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学校帰りの夕方。
僕の行く手の向こうから寮生の方が一人歩いてくるのが見えた。
やって来たのは、栞菜ちゃんだった。

またこの人か。
なんか絡まれたら嫌だから、関わらないようにしようっと。

その栞菜ちゃん、いい遊び相手を見つけたと言わんばかりの表情を浮かべている。
僕を見てニヤニヤするのはやめてくれとゆいたい。
そんな彼女と目線を合わさないように、僕はそのまま静かに通り過ぎようとした。

「おいおい、何だよ、そんな露骨に避けて行こうとするなよ、オメー」

本当にガラが悪いな。善良な一般生徒に絡んでくるヤンキーとしか思えない。
今日は何の用だって言うんだ。
また僕に何か難癖をつけてくるつもりなのだろうか。

「何だよ、その何か言いたそうな顔は」
「別に。何も思ったりしていないです」

つとめて頭と心を空っぽに保って、彼女に対応する。
そんな僕に栞菜ちゃんが苦笑する。

「そう警戒するなって。ちょっとからかってみただけだかんな」

栞菜ちゃん、かわいいのに。
どうしてその外見を素直に生かさないんだろう、この人は。
苦笑して僕を見る彼女に対して、ちょっと心を許しそうになるが、油断は禁物、馴れ合い厳禁だ。
栞菜ちゃんが一筋縄でいくような子ではないというのは、僕は嫌というほど思い知らされている。


栞菜ちゃんを前にして緊張を強いられていると、そこにまた学園生が2人歩いてきた。
他の人が来たことで栞菜ちゃんの僕いじりもひとまず終わりになったようだ。助かった。


やってきたのは、お嬢様となかさきちゃん。
その2人を見て、僕の心は一気に浮き立った。

「なんだオメー、急にウキウキとした様子になりやがって。失礼だろこの
「お嬢様、なかさきちゃん!こんにちは!!」

「ウフフ、ごきげんよう、ももちゃんさん」

いけね。つい高まってお嬢様にも声を掛けたりしてしまったが、まずかったかな。
お嬢様の横にいるのは規律を重んじる風紀委員長さんだもん。
そっとなかさきちゃんの様子を伺ってみる。

だが、僕がお嬢様に声を掛けたことに対して、なかさきちゃんの表情が特に険しくなるということはなかった。
周りにそれを見ている他の生徒などが誰もいないというのも僕に幸いしたようだ。
これは幸運の女神が僕に微笑んでくれたのだろうか。

さすがにまだにっこりとした笑顔を僕に向けてくれるってところまではいかないけれど。
でも、とりあえず今までのような露骨に嫌悪感を示されることはなくなったようだ。

ついになかさきちゃん、僕のことを認めてくれたのかな。とても嬉しい。

そんな彼女に、つい調子に乗って馴れ馴れしく話しかけたりしそうになるが、さすがにまだそれは控えないと。
うん、あまり調子に乗らないように、もうしばらくは注意しないとな。
優等生の彼女の確固たる信頼をもっと勝ち取るためにも。

そんななかさきちゃんに改めて会釈をすると、僕の会釈になかさきちゃんは軽く表情を緩めてくれた。

そのなかさきちゃんの表情! 
いやー、かわいい。たまらないですね。
口角がキュッと上がったその表情。そしてまた、目がいいんだよな。この大きな黒目。
本当にかわいいなー、なかさきちゃん。


僕の目の前には2人の美少女。
僕はその2人、千聖お嬢様となかさきちゃんにすっかり見とれていた。 (おいコラ、テメーひとり忘れてるかんな)
変なテレパシーのようなものが感じられるが、いま僕はとても気力が充実した状態になっていたので、そんなものはサクッとシカトする。


そのときだった。
僕のケイタイがメロディーを奏でた。


♪なんか変だな 君ばっかり目で追ってる なんで なんだ♪


この着メロ、熊井ちゃんからの電話だ。
ケイタイを開くと、そこには“着信:熊井友理奈”の文字。


「あ、熊井ちゃんからだ」


・・・僕もバカだな。
かけてきた相手のその名前をわざわざ口に出すことは無かっただろ。
案の定、僕の前にいる3人の視線が一斉に僕のケイタイに注がれる。

そんなに注目されている前で通話するとか、これは何とも気恥ずかしい。

しかし、タイミング悪いなあ熊井ちゃん。
栞菜ちゃんやなかさきちゃんがいるこの瞬間に電話してくるなんて。
僕を窮地に陥れるために、わざとやってるんじゃないかと思うぐらいだよ。



なかさきちゃんも栞ちゃんも、そしてお嬢様も、僕のその電話に注目してしまっている。
そんな空気の中での、熊井ちゃんとの通話。これはさすがにちょっと恥ずかしい。
なんとなく、もう片方の手で口元を隠したりしてコソコソした感じになってしまう。



「もしもし、熊井ちゃん? え?何だって!?」 (あのね、下の弟がねー、リフティング本当に100回出来ちゃったんだよ)

「出来ちゃったって・・・ それ本当に間違いないの?」 (間違いないよ。うちがちゃんと数えてたもん)

「あのとき僕とした・・・あの1回だけで?」 (そうだよ。あのとき弟に教えてくれたあの1回だけで。うちの弟は覚えがいいみたい)

「まさか、そんな、信じられない・・・」 (それでさー、100回出来たらラーメンおごってあげるって言ってたよね。もちろんうちも行くからね)

「今の僕じゃあ、それは経済的に・・・ でも何とかするから!」 (もう弟がその気になって待ってるんだから。男に二言は無いよねー)

「僕はそんないい加減な男じゃないよ!責任はちゃんと取るから。あとで熊井ちゃんの家に伺います」 (OK。あと梨沙子も誘ってみようかー)

「うん、わかった。じゃあ、また後でね」



熊井ちゃんからの電話を切る。


・・・まいったな。
まさか本当にいきなりリフティング100回も出来るなんて。
今月は小遣いも残り少ないっていうのに・・・弟熊君とは約束だからもちろん奢ってあげるけどさ。
なんで熊井ちゃんや梨沙子ちゃんの分まで奢らされるんだよ・・・トホホ。


ため息をつきそうになってしまったが、かろうじてそれは抑えた。
それでも口から軽く息が漏れてしまった。
そして、思わず閉じたケイタイを見つめてしまう。


その時、僕に対する突き刺さるような鋭い視線を感じた。

ん?なんだ?
顔を上げると、なかさきちゃんと栞菜ちゃんがとても怖い表情で僕を見ているんだけど。

怖い表情っていうか、何そのとてつもないショックを受けたような驚愕の表情は?
場の雰囲気がさっきまでの柔らかな空気とは一変している。
2人とも急にどうしたっていうんだろう。
お嬢様だけは一人変わらず穏やかな微笑みを浮かべていらっしゃるけど。

「いつの間にそんな関係に・・・ 出来ちゃったって、どうするんだよオメー学校は辞めて働くのか?」
「ゆりなちゃん・・・ キュキュキュ・・・」
「ウフフ??」
「男って奴はこれだから。言いたいことはたくさんあるけど、もう今更言ってもしょうがない。こうなった以上は熊井ちゃんを幸せにしてやれよ」

栞菜ちゃんは意味不明のこと言ってるし、なかさきちゃんに至っては言葉にもなっていない。
お嬢様だけが穏やかな微笑みを静かに浮かべつつ、引きつった顔の2人を小首を傾げながら不思議そうに見ている。


なんだって言うんだ。

ああ、そうか。
ひょっとして、僕が熊井ちゃんと電話をするような仲だっていうことにそんなに驚いてるんじゃあるまいな。
おおげさだなあ、電話ぐらいで。


そんな僕に栞菜ちゃんが妙に真剣な顔つきで話しかけてきた。
その表情は、いつものあの人を小馬鹿にしたいやらしい感じではなく、栞菜ちゃんはこんな顔も出来るんだなと思うぐらいの真面目顔だった。無駄に凛々しいな。

「まあ、これからいろいろ大変だと思うけど、しっかりやれよ。もう一人だけのことじゃないんだから」

何を言っているのだろう?
状況が飲み込めない。
そこに今度はなかさきちゃんの搾り出すような声が僕の耳に入ってきた。

「よ、よ、よくもそんな・・・ 舞ちゃんのことは嘘だったの? さ、最低・・・」
「なっきぃ、気持ちは分かるけど今となっては過去よりも未来のことを考えるべきだかんな」
「栞ちゃん・・・」
「おい、これからはもう遊びじゃないんだ。何かあったら自分一人で悩まないで相談しろよ。出来る限りのことはしてやるかんな」

ますます意味不明。なんなんだ・・・?
でも、よくわからないが栞菜ちゃんには励まされているようだ。ありがとうございます。


なおも僕に何かを言いたそうにしているなかさきちゃん。
栞菜ちゃんが、そんななかさきちゃんの肩に手を掛けた。
そんな栞菜ちゃんは真剣な顔で僕を見ている。本当に無駄に凛々しい顔だ。
お嬢様だけはさっきから一人変わらず穏かな微笑み。

「はやく熊井ちゃんのところに行ってあげろよ。女子の方がずっと不安なんだろうから」

状況がつかめず唖然としている僕に対して、そういい残した栞菜ちゃん達は去っていった。


行ってしまった。
訳の分からない励まし(?)や忠告まで頂いて。
何だったんだろう。


訳が分からず彼女たちの後ろ姿を見つめていたら、なかさきちゃんがひとり戻ってきた。

彼女が一人で僕に?
わざわざ戻ってきたりして、いったい何だろう?
まだ何かあるのかな。

僕の前まで戻ってきたなかさきちゃんは、キッとした目付きで真正面から僕を睨みつけて、こう言った。


「やっぱり許せない・・・ 絶対に許さないから!!」


何を言ってるんだろう。
許さない!って言われても、何のことだか僕にはさっぱり・・・

そんなことを言われてとまどっていたら、いきなり頬に衝撃を受けた。



ひっぱたかれた・・・ なかさきちゃんに。



・・・・・なんで?



目の前のなかさきちゃんは涙目だった。


「友理奈ちゃん・・・・」


そんな彼女がつぶやくように言った言葉。
僕にはその意味が全く分からなかった。
さっきからの突然の展開に、僕の心は混乱するばかり。

踵を返し足早に去っていく彼女。
それを見ながら、呆然と立ち尽くしてしまう。


打たれた頬が、ひたすら痛かった。




 * * * *



翌日、登校したなっきぃと栞菜が教室で見たのは、お腹をさすっている熊井ちゃんの姿。
ますます引きつる2人の顔。



州*‘ o‘リ<昨日はよく食べたねー。熊井ちゃん替え玉頼みすぎだよ。
川*^∇^)||<だって梨沙子が次々替え玉頼むからさー、うちもつられて頼んじゃうんだよね。どうせ全部奢りだし。あははは





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最終更新:2013年11月24日 11:28