登録日:2026/03/29 Sun 02:49:37
更新日:2026/05/28 Thu 08:21:37
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『惑星』(The Planets)とは、
イギリスの作曲家
グスターヴ・ホルストによって作曲された音楽であり、彼の代表作ともいえる作品となっている。作品番号は32番。
第4曲の「木星」は特に有名な曲であり、耳にした事がある人も多いだろう。
【概要】
全7曲から成る管弦楽の組曲であり、当初は「惑星」と言う名前ではなく「7つの管弦楽曲」となっていた。
作成は1914年から始まり、その後1916年に完成と、2年もの歳月をかけてこの曲を仕上げている。
その後、1917年にオーケストラ用の編曲がなされ、翌年の1918年に初演。
国際的な成功を収めて世界での彼の知名度を大きく上げる結果になった。
「惑星」の名前からも分かる通り、各曲は
太陽系における
地球以外の惑星の名前が充てられており、火星と水星のみ順番を入れ替えた状態で、
太陽から近い順番に曲が設定されている。
1曲当たりの長さは最も短いのが「水星」の約4分。最も長いのが「土星」の約10分で、7曲すべての演奏時間を総合すると通しで聞く場合、およそ50分弱程度となる。
またハイテンポな曲とスローテンポな曲を交互に入れ替えながら展開し、全体を通してメリハリがかなり強い作風になっている。
実は各曲は天文学的な見地からではなく、占星術……いわゆる「星占い」に着想を得ており、曲ごとに異なる「副題」が設定されている。
惑星にはローマ神話に出てくる神々の名前が付いているため、そちらがモチーフになっているのではないかと考える人もいるかもしれないが、これに関しては一致しているものもあればそうでないものもある。
【各曲紹介】
上述した通り、「火星」と「水星」が逆になっている部分以外は太陽に近い順に曲が作成・展開される。
知名度で言えば冒頭で述べている通り「木星」が群を抜いて有名だが、それ以外の曲についても名曲揃いとなっている。
●火星 ~戦争をもたらす者~
Mars, the Bringer of War
第1曲。
単純な知名度は「木星」に次いで高く、(副題からも何となく察することが出来る通り)全体を通して戦意と恐怖を掻き立てる様な雄々しさ・激しさを伴った曲風になっている。
作成された時期が時期なだけに、第1次世界大戦の戦火のイメージを曲に組み込んだのではないかと評されることがあったが、ホルスト本人はそれを否定している。
4分の5拍子と言う特殊な拍子を採用しており、バイオリンの弦を弓の木の部分で叩く「コル・レーニョ奏法」と言うこれまた特殊な奏法も組み込まれているのが特徴。
時に不穏に、時に強烈な勢いを持って展開される様は、さながら
某暗黒卿が暗躍する場面を連想させる。
7曲を通しで聞く場合真っ先に展開される部分になるため、いやがおうにも印象に残る部分になる事は間違いないだろう。
●金星 ~平和をもたらす者~
Venus, the Bringer of Peace
第2曲。
「火星」とは打って変わり、夕暮れ時を思わせる様な安らぎと穏やかさに満ちた、落ちついた曲風に移っていく。
主要部の旋律にはホルスト自身が手掛けた別曲「A Vigil of the Pentecost(ペンテコステの徹夜祷)」の旋律箇所が流用されている。
火星の英語名マーズが戦争の神であり、副題もそのまま「戦争をもたらす者」であるのに対し、金星の英語名ヴィーナスは愛と美の女神であり「平和をもたらす者」とは完全に異なるとは言えないまでも少しニュアンスが異なる存在となっている。
曲風が正反対のものになっている点も踏まえると「火星」→「金星」の流れや副題設定は意図的に対になるよう設定しているような側面が見られる。
事実、「火星」が金管楽器主体で展開されるのに対し、こちらは木管楽器主体になっている。「金」星なのに。
●水星 ~翼の生えた使者~
Mercury, the Winged Messenger
第3曲。
前述の通り7曲の中で最も短く、ミステリアスながら明るく軽やかな旋律が駆け抜けるように展開されていく。
順番としては3番目の曲だが、実は完成したのは1916年で作成順は一番最後になっている。また、ホルスト自身がスコアをフルで書いたのはこの曲のみとなる。
●木星 ~快楽をもたらす者~
Jupiter, the Bringer of Jollity
第4曲。
全曲の中で最も知名度が高い曲であり、お祭り騒ぎの様な明るくにぎやかな曲になっている。
特に有名なパートは中間部の第4旋律であり、この部分は他と比べると厳粛かつ壮大な雰囲気に仕上がっており、まるで宇宙の広さを物語るかのような状態になっている。
この部分についてはイギリスでは歌詞をつけた上で「我は汝に誓う、我が祖国よ」と言う愛国歌として歌われた。またラグビーワールドカップの大会歌「ワールド・イン・ユニオン」もこれと同じである。
日本でも平原綾香が「Jupiter」として歌詞付きでカバーし大ヒットしたこともあり、独立した曲として取り扱われることも多い。
●土星 ~老いをもたらす者~
Saturn, the Bringer of Old Age
第5曲。
7曲の中で最も長い曲で、同時にホルスト自身が最も気に入っていた曲とされている。
序盤にフルートによって焦燥感を掻き立てられる、アラートか何かの様な和音が何度も展開されるが、これは彼が手がけた別曲「Dirge and Hymaneal(葬送歌と祝婚歌)」の冒頭部分のフレーズを引用したものになっている。
その後は前曲の「木星」から一転して、落ち着きつつもどこか不安を感じさせるような旋律が展開されていき、重々しい雰囲気をもって締めくくられていくという、「火星」「金星」ほど顕著ではないものの前曲の「木星」と意図的に対になる様な曲構成として組み立てられている側面が強くなっている。
●天王星 ~魔術師~
Uranus, the Magician
第6曲。
開始してから早々に金管群によって4音のけたたましいフレーズが展開される。
この部分には仕掛けがあり、コードに起こすと…
G(ソ)-E♭(ミ♭)-A(ラ)-B(シ)
となる。そしてこれをドイツ語表記でのコードにすると…
G-Es-A-H
と変わる。ここで、Esを類似した読みになるSに置き直して
G-S-A-H
とできる。
こうして出来上がる4字だが、実はGustav Holstと、彼のファーストネーム・ファミリーネームそれぞれの頭文字までの文字を1文字飛びに取得したものになっており、冒頭以降もこのフレーズが取り入れられた箇所が出てくる。
(なおコードのドイツ語表記を挟んでいるため勘違いする人もいるかもしれないが、彼自身はイギリスの作曲家である。)
その後は「水星」と同様の軽やかで快活な雰囲気の曲が展開されていく。
この曲はポール・デュカスと言う人物が1897年に作曲した交響詩「魔法使いの弟子」(
ファンタジアで知った人も多いかも知れない。)に影響を受けたとされており、副題もこの曲との関連が見られるほか、展開される曲の雰囲気もかなり似通ったものになっているのが特徴の1つである。
●海王星 ~神秘主義者~
Neptune, the Mystic
最終曲。
締めくくりの曲という事もあり、副題が示す通りミステリアスかつ神秘的な旋律がゆったり展開されていく。
なお、この曲は最初の「火星」と同じく4分の5拍子で展開がなされていく。
また、中盤を過ぎたあたりから女声のコーラスが展開され始めるのだが、楽譜のコード上では「舞台の裏で合唱を行う」よう指定がされているため、仮に演奏を生で見ている場合、どこからともなくコーラスが聞こえてくるため戸惑う人も多いかもしれない。
またこの曲、最後の部分は女声コーラスのパートのみになるのだが、この部分でも舞台裏側の部屋の扉を閉じるように指示がされている。
これによって扉が閉まり、コーラスが聞こえなくなっていく事で曲が締めくくられる、所謂「フェードアウト」が採用されているのが特徴で、今でこそよく見かける曲の終了方法だが、当時としてはかなり斬新なものとされていた。
さて、太陽系内で、かつて惑星として扱われていた「冥王星」が曲内に含まれていないことに疑問を感じた人もいるかもしれない。
これについてだが、まず冥王星自体は1930年にアメリカの天文学者クライド・トンボーの調査によって発見されたものになっている。
そしてホルストが、「惑星」の制作を行っていた時期は1914~16年であり、冥王星は当時見つかっていなかった。
一方で冥王星が惑星に追加された事自体は、ホルストも認識自体はしており、曲作りを行おうとしていたが、残念ながら形になることなく、1934年にこの世を去っている。
そのため、彼が「冥王星」を「惑星」の作品群の中に追加しようという意欲があった事から、「冥王星」に該当する曲を作成しようとする試みがなされている。
結果としてはホルストの研究を行っていたイギリスの作曲家コリン・マシューズによって2000年に作成・公開された。
●冥王星 ~再生する者~
Pluto, the Renewer
展開としては「海王星」のラスト部分から続けて旋律を紡いでいく様な形をとっている。
そのため当初は「海王星」同様の神秘的なイメージを伴った曲調になっているが、途中からは一転して「火星」のような激しい雰囲気に移行する。
曲調を途中から極端に変化させるような展開はそれまでの7曲では見られないものであるため、かなり異質さを伴っている。
終盤には「海王星」と同様に女声コーラスパートが出てくるのも特徴の1つになっている。
こうして第8の惑星の曲が作成されたわけだが、それからわずか6年後の2006年に冥王星周囲の軌道に数多くの同様の星が存在し、「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれる小惑星帯を形成しているという事実から惑星の定義が見直され、冥王星は惑星ではなく準惑星のカテゴリに移行したため、惑星から外されてしまう事となった。
またこれによって、奇しくもホルストの作曲した7つの曲だけでそのまま(地球以外の)全ての惑星を網羅できるようになった。
現在この曲を第8曲としてコンサートなどで演奏を行う時は、ホルスト作曲の既存の7曲と合わせる形で「惑星(冥王星付き)」として公開されるようになっている。
【余談】
- ホルストは「惑星」の作成中にも他の曲を手掛けているのだが、その中の曲の1つに、なんと「日本組曲」という、日本民謡を元にしたバレエ用の曲が存在する。
これは日本舞踊家である伊藤道郎からの作成の依頼を受け、「惑星」の制作を一時中断して作成したもの。全6楽章から成る作品だが、一部の楽章の内容が作成時期が近い「水星」と内容に共通性が見られる、と評する声も存在する。
- ホルストは本作の使用についてかなり厳しい制約を設けており、「公開する時は全曲演奏する」「編曲等についても制限する」等の条件を付けていた。ホルストの没後も遺族によってこの制約が長らく守られてきた。
ただ、これらは時代を経るごとにだんだんと緩くなっており、現在では特に人気のある「木星」や「火星」などを単体演目で演奏したり、吹奏楽やロックといった様々なジャンルでの編曲や旋律を引用した作品が公開されるようになった。
追記・修正は海王星以降の惑星が発見された時に新しく曲を追加する準備をしながらお願い致します。
- この曲に限らないけどなんでクラシックってボリュームが極端なんだろうね。火星と同じ音量だと金星は全く聞き取れないから家族の迷惑にならないようにするにはパートごとに細かく音量調整しないといけない。 -- 名無しさん (2026-03-29 10:20:25)
- キャッチーながらもやたら実験要素が多い事からプログレ好きに刺さるらしい -- 名無しさん (2026-03-29 17:02:24)
- ↑2 ロックのようなポピュラー音楽が台頭してくるまでは、音楽って「どのくらい音に強弱や緩急差があるか」が美徳とされていたからね…。CDという規格が初めて登場したときも、「クラシックのオーケストラの音の強弱ともに完璧に再現できる」というのがスペックの売り文句として使われてたくらいだし。 -- 名無しさん (2026-03-29 17:21:09)
- 其れもあるが本来クラシックは「劇場で聴くもの」なので劇場の音響効果前提で作曲されている、他の古典音楽全般に言える事だが御家庭用音楽プレイヤーによる視聴は本質的に想定されていない状況なのだろう -- 名無しさん (2026-03-30 10:39:53)
- ピチカート・ファイヴの方かと思ってしまった。 -- 名無しさん (2026-03-30 12:22:28)
- ↑一番上 AIで自動的にある程度音量を均してくれるシステムが出来ればいいよな… -- 名無しさん (2026-03-30 22:40:33)
- サブタイトルが全部かっこいい。西洋人はこういうセンスがあるわ ↑1番上 音楽は元々生演奏で聞くものとして生み出されたから、強弱の差が激しいのも味だったんですよね(そもそも外部環境の影響を受けて一定音量で聞くこと自体が難しかった) -- 名無しさん (2026-03-31 13:15:46)
- 平原綾香のJupiterのおかげで木星の印象が飛びぬけて強いけど、火星も火星で、アニメの戦闘用BGMとかで「多分これ火星を参考にして作ったよね…?」って曲が結構あったりするから影響力が侮れない。 -- 名無しさん (2026-03-31 23:11:43)
最終更新:2026年05月28日 08:21