マルチサンプリングデータの読み込み方法
■注意点
Bitwigには、マルチサンプリングデータを書き出す方法は現状ありません。
そのため、FL StudoやAbleton Live、SampleRobotなどの外部ツールを使う必要があります。
概要
FL StudioのDirectWaveを使う場合
2025.4.27 現在 (Bitwig 5.3.5) は Bitwigでシンセからマルチサンプルを書き出すことはできないので、FL Studioの DirectWave を使ってみます。
例えば Korg M1 の M1 ピアノを書き出してみます。
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M1 ピアノの説明 |
M1 ピアノとはこのような音です。
fl_m1_piano.mp3
正確には M1 ピアノは「Piano 16'」ですが、添付の音は "MidiStack3" というコンビネーションプリセットの音です。
通常、マルチサンプル書き出し時はリバーブなどのエフェクトを無効にします。
これは後の音作りの汎用性を保つためですが、元のプラグインのエフェクトの質感も残したい場合にはそのままにすることもあります。
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FL StudioでKorg M1を立ち上げてチャンネルラックから右クリックで「Create DirectWave instrument」を選びます。
なお、FL Studioではチャンネルラック名が、書き出されるファイル名となります。
※BitwigのSamplerはファイル名から音階やVelocityを読み取ります。
例えばファイル名に "M1" といった文字が含まれていると、自動割り当てが正常に動作しないことがあります。
そのため、チャンネル名(=書き出されるファイル名)には「数字を含めない」ようにします。
書き出し先を指定したら、レンダリング設定をします。
「音程の範囲」と「間隔」、「Velocityの段階」をどこまで細かくするかによって品質が決まります。
今回は品質はあまり重要視しない(立ち上がり速度を重視、仮音または後ろで鳴っていれば良い程度の音)ということで以下の設定としました。
項目 |
パラメータ |
説明 |
Low Note |
C3 |
C3からB6までを書き出し |
High Note |
B6 |
Keys per zone |
4 |
4半音単位で書き出し |
Velocity layers |
1 |
Velocityは固定 |
その他、以下の設定をして "Start" で書き出します。
- "Monolithic file" は OFF にする (プリセットのオーディオデータを含めない)
- "Open in DirectWave" は OFF (書き出したプリセットを DirectWaveで開かない)
Bitwigで
Samplerを起動して、"Create new multisample" をクリックします。
Bitwigの
Samplerはまとめてドラッグ&ドロップでサンプルデータを登録すると、ファイル名やメタデータから自動で音程 (キーゾーン) を割り当ててくれます。
ここで正常に割り当てられない場合は、ファイル名に余計な数字が含まれていないかどうかを確認します。
例えば "M1_Piano" といったファイル名にすると正常に自動割り当てされません。
プリセットの保存
プリセットとして保存する場合には注意点があります。
それは「wavファイルは相対パスで保持される(プリセットにオーディオデータは含まれない)」ということです。
具体的にはデスクトップに配置したwavファイルをマルチサンプルとして読み込ませても、デスクトップのwavファイルを消してしまうとサンプルは読み込めなくなります。
そのため、プリセットとして保存したい場合はプリセットフォルダに wav をコピーする必要があります。
手順としては、まず
Samplerのプリセットを保存。(※すでに
Samplerのプリセットを保存したことがあれば不要です)
するとドキュメントフォルダに「Bitwig/Library/Presets/Sampler」フォルダが作成されるので、そこにマルチサンプルデータを配置します。
先ほど登録したマルチサンプルは [DELETE] キーで削除して、プリセットフォルダに配置したマルチサンプルを再び登録します。
これでプリセットを保存し直すと、自由にプリセットを呼び出せるようになります。
その他注意点
Korg M1 や reFX Nexus のようにサンプルベースの音源をマルチサンプルとして書き出し、それをプリセットとして「一般に配布」するのは著作権侵害となる可能性があります。
個人で使うのであれば問題ないですが、例えばプロジェクトファイルを配布する場合には注意する必要があります。
マルチサンプル化したサウンドの活用法
Samplerにマルチサンプル化して読み込んだサウンドは、元のシンセサイザーと比較して品質が若干落ちるものの、様々な状況で有効活用できる強力なツールとなります。
元のシンセの微妙なニュアンスや表現力を完全に再現することは難しいかもしれませんが、プロジェクトの様々なシーンで異なる目的に役立てることができます。
基本的な活用シナリオ
- バックグラウンドサウンドとしての活用
- マルチサンプル化したサウンドはミックス内の目立たないバックグラウンド要素として非常に有効です
- メインの音色ほど細かいニュアンスや表現力が要求されないパッドサウンドやアトモスフェリックな音色として活用できます
- 特にミックス内で複数の音が重なる部分では、サンプリングによる微妙な音質の差異は埋もれやすくなります
- プリセット化によるプロトタイピングとスケッチング
- プロジェクト初期段階での仮音源としてマルチサンプルを使用することは理にかなっています
- アイデアを素早くスケッチする段階では、完璧な音質よりもワークフローの効率が重要です
- マルチサンプルをプリセット化しておくと素早く目的の音が得られ、プリセット選びやシンセの立ち上げ時間を短縮できます
- もし音の品質を上げたいのであれば、必要に応じて元のシンセに差し替えることで、最終的な品質を確保できます
- クロスプラットフォーム互換性の確保
- プロジェクトの共有や配布時に、環境に依存しない音源として使用する方法は非常に実用的です
- 特定のプラグインを持っていない他のユーザーとプロジェクトを共有する場合や、ライブパフォーマンス用のセットを準備する際に役立ちます
- Bitwig StudioのSamplerはDAWに標準搭載されているため、プロジェクトファイルに音源をバンドルして配布できる利点があります
- リソース効率の最適化
- CPU負荷の高い複雑なシンセサイザーをマルチサンプル化することで、プロジェクトのリソース使用を大幅に削減できます
- 特に複数のインスタンスが必要な場合や、他のプロセッシングに計算リソースを割り当てたい場合に有効です
発展的な活用法
- レイヤーサウンドの構築材料として
生シンセの表現力 + サンプルの厚み = 独自の複合サウンド
- クリエイティブなサンプル編集
- 声のサンプリングによる特殊サウンド
- パフォーマンスの安定性向上
- ライブパフォーマンスでは、複雑なシンセセットアップよりもサンプラーの方が安定性が高いことがあります
- 特に複数のプラグインやハードウェアに依存するセットアップの場合、マルチサンプル化することでトラブルのリスクを軽減できます
高品質サンプリングのためのテクニック
マルチサンプル化の品質を最大限に高めるためのテクニックもいくつか紹介します。
- 適切なサンプリング密度
- 異なるノート間隔(例:3半音ごと)や複数のベロシティレイヤーでサンプリングすることで、より自然な音の遷移を実現します
- Samplerのマルチサンプルエディタを使って、サンプル範囲を細かく調整できます
- サンプリング後の音色調整
- BitwigのSamplerは各サンプルごとに個別の設定が可能です
- 音色の一貫性を保つために、サンプル範囲の左右端をドラッグして調整したり、リバース機能やループ機能を活用したりできます
- モジュレーション活用
マルチサンプル化したBitwigのSamplerサウンドは、その品質制限を認識しつつも、多様な用途で活用できる柔軟なツールです。バックグラウンドサウンド、プロトタイピング、クロスプラットフォーム互換性の確保だけでなく、創造的なサウンドデザインや効率的なリソース管理にも役立ちます。適切なサンプリングテクニックと後処理を組み合わせることで、元のシンセに近い品質を維持しながら、Bitwigの統合環境の利点を最大限に活かすことができるでしょう。
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最終更新:2025年04月27日 08:50