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「あら、大きな熊さんもご存知なの? さすがにお二人は仲がいいのね。ウフフ」

「へー、そうなんだ!! 舞ちゃんにねぇ・・・」

桃子さんがわざとらしい笑顔で僕を見る。僕は恥ずかしさのあまり思わず顔を伏せてしまう。
そして、桃子さんはお嬢様に向き直ってこう続けた。


「でも、ちさとはそれでいいの?」

「え? どういうことかしら」
「だってさ、舞ちゃんを取られるかも知れないのにそれでもいいの? ちさと的には」


桃子さん! いい質問です!!
それは僕がずっと聞いてみたいと思っていたことです。


でも、その答えを聞くのは怖い。ひとり緊張感が走る。



「ウフフフ、取られるだなんて表現がおかしいわ桃ちゃん。それに、その答えを出すのは舞自身ですから」


お嬢様は動揺を全く見せずにそうお答えになった。

お嬢様のそのお答えは、どういう意味を持っていたのだろう。
僕の思いを許してくれているのだろうか。
それとも、それを知った上で舞ちゃんが僕を選ぶ訳が無いと確信しているのだろうか・・・

深く考えたわけではなくその答えなのか、それとも・・・
その答えの意味を考えれば考えるほど僕は不安になる。

でもどちらだったにしても、その自信たっぷりに見える余裕あふれる答えに、僕は絶望的な気分になった。
最初から分かりきっていることだけど、絶対かなうわけないじゃん。お嬢様相手に。

だって、舞ちゃんにとってお嬢様は・・・


そんな僕の心境を知ってか知らずか、お嬢様が真顔で僕のことを見つめてきた。
その茶色い澄んだ綺麗な瞳に見つめられ、僕の視野にはお嬢様以外のものは入らなくなる。


「ひとつお聞きしたいのだけれど・・・」

「はい、なんでしょう?」
「舞に何があっても、舞のことを全力で守ってくださる?」

お嬢様は真剣な表情で僕のことを見ている。その時のお嬢様はやけに大人っぽく見えた。
その質問、よくぞ聞いてくださいました。
ここぞとばかり、僕は自信たっぷりに答える。

「そんなの、もちろんです」

お嬢様は真剣な表情を崩さずに話しを続ける。
が、何か言葉を選んでいるような口ぶりになった。


「例えば、その、これはもしもの話なんですけど、舞がもし幼児化したりしてしまったとしても?」


??

何て言ったんだろう。よく聞き取れなかった。
ようじか? 幼児化?? 意味が分からない。

でも、お嬢様が舞を守ってくれるのかと聞かれているのだ。思わず背筋が伸びる。
僕の答えを聞いてくださいお嬢様。

「何があっても絶対に僕が守ってみせますよ。必要とあらば暴力を使うことも辞さない覚悟です。こう見えても僕はケンカで負けたことは一度も無いんですから」

これは本当です。
まぁ、ケンカしたことが無いんですけどね。

「まぁ、頼もしいわ。そこまで舞のことを」


「でも暴力はダメよ、ウフフ」


このお嬢様の御質問には僕のテンションが上がった。
舞ちゃんのことを全力で守る、そのシチュエーションを想像すると、今晩はたぶん寝れなくなりそう。


「素晴らしいわ。ねえ、桃ちゃん」

お嬢様が瞳を輝かせてくれたのと対照的に、桃子さんのその表情は何といいますか、とても懐疑的でジトっとした視線だった。

「どうだろ。男の子は平気でそういうこと言うからね。言うだけならタダなんだから」
「まぁ、桃ちゃんったら」
「第一、そこまで舞ちゃんが好きなのに、愛理に見とれてたんでしょ」

桃子さんは何かいちいち引っ掛かる言い方をする。まだそこにこだわりますか。
僕がピンクのペンライトを持たなかったのがよっぽど気に障ったんだろうか。

でも、アイドルの子を好きになるのと、実際の女の子を好きになるのは、「好き」の持つ意味が違いますから。
恋愛の対象として好きなのはただ一人、舞ちゃんだけですから!
そこは、はっきりとしておきたい。

「や、あの、愛理ちゃんは一人のアイドルとして好きっていうか。彼女に対する想いは何かバーチャルな感じであって、好きの意味がそこは違うわけで。
それに、舞ちゃんの他で好きな女の子って言うならます第一におじょ・・・いやその何を言いたいのかと言うと、つまり現実として僕が一番好きな女の子は舞ちゃんなんです!」

あ、ついムキになってテンパって思わず凄い重大な発言を・・・。
初めて自分の口から宣言してしまった。

見事に誘導尋問に引っかかったような気がする。
完全に桃子さんの思い通りに展開されている感じが・・・

「おー!!少年、熱いねぇ。青春してるねー。若いって素晴らしい!ヒューヒュー」
「桃ちゃんったら、そんなからかったりするのは失礼だわ」

お嬢様、お気遣いありがとうございます。
その横で桃子さんは、まるでゲームを楽しんでいるかのような楽しそうなその笑顔。
彼女の手のひらの上で遊ばれてるんだろうなあ僕は。

桃子さんに完全に面白がられているのが分かる。
ニヤニヤとした顔で僕を見ている桃子さん。

「ふーん、愛理はアイドルなんだ、少年にとって」
「へ?まあそうですね。Buono!は僕にとって一線の向こう側って感じで」
「ってことは、もぉもアイドル? そういうことだよね、もちろん」
「も、もちろんです。Buono!の中でも、桃子さんこそが真のアイドルって感じがしますよー。あははは」

ここはこう言わざるを得ないだろう。
ステージではやっぱり愛理ちゃんに一番見とれちゃうなあ、ということは心の奥底だけにしまっておく。
せっかく桃子さんの機嫌が良くなってきているのだ、この流れを止めないようにしなくては。
いやまあでも、お世辞じゃなくBuono!の3人は本当にアイドルオーラが凄いなと思うけど。

「じゃあ、その少年にとってアイドルであるBuono!の曲のなかで一番好きな曲は?」

Buono!の曲かあ、いい曲が多くて選ぶのは悩むな。
消失点かな、カタオモイもいいな、ホントのじぶんも捨てがたい、MY BOYも盛り上がるし。
でもこの質問、あの答えを使うのは正に今この場面なのではないだろうか。桃ヲタに教えてもらったあの曲名。

「・・・・あいにーじゅー、デス」
「そっかー! I NEED YOUが好きなんだ。意外といいセンスしてるんだね、少年」

僕に対する桃子さんの態度が少し柔らかくなったような気がする。
桃ヲタから聞いた情報が役に立つ日がくるなんて。

「でも少年、I NEED YOUって失恋の想いを歌った曲なんだけどねー。その気持ちに共感するんだウフフ」

そうなのか・・・聴いたこと無いので知らなかった・・・

「またBuono!のライブがあったら見に来てくれる?」
「もちろんです。今回のライブは最高でしたから。来年の学園祭も期待してますよ!」

「ウフフ。じゃあ、来年の学園祭、楽しみにしてるといいよ。爆発しないようにね少年」
「そうねウフフフ。来年はどうなるのかしら。まだ先の話しすぎて。でも楽しみだわ」
「はい、本当に楽しみにしています」

顔を見合わせて笑いあう桃子さんとお嬢様。いいなあ、この2人。
そう思っている僕に桃子さんが真面目な声でつぶやく。

「I NEED YOU が好き、か」


「でも、まぁ少年の気持ちは分かった。そっか、そこまで本気なんだ舞ちゃんに」

真っ直ぐに僕を見る桃子さん。さっきまでのからかうような表情と打って変わったその真剣な眼差しに僕の背筋が伸びる。
心の中まで見透かされてしまいそうな桃子さんの眼差し。

「もぉは人のことには干渉しない主義なんだけど、勿体無いなあと思うこともあるんだよね」

何だろう、話しが見えないぞ。

「舞ちゃんもせっかく素晴らしい才能を持ってるんだから、もう少し世界を広げたほうがいいのかもね。千聖べったりじゃなくてさ」


「そういうことで、少年!応援してあげようか?」


桃子さんがにこやかにそう言ってくれる。
望外の言葉を頂いて、思わず身を乗り出してしまった。

「本当ですか!?」

この人を味方につけたらそうとう心強そうだぞ。
これは追い風全開じゃないか。いよいよ僕の時代到来なのかそうなのか。

おもわずそう思ったのが表情にはっきり出てしまったようだ。

そんな僕をからかうように、甘い表情を一変させてニヤリと冷たく笑う桃子さん。

「なわけないじゃん。調子に乗らないの。世の中そんなに甘くないよ、少年」
「桃ちゃんったら、もうウフフフ」
「ね、見たでしょ千聖?今の顔。完全に引っかかったよね。男ってホント誘惑に弱いよねー。ころっと騙されるんだから。男っていうのはこういう単純な生き物だからね、ちゃんと見ておくんだよちさと」


・・・・・・


やっぱり、この人に遊ばれてる。
なんだろう、この人は今までに出会った学園の人達とは全く違うぞ。なんか、さすが軍団長だ。

そんな桃子さんの横で誇らしげな表情の微笑で桃子さんを見つめている千聖お嬢様。
その表情からも、この2人の間にある絆のようなものが感じられる。
桃子さんと千聖お嬢様、今日おふたりにお会いできたのは僕にとって得るものがあった気がします。ありがとうございました。

あれ? そういえば、彼女のことをすっかり忘れていた。

熊井ちゃんはどうしたんだろう?

さっきからずっと静かじゃないか?
彼女が話しをかきまぜてこないなんておかしすぎる。

そう思って、視線を熊井ちゃんに向けて見ると・・・


彼女は壁にもたれかかって寝ていたのだった。それはそれは幸せそうな寝顔を浮かべながら。



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最終更新:2013年11月24日 11:06