Distortion
Distortionは、Bitwig Studioに標準搭載されているシンプルかつパワフルな
Distortionデバイス (歪みエフェクトデバイス) です。
ギターやシンセ、ドラム、ボーカルなど様々な素材に歪みやサチュレーション、倍音付加を加え、サウンドにパンチや存在感、アグレッシブさを与えることができます。
概要
主な特徴
- シンプルな操作性
- 直感的なパラメータ構成で、誰でもすぐに歪みサウンドを作ることができます
- 多用途なサウンドメイク
- 軽いサチュレーションから激しいディストーションまで幅広い歪みを付加可能
- Bitwigならではのモジュレーション対応
- LFOやエンベロープなど、Bitwigの豊富なモジュレーターを使ってDistortionの各パラメータを動的に変化させることができます
基本的な使い方
- 1. トラックにDistortionを追加
- エフェクトパネルからドラッグ&ドロップで簡単にインサートできます
- 2. パラメータを調整
- 3. 他のエフェクトと組み合わせ
- Bitwigの他のエフェクト(例:EQ、リバーブ、コンプレッサーなど)と自由に組み合わせて、サウンドをさらに追い込むことができます
- 4. モジュレーションで発展的な音作り
- モジュレーターを追加して、歪みの量やトーンをオートメーションやLFOで動かすことで、よりクリエイティブなサウンドデザインが可能です
- サウンドの特徴
- 軽い歪みはサチュレーション的な温かみや太さを付加
- 強くかけるとギターアンプ的な激しい歪みや、ローファイ感、アグレッシブなサウンドメイクが可能
- 低域が強調される場合があり、EQと組み合わせることでバランスを調整しやすい
- 他のBitwig内蔵歪み系デバイスとの違い
機能
グラフィカルインターフェース (Pre EQ / Post Filter)
- 🟡黄色い円 (Pre EQ)
- Pre-distortionのBellフィルターを操作します
- 円の中心を左右にドラッグで中心周波数、上下にドラッグでゲイン (dB) を調整できます
- 黄色い円にカーソルを合わせた状態で「マウスホイール」操作によりQ(鋭さ)も調整可能です
- 🔴赤い円 (Post Distortion Cut [Low])
- 🔵青い円 (Post Distortion Cut [High])
- 黄色い文字の "Hz" / "Q" / "dB"
- 黄色い文字の "Hz" を上下にドラッグで中心周波数を変更できます
- 黄色い文字の "Q" を上下にドラッグでQ (傾き) を変更できます
- 黄色い文字の "dB" を上下にドラッグでゲインを変更できます
- 赤い文字の "Hz"
- 赤い文字の "Hz" を上下にドラッグでローカットの周波数を変更できます
- 青い文字の "Hz"
- 青い文字の "Hz" を上下にドラッグでハイカットの周波数を変更できます
Drive
ディストーション回路
項目 |
画像 |
概要 |
値 |
説明 |
Symm. (Symmetry) |
|
ディストーション曲線の対称性を調整し、 偶数次倍音の量や歪みの キャラクターを変化させます →Symm.の詳細解説 |
+100% (対照的) |
🔥エッジが強くハードな歪み (→奇数次倍音を増やす) |
-100% (非対称) |
🌿滑らかで温かいソフトな歪み (→偶数次倍音を増やす) |
0% (デフォルト) |
ハードとソフトの中間 |
DC (DC Bias) |
|
信号に直流成分を加えることで、 歪みのキャラクターや 倍音構成を変化させます →DCの詳細解説 |
0% (デフォルト) |
クリーンで対称的な倍音構成 (Symm.の設定をそのまま反映) |
100%に近づける |
歪みがより「暖かく」「太く」「濃厚」な印象になる。 トランジェントの尖りが押さえられることがある。 (Symm.をマイナス方向に動かしたときと似たような効果) |
Slew |
|
信号の変化速度(トランジェント) を制限し、 値を下げるとアタックが滑らかに、 値を上げると鋭いサウンドになります →Slewの詳細解説 |
低設定 (0dBに近い値) |
・信号の変化速度を大幅に制限(例:20Hz以下のスルーレート相当) ・アタックやトランジェントが丸くなり、高域成分が減衰 ・ヴィンテージ機材やテープサチュレーションのような「滑らかで温かい歪み」 |
高設定 (100dBに近い値) |
・信号の変化速度をほとんど制限しない(例:100kHz以上のスルーレート相当) ・鋭いトランジェントと高域成分を維持 ・デジタルディストーションやビットクラッシャーのような「鋭くアグレッシブな歪み」 |
ディストーション回路の簡潔な設定方針としては以下のとおりです。
- Symm.
- エッジが強くハードな歪みにしたい場合は値を増やします。そうでない場合はマイナス方向に動かします
- DC
- Symm.のかかり具合の密度を調整したい場合はこの値を増やします。ただし増やすと音が濁りやすいので、基本的には "0%" でも良いです
- Slew
- Symm. をより目立たせたい場合はこの値を増やします。ディストーション回路における質感の最終調整用のパラメータとなります
Wet
項目 |
Wet FX (Wet FX Chain) |
Width (Stereo Width) |
Wet Gain |
Mix |
画像 |
|
|
|
|
説明 |
Wet信号のみを対象に、 Bitwigの他のエフェクト やプラグインを追加できます |
処理された信号の ステレオの広がり具合を 指定します |
Wet FXチェーン前段 での出力レベル調整です |
Post-wet/Wet FX Chain の処理信号量です。 デバイスに入力された Dry信号と混ざります |
信号のフロー
信号フローの概要図
[1. 入力]
│
▼
[2. Pre-distortion]
├─ Drive(ゲイン)
└─ "Bell Filter"(黄色)
│
▼
[3. Distortion回路(ハードクリッピング)]
└─ <Simm. / DC / Slew> (並列処理)
│
▼
[4. Post-distortion]
├─ "Low Cut Filter"(赤色)
└─ "High Cut Filter"(青色)
│
▼
[5. Wet FX Chain] ──► [6. Stereo Width/Wet Gain]
│
▼
[7. Dry/Wetミックス]
└─ Mix
│
▼
[8. 出力]
信号フロー詳細
- 1. 入力信号
- Distortionを行う外部信号を受け取ります
- 2. Pre-distortionセクション
- Distortion回路に入る前に、入力信号が以下のパラメータによって加工されます。
- Drive: 入力信号にゲインを加え、歪みの強さを決定します。
- Bell Filter(黄色): 歪みを加える前に、ピークEQ(ベルフィルター)で特定の周波数帯域をブーストまたはカットします
- 中心周波数(Hz)、Q(鋭さ)、ゲイン(dB)を調整可能です
- 3. ディストーション回路(ハードクリッピング)
- 4. Post-distortionセクション
- 5. Wet FX Chain
- ディストーション後のWet信号のみを追加エフェクトで処理可能
- 6. Stereo Width / Wet Gain
- 7. Dry/Wetミックス (Mix)
- 原音(Dry)とエフェクト音(Wet)を最終的にブレンドして出力
- 参考
ディストーション回路パラメータの詳細
パラメータ |
役割 |
イメージ |
効果の概要 |
サウンドへの影響 |
Symm. (シンメトリー) →Symm.の詳細解説 |
歪み波形の対称性を 調整するパラメータです |
波形の歪みカーブ自体を 左右に傾ける・変形する |
歪みの左右対称性を変えることで、 生成される倍音の種類やバランスが変化します。 対称性が高いと奇数次倍音が中心、 非対称にすると偶数次倍音が増え、 より複雑で豊かな倍音構成になります |
ハーモニクスの調整を通じて、 歪みのキャラクターを 細かく変化させることができます |
DC (DC Bias) →DCの詳細解説 |
信号に直流成分 (DCオフセット)を 加えるパラメータです |
波形全体を上下に 持ち上げる (または下げる) |
微妙な信号のオフセットを与えることで、 倍音構成や歪みの質感を変化させます。 直流成分の追加は、歪み回路内での信号の動作点をずらし、 独特のハーモニクスやキャラクターを生み出します |
微細な倍音の変化やニュアンスの付加に寄与し、 音に個性を与えます |
Slew (スルーリミット) →Slewの詳細解説 |
信号の変化速度 (トランジェント)を 制限するパラメータです |
|
Slew値を低くすると信号の変化が滑らかになり、 アタックやトランジェントが丸くなります。 値を高くすると変化が速くなり、 より鋭くエッジの効いた歪みになります |
トランジェントの強弱や歪みのアタック感を調整し、 音の質感やパンチをコントロールできます |
- 1. Symm.の動作特性
- デフォルト(0%):波形は非対称(アシンメトリック)な歪み形状です。
- +100%に近づく:
- 波形の正側(プラス側)のクリッピングが強くなり、奇数次倍音が強調されます
- 波形は上下対称に近づき、ハードクリッピングのような鋭い歪み特性になります
- -100%に近づく
- 波形の負側(マイナス側)のクリッピングが強くなり、偶数次倍音が強調されます
- 波形は非対称性を保ちつつ、上下のバランスが反転します
- 2. プラス方向 vs マイナス方向の波形変化
Symm.値 |
波形の特徴 |
倍音特性 |
+100% |
正側が鋭くクリップされ、上下対称に近い |
奇数次倍音(3rd, 5th…) |
-100% |
負側が鋭くクリップされ、非対称性が反転 |
偶数次倍音(2nd, 4th…) |
- 3. 奇数次倍音 vs 偶数次倍音の音響的特徴
倍音タイプ |
音響的特徴 |
代表的な使用例 |
奇数次倍音 |
・金属的・硬質なサウンド ・エッジの効いた明瞭さ ・高域が強調されやすい |
ロックギター、エレクトロニック |
偶数次倍音 |
・温かみ・丸みのあるサウンド ・アナログ的な厚み ・倍音が協和的で自然 |
チューブアンプ、テープサチュレーション |
- 4. 実用的な使い分け
- Symm. +値(奇数次倍音):
- アグレッシブな歪みやパンチのあるサウンドが必要な場合(例:リードシンセ、ロックギター)
- Symm. -値(偶数次倍音):
- アナログ的な温かさやミックスの厚みを加えたい場合(例:ボーカルサチュレーション、バスライン)
- 中間値
- 奇数次と偶数次をバランスよく混合し、複雑な倍音構成を作成(例:実験的なサウンドデザイン)
- 補足
- Symm.の調整は倍音構成を直接コントロールするため、EQやフィルターとの組み合わせでより効果的です
- DCパラメータと併用すると、直流成分のオフセットで倍音のバランスをさらに細かく調整できます(例:偶数次倍音の微調整)
DC(Bias)パラメータは、信号に微妙な直流成分(オフセット)を加えることで、倍音構成や歪みのキャラクターに変化をもたらします。
- 直流オフセットの追加
- DCパラメータは、歪み回路に入力される信号に対して微小な直流成分を加えます
- これは実際のアナログアンプやディストーション機器で起こる「バイアス調整(DCバイアス)」を模倣しています
- 倍音構成の変化
- 直流オフセットを加えることで、波形の上下のバランスが崩れ、非対称な歪み特性が生まれます
- これにより、偶数次倍音が増えたり、倍音のバランスが変わり、音色に独特のニュアンスが加わります
- 歪みのキャラクター変化
- DCオフセットを増やすと、歪みがより「暖かく」「太く」「濃厚」な印象になり、トランジェントの尖りも抑えられて聴きやすくなることがあります
- 逆にオフセットがないと、歪みはよりクリーンで対称的な倍音構成になります
- 実機アンプのバイアス調整との類似性
- 実際の真空管アンプやClass-Aアンプでは、DCバイアスを調整して歪みの質感や動作点を最適化します
- BitwigのDCパラメータはこれをデジタルで再現し、微妙なサウンドの「味付け」を可能にしています
効果のまとめとしては以下のとおりです。
効果項目 |
説明 |
倍音の非対称性 |
波形の上下バランスが崩れ、偶数次倍音が増加 |
音色の変化 |
暖かみや太さ、濃厚さが増し、歪みの質感が変わる |
トランジェントの変化 |
尖りが抑えられ、聴きやすくなる場合がある |
実機アンプの模倣 |
アナログ機器のバイアス調整に相当 |
- DCバイアスは非常に微細な効果ですが、歪みのキャラクターに深みを与えます
- 音の明瞭さやトランジェントの質感にも影響し、全体のサウンドバランスを微調整できる重要なパラメータです
- 動作原理
- スルーリミットは、信号の最大変化率(slew rate)を制限する非線形プロセスです。
- 低い値:信号の急激な変化を抑制し、トランジェントを滑らかにします(例:アタックの丸み、高域の減衰)
- 高い値:信号の変化をそのまま通過させ、鋭いトランジェントを維持します(例:エッジの効いた歪み、高域の強調)
- 数学的モデル
- 入力信号の微分(変化速度)が設定値を超えると、出力信号の変化率が制限されます。
- これにより、波形の急峻な部分が「丸められ」、高周波成分が削減されます。
- サウンドへの影響
Slew値 |
波形の変化 |
周波数特性 |
サウンドキャラクター |
低 |
トランジェントが丸められる |
高域が減衰 |
・温かみ・丸み ・ヴィンテージ感 ・ミックスでの埋もれ防止 |
高 |
トランジェントが鋭く保たれる |
高域が強調 |
・アグレッシブ ・明瞭なアタック ・デジタル的な硬質感 |
実践的な使用例としては以下のとおりです。
- 1. ドラムのアタック調整
- Slew↓:スネアやキックのアタックを柔らかくし、ミックスで自然に馴染ませる
- Slew↑:ドラムのパンチやアタック感を強調し、前方向きのサウンドに
- 2. シンセの歪み加工
- Slew↓:高域の「ジャリつき」を抑え、アナログシンセのような滑らかさを再現
- Slew↑:デジタルシンセ的な鋭い倍音を生成
- 3. フィードバック処理**(ディレイ/リバーブ)
- Slew↓:フィードバックループ内で使用し、過激な高域の蓄積を防止
- 例:ディレイのテールを「鈍らせ」、ローファイな質感を追加
他パラメータとの連携としては以下の手法があります。
- Drive
- Slewを低くすると、高いDrive値でも歪みが「押し潰され」、マイルドなサチュレーションに近づきます。
- Pre/Postフィルター
- Slewで高域を抑制した後、High Cutフィルターでさらに調整すると、より滑らかな歪みが得られます。
- Symm./DC Bias
- Slewの低い値+Symm.のマイナス値(偶数次倍音)で、アナログ的な暖かさを強調できます。
技術的補足としては以下の事柄があります。
- アンチエイリアシング効果
- Slewの低い値は、デジタル歪みで生じる望まない高周波ノイズ(エイリアシング)を軽減します。
- ダイナミクス圧縮的効果
- 急峻なトランジェントを丸めるため、結果的に信号のダイナミクスレンジが圧縮されます。
使い方の例
ボーカルにディストーションをかける
ボーカルにディストーションをかける場合、「適切な値」は楽曲のジャンルや求める効果によって大きく異なりますが、ボーカルは歪みすぎると明瞭さや存在感を損なうため、控えめな設定から始めて微調整するのが基本です。
推奨される基本設定例は以下のとおりです。
- Drive
- まずは "0〜3dB" 程度のごく控えめな値からスタートし、徐々に上げて効果を確認します
- ボーカルの場合、5dBを超えると明瞭さが失われやすくなるので注意しましょう
- Pre-distortion EQ(黄色い円/Bell)
- 歪みで耳障りになる高域 (2〜8kHz) や、こもりやすい低域 (150〜500Hz) をカット・調整します
- 例:中心周波数を2〜5kHz付近に設定し、歪みで強調されやすい帯域を抑える
- Low Cut(赤い円)/High Cut(青い円)
- Low Cutは "100〜150Hz" 程度、High Cutは "8〜12kHz" 程度で設定し、不要な低域・高域の歪み成分を抑えます
- Symm.(シンメトリー)/DC Bias
- デフォルト(0%)で問題ありませんが、歪みのキャラクターを微調整したい場合に少し動かしてみるのも良いでしょう
- Slew
- アタックがきつすぎる場合は少し下げて滑らかにします
- 逆にエッジを強調したい場合は上げます
- Mix (Wet/Dryバランス)
- 完全なWet(100%)ではなく、"30〜60%" 程度のパラレル処理(ミックス)にすると、原音の明瞭さを残しつつ歪みの効果を加えられます
- 実践的な使い方のポイント
- まずは「Drive」を最小限にして徐々に上げる
- EQやLow/High Cutで不要な帯域の歪みを抑える
- Wet/Dryを調整し、原音の美しさを保つ
- 激しい歪みは特殊効果やローファイ系ボーカル以外では避ける
ボーカルは繊細なパートなので、「やりすぎない」ことが最大のコツです。歪みの量や帯域を少しずつ調整し、ミックス全体で聴きながら最適なポイントを探します。
- 設定例 (Spliceから "MYLK_140_vocal_loop_level_up_dry_chorus_Dbmaj.wav" を使用)
- パラメータ設定値と説明
カテゴリ |
項目 |
値 |
説明 |
Distortion |
Drive |
+3dB |
ゲインの増加は少なめに |
Symm. |
+100% |
最大のハードクリッピング |
DC |
0% |
何もしません |
Slew |
75dB |
ディストーション効果はやや控えめ |
Pre EQ |
5kHz / -3dB |
高域の刺さるような音を軽減 |
Post Low-cut |
1kHz |
バッサリとローカット |
Post High-cut |
8kHz |
軽いハイカット |
Width |
115% |
少し音を広げます |
Wet Gain |
+18dB |
がっつりWetゲインを上げます |
Mix |
30% |
控えめな混ざり具合 |
De-Esser (Wet FX) |
カットオフ周波数 |
3kHz |
ボーカル素材の歯擦音が強調されたので、 深めにディエッサーをかけました |
Amount |
150% |
- 作成したプリセット
- 参考としてプリセットファイルを添付しておきます。
Vocal with De-Esser [Low-cut].bwpreset
その他補足
ハードクリッピングについて
Distortionデバイスにおけるハードクリッピングは、入力信号が一定のレベル(しきい値)を超えた部分を「バッサリ」と切り落とす(平坦にする)方式の歪み処理です。(→
ディストーション回路)
これは、アナログのディストーションペダル(例:MXR Distortion+やBOSS DS-1など)でよく用いられる手法で、ワイルドでアグレッシブな歪みや、奇数次倍音が強調された「ディストーションらしい」サウンドを生み出します。
- ハードクリッピングのサウンド的特徴
- 入力がしきい値を超えると波形が急激に平坦化されるため、荒々しく、輪郭がはっきりした歪みになる
- 奇数次倍音が多く発生し、エッジの効いたアタック感やパンチのあるサウンドが得られる
- ソフトクリッピング(なだらかに丸める歪み →Saturator)に比べて、音の密度やインパクトが強い
- Bitwig Distortionデバイスでの活用例
- ギターやベース、シンセ、ドラムなどに「派手な歪み」や「パンチ」を加えたいとき
- サウンドを大胆に変化させたい場合や、ミックスの中で目立たせたいパートに
- Symm.(シンメトリー)
- マイナス方向
- 波形の非対称性が増し、偶数次倍音(2nd, 4th...)が強調されます
- → アナログ機材のような「温かみ・丸み」を表現
- プラス方向
- 波形の対称性が増し、奇数次倍音(3rd, 5th...)が強調されます
- → デジタルディストーションのような「硬質・アグレッシブ」なサウンド
- DC(DC Bias)
- 増やす(正方向)
- 信号に直流オフセットを加え、波形の非対称化を促進 → 偶数次倍音が増加します
- → わずかな「厚み」や「歪みの複雑さ」を追加
- Slew(スルーリミット)
- 小さい値
- トランジェント(信号の急峻な変化)を抑制 → 高周波成分(奇数次倍音)が減衰し、結果的に偶数次倍音が相対的に目立つようになります
- → ヴィンテージ機材やテープサチュレーションのような「滑らかさ」
- 大きい値
- トランジェントを鋭く維持 → 高周波成分(奇数次倍音)が保持され、デジタル的な「鋭さ・硬質感」が強調されます
補足・注意点としては以下の事柄があります。
- 1. パラメータの相互作用
- DCとSymm.はどちらも波形の非対称性に影響するため、組み合わせると倍音構成がさらに複雑化します
- Slewは時間軸での変化速度を制限するため、周波数特性(倍音分布)に間接的に影響します
- 2. 実践的なニュアンス
- 「偶数次倍音が増える」とは「相対的に偶数次が目立つ」という意味で、厳密には奇数次倍音も存在します
- 実際のサウンドは、Pre/PostフィルターやWet/Dryバランス (Mix)にも大きく依存します
ボーカルの「歯擦音の増大」への対処方法
- 1. Slewパラメータを減らす場合
- 効果
- Slewを低く設定すると、信号の急激な変化(トランジェント)が滑らかになり、高域の刺さりやジャリつきが和らぎます
- これにより歪み成分の高周波ノイズや歯擦音の一部を抑制できることがあります
- 限界
- Slewは「信号の変化速度を制限する」機能であり、歯擦音の特定周波数帯(通常5〜8kHz付近)を狙い撃ちするわけではありません
- したがって、歯擦音の根本的な抑制には不十分な場合が多い**です
- 適用例
- Distortionやサチュレーションの歪みが原因で歯擦音が強調されている場合の軽減策として有効
- リバーブやディレイのフィードバックループにかけて高域のジャリつきを抑える用途にも向く
- 2. De-Esserを使う場合
- 効果
- De-Esserは特定の高域周波数帯(シビランス帯域)を動的に圧縮・抑制する専用ツールです
- 音声の「S」や「T」などの過剰な歯擦音だけをターゲットにして処理できるため、最も効果的かつ自然な抑制が可能です
- 利点
- 周波数帯を絞って処理するため、他の音域や音質への影響が少ない
- 動的に働くため、必要な部分だけを抑えられる
- 多くのDe-Esserはパラメータ調整やオートメーションで細かくコントロール可能
- 実践的な使い方
- ボーカルやナレーションなどの歯擦音が問題になる素材には必須
- 動的EQやマルチバンドコンプでも代用可能
- 参考情報
- 歯擦音は主に5〜8kHz付近にエネルギーが集中するため、周波数帯域を絞って動的に圧縮するDe-Esserが理想的です
- Slewは高域の鋭さやジャリつきを抑えるが、De-Esserほど特定周波数に特化していません
- 実際のミックスでは、Slew調整+De-Esser併用をするのが実践的です
まとめとしては以下のとおりです。
方法 |
効果の範囲 |
推奨度・用途 |
Slewを減らす |
歪み由来の高域ジャリつき軽減 |
軽度の歯擦音抑制や歪み質感の調整に有効 |
De-Esser使用 |
特定周波数帯の動的抑制 |
ボーカルやナレーションの歯擦音抑制に最適 |
歯擦音(sibilance)を本格的に抑制したい場合は、
De-Esserや動的EQを使うのが最も効果的です。
Slewの調整は「歪みの高域ジャリつきやトランジェントの丸み付け」という広範な質感調整に役立ちますが、歯擦音だけをターゲットにした処理ではありません。
以上を踏まえ、歯擦音対策は
De-Esserを基本に、Slewは補助的に使うのがベストプラクティスです。
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最終更新:2025年05月03日 13:09