それにしても、何だって?
仲がいいって? 僕と栞菜ちゃんが?
とんでもない! 仲良くなんかなってないです!!
少なくとも彼女は僕に仲良くなんてしてくれないし、いつだって僕に対してはひどい扱いなんだから・・・
そんな有原さんに対して、僕は恐怖感しか感じていないんですよ。
どこをどのように見たら僕らの仲がいいように見えるんですか、えりかさん?
そんな僕の疑問なんかお構いなし、御自分の持論を展開するえりかさん。
「あの子、本当はとても人見知りなんだ。意外に思うかもしれないけど」
あの有原さんが人見知りだって?
いつもいつも僕をイジってきては楽しんでいる、あの攻撃的な人が?
そんなの絶対ウソだ!!
「でも本当だよ。栞菜はね、とても繊細な子なの。いつも人の気持ちを思いやれるような、ね」
「だから、あの子は人がどう考えてるのかってことに対してとても敏感なんだ。
相手の立場になって考えることが出来るのも、そういうことなんだろうね」
「それがまるで人の心を読めるように見られたりもするけど、本当は違う。繊細さでそう見えるだけ」
「世の中には、いろいろな人がいるから。そんな風に人の心を覗けたりしたら、それなりにつらいこともあるだろうね」
えりかさんが真面目な顔で語ってくれた今のお話し。
それを聞いたら、人の心が読めるというのは確かに楽しいことばかりじゃないのかもしれないな、とも思ってしまう。
現実的に考えると、人間の裏表を垣間見るような思いをして、幻滅するようなことだってあるのかもしれないし。
でも今の話しって、繰り返しになるけど、これ栞菜ちゃんのことを言ってるんだよね?
決して人の心を読めたりしている訳じゃなくて、それは相手の立場に立って考えることができるから、だって?
ただ繊細なだけ?人の気持ちを思いやれる?あの有原さんが?
僕にはとても同意など出来ないことばかりなんだけど・・・
「もし、栞菜があなたが言ったような態度をいつもあなたに取っているのなら・・・」
えりかさんは御自分の持論を展開して何かに思い当たったのか、いったんそこで言葉を切った。
えりかさんが続けて言ったこと、その言葉に僕は衝撃を受けることになる。
「つまり、栞菜はあなたに気を許してるんじゃないのかなあ。
あの子は信頼した相手にしか、決して自分を見せようとしないから・・・」
「その裏返しであなたに対してそういう態度を取ってるんだと思うよ。
それどころか、あなたにそこまでするなんて、ひょっとしたら栞菜はあなたに好意を持ってるのかもしれない・・・」
な、なんだってー(棒読み)
・・・・そうだったのか。
実は僕も薄々感じていたのだ。
いつもいつも僕にちょっかいを出してきたりして、ひょっとしたら有原のやつ僕に気があるんじゃないかと。
やっぱり、どうやらそれは当たりだったようだ。
でも、そうだとしても僕は困惑するばかり。どうすることもできないよ。
僕の気持ちは舞ちゃんにしか向いていないのだから。
栞菜ちゃんゴメン、君のその想いに応えてあげることは出来ない。
僕達は決して結ばれる運命には無かったのだと思って諦めてくれ。
でも、仲のいい友達としてなら、この先もずっとお付き合いしてあげてもいいかな。
あのいつもの見下してくるような態度でなければ、栞菜ちゃんと一緒にいるのも結構楽しそうだし。
ただ、そのためには、もう少し僕に対して女の子らしい対応をしてもらう必要があるだろ。
そう、そんなに僕のことが好きなら、それなりの態度を僕に向けろっていうんだ!
あ、言ってるうちに、いつもの仕打ちを思い出してなんだか腹が立ってきた。
いつもの僕に対するあの態度、これからはきっちりと改めてもらうからな!!
わかったか!有はr
そんな妄想は強制的に終了させられた。
いきなり後頭部に激しい衝撃を受けたから。
な、なんだ!?何が起こったんだ!??
振り向くと、そこには鬼のような形相をした栞菜ちゃんが立っていた。
その手には皮製の黒い学生鞄。
おっ、お前、その見るからに固そうなカバンで僕の頭を殴りつけてきたのかよ!痛いっつうの!!
まったくとんでもない人だ。暴力反対!!
「いいかげんにしろ。なんで私がオメーなんかに・・・ありえないだろJK。お前は萩原だけ見てればいいんだよ!」
「(カチン)なんだよ、その言い方! 僕はいいけど、舞ちゃんに対してはちゃんと敬意を払えよ!!」
「なんだオメー私に対してその態度は!! この(自主規制)野郎が!!」
「(自主規制)とは何だよ! 僕はちゃんとm
「ち、ちょっと2人とも落ち着いて?」
僕らの聞くに堪えない言い合いを、困ったような顔をしているえりかさんが止めてくれた。
チッ・・・と舌打ちをした有原さん。
彼女の挑発についカッとなってしまったが、すぐに冷静さを取り戻すことができた。
そんな僕の顔を、有原が睨みつけてくる。
「どういう流れでオメーがそんな考えになったのか、これは検証する必要があるかんな」
そう言うと、おもむろにテーブルの下に手を入れてそこをまさぐっていたかと思ったら、そこにあった何か小さい機器を取り出してきた。
なに、それ?
「これ? ICレコーダー。これが中々の性能なんだかんな」
そんなもので僕たちの会話を録音していたというのか!
なんという悪趣味な人なんだ。
彼女が再生ボタンを押すと、スピーカーから声が流れてきた。
“グヒョヒョ”
“愛理の水着姿、見たいんでしょ?”
“み、見たいれす”
「あれ?間違えた。このファイルじゃないかんな」
そう言いながらレコーダーを操作する栞菜ちゃん。(今の声は誰なんだろ?)
次に再生した音源は、確かに今さっきしていた僕らの会話だった。
“僕の楽しいこと・・・それはですね、舞ちゃんのことを思うことです!!”
そんな宣言を高らかにしている自分の声(僕はこんな声をしているのか・・)。
冷静になった今、そんなことを言い放つ自分の声を聴くと、背中がむず痒くなる。
これは恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
いたたまれない思いを感じて赤面している僕に、有原さんが冷たく言い放った。
「相変わらずおめでたい奴だなオメーは。萩原相手なら構わないから一生やってろ」
なおもレコーダーからは僕とえりかさんの会話が流れてくる。
しばらく続くそれを聞いていた栞菜ちゃん。 えりかさんに向かってあきれるような口調で苦情を口にした。
「もー、こいつが変な考え起こしたのも、えりかちゃんがこいつに変なこと言ったからじゃんー」
「えっ!? ウチ?」
「そうだよー。まったく、恋愛脳もいいかげんにしてよね」
「エヘ、てへぺろ」
!!!
・・・・いいものが見れた。
今のが見れたことで、今日はもう思い残すことは無い。
たとえ、後は徹底的に有原に痛めつけられるだけだとしても、今日は幸せな一日だったと言えるだろう。
僕の喋ったことをチェックしている風だった栞菜ちゃんが、ちょっと不満そうに呟く。
「思ったより面白くないなー。この会話じゃあ、あまり使い道もなさそうなだし。やっぱりなっきぃ相手の時の方が面白そうだから次はそっちでやってみるかんな」
使い道って、何に使うつもりだったんだよ。
盗聴なんてことをしてまでも、僕の弱味を握って付け込んで来ようというのか。
今の言葉の後半部分はどういう意味なんだよ。だいたいどうやってそんなことを・・・
言いたいことは山ほどあるが、僕は彼女に何も言うことができない。
目の前には見下すように僕を見ているドヤ顔の有原。
最終更新:2014年01月05日 21:20