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いつもの朝、僕の前に現れたのは、今日もご機嫌そうな大きな熊さんだった。

「おはよう!」
「お、おはよう、く、熊井ちゃん」

先日の長説教の記憶もまだ生々しい僕は、挨拶もちょっと緊張気味になってしまった。
そんな僕の内面など、もちろんこの人にとっては全く関係の無い事だ。
熊井ちゃんは、今日もまたいきなり脈絡の無いことを僕に言ってきた。


「ねぇ、抹茶は好き?」

何だよ、また唐突に。
まぁ、そんなのいつものことだけど。

「抹茶? 別に嫌いじゃないけど、なんで?」
「なにその答え。好きなのか嫌いなのか聞いてるんだけど。どっちなのかハッキリしなさいよ」

彼女の聞いてきたことに対してあいまいな答えと質問で返したのはまずかった。
そんな僕の質問などはサクッと無視され、高いところから詰問してくる大きな熊さん。
こんな何気ない会話でさえも、主導権はすぐにこの人に握られてしまうんだな、僕は。

「す、好きです・・・」

僕のその答えを聞いた熊井ちゃん、直前の怖い顔(実は単なる真顔)がウソのように満面の笑顔になった。
その憎めない笑顔。
こういうところが彼女の魅力なのかもしれないな、なんて。

「そっかー! それは良かった!!」
「どういうこと?」
「うちね、新しいユニットを組むことにしたんだ」

またロクでもないことを考えついたのか。
それはいいけど、お願いだから僕を巻き込まないで下さいね。


「ユニット名はね、抹茶ーず。って言うの」
「抹茶ーず?」
「そうだよ、抹茶ーず。」


「抹茶好きの子の集りなんだ。
抹茶ーず。っていう名前ね、文末の「。」までがユニット名なんだって。変なとこにこだわるよねーw」

聞いてない、誰もそんなこと聞いてない。
でも、見るからに楽しげな熊井ちゃん。さっきの僕の答えを受けて話しを続けた。

「そっか、そんなに抹茶が好きなんだったら、分かった。入れてあげてもいいよ、抹茶ーず。」

だから、僕を巻き込むなと。
さっきは熊井ちゃんが怖いからそう答えたけど、そんなに大好きって程の抹茶好きではないのだ。

第一、熊井ちゃんの作るグループになんか関わりたくないっつーの。
もぉ軍団だけでお腹一杯です。

普段見てても、確かに熊井ちゃんは抹茶が好きなんだろう。
メニューに抹茶系を見つけると、大抵それを注文するし。

抹茶、ねぇ・・・

日本人の心、ではある。
上品な学園生なら茶道のひとつも嗜んでいるのかも知れない。授業でもやってたりしそうだし。
だけど、この熊井ちゃんからは、そのような上品な空気はあまり感じ取れない。
だいたい熊井ちゃん、本物の抹茶というものを飲んだことあるんだろうか。それすら疑わしい。

抹茶が好きとか言ってるけど、どうせ抹茶風味のお菓子が好きだってだけのことなんだろ。
そんな、抹茶大好き!とか言ってる女の子に限って、本物の抹茶を飲ませると「何これ、苦~い!」とか言い出すのだ。

うん、おおかたそんなところだな。
どうせ上辺だけの抹茶好きだったりするんだろう。
そんなんで抹茶好きを名乗ったりしたら、抹茶の産地の商工会議所の人に怒られちゃうぞ。
そこのところ、この僕が直々に説教してあげようか、その抹茶ーずとやらに。


なーんて、脳内で吠えまくってみましたけど、熊井ちゃんに僕がそんなこと言ったりは出来ません、もちろん。
実際熊井ちゃんを目の前にしたら、僕は引きつった笑いを浮かべながら彼女にヨイショするしかなかったりする。このように。

「そ、それは楽しそうだね。抹茶好きが集まって研究とは素晴らしいことだと思うよ。うん・・」
「結成したばっかりだから、メンバーもまだ2人しかいないんだ」
「2人・・・熊井ちゃんと、あともう一人だけ?」
「それでね、今日抹茶ーずの初会合をするの、あのカフェで。だから、今日は席を一人分多く取っておいて」

熊井ちゃんとユニットを組む、しかも今は2人っきりだなんて、その生徒さんはずいぶん勇気のある人だな。
それとも、なーんにも考えていない人なのか、そのどちらかなんだろう。
どっちにしても余り関わらない方がいい人なのは間違いないな。
熊井ちゃんとユニットを組むような人だもん。きっと桃子さんのような変ry


「それから、来るときに何か抹茶のデザート探して買ってきておいて」
「なにそれ・・・僕が買って行くのかよ・・・ てか買ってきたものを店に持ち込んだりするのって、それはまずいんじゃ・・・」
「あ?」
「はい、わかりました。探しておきます」

「そうだ!いま抹茶マシュマロっていうのが評判らしいから、それがいいなー」
「抹茶マシュマロね。で、どこで売ってるの?」
「知らないよ」
「え?」
「それぐらい自分で調べなさいよ。すぐ人に頼るんだから、もう」

咎めるような熊井ちゃんの目付き。
なんで僕が悪いみたいな雰囲気になってるんだろう。


「いい? うち達が満足できるようなものじゃないとダメだからね!」
「うん、努力してみる・・・」
「よし!」

何が、「よし!」なんだろう。


なんか熊井ちゃんがとても張り切っている。
それを見て、僕は不安な思いでいっぱいになるばかり。


あぁ、今日はあのカフェに行きたくない。
心底関わりたくないのだ。熊井ちゃんの作った新しいユニットなんていうものには。

でも、熊井ちゃんのお願い(命令)を断るなんて、もちろん僕にそんな勇気があるわけも無い。
僕は言われた通りに、依頼の品を探し出してきて、一席多めの席取りをしておくしかないわけで。
まぁ、お陰様で僕は検索能力がかなり身に着いてきたような感じはするので、熊井ちゃん所望のそれを何とか見つけることも出来るだろう。

熊井ちゃんは充実感漂う風情で学園に向かっていった。鼻歌を歌いながら。

♪会いたい時~ 会いに行っちゃ いけませんか~♪

本当に楽しそう。
僕が第三者であったなら、その光景をとても微笑ましく眺められたことだろう。

だが、残念ながら僕は熊井ちゃんの言ったことの当事者なのだ。
熊井ちゃんにまた無理難題を吹っかけられて、ただもうひたすらげんなりとした気分になっていた。



そんな僕だったが、今から目の前に広がるであろう光景を思うと気持ちが戻ってくる。

そう、もうすぐ舞ちゃんがここを通るはずだから。
生きる為のエナジーってのがここにあるからなのだ。


そして僕のエナジーの源のそのお方がやって来た。
今日の舞ちゃんも別格の存在感だ。

まさしく天使。

あぁ、やっぱり舞ちゃんが一番かわいいな。
舞ちゃんのことを思えば、このように僕の気分は一気に上昇するんだ。
そして、舞ちゃんのためなら僕は何でも出来るような気がする。
舞ちゃんかわいい。かわいすぎる。このままずっと見ていたい。舞ちゃん、あぁ舞ちゃん。

・・・思わず朝から興奮してしまったが、もちろんそれを外面に出したりはしていない。
爽やかな笑顔(とかいってw)で舞ちゃんを迎える。

そんな僕のそばまでやってきた舞ちゃん。なんと僕の前で立ち止まってくれた。
この予想外の展開に、僕の心が一気に高鳴る。
そして、舞ちゃんは僕に対して声をかけてきてくれたんだ!
まるで今日ここで僕に会ったら話しかけようと決めていたかのように躊躇無く。
何ということだろう!嬉しすぎる!!


まぁ、舞ちゃんのその表情は、決して僕に好意的な表情というわけではなかったが、そんなことは問題ではない。
舞ちゃんが僕に話しかけてくれたことこそが重要なんだ。(それに舞ちゃんって結構ツンデレっぽいry


「あのさ、話があるんだけど」


舞ちゃんが僕に話しとは? な、なんでしょう!!

そう言って僕を見つめてくる舞ちゃん。
僕は緊張しつつもドキドキさせられてしまう。
こんな風にしっかりと舞ちゃんと向き合うのは、あれ以来初めてのことだから。

一瞬の沈黙ののち、舞ちゃんが僕に言った。


「でも今はちょっと時間が無いから、今日の放課後、時間を作ってくれるかな」




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最終更新:2013年11月24日 11:34