忠実にコピーしたAIなども存在している。


これら以外にも大小様々な種族が存在している。


■アウトサイダー(古き者)・影なる神々(旧神)

いわゆるクトゥルフ神話的な別次元の存在。
太古の宇宙の覇権を賭けて争ったとされる本物の神とも、力を持つ宇宙人だとも伝えられる存在。影なる神々が勝利し、アウトサイダーを次元の外側に封印したとされている。

ネクロノミコンなどの希少なオカルト文献や、幾つかの種族の神話などで断片的に伝えられており、上記の他にも様々な名で呼ばれている。


  • ギャザラー(Gatherer)
コレオプトロイドがリンボの死者たちをエネルギー源に呼び出そうとした存在。
大きさ色形の異なる5対の眼を持つ巨大な怪物。パンクタウン上空に開いた空間の亀裂から蜘蛛に似た脚を伸ばす。
TRPGでデータが作られた際にアトラク=ナクアの化身と設定された。

宇宙の知的生命体全ての創造主と伝えられる螺旋の悪魔神。

旧支配者に対峙するために人間の手で創り出された旧支配者。

  • オギム(Ogim)
異次元世界ユゴスに棲む種族。ユゴスから舞台次元への物理的な移動は困難で、精神を乗せて操る代理の体を使用している*2。本来は昆虫に似た姿をしているらしいが詳細不明。
原語での名前を逆から読むと……。
アウトサイダーでは珍しく、宇宙人として堂々と一部の人間と交流を持っているが下記の短編のように暗躍している疑惑がある。

  • クラブ(Crab)
見た目からこう呼ばれただけで正式な名称は不明。
甲殻類に似ているが頭部だけが触手の塊となっている怪物。肉体組織は動物よりも植物に近い。
地下トンネル内の廃墟となった炎の目の教会を集団で乗っ取り、脳カプセルを守護すると共に人間を生贄に捧げる儀式を行っていた。
Ogimと元ネタは同じだが関係は不明。

  • ウタラ(Utalla)
ウッギウトゥを崇拝する悪魔。
『Monstrocity』の作中でネクロノミコンを盗んだ烏天狗のような見た目の人物がウタラではないかと推察されている。


■パンクタウンの地域・企業、他の主要な舞台

  • パクストン大学
パンクタウンの最高学府。周辺は商店や憩いの場も多く人々で賑わっている。

  • ボーモント女子高
パクストン大学と並ぶ名門校。

  • パクストン転送基地
別次元とのワープ設備が備えられた転送施設。
6つの次元との移動に利用されている。

  • シータ転送基地
惑星シナン専用の転送施設。

  • キャンベラモール
総合商業施設。

  • オクトプレックス
「スマートマター」と名付けられた急激な速度で増殖して外殻を残して死滅する人造微生物を利用して建てられた8棟のマンション。低所得者が多く住んでいる。

  • アルヴィンプロダクト
生まれつき頭も羽根も持たない鶏や頭も足もない豚など、遺伝子組み換えした家畜を工場で培養して販売していた大手食品企業。

  • 福田バイオファーム
バイオテクノロジーで製造した生きた家具を販売している企業。
パンクタウンで大流行のぬいぐるみ「カワイイドールズ」のうち、生命を持つものの製造を行っている。
アルヴィンプロダクトを併合して以降は、食肉生産も行いデッドストックの商品名で培養肉を販売している。

  • セファロンコーポレーション
培養した脳細胞を使用したバイオコンピューターの大手販売企業。
クラブが守護していた脳カプセルが破壊された直後、突如全ての製品が故障し倒産したため関連が疑われている。

  • 炎の目の教会
ティッキホットが運営していた影なる神を祀り、五芒星の中心に燃える目が描かれたシンボルを掲げていた教会。
旧教会は大地震の際に地下トンネルの崩壊で地底に沈み、別の土地に新教会が移転したが活動は縮小している。

  • ティンタウン
不法滞在者のミュータントたちに占拠され警察権力も及ばない無法地帯。

  • ミニオシス
惑星オアシスに地球人が作ったもう一つの植民都市。
トーマス兄弟の作品の主な舞台。

  • 地球
地球人の母星。

  • 惑星シナン
シナニーズの故郷となる異次元に存在する惑星。青い色の植物のジャングルが拡がっている。
ハ・ジーンとジン・ハーで争っていたが、現在は中立地域で隔てられ冷戦状態となっている。
過去に地球人の侵略を受け、青の戦争と呼ばれる戦いが繰り広げられた。

  • ウルトラネット
電脳通信網。画面越しにサイトを閲覧する現実的な利用の他、脳や指先などに埋め込んだ接続端末でダイブする仮想現実としても存在。現実世界と遜色ない空間が拡がり五感に刺激のあるリアルなVRを体感できる。
ダイブの深度にもよるがウルトラネット内で死ぬと現実の肉体も死亡することがある。

  • リンボ
科学的に観測された死後の世界。
エーテルに溶け込んだ電気信号として死者の意識の断片が保存されている。
死者と会話できる子供向け玩具も発売されているが、会話が成立することは少なく呻き声などがほとんど。

  • 肉の世界
舞台次元と二重に重なって存在する何もかもが生肉でできた世界。
時折迷い込んだ者が、大地の傷口から出現する肉人間に襲われ犠牲になる


■組織

  • フォーサー
パンクタウンの警察機関。

  • テンメン
10人のメンバーで構成されている自警団。

  • ヘルスエージェント
保険局の職員。伝染病発生時には絶対的な権力を付与されるが代償に行動を細かく監視されている。

  • 労働組合
組合の検査官は書類など無しに抜き打ちで査察する権利を持つ。

  • 無慈悲な姉妹たち
パクストン大学、ボーモント女子高のエリート女学生で構成される学生秘密クラブ。
ホームレスを襲撃し去勢すること儀式を達成することで入会が認められる。

  • 旧神の子供たち
主に地球で活動するアウトサイダーに対抗する勢力。
当初はネクロノミコンの焚書などをウェブサイトなどで活動を大々的に告知していたが、報復を受け徐々に潜伏。現在では存続が疑われるほどに表舞台に現れていない。


■主な作品

  • The Reflections of Ghosts(1995年)
第一作。他の短編小説と共に単行本『Punktown』に収録。
自身のクローンをアートの素材として利用するアーティストのドリュー。
販売したクローンが残虐な目的に使用されていると知ってなお彼の行為はエスカレート。クライアントの依頼で女性化した自身のクローンを製造するが……。

  • The Bones of the Old Ones(1995年)
  • The Avatars of the Old Ones(1999年)
  • The Young of the Old Ones(2005年)
オアシスの警官ベルがアウトサイダーに関わる陰謀に巻き込まれたことでクビとなりアウトサイダー専門家として成長していく3作。

  • Monstrocity(2003年)
クリストファー・ルビーの恋人・ギャヴィはお遊びでネクロノミコンの呪文を唱えて以降、性格が豹変しクリストファーとも疎遠となる。
クリストファーは原因となったネクロノミコンに関して調べるが近辺で多発する異変から、それが単なるオカルト本ではなく本物の魔導書だったことを知る。
遂には怪物に成り果てたギャヴィを殺めることになったクリストファーは、街を蝕むアウトサイダーの信奉者に立ち向かうことを決意する。

  • Everybody Scream!(2004年)
パンクタウンフェスティバル最終日の裏で張り巡らせれたコレオプトロイドの陰謀を様々な人物の視点から描いた長編。
『Monstrocity』と共に作中世界内でも、ノンフィクションの告発書として出版されている。

  • Deadstock(2007年)
探偵ジェレミー・ステークは盗まれたぬいぐるみ・ダイオウイカの捜索を依頼される。
子供の玩具を探す簡単な仕事のはずが、ダイオウイカにはある秘密がありギャングも巻き込んだ予期せぬ大事件へと発展していく。

  • Blue War(2008年)
過去に地球人と原住民の戦争が起こった惑星シナンで、パンクタウンそっくりな有機都市が突如発生し急速に拡大し始めた異変にジェレミー・ステークが立ち向かう長編小説。

  • Health Agent(2008年)
致死率100%の伝染病によって全てを失った保健所職員が再起に挑む長編。

  • Open Minded(2013年)
義体の製造を行っている企業がOgimから、彼らが開発した人造脳が乗り操縦できる体の製作を依頼される。
同時期に著名人が脳のない死体で発見される連続殺人事件が発生しているが関連は不明。

  • Red Cells(2014年)
別人に成りすまし刑務所に入ったジェレミー・ステークが、所内で発生した連続殺人事件を解決するために行動を起こす。

  • Drawing No.8 (2017)
  • Gathering Forces(2018)
  • Wunderwaffe(2014)
邪神ウッギウトゥの化身・黒い寺院の召喚から撃退までを描いた3作。

  • The New God(2024年)
新興ギャングの構成員コリン・レックスは、久方ぶりに旧友と再会し旧交を温めるが、突如友人が怪物に変貌。
コリンは彼の脳内データをスキャンし、未知のコンピュータウイルスに感染していたこと、彼の仕事先の人間にも伝染し感染が拡がっていることを把握、
ギャングの技術屋、元カノのゴーストAI、クローン退役軍人などの仲間と共に元凶を探る。

  • Transmissions from Punktown(2018年)
パンクタウンを題材とした複数の作家による短編小説アンソロジー。
本作に収録のウィリアム・メイクルの短編『罅穴と夜想曲(Lacunae and Nocturnes)』がパンクタウン関係の作品で唯一日本語訳されている。

  • Punktown: A Setting Book for Call of Cthulhu and Basic Roleplaying(2018年)
パンクタウンの世界観をクトゥルフ神話TRPG(6版)のデータに落とし込んだサプリメント。


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最終更新:2025年05月16日 00:08

*1 世界観の基盤の構築にはジェフリーの友人のトーマス兄弟も協力している。

*2 人間そっくりだが動きがぎこちない。機械か培養された肉体と推測されるが不明