登録日:2011/09/05 (月) 00:39:29
更新日:2024/07/31 Wed 04:05:28
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04-05シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ決勝。
この試合はサッカー史、いや欧州スポーツ史に残る伝説の試合となった。
2005年5月25日、トルコのイスタンブールスのアタテュルク・オリンピヤット・スタディにて行われたこの試合。
決勝まで勝ち上がって来たのは、当時バルセロナと並び世界最強と謳われた
ACミランと、
リーグ戦で不安定な戦いを見せながらも、下馬評を覆しながら勝ち上がってきた
リバプール。
試合前の予想では、圧倒的に「勝つのはミラン」だった。
当時のミランは、全盛期のアンドリー・シェフチェンコとエルナン・クレスポの2トップに、
セリエA二年目で凄みを増したカカや、ネスタ、スタム、
マルディーニ、カフーにより構築される世界最強のDFラインを有するチーム。
予選でバルセロナ、決勝Tでマンチェスター・ユナイテッドや
インテルを倒して勝ち上がり、その強さは揺るぎないモノだった。
対して
リバプールは、ベニテスが就任して一年目のチーム。
スペインからシャビ・アロンソ、ルイス・ガルシアを補強。しかし、リーグ戦では格下のチームに苦戦する不安定な戦いが続き、最終的には五位でのフィニッシュ。
本大会でもチェルシーや
ユベントスに勝利し、勝ち上がってきたが、その危なっかしい戦いは誉められたモノではなかった。
マイケル・オーウェンをレアル・マドリーに放出したことで得点力不足を招いていたFW陣と、凡ミスの多い不安定なDF陣をキャプテンの
スティーブン・ジェラードが支えながら、どうにかこうにか勝ち上がってきた印象だった。
そして試合当日。
両チームともチームカラーが赤なためスタンドは真っ赤に染まり、さらにCL決勝独特の雰囲気に包まれていた
両チームのスタメンは以下の通り。
|
ミラン |
リバプール |
GK |
ジダ |
デュデク |
DF |
マルディーニ ネスタ スタム カフー |
フィナン キャラガー ヒーピア トラオレ |
MF |
ピルロ ガットゥーゾ セードルフ カカ |
シャビ・アロンソ ジェラード ルイス・ガルシア リーセ キューウェル |
FW |
シェフチェンコ クレスポ |
バロシュ |
試合展開
前半は戦前の予想通りになる。
開始1分、ピルロのFKをマルディーニが右足のボレーで叩き込み、ミランがアッサリと先制する。
これで浮き足だったリバプールを尻目に、ミランは容赦無く攻め立てる。
リバプールのボールの出所であるシャビ・アロンソとジェラードに、
ガットゥーゾとセードルフがプレスをかけて潰しにかかる。
そして奪ったボールを素早くカカに繋ぐ。
攻撃を縦に加速させるカカは、ボールを持ったら素早く前を向き、高速ドリブルを開始。
それに合わせてシェフチェンコとクレスポもDFラインの裏を狙う動きを開始。後手に回るリバプールはズルズルとDFラインを下げるしかなくなり、攻撃に移れなくなる。
リバプールの陣形が全体的に下がってくると、今度はピルロが比較的高い位置でフリーでボールを受けられるようになる。
ピルロはポジションを高く取っていた両サイドバックのカフーとマルディーニにボールを展開。
サイドの攻撃を潰すために、リバプールの両サイドは引っ張り出されることになる。
すると今度は手薄になった中央をカカとセードルフが突破してくる。
中からカカ、セードルフ、クレスポ、シェフチェンコが攻め立て、中央を固めると、今度はピルロを起点に両サイドバックが外からえぐる。
八方塞がりのリバプールを更にアクシデントが襲った。
左サイドのキューウェルが負傷し、20分にしてスミチェルと交代。
ミランはこれを追い風に更に攻め続けた。
39分。カカの突破からシェフチェンコにパス。シェフチェンコがマイナス方向へクロス上げるとクレスポがこれを決めて2-0。
さらに43分、センターサークル付近でボールを受けたカカが相手を一人交わして、そのまま前方にいたクレスポにDF全員を無力化する必勝の
スルーパス。
このボールをクレスポがダイレクトで決めて、ミランが前半を3-0とした。
圧倒的な強さを見せつけるミラン。
リバプールのサポーターは両手で顔を覆い、自分が愛するチームがこれ以上イタリアの盟主に痛め付けられるのを見たくないと、嘆いていた。
しかし、奇跡はここから始まった。
後半
ベニテス監督はDFフィナンに代えてMFディトマール・ハマンを投入。リーグ戦ですら一度も採用した事がない3バックへとシステムを変更。
更にジェラードを一列前に上げ、攻撃的な布陣へと変更する。すると、試合の流れが変わった。
キーマンとなったのはハマン。守備ではカカを抑え、攻撃では的確な繋ぎでシャビ・アロンソをサポート。
カカを抑えられたことで、ミランの歯車が狂い出す。
カカを中心としたカウンターを封じられたミランは、次第に攻撃のテンポを落としていく。するとリバプールが反撃に出る。
54分、左サイドからやや中に切り込んできたリーセのクロスをジェラードがヘッドで合わせて1点を返す。
誰もジェラードのマークにつかず、何故決まったんだ?といった感じのゴールだった。
このゴールが決まるとジェラードはサポーターを煽りだし、会場にこだまする「YOU'LL NEVER WALK ALONE」の大合唱。
そしてさらに続くリバプールの追撃。
56分、ジェラード→ハマン→スミチェルと繋ぎ、スミチェルがペナルティーエリア外から低空のミドルシュート放つ。
コレが決まり、2-3となった。
このシーンでは誰もスミチェルにプレスをかけず、先程のジェラードのゴールと同じく、ミランのDFが狂い始めている事が如実に現れていた。
浮き足立つミラン、勢いづくリバプール。まだ1点差を残していながら、もはや試合は完全にリバプールが優勢となっていた。
DFだけでなく、攻撃面でもミランは狂い始めていた。カカに続き、効果的だった両サイドバックの攻撃が突如として止まる。
この頃のミランは、調子が悪いときは攻撃が中央に寄るクセがあり、この試合でもそれが出始めていた。
だが中央ではハマンがカカを抑えているため、ミランの中央からの攻撃も上手くいかずにボールは止まる。
ミランの中央とサイド両方の攻撃を止めると、今度はリバプールがパスを効果的に繋ぎ始める。
そして60分、バロシュがヒールで流したボールがペナルティエリア内ジェラードに渡る。
キーパーと1対1になると、ガットゥーゾがジェラードを後ろから倒しPKに。割れんばかりの歓声がスタジアムに響いた。
キッカーはシャビ・アロンソ。
ゴール左下に蹴ったボールは、一度はジダに防がれるが、シャビ・アロンソがそれを詰めて同点――
ジェラードのゴールからわずかに6分での同点劇。フットボールの神様は何と気まぐれなのだろうか。
やがて落ち着きを取り戻したミランが再び攻め立てる。ピルロを中心にボールポゼッションを高め、じっくりと攻める。
これに対しリバプールはジェラードをサイドバックに置き4バックに戻す。
そしてジェラードはなおも驚異的な運動量で中盤もカバーし、バイタルでミランに決定的な仕事をさせない。
ゴール前までボールを運ぶミランと、水際で防ぐリバプール。均衡は崩れないまま、試合はPK戦までもつれ込む。
PK
PK戦。先攻のミランは途中出場のセルジーニョが最初のキッカー。
この時、リバプールのGKデュデクが不思議な行動に出る。
何を思ったのかクネクネとおかしな動きをしだしたのだ。静まり返ったスタジアムに響く笑い声。
だがこの奇妙な動きはただのウケ狙いのものではなかった。
かつてリバプールで活躍した名キーパーのブルース・グロベラーが、チャンピオンズカップ決勝の
ASローマ戦のPKにて、同じような奇妙な動きで相手を困惑させミスを誘い勝利を手繰り寄せたのだ。
チームメイトのキャラガーの助言でこの奇策に出たデュデクだが、これが当たり、セルジーニョ、そして二番手のピルロも動きに惑わされPKを外してしまう。
五人目までもつれ込んだPKだが、ミランの五人目シェフチェンコをデュデクが阻止し、リバプールが劇的な勝利を収めた。
このクネクネダンスは劇的な試合を象徴する場面の一つとして語り継がれており、
後年には大会スポンサーのハイネケンによる「貴族同士の早撃ち勝負で、デュデク扮する片方がクネクネダンスで相手を惑わせ勝利する」という内容のCL向けスペシャルCMが製作された。
この試合は、CL決勝という舞台設定、3-0を追い付いての劇的勝利、フットボールの魅力を凝縮した試合として、
『イスタンブールの奇跡』として語り継がれることになった(ミラン側では『イスタンブールの悲劇』と呼ばれている)。
06-07シーズンのUEFAチャンピオンズリーグ決勝では奇しくも再び両者の対決となった。
インザーギの2ゴールもあってミランが優勝し、2年前のイスタンブールでの雪辱をアテネで晴らすこととなった。
また、この試合にリバプールの控えGKとしてベンチ入りしていたスコット・カーソンは、18年後にこの試合と同じアタテュルク・オリンピヤト・スタドゥで行われた22-23シーズンのCL決勝にマンチェスター・シティの一員として臨み、インテルを破って自身二度目のビックイヤー獲得を同じトルコの地で果たしている。
追記、修正はクネクネ躍りながらお願いします
- 後半ロスタイムに3点取られて逆転負けとか4-0から追い付かれて引き分けるチームもある模様 -- 名無しさん (2014-03-28 14:59:59)
- サッカーの面白さが凝縮してるな。まさにGIANT KILLING -- 名無しさん (2014-04-16 20:00:07)
- この試合から「5分あれば3点取れる」というビハインド時の際に言うお決まりネタが出来てしまった(正確には6分なのね) -- 名無しさん (2014-12-15 01:17:31)
- ジェラードが完全にダイブで気分悪い -- 名無しさん (2017-11-16 20:07:31)
- 編集した人の記憶違いかもしれないけど、ミラン3点めの記述がまるっきり間違ってる -- 名無しさん (2022-10-17 08:09:03)
- 正確にはセンターサークル付近でボールを受けたカカが相手を一人交わして、そのまま前方にいたクレスポにDF全員を無力化するスルーパスを送り、それをクレスポが決めた。 -- 名無しさん (2022-10-18 01:18:24)
- 余談だけど、2023-24シーズンのACL決勝では、この日選手として対戦していたキューウェルとクレスポがそれぞれ横浜F・マリノスとアル・アインを率いて対戦しており、クレスポ率いるアル・アインが勝ってリベンジを果たした -- 名無しさん (2024-07-06 01:49:44)
最終更新:2024年07月31日 04:05