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「まーちゃん・・・」

「はい。サトウマサキことまーちゃんです」
「・・・・・・」


それ、逆だよ、たぶん・・・・


まだちょっと日本語が完成されていないのかな。
でも、それさえも可愛らしくて。
なんだろう、この妙にこの子の味方になってあげたくなる感は。

さきに配ったプリントには、すでに名前が書きこまれていた。
そのいかにも小学生らしいたどたどしい筆跡で書いてあった名前。

佐藤優樹。

マサキちゃん、か。
なるほど、それでまーちゃん。


「佐藤優樹さん、ですね。えーっと、佐藤さんは・・・」
「まーちゃんのことはまーちゃんって呼んでください。つぐしさん」
「つぐし・・・」

呼ばれるにしてもつぐしは嫌だなあ、なんて思ったけど、そんな子犬のような表情で言われちゃうとさ・・・・
もういいや。つぐし、で。

「えっと、まーちゃんはまだ小学生だよね」
「はい。5年生でーす。くどぅと同じ学年でーす」
「将来的に、うちの高校への進学を考えてるの?」
「別に、ぜんぜん考えてないです」
「えっ? じゃあ何のために今日はここへ?」
「うちの学園に来た久住小春さんが来て下さいって言ったからまーちゃん来ました」
「久住小春さんって。優樹ちゃん、小春ちゃんのこと知ってるの!?」
「いいえ。お会いするのはそのときが初めてですよ」


えっ? 何か微妙に話しが交わってない感じが・・・
なんか何言ってるのかよく分からない子だけど、来いって言われたからその通り来た、ってことか。
ずいぶんとまた、素直な子なんだな。


「でも、この人があの小春さんなんだ!とまーちゃんはそのとき思いました」
「?? いったいどういう関係なの? 小春ちゃんとまーちゃん・・・

だが僕のそんな疑問は彼女にとってどうでもいいのか、まーちゃんはそれには答えてくれなかったんだ。
そして、僕のした質問に、優樹ちゃんは別の質問を重ねて逆に問いかけてきた。

「あの・・・ キャラメルはまだですか?」
「えっ? キャラメルって、なにそれ?」
「これに出席したら生キャラメルをくれるって言われました」

おそらく今彼女が抱いている最大の感心事はそれなのだろう。
だから話しを遮ってまでそのことを僕に聞いてきたのだ。

          • 食べ物で釣ったのか、小春ちゃん。
そして、この子はそれに釣られたのか。



そのとき小春ちゃんが戻ってきた。
その手には小箱を持って。
あー、なるほど。小春ちゃん、この子と交わした約束をちゃんと憶えていたんだ(あの小春ちゃんが!?)

「来てくれたんだねー。はい。約束の生キャラメルだよー!」
「キャー、ありがとうございます!!」


キャラメルを貰って飛び上がらんばかりにはしゃいでいる優樹ちゃん。子供w
でもその様子を見て、僕はすっかり和まされてしまった。
この子を見ていると、なんだかすっごく癒されるんだ。


「小春ちゃん、この子、なんか小春ちゃんのこと知ってるらしいよ?」
「そうなの?」
「はい。小春さんはとっても有名ですから」
「そうなんだー!! 小春、すごいねー」

有名、ね。
まぁ、そうだろうな。
渉外部長としても、その名をこの近辺の学校全ての生徒会に轟かせているぐらいの人だもん。
その系列の初等部の子に知られていたとしても、まぁ不思議なことではないのかも?


「あと、そのとき初めてお会いしましたけど、小春さんのことをまーちゃんとても好きになったからです」
「小春ちゃん、聞いた? 小春ちゃんのこと好きだって」
「そうなんだー!マサキちゃんって言ったよね。私のことは小春って呼んでね」
「はい、小春。うちの学校に来たとき、小春さんが先輩達とお話ししているのを見て、それで、あの、なんか、高等部の先輩達と、あ、でもまーちゃんは初等部のお友達は多いんですよ。だから、小春さんは凄いなって思いました」
「そうかー。優樹ちゃんは高等部の先輩達に憧れているんだね。かわいい子が多いもんねー。でもねー。小春、あやちょには『小春さんはちょっとアレですよねー』ってよく言われてるんだよ」
「ウフフフ、えりぽんさんもよく言ってます。KYってことですね。小春さんはKYなんですね」


この2人の会話、何を言ってるのか僕にはよく理解できない、というか全く分からなかった。
これ、会話はちゃんと交わってるのか? それすら分からない。

聞いてても理解できないぐらい支離滅裂な会話だと思うのに、この2人は楽しそうに会話を続けている。
どうやら、ちゃんと意思の疎通はできているらしい。
宇宙人同士の話しは凡人の僕なんかの常識の範疇を超えている。


「まーちゃん、かわいいー! 小春の友達になってくれる?」
「はい」


「まーちゃん、ウチの高校においでよ!いくらでもお世話してあげるよ!!」

そんなこと言ってるけど、この子がここに来るとしてもその時にはもう小春ちゃんも僕もいないじゃん。
なのにそんなこと言ったりして、それはちょっと無責任じゃないのだろうか、小春ちゃん・・・


その小春ちゃんの言葉を聞いた優樹ちゃんの表情が変わる。
そのやけに真面目な顔。


「あの、この高校の人が進む大学の名前を教えてください」

あれ? いきなり声のトーンが変わった。
この子こんなに子供子供してるのに、真顔になるとやけに大人っぽく見えるな。

「進学実績ならこの紙に書いてあるよ」

「いろいろな大学の名前がありますねー。けど、まーちゃんの行きたい大学の名前が無いです」
「えっ!? もう行きたい大学が決まってるの?」
「まーちゃんは何も考えてないでーす」

意味が分からない。


「でも、ちちとははが、大学に進むのなら北大にしなさい、って言ってるんです」

ん? 
ほくだい、ってどこの大学だっけ?

「そうなんだー! もう行きたい大学があるんだ! じゃあ、まーちゃんがもしウチの高校に来るとしたら、それはそのための踏み台なんだね!!」

なんだよ、踏み台って・・・
小春ちゃん、それ、もう少し適当な表現は無いんですか?
自分の所属するところに対してその言い方はないでしょ、普通は。
まさかとは思うけど、文字通りの意味で使ってないよね、それ。
そんな言い方したりして、その筋の人たちに聞かれたら怒られちゃうんじゃないかと心配だよ小春ちゃん。


一人で気を揉んでる僕の心中にも全く気付かず(だって、小春ちゃんだもん・・・)、小春ちゃんは明るく続ける。


「じゃあ、決まりだね! まーちゃん、うちの高校に来るってことでいいよね」

決め付けちゃってるよ。いいのかよ。
そんなこと勝手にこっちで決めたりしちゃダメでしょ、小春ちゃん。

「決まりですか? 小春さんはそうした方がいいと思いますか?」
「うん!!」
「そうですかー!」


私立校の生徒さんに対して、そんな無責任な。
しかも、相手はまだ進路の持つ意味なんかよく分かってなさそうな小学生だぞ。
もし本当に、この子が進路を自分の学園からうちの高校に変えちゃったりしたらどうするんだよ。
そこでそんな発言をされたから変えました、なんてことになったら大問題になるだろ。
うちの学校の説明会での発言は、この学校の公式発言として受け取られるんだから。
もしそうなったら、僕たちの責任も追及されるに決まってる。


「小春ちゃん。そんな重大な事をあっさり軽い口調で言ったりして。この子が真に受けたりしちゃったらマズイでしょ」
「そうかなー? でも、もし怒られたりするとしても、そのときはもう私卒業しちゃってるから、そのときは代わりに怒られてね!!」
「ほら!結局僕がかぶるんじゃん!! もう、小春ちゃん!!」

どうして、いつも僕はこうやって他人のすることで振り回されるんだろう。
ひょっとして、僕ってそういうキャラなんだろうか・・・・・(いや違う!!キリッ)

「小春ちゃんがそんな大それたことすると、結局僕がとばっちりを受けるんだからね!」
「そうなんだ!! 大変だねー、あははは」
「そんな他人事みたいに・・・・ だから、いま僕らは一緒にこの学校を代表してるんだから、小春ちゃんが抑えてくれないと僕が怒られ・・・」

僕の魂の叫びに、優樹ちゃんが大きく頷いた。

「連帯責任ってことですね! 分かります!!」
「まーちゃん、難しい言葉を知ってるんだねー!」
「はい、知ってますよ。前にガキさんの後ろで踊ることになったとき、先生から覚えられなかったら連帯責任だぞって言われましたから。
そう言われて、えりぽんさんが泣きながらまーちゃんにダンスを教えてくれました! 連帯責任っていうのはそういうことですね」


連帯責任という言葉について語る優樹ちゃん(何故か得意顔)。
でも、僕には彼女が何を言ってるのか、さっぱり分からなかったけど。



そんな彼女の言ったことに、小春ちゃんがびっくりしたように声をあげた。
珍しいな、何事にも動じない小春ちゃんのそんなリアクションは。


「えっ? いまガキさんって言った? それって、あのガキさん?」
「はい。あのガキさんです」


どのガキさん??
誰なんだろう、あのガキさんって?



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最終更新:2014年02月01日 21:09