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画面を確認した栞菜ちゃんの顔が明るくなる。
なんだ、そんないい顔もできるんじゃないか。いつも僕に向けてくる顔とは大違いだ。

電話に出た栞菜ちゃん。
またずいぶんと楽しそうな声でその相手と話し始めた。

「えりかちゃん! 今どこ?」


えりかさん、か。

そのお名前を耳にするのは久し振りのことになる。
そういえば、彼女の姿ももうしばらくのあいだ見ていないな。
僕の脳裏に、あの綺麗なお姉さんの美しいお顔が浮かぶ。


「うん、私は今講習が終わったところ。これからご飯食べに行くんだけど、えりかちゃんも行こうよ」

えっ!?
今の言い方だと、ひょっとしてえりかさんが来るのかな。
それは、なんというか、とても嬉しいぞ。あの美しい人に会えるっていうんだから。

これは僕にとっても美味しい方向に話が転がりそうじゃないか。
有原にしては珍しく、非常に有意義な提案だ。


でも彼女は、最後にもう一言付け加えるのも忘れなかった。


「じゃあ、また後で。あ、お金の心配はしなくてもいいからね」


でも良かった。えりかさんが来てくれるっていうのはラッキーだ。これは助かった。
だって、この人と2人っきりとなることからは、とりあえず逃れることが出来るのだから。
言葉攻めで徹底的に痛めつけられるという栞菜ちゃんのサンドバッグにされるのだけは回避できそうだ。

しかも来てくれるのは、あのえりかさんなんだ!
あの美しいお姉さんのお姿を拝見するのは久し振りのことになる。
予想外のこの出来事、これは嬉しい! 


えりかさんかー・・・  ムフフフ

あんな人ともっと親しくなれたらなー。
僕の周りにはちょっといないタイプだし。

えりかさんには女性特有の優しさというものを感じるんだよね。大人っぽくて、落ち着いてて。
目の前のこんなおっさんみたいな思考の女の子じゃなくてさ・・・


「おい。いま何か考えてただろ。わかるんだかんな、オメーの考えてることぐらい」
「えっ? 何も考えてませんよ?」
「あぁん? あまり調子こいてるとお前、呪いかけるぞ」

サラッと怖いこと言うなよ・・・
この人の言うことはどこまでが冗談なのか全くわからない。
彼女から受けるいつもの心理的恐怖感。すごいストレスなんだよ、本当に。


あぁ、早く会いたいあの優しいえりかさんに。
そして僕のこの心の圧迫を癒して欲しい。えりかさん、早く会いたいな。


30分後、とあるファミレスで僕はえりかさんを前にしていた。


今このテーブルに栞菜ちゃんはいない。
えりかさんと2人っきりだ。

栞菜ちゃんは、「いっけない!夏期講習の後期分の申し込みしてくるの忘れたかんな!!」と言って戻ってしまったから。


「すぐ戻ってくるから。えりかちゃん、好きなもの好きなだけ頼んでおいて!!」


そう言い残して栞菜ちゃんは駆け出して行ってしまった。
彼女が行ってしまったのを確認してから、もう戻ってこなくていいからな!と心の中で叫ぶ。

ハイハイ好きなだけ頼んでください、なんて投げやりな気持ちになりそうになったが、すぐに気持ちが切り替わることになる。
だって、有原がいなくなった今、僕の目の前にはこの人だけがいるんだから。
そう、僕の目の前にはとてつもない美人さんが座っているのだ。


えりかさんと2人っきり。


想定外のこの状況、思わず固まってしまう。
そうなったらいいな、なんて思っていたことだけど、いざえりかさんと2人っきりになってしまうと僕の緊張感はMAXに達した。

そんな緊張を覚えている僕に、えりかさんが遠慮がちに尋ねてくる。

「栞菜はあんなこと言ってましたけど、本当にいいんですか?」

これが普通の人の感覚なのだろう。
そんな常識を持ち合わせている人を見るだけでホッとする。
さすがえりかさんだ。この人にならすすんで御馳走しようという気にもなるよ。

「ええ構わないですよ。え り か さ ん は 好きなもの頼んでくださいね」


久し振りに会ったえりかさん。

相変わらずの美貌。こんな大人っぽい女性が目の前に。
こんなキレイな人が僕の目の前にいることがまだ信じられない。


えりかさんはファッション関係の専門学校に通っているって言ってたっけ。
だからだろう、ただでさえの美人さんなのに、その見た目はさすがの華やかさで。
なんか、もう僕が簡単に近寄れるような人ではないみたいだ。
そう思ったら、彼女を前にして僕ごときがこの場にいること自体が悪い事のような気までしてきたぞ。


固まってしまっている僕を見て、えりかさんの方から言葉をかけてくれた。

「お会いするの久し振りですよね。いつ以来だろう」
「そうですね、えりかさんが卒業されてからはたぶん初めてなんじゃないかと思います」
「そうだったかな。で、最近は例の件、どうされてるんですか?」

「例の件って何ですか?」

そう聞き返した僕の顔をじっと見つめる美人さん。
優しい表情だったその笑顔の中に、何か含むところが感じられる。
何ですか、その愉快そうなお顔は。


例の件か。
この方がそんな表情で聞いてくるのは、例の件なんだろうな。

つとめて冷静を装ってみるが、いきなりの核心をついてきた質問に僕は内心動揺していた。
そんな僕のことをじっと見ているえりかさん。

見抜かれてるんだろうな。
僕って、とても分かりやすいらしいから(桃子さん談)。


「いや別に、どうって言われても・・・ 何も変わりないです」
「ムフフフ。まだ頑張ってるんだ。フラれちゃったのに」


えりかさんは、その笑顔でいきなり僕にトドメを刺してきた。

フラれちゃったって・・・・
そんなハッキリと言わなくても・・・

その一言で地味にショックを受けている僕とは対照的に、えりかさんは変わらず優しそうなお顔だった。
何ともヒドイことを言い放ったというのに、どうやらその自覚はまるでお持ち合わせではないようですね。

「でも、頑張ってくださいね。その方が面白s・・その思いが報われる日が来ないとも限らないんだから」
「もちろんです。僕は何事であっても一度決めた目標をそう簡単には諦めたりしないですから」

僕がキリッ顔で言ったことを聞くと、えりかさんは満足そうに微笑んでくれた。
僕の言ったことに対して、決して嫌らしい笑い顔などでは無く、とても温かみを感じる微笑みを浮かべてくれるえりかさん。

あぁ、綺麗なお姉さんだな。
同じ年上の女性でもこうも違うものなんだ、と僕はそのとき某軍団長のことを思い浮かべていたのは決して内緒だ。


「青春だね。楽しそうで羨ましいな」


えりかさんの表情はやはり優しかった。
本当に穏かな人だ。こういう落ち着いた大人に僕もなりたいな。


「高校生活、楽しんでくださいね。ここから卒業までなんてあっという間ですよ?」

思い出すことでもあるのか、ちょっと感慨深そうにえりかさんが言った。
その言葉にしみじみとした気分になってしまう。僕の高校生活もいつかは終わりの日が来るんだよな・・・

そんな僕に対してえりかさんが続けていったこと。


「あ、でも、熊井さんが一緒ならヒマする心配なんてしなくていいのかな?」


えりかさんが僕の地雷を踏んできた。
あくまでも、優しく微笑んでいるえりかさん。笑顔で僕の心の敏感なところに踏み込んでくる。

さっきも、「舞ちゃんにフラれちゃった」とか僕の中で一番デリケートなことをズバリと言ってきたえりかさん。


ひょっとして、わざとやってるのかな、この人・・・
なんて勘ぐりたくなるぐらい、僕にとって耳にしたくない言葉を実にサラッと言ってくるのだ。


でも、この人がそんなことを意地悪でするような人では無いことぐらいはもちろん分かってる。
寮生の人たちと一緒に通学していたとき、いつも周りを優しく見守っているような、そんな穏かなお姉さんの姿をいつも見ていたんだから。

なるほど。
えりかさん、この人もまた結構な天然さんなんだろう。
僕の痛いところを次々クリーンヒットしてくるのは、これ無意識でやってるってことなのか。


目の前のえりかさんが微笑んでいる。
とても優しそうなお姉さん。でも天然さん、か。



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最終更新:2014年01月05日 21:08