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待つことしばし、小春ちゃんがやってきた。
部屋に入ってきた小春ちゃんは、熊井ちゃんを見るとさっそく声をかける。

「渉外部の久住小春です。わざわざ学園から来たんだってー?」

小春ちゃん、この外見の熊井ちゃんを見ても、全く驚いたりしないんだな。
この人もまた何があっても動じない人だよなあ。
さすが強心臓の小春ちゃんだ。

「小春? あの時言ってた小春って、この人のこと?」

熊井ちゃんが僕を見た。
その言い方だと僕が呼び捨てで呼んだみたいじゃないか!
だから、ちょっとムキになって熊井ちゃんに答える。

「そうです。先輩の久住小春さんです。3年生の方です。部長さんですからね」
「小春、って呼んでくれていいよー」
「あの、うちは熊井友理奈です。よろしく」
「よろしくねー、熊井ちゃん!!」

「まーさが言ってた。あの高校の生徒会には凄い人がいるからって。それって小春のことでしょ」
「まーさって、須藤茉麻ちゃん? 彼女と知り合いなの? 茉麻、生徒会長になったんでしょ」
「茉麻のこと知ってるの?」
「学園には今年まだ行ってないなー。茉麻に会ったらおめでとうって伝えておいてね」
「それは伝えますけど、だからー、小春は茉麻のこと知ってるの?」
「去年の生徒会からどう変わってるのかな。会うのが楽しみだよ」
「だから!小春は茉麻のこと知ってるの?」
「生徒会同士だからね。もちろん知ってるよ。熊井ちゃん、人の話しはちゃんと聞こうねっ!」

小春ちゃんのその発言を聞いたとき、僕は小さく悲鳴をあげるところだった。
この2人のやりとり、恐ろしすぎる。

この時になって、ようやく気付いた。
熊井ちゃんの相手をするのに小春ちゃんを呼んだのは判断ミスだったのではないかと。
例えるなら、てんぷら火災を消火するために水をかけたようなものだ。
あまりにも危険。僕はすっかり正常な判断力を失っていたのかもしれない。

でも、しょうがないよね。
だって、さっきまであんなに緊張した空気の中にいたんだから。とても自分を責める気にはなれない。
これはあれですよ、緊急避難ってやつです。仕方の無いことなんだ。


そうは言っても、ここまで恐ろしいことになっている目の前の光景に僕はどうすればいいのか。
この緊張感、ハンパない。。
2人のやりとりをそばで聞いているだけなのに、僕は縮み上がっていた。
今にも熊井ちゃんが爆発するんじゃないかと気が気じゃない。


でも、熊井ちゃんは思ったよりイラついてはいなかった。
あれ? 不思議。
ひょっとして・・・・小春ちゃんの突き抜けたキャラに、ちょっと呆れぎみ?
熊井ちゃんのその生温かい視線を見るのは久しぶりだ(前に見たのは桃子さんの許してニャンの時だったか)。

あの熊井ちゃんに主導権を取らせないとは・・・さすが小春ちゃん。


そんな小春ちゃんはと言えば、楽しくなってきたな。テンションが上がっている様子が分かるよ。


あらためて、熊井ちゃんが小春ちゃんに話しかける。

「なるほど、凄い人って茉麻が言うだけのことはあるね」

熊井ちゃんがじっと小春ちゃんを見つめた。

「でも、小春と話しができるならちょうど良かった。この話しをするのも今日来た目的のひとつなの」

さっき言ってた話しってやつか。
なんだそれ。どうかまともな話しでありますように。

「私に話したいこと? なに、熊井ちゃん?」
「実はね。こいつのことなんです!」

熊井ちゃんが再び僕のことを真っ直ぐに指差す。

ぼ、僕のこと!?


「こいつが生徒会に入ったそうですね。それで当方の任務に支障が出ているんです」
「任務?」
「そう。うちらもぉ軍団がこいつに与えてる任務があるの。だから、先輩だか知らないけどこいつに勝手なことされると困るんですよね」
「学園から何か仕事を引き受けてたんだ。知らなかったよー」

小春ちゃん、そこ熊井ちゃんにもっと突っ込んで。それはおかしい、って。
何でこの僕に他校である学園の任務なんてものが存在するのか、どう考えてもおかしいでしょ。
そもそも、学園の一生徒が他校の生徒会の人事に口出しをしてくること自体、その行為は内政干渉と言って一般的にその行為は重大な国際問題であって・・・・

だが、僕の願いは小春ちゃんには届かなかった。
熊井ちゃんの言うことに、小春ちゃんは面白がる一方だ。
上から目線で訳の分からないことを言ってくる熊井ちゃんを見ても、引いたりするどころか最初から面白がることの出来る小春ちゃん。
この人も凄いな、と思った。さすがミラクル小春の異名を取るだけのことはある。

「でも、うちらは分別があります。その辺は譲歩してあげないわけでもないので、だから話し合いをしたいと思ってこちらに来ました」
「そうなんだ。熊井ちゃんはしっかりしてるねー」

小春ちゃん、本気でそう思ってるのだろうか。

「ところで熊井ちゃん、もぉ軍団って何なの?」
「もぉ軍団っていうのは、学園の生徒のなかでも特別な精鋭だけで結成されたエリート集団です。道理の通らぬ世の中に敢えて挑戦ry」

もぉ軍団の説明をする熊井ちゃん。
さっきもそれ言ってたけど、エリート集団だったのか。それは初耳だ。
さっき応援団の人達を固まらせたような、常人には理解が難しいそんなもぉ軍団の説明を、ニコニコ顔で聞いている小春ちゃん。
まぁ、小春ちゃんがどこまでちゃんと聞いているのかは非常に疑わしいところだけど。


「それで、今お聞きしたいのは、こいつにやらせる仕事割りを当方とそちらでどのような配分にするかってこと。その具体的な割合を協議したいの」
「渉外部は毎日決まった仕事をやるってわけじゃないからね。その時々で仕事は変わるから、臨機応変にやってくれればいいよ」
「でも、その辺を適当にしとくと、こいつすぐサボるんで。マニュアル化しておいた方がいいですよ」


!!

その言われ方は納得できない。
あれだけ毎日席取りに励んでいる僕に対して何て言い方だ。ひどい、ひどすぎる。


「すぐサボるって、僕がいつサボったりしたんだよ!」

熊井ちゃんの言ったことに、つい脊髄反射してしまった。
口を挟むだけ時間の無駄だから、早く終わって貰うためにひたすら沈黙してようと思ってたんだけど。

そんな僕の反論に、熊井ちゃんが即答する。

「おととい。席を取っておいてくれなかったでしょ?」
「それはサボったわけじゃない! 生徒会の仕事があったからだって言ったじゃないか」

なんで僕はムキになって言い訳してるんだろう。
それを聞いた熊井ちゃんは、僕に対してあくまでも上から目線だった。

「だから、その調整の為に今うちと小春が話をしてるんでしょ? 人の話しはちゃんと聞いてなさいよ」
「そうだよ、人の話しはちゃんと聞かなきゃダメだよー」


よりによって、この2人からそんな指摘をされるなんて・・・

ダメだ。熊井ちゃんにはかなわない。
僕のかなう人じゃないということを再度確認しただけに終わった。
しかも、熊井ちゃんを抑えるために呼んだ小春ちゃんだったが、向こう側の人が2人に増強されるという結果に。
なんという逆効果。


おわかりのように、この人達は僕の力の及ぶ人達じゃないのだ。
この時点で僕はもうあきらめモードに入っていた。
人生、あきらめも肝心なのだ。


「熊井ちゃんはしっかりものだね! じゃあ、その辺は熊井ちゃんの一存におまかせするよ。ちゃんと考えてくれそうだし」
「それでいいですか? じゃあそうします。しっかりと考えてあげるから任せてください」

2人とも、何というか、第一当事者である僕の都合とか僕の考えというものは一切聞こうとしないんだね。
今のたったそれだけのやりとりで決まってしまったらしいが、そこで出たのは何という恐ろしい結論だろう。
熊井ちゃんにまかせる・・・
本当にそれでいいの、小春ちゃん?


「そういうことだから。分かった?」


ドヤ顔の熊井ちゃん。
僕は不安だった。小春ちゃんはあんなこと言ってるけど、どこまで真剣に考えての発言なのかは大変疑問が残る。
面白がって熊井ちゃんの話しに乗っているだけじゃないのだろうか。

うん、そうだろう、間違いない。
きっと僕は小春ちゃんのきまぐれに、これから先も振り回されることになるんだ。
なんだよ、それじゃ今と何も状況が変わらないじゃん!今の2人の話し合いは何だったんだ!それで何かあったら、どうせまた僕が問い詰められるんだろ!

そんなパニックになっている僕の心境など全くお構いなし。
熊井ちゃんが満足そうな顔で僕に言う。


「うちと小春がここまで考えてあげたんだから、しっかりやりなさいよ」
「ハイ・・・」
「それじゃ、こいつのこと、よろしくお願いしますね。いろいろ厳しく教え込んでやって下さい」

どんな立場の人だよ、熊井ちゃん。
なんで僕が熊井ちゃんからそんな風に言われなきゃならないんだ。

「熊井ちゃん、保護者の人みたいだねーw そもそも2人はどういう関係なの?」

今頃その質問するんだ・・・小春ちゃん。

「こいつはですね、うちの奴r「熊井ちゃんは僕の小学校の時の同級生なんです。何でか最近よく関わってますけど、まぁそんな関係です」
「幼なじみなんだー。それにしても、付き合ってる人がいるなんて小春まったく知らなかったよ。しかも学園の生徒さんと!」

小春ちゃん、人の話しはしっかり聞いてちゃんと理解して。
僕と熊井ちゃんが付き合ってるなんて、今の話しの中には全く出てきていないよ。


「えー? 付き合ってなんかいないんですけど」

マジレスされると余計に恥ずかしいよ、熊井ちゃん。
小春ちゃんも小春ちゃんなら、熊井ちゃんももちろん熊井ちゃんだ。
そんな2人のやりとりの間におかれるのって、かなり苦痛のような気がしてきたぞ。


さっきから何か、この2人が喋るたびに僕はいちいちツッコミを入れている気がする。
頼むから、もっと普通に交わる会話をして下さい、2人とも。
この状況、非常にストレスがたまるよ。

そして、ついに熊井が爆弾を落とした。


「だって、こいつが好きなのは舞ちゃんなんだから」
「く、熊井ちゃん!」
「いっつも舞ちゃん舞ちゃんってw ホント面白いんですよー。この間だって・・・」

いきなり小春ちゃんに何てことを暴露してくれるんだ。恥ずかしすぎる。
しかも何か僕のエピソードを話し始めようとする熊井ちゃん。
やめろ、熊井!
あわてて制止しようとするが、僕がかなう相手では(以下略。

この間って、何かそんな面白がられるような事があっただろうか。
あのことだろうか、それともあのこと?

そんな心当たりをあれこれ考えていると、熊井ちゃんの話しを聞いた小春ちゃんが思いがけないことを言いだした。
小春ちゃんの言ったこと、それは僕を大いに驚かせてくれた。



「舞ちゃんって、もしかして、萩原舞ちゃん?」




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最終更新:2013年08月25日 10:14