「ねえ、お嬢ちゃん。オレらと一緒に遊ぼうぜ」
「ちょっと気持ちいいことしてあげるからさ。ほら、そう怖がらずに」
「ちょっと気持ちいいことしてあげるからさ。ほら、そう怖がらずに」
コトネは困っていた。レクトとの買い物の途中だった。知り合いと遭遇したのかレクトは近くの路地裏に入っていったのだ。いまだエスヴィア冒険者街に慣れたとは言えないコトネはレクトを待つことにしていた。そんな時に、コトネはガラの悪い男二人に絡まれてしまった。一人はスキンヘッドで筋肉質な男、もう一人はモヒカン刈りにした男のコンビだった。ただでさえ対人経験が不足している上に凶悪な人相だったために、コトネは怯えていた。どうすればいいのか分からない。
レクトがいれば彼女に代わって男たちをいなしていただろうがコトネはその術を知らない。それ故に怯えることしかできない。そんなコトネを都合のいいカモだと認識したのかスキンヘッドの男は彼女に手を伸ばそうとした。コトネの身体、その豊かな部分に。しかし、その手を遮るものがいた。アイスシルバーの髪をポニーテール状にまとめ、動きやすそうな衣服を纏った、腰からショートソードを提げている少女がコトネに触れようとしていた男の腕を掴んでいる。そして警戒心を込められた瞳で男たちを睨みつける。
レクトがいれば彼女に代わって男たちをいなしていただろうがコトネはその術を知らない。それ故に怯えることしかできない。そんなコトネを都合のいいカモだと認識したのかスキンヘッドの男は彼女に手を伸ばそうとした。コトネの身体、その豊かな部分に。しかし、その手を遮るものがいた。アイスシルバーの髪をポニーテール状にまとめ、動きやすそうな衣服を纏った、腰からショートソードを提げている少女がコトネに触れようとしていた男の腕を掴んでいる。そして警戒心を込められた瞳で男たちを睨みつける。
「女性の扱いがなっていないわね。いきなり触れようだなんてはしたないこと」
少女は男たちを侮蔑するかのように吐き捨てる。その対応に男たちは気を悪くする。
「気取ってんじゃねーぞ!」
スキンヘッドの男が少女の手を跳ね除け殴りかかろうとする。少女は突き出された腕をいなして男の足を払い地面に叩きつける。そして足を男の首筋に突き付ける。
「このまま踏んで折られるのがいいかしら?」
少女は冷たい視線をスキンヘッドの男に向けている。モヒカン刈りの男は慌てて少女に下手に出始めた。
「ま、待ってくれ! 分かった! 手を引くから勘弁してくれ!」
スキンヘッドの男はモヒカン刈りを睨むがすぐに諦めたようだ。
「そいつの言う通り手を引く。頼むから足をどけてくれ」
スキンヘッドの弱弱しい懇願につまらなそうにしながら少女は足をどけた。そして男二人は逃げるように立ち去った。少女はそれをつまらなさそうに見てからコトネに向き合う。
「もう大丈夫よ。それとも余計なお世話だったかしら?」
「え、えっと……、その、ありがとう」
「え、えっと……、その、ありがとう」
コトネは少女にお礼を言う。少女は先ほどよりも警戒心を緩める。コトネが無害だと判断したからだろう。
まるで言い慣れたように自己紹介とあいさつを済ませる。常識に疎いコトネは慌てて返事を返す。
「こ、コトネって言うの……。それと北廃都セルネスって?」
聞いたことのない単語に反応するコトネにエレナはかかったと言いたげな表情を浮かべた。
「廃都セルネスは北マジョリアにある地域の一つよ。そして私は今、北マジョリアに迫る危機を知らしめるためにここまでやってきたの」
「北マジョリア……?、迫る危機って?」
「今から説明してあげるわ。まずはね……」
「北マジョリア……?、迫る危機って?」
「今から説明してあげるわ。まずはね……」
何も知らないコトネが食いついたことに更に機嫌をよくしたエレナは懇切丁寧に語り始めた。
北の最果てに魔王がいる可能性、魔王が何か良からぬことを企んでおり北マジョリアの急激な寒冷化と関係があること、いずれ重大な事件に繋がるであろうことを。
北の最果てに魔王がいる可能性、魔王が何か良からぬことを企んでおり北マジョリアの急激な寒冷化と関係があること、いずれ重大な事件に繋がるであろうことを。
「私はマジョリア大陸全土に迫る危機を知らしめるためにセルネスからやってきたの。北の最果てにいる魔王に対抗するために。誰も真剣に聞いてくれないけど事実なのよ」
エレナは不満げにため息をついた。何故誰も真面目に受け止めてくれないのかと言いたげに。一方コトネはエレナの話をわなわなと身を震わせながら聞いていた。そしてエレナが語り終えたところで彼女に勢いよく迫る。
「凄い凄い! すっごい! エレナってすっごく凄いことをしようとしてるんだ!」
「語彙がないようだけど真面目に受け止めてくれたのは分かるわ。ありがとうね」
「語彙がないようだけど真面目に受け止めてくれたのは分かるわ。ありがとうね」
コトネからすればエレナの話は未知の世界の物だった。そしてとても興味を惹かれる内容の話でもあった。それ故に記憶喪失、世間知らずのコトネがエレナに興味を持つのも必然であった。
「もっと! もっといろんな話を聞かせて!」
「……もちろんよ!」
「……もちろんよ!」
グイグイと迫り話をせがむコトネの反応に気をよくしたエレナはその後もいろいろ語り始めた。実際に起きている出来事から数少ない根拠を元にした推論まで。コトネは目を輝かせて食い入るように聞いていた。そのタイミングでレクトが路地裏から戻ってきた。
「コトネ、待たせた。とりあえず用事は終わった……」
何も知らないレクトがコトネに声を掛けようとした時だった。コトネは目を輝かせたままレクトの方を勢いよく身体を向ける。
「レクトレクト! 北の最果てに魔王がいるんだって! このままじゃ世界が危ないんだよ!」
「いきなり何の話だ」
「あら、あなたも知らないようね! では始めから語ってあげるわ! 北に迫る脅威について!」
「アンタは誰だよ」
「いきなり何の話だ」
「あら、あなたも知らないようね! では始めから語ってあげるわ! 北に迫る脅威について!」
「アンタは誰だよ」
興奮したコトネとエレナに迫られながら一方的にエレナの事情やらよくわからない脅威の話を大声で、それも至近距離で語られるレクト。道行く人々は呆れたような、美女二人に迫られているようにも見えるレクトに同情するような、嫉妬や羨望も混じった視線を向けるだけであった。
そして、コトネとエレナ=レンホルムという仲良くなった瞬間でもあった。