百詩篇第6巻19番

原文

La vraye1 flamme engloutira la dame2,
Que3 vouldra mettre les Innocens4 à feu:
Pres de l'assault5 l'exercite6 s'enflamme,
Quant7 dans Seuille8 monstre en9 bœuf10 sera veu.

異文

(1) vraye : vaye 1597, vray 1649Ca
(2) dame : Dame 1588-89 1653 1665 1672 1772Ri 1840
(3) Que : Qui 1672 1867LP
(4) Innocens : innocens 1588-89 1649Ca 1650Le 1653 1665 1668 1840
(5) l'assault : l'aussaut 1605
(6) l'exercite : l'exercice 1653 1665
(7) Quant 1557U 1557B 1568A 1568B 1568C 1588Rf 1589Rg 1597 1610 1611 1660 1772Ri : Quand T.A.Eds.
(8) Seuille : seuille 1653 1665
(9) en : vn 1611B
(10) bœuf : Bœuf 1672

(注記)1627 の Pres は r が逆に印字

日本語訳

真の炎が婦人を呑み込むだろう、
― 彼女は無垢な者たちを火にかけたがるであろう ―
襲撃が近づくと軍隊は炎上する、
セビーリャでは牛の姿をした怪物が目撃されるであろう時に。

訳について

 前半は直訳したが、むしろ行の順序を入れ替えた上で受動態にして「無垢な者たちを火にかけたがる婦人が真の炎に呑み込まれるだろう」とした方が、つながりは分かりやすいものと思われる。

 大乗訳は2行目「潔白が燃えつづけ」*1が明らかに誤訳。潔白は les Innocents のことだろうが、性・数の一致に適合しないため、これを主語に取ることはできない。

 山根訳はおおむね問題はない。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、「セビーリャはスペインのアンダルシア地方の都市である。残りは平易」*2としかコメントしなかった。

 その後、20世紀半ばまでこの詩を解釈した者はいないようである。少なくとも、ジャック・ド・ジャンバルタザール・ギノーD.D.テオドール・ブーイフランシス・ジローウジェーヌ・バレストアナトール・ル・ペルチエチャールズ・ウォードの著書には載っていない。

 マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)は、近未来におけるスペインの戦乱と解釈し、アンドレ・ラモンはフランコによるスペイン内乱と解釈した*3。スペイン内乱とする解釈は、セルジュ・ユタンも採用した*4

同時代的な視点

 無垢な者を迫害しようとする女性が、真の炎( 神の罰?)によって炎上するということで、詩の文脈はそれほど難しいものではない。ただし、後半の「驚異」の描写と思われる部分の不明瞭さも手伝ってか、ジャン=ポール・クレベールピーター・ラメジャラーは特定のモデルを提示していない。


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コメントらん
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  • 1-2行でプロテスタントを火あぶりで処刑した英国女王の血まみれメアリーを言い表し、4行で14世紀末に反ユダヤ主義が巻き起こったセヴィリアを出すことにより、ユダヤ人や抗議者が殺されて焼かれるホロコーストを暗示している。 ヒトラーがフランコと会談したのは1940年10月で、同年11月にはユダヤ人を隔離するワルシャワ・ゲットーが完成した。前年にはスペイン内乱で戦っていた人民戦線が倒された。 -- とある信奉者 (2012-12-22 09:55:43)
最終更新:2012年12月22日 09:55

*1 大乗 [1975] p.180

*2 Garencieres [1672] p.241

*3 Fontbrune [1939] p.162, Lamont [1943] p.162

*4 Hutin [1978]