シェアワールド

登録日:2020/02/10 Mon 00:36:26
更新日:2024/03/15 Fri 07:53:23
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シェアワールド(シェアードワールド、シェアードユニバースとも)とは、複数の作家間で共通して使用される世界観のことである。



概要

「シェア」の名の通り、複数人の作家が同じ世界観を分け合い物語を展開すること。
この場合、映画やゲームのように最初から複数人の作家が関与する作品は基本的に指さず、主流なのは小説や漫画。
一番多いのは小説だろう。後述のSCP Foundationのように「怪しいものの記事」なんていう変わり種をシェアする例もあるが。

なお、一人の作家の複数の作品で世界観を共有している場合(伏見つかさ作品など)は、あまりシェアワールドとは言わない。広義では含めることもあるが。*1
また、特定の作品が最初にあり、そこから複数の作品が派生しているようなケースの場合も、どんなに作家ごとの独自色が強かったとしてもシェアワールド扱いされる事は少ない。

最初からある程度世界観が固まっているため、後から参加する作家にとってはストーリーさえ考えてしまえばある程度作品になるのが大きな強み。
ただし、逆に欠点としては最初から枠組みがある程度決まり切ってしまっており、そこから大きく逸脱することが難しい、ということにある。
そのため、最初からシェアワールドを前提として世界観を組み立てる場合は「あえて」細かいところまでは決めず基本的な設定だけにとどめ、それぞれの作家が個性を発揮しやすくすることも多い。
また、一人の作家があまりに世界観の根本に踏み込んだ設定をしてしまうと、後の作家の自由度が低くなってしまうため、「こういう設定だけはしてはダメ」というのを先に決めておくこともある。The Backrooms はそれが無かったが故に独自性が薄れて本来の魅力が消え失せたのではないかという指摘が存在する。発祥が発祥なだけに抑えるのは無理だったと思うが


スターシステムやコラボレーション(クロスオーバー)とは似ているが、厳密には非なるもの。
「世界観の異なる別作品のキャラクターが、別作品での設定・人物のまま登場する(辻褄合わせとして異世界からやってきた等の理由づけがされることがある)」のはコラボレーション。
「世界観の異なる別作品のキャラクターが、外見は同一のまま、その世界観に合わせて性格や立場、設定を変更された状態で登場する」*2のがスターシステム。

文字通り世界観(ワールド)(作品の設定)を共有(シェア)していればそれはシェアワールドであり、そこに別作品のキャラクターが登場するかどうかは問われないのである。



オープンシェアワールド/フリーシェアワールド

シェアワールドは複数の作家で設定を共有した商業作品群を指す事が多く、基本的に二次創作など外部の者が設定に関わる事はできない。
これに対し、特に商業的な枠組みがなく、誰でも自由に書けるシェアワールドをオープンまたはフリーシェアワールドと呼ぶ。
外部参加者の利用を認める「一般に開かれた設定」とも言い換えられる。
しばしば創作系で使われる用語であり、特にweb小説に多い。

ただし、厳密にはシェアワールドに比べて定義が曖昧で、人によって考え方は異なる。
というのも、
  • 誰でも参加可能なタイプ
  • 提唱された設定の制限を受けるタイプ
とざっくり分けても大きな違いがある。

前者は「大まかな枠組みは共有するが、時系列を共有せず、枠組みをもとに世界観設定を作家側で自由に行ってもよい」とするアプローチ。
この方式のメリットとして作品間の衝突を気にする必要がないため、SCP FoundationやVIPRPGのように1万を超える多数の作品を共存させることも可能になる。*3
代わりに参加無制限であるため玉石混交になり、品質に下限がなくなる。二次創作そのものであり無秩序になる危険を孕む。

後者は「枠組みを共有し、かつ提唱された設定を厳守し、あまりに逸脱した設定破壊的なものを作家側が行ってはならない」もの。
制限が加えられるため世界設定が崩れにくく、複数の作家が作品を持ち寄って世界を作り上げる事になり、よりシェアワールドに近くなる。
神曲奏界ポリフォニカシリーズのように、各作品の作者とは別にシェアワールド全体の設定管理を行う人が別にいる例もある。
代わりにフリー/オープンという名前に反して参加ハードルが高くなり、内輪向けの閉じたキャンペーンになる危険を孕む。


これらの考え方はTRPGと親和性が高い。
むしろ、「ルールブック」が代表商品であるTRPGにおいては、(公式書籍を除けば)全てオープンシェアワールドと言ってしまっても過言ではない。
公式に含まれる事はない代わりに誰でも参加が可能で、プレイの数だけ物語が創られるのである。



代表的なシェアワールド作品

クトゥルフ神話

H・P・ラヴクラフトが創作した神話体系。
「未知なるもの、理解できないものの怖さ」という新しい観点を盛り込んだ大宇宙的な広がりを伴ったコズミックホラーが特徴的。
正確にはラヴクラフトは別にシェアするつもりで作品を作ったわけではなく、当初は友人から「ラブクラフト君の書いた怪談の設定で僕も一作書いてみたよ!」といった文通感覚で複数の作家が出版・交換するだけだった(作家間のパロディ小説は、インターネットの無かった時代の作家同士の交流としてはポピュラーな遊びだった)。
そんなジョークの産物も積み重なれば独特の魅力を放ち始め、ラブクラフトの死後にダーレスを始めとした信奉者(=後輩作家)が既存の作品群+新規作品を神話として体系づけたのが現在のクトゥルー神話の原型である。
なお、現状は特に明確な境目が存在せずオープンシェアワールドに近い状態であるため、基本 クトゥルーの名を冠して出された全ての作品がクトゥルー神話に連なる作品 ということになる。

マーベル・シネマティック・ユニバース

スパイダーマン』『アイアンマン』『マイティ・ソー』『キャプテン・アメリカ』などを擁するマーベル社の映画シリーズ。
そもそも、原作となるコミックがシェアワールド形式で展開されており、それを実写映画で実現したのがこのシリーズである。

『マーベル・シネマティック・ユニバース』は第1作目の『アイアンマン』からシェアワールドを意識しており、『アベンジャーズ』で各作品の主人公が共演を果たしたのをきっかけに本格的なシェアワールドに発展していった。

最大の特徴はシネマティック・ユニバース「すら」コミックのシェアワールドの一つとして扱われている点である。
そのため原作コミックと映画版で矛盾点が生じても「平行世界の出来事なので」という魔法の言葉で許容されている。
各世界にはEARTH-○○○*4と通し番号が振られており、コミックのメイン世界はEARTH-616、設定を一度整理したアルティメット・ユニバースはEARTH-1610と振られている。
そして散逸していた映画権利の整理にカタがつきつつあるフェイズ4では、ライミ版スパイダーマンやアメイジング・スパイダーマンなどの過去作映画の世界も平行世界(マルチバース)と位置付けられ、時空を超えたクロスオーバーが実現することとなった。

DCフィルムズ・ユニバース

スーパーマン』『バットマン』『ワンダーウーマン』『ザ・フラッシュ』などを擁するDCコミックスの映画シリーズ。
前述のマーベル・シネマティック・ユニバースと同様、原作となるコミックがシェアワールド形式で展開され、それを実写映画で実現したもの。シリーズとしてこちらの方が後発となる。

『DCフィルムズ・ユニバース』は第1作目の『マン・オブ・スティール』の時点では、あくまで様々なキャラクターが出演するシリーズを予定していたが、『スーサイド・スクワッド』からはシェアワールド方式に変更された。しかし『ジャスティス・リーグ』以降はシェアワールドを意識しつつ各作品の個性を伸ばす方向にシフトしつつある。

DCコミックスではコミックのマルチバースと各メディアミックスは独立した存在で描かれている。その代わりに実写ドラマのシェアワールド『Arrowverse』で展開されたクロスオーバー『クライシス・オン・インフィニット・アース』で、『DCフィルムズ・ユニバース』を含めたほとんどの実写化作品が同じマルチバース出身であると語られた。

フォーセリア

ロードス島戦記』『ソード・ワールド』『クリスタニア』の舞台となっているファンタジー世界。
国内発のファンタジー系シェアワールドとしては最大規模を誇り、関連作品の多さから細かい設定も非常に多い。

神曲奏界ポリフォニカ

「音」が力を持つファンタジー世界を舞台にしたシェアワールド作品。
作家ごとの作風の幅がかなり広いのが特徴の一つで、ハードボイルドミステリーから、学園ラブコメ風作品まで色々と揃っている。
また、「横」の広がりだけでなく、「縦(時間軸)」の広がりも意識されており、メインの時間軸からかなり過去のストーリーも同時展開されている。

ソードアート・オンライン

特に公式の世界観についての名称があるわけではないが、「VRMMORPGが普及した世界における冒険譚」を描く作品であることは共通している。
漫画版やゲーム版、劇場版などを除いても時雨沢恵一による「ガンゲイルオンライン」世界を描いた『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』と、
渡瀬草一郎による『ソードアート・オンライン オルタナティブ クローバーズ・リグレット』という小説作品がある。

SCP Foundation

「異常存在を集めている秘密組織『財団』が裏に存在する世界」という設定のもとに存在するシェアワールド。
ファンが考案した作品を投稿する専用のサイト「SCP Foundation」が存在しており、この系列の作品のほとんどはそのサイトに集まっている。また、同サイトに投稿されている作品は(明言されてはいないが)事実上の公式作品的に扱われているのが特徴。
また、投稿された作品は基本的に「収容した異常存在の取り扱い説明書」という設定なので、理由がない限り公式文書のような堅い書体で書くというルールがある。

そもそもの発端が ネットに転がっているキモイ画像になんか怖い解説を付けて回ろうぜ 的なアングラな趣味でありながら、同好の士が集まったことで一大規模の作品の集まりと化した特異な経歴を持つ作品群。
その発生経歴ゆえ、他のシェアワールドならば大抵はいる「メインの作家」というものが存在しない。

加えて「公式設定」と呼べるものがほとんど存在せず、「異常存在を集めている組織『財団』が裏に存在する世界」くらいしか共通する部分はない。
強いて言えば、多くの作家の間で頻繁に使われる設定は「カノン」として体系づけられることもあるが、そのカノンを採用するかどうかすら作家個人の判断に任せられており、創作の自由度は非常に高い。

……反面、各作家が好き勝手にやっているが故に作品の出来栄えも保証されておらず、その対策として 一度形作られたものが明確に抹消 されることがあるのも他のシェアワールドとの大きな違いだろうか。


水龍敬ランド

これもシェアワールドとしては特異な発生経歴を持つタイプ。
そもそもの発端は ガチアヘ系エロ漫画 を得意とするエロ漫画家、水龍敬に対しての「最終的にエロ複合施設のオーナーになってそれを漫画化する自家栽培漫画家になりそう」というツイート。どういう発想だよ
この発想に当の水龍敬自身が乗っかって自身の同人誌に描いたのが、架空のテーマパーク「水龍敬ランド」である。
そこはあらゆる性のしがらみがないあらゆる意味でのフリーセックス遊園地であり、某有名遊園地をパロったりパロってなかったりするようなユニークかつエロいアトラクションの数々から人気を博した。

……で、その世界観に魅了された多くの作家が「自分の思う水龍敬ランド」をツイッターなどで呟いたりしている内に、 水龍敬自身から「ご自由に想像ください」 と許可が出たことで二次創作から派生した一種のシェアワールドと化している。

灼熱の竜騎兵(レッドホット・ドラグーン)

田中芳樹作の、ある人工惑星を舞台とした架空戦記。銀英伝やタイタニアのような艦隊戦はなく、むしろゲリラ戦(と謀略)がメインなのが特徴。
作品世界には、舞台となるザイオン以外にも、いくつかの人工惑星があり(人工惑星の他にも、太陽系内の惑星にも植民が行われている)、それらの惑星を含む太陽系世界がシェアワールドとなっており、数名の作者による作品をまとめたシェアワールドノベルも刊行されている。

もしもシリーズ(VIPRPG)

RPGツクールシリーズを使ったシェアワールド。
前述の通り世界観が作者に委ねられていることもあり、ガチガチのハイファンタジーから現代、未来的SF、果ては剣と魔法とスマホみたいな文明の利器と巨大ロボが平然と共存していたりする世界があるように節操も何もあったもんじゃない世界観の幅が恐ろしく広いのが特徴。
また、制作ツールがゲーム制作ツールであることもあり、RPGからアクションゲーム、日常系見るゲ*5まで作品のジャンルも様々。

流石にそれはシェアワールドと言わないのでは、と思われるかもしれないが、割とシェアワールドの体は為している。
と、いうのも、VIPRPGでは他作品に便乗して作品が作られることが多く、キャラの設定を好きな作品から引用したり他作者の作品に勝手に続編を作ったりなど、自由にやっているからこそリスペクトやオマージュで世界観設定がシェアされることが多いのだ。
魅力的なキャラクターが多数存在するので、好きなキャラクターを各々の作者がプッシュし(推し)、それに感化された他作者が雪崩のようにそのキャラの作品を広げていくなんてこともしばしば。

各作家が好き勝手やりまくっている上に匿名で作品を投下できるシステムも存在し、作品の抹消などのクオリティを担保するシステムが一切存在しないどころか、低クオリティの作品でもとりあえず肯定しておく文化があるために作品の出来は玉石混交であるが、その反面敷居は低く、しかも創作の自由度は最大級に大きい。


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最終更新:2024年03月15日 07:53

*1 この場合、「〇〇シリーズ」等と呼ばれることが多い。

*2 手塚治虫作品の猿田シリーズなどがそれで、容姿こそ同じだが性格も名前も立場も別人にされている

*3 ただし、狭義ではこのようなパラレルワールドをシェアワールドに含まないこともある。Wikipediaに出典もなく書かれた文章であり、信憑性には大きく疑問符がつくが。

*4 例えばシネマティック・ユニバースはEARTH-199999。映画版X-MENはEARTH-10005で、アベンジャーズの世界とは異なる。

*5 会話やイベントを見る作品のこと。ビジュアルノベルに近いか