ボーカルスライスの作り方
標準のスライス機能について
スライスを行う方法
Bitwig標準のスライス機能として、オーディオクリップを右クリックすると「スライス」の項目からオーディオのスライスが可能です。
スライス方法はいくつかあり、小節や音符単位の分割が可能で、「オンセット」を選ぶとトランジェント単位での分割も可能です。
「小節・音符単位」のスライスと「オンセット」スライスの違い
「小節・音符単位」のスライスと「オンセット」スライスの違いはどちらにも利点があり、作りたいフレーズに合わせて選択します。
- 小節・音符単位
- 以下は「4分音符」単位でスライスしたものです。均等な範囲で分割されます。
- この方法の利点としては、元のリズムを維持したフレーズを構築しやすいことです。ノートの発音を分割する単位に音符に合わせることでリズムを維持したフレーズを組むことができます。
- オンセット
- オンセットでスライスすると均等な長さではなく「トランジェント (音量の急激な変化)」で分割されます。
- この方法の利点としては、楽器や言葉といった音の単位で分割できることです。もとのリズムを崩して新しいリズムやフレーズを作りたいときに便利です。
以下にそれぞれのメリット・デメリットをまとめます。
- 1. 小節・音符単位での分割
- ✅ メリット:
- 音楽的文脈が保たれる:元のリズムやメロディに沿っているため、無理なく楽曲に馴染みやすい
- 編集がシンプル:ノリやグルーヴがある程度保たれているので、リズムに合わせた配置がしやすく、作業時間が短縮される
- フレーズを「装飾」しやすい:既存の流れにエフェクトやフィルイン的なアレンジを加える感覚で扱える。
- ❌ デメリット
- 再構築の自由度が低い:パズルのピースが大きく、新しい構成を作りにくい
- 音響的な変化に乏しい:聞き慣れたフレーズの組み替えになりがちで、驚きや独創性に欠ける場合も
- 2. トランジェント(オンセット)単位での分割
- ✅ メリット:
- 創造的再構築が可能:音節や破裂音など、細かい単位で自由に再構成できるため、斬新なボーカルアレンジやチョップが可能
- ビートとの同期が自在:キックやスネアに合わせてリズム的に「打楽器化」したボーカルを作りやすい
- グリッチ、EDM、Frenchcoreなどに向く:細かく刻むことにより、非線形・非メロディックなテクスチャに変換できる
- ❌ デメリット:
- 音楽性のコントロールが難しい:どこをどうつなげば自然か、あるいは不自然をどう活かすかの判断力が求められる
- 初心者には取っつきにくい:意図しない不協和やグルーヴの崩壊が起きやすく、音楽的なスキルが必要
- 素材次第で破綻しやすい:原音の明瞭度やノイズの多さに大きく左右される
- まとめ
- 初心者~中級者や、楽曲の構造に沿ったリミックスをしたい場合は、音符・小節単位のスライスが有効です
- 上級者や、ジャンル特化型の実験的なトラック(グリッチ、IDM、ベース系など)を作りたい場合は、トランジェント単位での細分化が有効です
- ミックス戦略として両者を組み合わせることで、「骨格は整っているが、スパイスとして奇抜な展開がある」ような、バランスの取れたボーカルチョップも作れます
ドラムマシン vs マルチサンプル
スライスを「ドラムマシン」にするか「マルチサンプル」にするかの選択肢がありますが、この2つの違いをまとめます。
- マルチサンプルに送る場合
- ✅ メリット
- キーボード向きの演奏:MIDI鍵盤での演奏がスムーズ。音階ごとにスライスが配置されるため、上下に並ぶ音階的配置に自然にアクセス可能
- カーソルキーでスライス選択可:Bitwigのピアノロールで上下キー(↑↓)でサンプルを切り替えられるため、編集・試聴が直感的
- ❌ デメリット
- 各ノートに名前・色がつけられない:ドラムマシンと違って、どのノートが何のスライスか判別しづらい
- ドラム的な入力にやや不向き:パッドに慣れた人には配置が非直感的
- ドラムマシンに送る場合
- ✅ メリット
- パッドでの演奏に最適:LaunchpadやMIDIパッドコントローラーでの演奏に向いており、1スライス = 1パッド の直感的な対応が可能
- 色分け・名前付けができる:各スライスに対して独自の名前や色を設定可能。視認性・管理性が非常に高い
- 色分けは右クリックで色を選択し、名前は[CTRL+R]で設定できます。
- またボーカルの発音の名前をつけるとピアノロールで音階のところに表示され、フレーズが組みやすくなります。
- このことにより、ドラムマシンによるスライスは「トランジェント」で行うのがおすすめです。
- スライスごとのエフェクト処理が容易: Drum Machineはサンプルごとにコンテナで格納されているので、各スライスデータごとにエフェクトが適用できます
- Modulator対応が広い:LFOなどで特定スライスにだけモジュレーションを加えるなど、細かい演出が可能
- ❌ デメリット
- ノートの上下キー移動でスライス選択不可:スライスはDrum Machineに格納されるため、サンプルの確認はマウス操作で行うことになります
- 横長のレイアウト:デバイスチェーンでの操作となるため、横長のレイアウトとなります
用途ごとのおすすめポイントをまとめると、以下のとおりです。
用途・スタイル |
推奨形式 |
理由 |
鍵盤リアルタイム演奏 |
マルチサンプル |
ピアノロール・鍵盤に親和性が高い。スライス選択も楽 |
ドラムパッドでのライブ演奏・即興 |
ドラムマシン |
パッド配置と視認性が抜群。カラー&名前管理も有利 |
DAW内でサウンドデザインを細かく行いたい |
ドラムマシン |
各スライスごとに個別の処理・オートメーションが可能 |
サンプルの一部だけを繰り返して音楽的に使いたい |
マルチサンプル |
ベロシティによるニュアンス表現にも対応しやすい |
独自のスライスモードを作る方法
このようにBitwigにはスライスモードが用意されていますが、各データが分割されてしまい、分割後の調整がやりにくいデメリットがあります。
そこで
Note FXである
Keytrack+を使った独自のスライスモードを実装する方法が、LOBOTIX氏によって紹介されています。
作成したプリセット
動画をもとに作成したプリセットです。個人的には "C2" 始まりで、横軸を "9 Step" にした方が良いと感じたのでそのように修正しています。
Vocal 8 Slicer.bwpreset
なおサンプルを一度消してしまったり、ボーカル素材をドラッグ&ドロップで追加するとピッチがおかしくなってしまう問題があります。そのため、Samplerのサンプル選択ブラウザからボーカル素材を設定する必要があります。
関連ページ
最終更新:2025年07月09日 00:55