【画像】カバー表紙
構成
以下に目次を示す。
- 恐るべき序章
- 1章 もうひとりのノストラダムス
- 2章 戦慄のテープは何を告げたか
- 3章 一九九九年、イエス・キリスト再臨!?
- 4章 ノストラダムスが見た“最後の七年”
- 5章 「西暦」が秘める恐怖のからくり
- 6章 日本の使命を告げる二つの詩
- 7章 予言学で開く今後の世界のキー
推薦者
カバーの推薦者は
- 桜井邦朋(神奈川大学教授・宇宙物理学)「賢明さと努力が“希望”をもたらす」
のみ。
この巻から、祥伝社のノンブック全体のカバーデザインが一律で変更されたため、推薦者が一人になった。
帯の惹句
初期の刷本に付いていた帯の惹句は
- 最後の7年に突入!/ロシア大乱・中東破局・米欧崩壊/そのとき「日の国」に救いは!?
だった。
売れ行き
トーハン調べでのベストセラー「新書・ノンフィクション」部門92年第9位。
ただし、発行部数に関する情報(報道、新聞広告など)は、調査の範囲では見当たらない。
コメント
いくつかの点についてコメントするが、網羅的なものではない。
ボリステネス
- このボリステネス(原句Boristhenes)というのは、もともとはラテン語。「北の巨人ボリス」というほどの意味で、昔、ロシアのドニエプル河がこう呼ばれていた。/名づけたのは古代のローマ人たちだった。/彼らは北に旅したとき、〔略〕なんでもデカいものが好きだったローマ人はそれを喜び、その大河をたたえて「北の巨人ボリス」(ボリスはスラブの“太郎”というほどの意味)と呼ぶようになったのだ。
こうしてロシア大統領のボリス・エリツィンと結び付ける解釈を展開するのだが、ボリュステネスは本来ギリシア語であり、ヘロドトスの『歴史』にも出てくる。
序章からしてこの調子というあたり、いかにも、という気がする。
ボリュステネスの語源は、当「大事典」管理者がギリシア語に不案内なため、よく分からない。
ただ、ウィキペディア・ギリシア語版の記述が正しいのなら、(その記述を機械翻訳に掛けてみた感じだと)「北から流れてくるもの」といった意味のようである。
ローマ人云々と誤った語源を吹聴していることからしても、「巨人」とたたえるニュアンスがあったという五島の主張を、無条件に受け入れるわけにはいかない。
単にエリツィンに引き付けようとしたハッタリの可能性も疑われる。
グローバの予言
上の目次の「もうひとりのノストラダムス」は、ロシアの占い師パーベル・パーブロビッチ・グローバのことである。
グローバは『朝日新聞』1991年9月7日夕刊に掲載された本多勝一のルポで紹介されており、五島は本多に連絡を取って取材テープを譲ってもらったという。
そうまでして大々的にとりあげたグローバ予言だが、以下のようなものだった。
- ソビエト連邦の完全解体は1994年末か1995年初頭
- 〔×〕実際のソ連解体は1991年12月。皮肉なことにこの本が店頭に並んだ1992年2月の時点でハズレが確定していた。
- エリツィンは急上昇するが急降下し、3年後〔=1994年〕には全く新しいリーダーが登場する
- 〔×〕エリツィンは1999年まで大統領の地位にあった。
- 来年か再来年〔=1992年か1993年〕に、ソ連の中央アジア地域でアルメニア地震(1988年)クラスの大きな自然災害が起こる。
- 〔×〕アルメニア地震はマグニチュード6.8、死者25000人、負傷者13000人、家を失った人50万人という規模の震災であった。以上の被害は『ブリタニカ国際大百科事典』小項目電子辞書版によるが、同事典の「世界のおもな地震」の項目には、これに匹敵する1992年~1993年の旧ソ連地域の大地震は見られない。1995年には樺太でサハリン北部地震(死者・行方不明者2000人)があったが、これは時期も場所も違いすぎる。そもそも旧ソ連地域は複数のプレート境界を含むので、場所や時期の誤差をかなりの程度許容するのであれば、「大地震が起きる」という予言は、当たっても全く不思議ではない。
- 2年後〔=1993年〕にはアラブ諸国がイラクを中心に同盟するが、その同盟の指導者はフセインではない。その中東の危機は1993年に始まって1998年か1999年まで続き、核以外の兵器によるもので全土が焼け野原になる。
- 〔×〕フセインはイラク戦争(2003年)で敗北するまで権力の座にあった。他方、アラブが大同盟を結成することも、湾岸戦争(1991年)を超えるような大きな中東の動乱も、1990年代にはなかった。
- 第44代アメリカ大統領は経済的な大危機に巻き込まれる。そして、アメリカが二つに分裂するようなことが起こり、21世紀の世界では、アメリカは世界の指導者ではなくなっている。
- 〔▲〕第44代大統領はバラク・オバマ。就任した2009年は、リーマン・ショックなどの影響による世界的な景気後退期にあり、「経済的な大危機」には合致する。また、初の黒人大統領として、米国内の白人保守層の反発を招いた(=米国を分裂させた)という解釈はできなくもないのかもしれない。ただし、「大統領の支持層と不支持層の分裂」だとか「アメリカの国際的な地位低下」などはむしろ次のトランプ政権にこそ当てはまると解釈する者もいるだろうし、オバマの時に殊更に当てはまるかというと疑問も生じるだろう。
- 五島はこの予言について、「現在のブッシュが第四十一代だから、三代後の人。ただし、間をおいて再選した人を数えれば、次期の人」と注記しているが、唯一該当するクリーブランドは第22代、第24代と分けて数えるのが通例なので、どういう数え方をしてもブッシュの次(=クリントン)が第44代にはならない。なったとしても、クリントン政権下では財政赤字の解消や、ITバブルを背景とする活況など、アメリカ経済は「大危機」に程遠い状況であったため、グローバ予言には当てはまらない。
- 1994年にウクライナのローブノ原発でチェルノブイリ級の大災害が起こるが、1993年までに日本の報道などを通じて対策が取られれば、事故は起こらないかもしれない。
- 〔×〕ローブノ原発(リウネ原発)は現在に至るまで大事故は起きていない。そのことに、五島のこの本で紹介されたことが関わっているとは考え難い。少なくとも朝日新聞(前述の通り、グローバの記事はこの新聞に載った)でさえも、この原発の危険性を訴える記事は、データベースで検索しても見当たらない。
以上の通りで、具体性を持たせた近未来予言はすべて外れており、表現に曖昧さを持たせた第44代米国大統領に関する予言に当たったと解釈できる部分を含む程度である。
そのためかどうか、(グローバはその後も占い師やラジオパーソナリティとして活動していたらしく、ウィキペディアロシア語版やスペイン語版にも記事があるが、)以降の五島の本では、グローバが大きく扱われることはなくなった。
詩番号について
五島は、詩番号を強調している。
- そこに記された数字は『諸世紀』九巻の九一番。/この巻数の「九」は、一九〇〇の九、つまり二十世紀の一〇〇ケタの意味だと私は思う。九巻全部がそうではないが、少なくともさきの詩は〔略〕二十世紀末のできごとを言っている。
- これを試みに、『諸世紀』二巻の九二番ともつなげてみよう。「二巻」もその巻数と内容からいって、一部は二十世紀を示してるんじゃないか、と見る欧米の研究者がいるからだ。〔略〕念のため、ほかの巻の九二番も見てみよう。
- そこでつぎの一九九四年。これを『諸世紀』九巻九四番に重ねると、
- さらに一九九五年。これを『諸世紀』二巻の九五番から見ると、
これはある種のネタ切れの結果だろう。
今までのシリーズでインパクトの強い詩篇を紹介してきた中で、「実はまだ1990年代の詩が多く残っていた」と提示しようとしたら、『インパクトは強いものの特定性の低い詩篇』や、『インパクトの薄い詩篇』であっても、何らかの傍証によって1990年代の詩であると正当化しないといけなかったのだろう。
なお、この点について
加治木義博は、五島が自分の弟子になったと吹聴していた。
- [時]のない予言なんか、何の値打ちもない。〔略〕私がそう指摘してから、反省したある解説者は早速、私の「詩ナンバーが[時]を指している」という発見に従って、詩のナンバーに九二という数字があるから、これは一九九二年の予言だという式の本を出した。/これは盗むというより彼が私の弟子になったという証明である。私としてはその進歩は嬉しいことで、とがめる気はしないが、〔以下略〕(強調は引用者)
当「大事典」が五島を弁護する義理などないが、さすがにこの決めつけは悪質ではないだろうか。
詩番号から年を導くという手法は
加治木よりも中村惠一の方が10年近く早かった。
仮に、「後に主張したら弟子」という理屈が成り立つのなら、加治木は中村の弟子ということになっただろう(もしも加治木が思いついた当初、中村の手法を知らなかったとしても、上の弟子入り云々を書くより前に中村の本に触れているので、知らないままだったはずはない)。
いや、そもそも五島の『ノストラダムスの大予言』初巻でも、こうした手法は言及されていたのである。
五島は
詩百篇第9巻83番の解釈でこう述べていた。
- いまは一九七三年。そして一九九九年に世界的な破滅がおそうとすれば、右の詩が実現する範囲は、すでに来年から一九九八年まで、あと二四年間しかないことになる。/この二四年間のうち、もっとも大気汚染のひどくなる年の五月十日に、大劇場のあるどこかの大都市が—人類全体の破滅の前触れとして、激震のうちに滅び去るらしいのだ。英国のワードは巻数と詩のナンバーから推して、これを一九八三年と解釈しているのだが……。(強調は引用者)
この場合の「ワード」は
チャールズ・ウォード(チャールズ・ワード)だが、彼はこんなことは言っていない。
その意味で、五島はわずか10年後の大地震の可能性を示して
読者を脅かしつつ、その責任をウォードになすりつけるという不適切なふるまいをしているわけだが、詩番号と年数を結び付けている解釈には違いない。
だから、加治木の理屈でいえば、加治木は中村の弟子であって、中村は五島の弟子ということになってしまい、つまりは加治木は五島の孫弟子ということになってしまう。
五島の手法にはいろいろ問題はあるけれども、さすがにこの程度で加治木に弟子入り云々と言われる筋合いはなかっただろう。
アプヒーヴァル
クロケットの四行詩に「九〇たす三の年」があり、1993年と結び付けやすかったこともあってか、『大予言・中東編』に続いて採り上げられている。
だが、例によって、その採り上げ方はかなり恣意的である。
- あの詩には、「九〇たす三の年」、まず中東で「アプヒーヴァル」が起こると書かれていた。アプヒーヴァルとは、新発見者クロケット氏が原句を英訳した言葉で、ゲリラや反撃勢力などの蜂起・激動・動乱などの意味。ここから割り出すと、ノストラダムスの原句はおそらくスレーヴマン(soulèvement・地の底からもりあがるような動乱)だ。
見たこともない原文を推測してのけるというのは、随分ともっともらしく見えるが、そもそもノストラダムスの詩にはスレーヴマンという単語は一度も使われていない。
ふつうこういう場合は、その人物が生前よく使っていた言い回しなどから推測するものではないだろうか。
最後の秘詩
それに対し、この本では「最後の秘詩 ―― 一巻六四番」という小見出しが登場する
(なお、この小見出し、本文に登場するが目次には登場しない。その辺りのページ割が目次と本文とでズレていることなどからして、ソ連解体から出来るだけ近い時期に出そうとしたことによる混乱などがあったのだろうか)。
書誌
- 書名
- ノストラダムスの大予言・残された希望編
- 副題
- 世界破滅を防ぐ日本の使命
- 著者
- 五島勉
- 版元
- 祥伝社
- 出版日
- 1992年2月25日
- 注記
外国人研究者向けの暫定的な仏語訳書誌
- Titre
- Nosutoradamusu no dai-yogen, nokosareta kibou hen (trad. / Les Grandes Prophéties de Nostradamus, pour l'espoir qui reste.)
- Sous-titre
- Sekai hametsu wo fusegu nihon no shimei (trad. / La mission du Japon pour éviter la fin du monde.)
- Auteur
- GOTÔ Ben
- Publication
- Shôdensha
- Lieu
- Tokyo, Japon
- Date
- le 25 février 1992
- Note
- Examen des quatrains I-48, I-64, II-92, II-93, II-95, II-96, III-95, III-97, IX-91, IX-94, IX-97, IX-98, IX-99, X-72, & d'un faux quatrain de Crockett.
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最終更新:2021年09月03日 18:12