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Mの憂い@-3rd.Stage★The small satans' in whispers talks
Chapter3:幻想の影

会場の隅っこので男が二人、
椅子に座るでもなく立つでもなく半端に壁に寄りかかって話しをていた。
「あるとこにはあるんだなー。すんばらしく豪華なパーティーだ。はぁ。」
芳尾が大きなため息交じりに言った。
「ははは、そう僻むなよ。まぁ、飲もうぜ、せっかくだからさ。」
太良登は、初対面ながらも何か他人とは思えない芳尾をなだめながら、幻の銘酒『鬼達磨』をすすめた。
「おれだって、おれだって、もうすぐ・・みんなが羨む大金持ちになるはずだったんだ。」
「なになに、宝くじ1番違いで外れたのか?あはっはは。」「ちがうよ。」
「またぁ、すねちゃって。ほら、歌でも唄おうぜ!ぶぅ~っぶぅ~しったかぶ~♪」
ほろ酔い気分でご機嫌に唄い出した太良登のそれに芳尾が反応した。
「それだ、それ。」一瞬少し声を上げたが「俺の石はどこに。ぁーぁ。」再びうつむいた。
「石?ふふん。これの事かぃ?」掌の中で光る石を芳尾にだけ見せた。「おぉ・・、」
「でもそれじゃない。」さらに頭をがくっと落として口元を歪めた。
「そうさ、これは俺のもんだ。」
「ふんっ、でもそれ石を持ってるだけじゃだめなんだからな、いくら石だけ盗んだってさ。」
今度は意味不明な勝ち誇ったような表情で、コップの中の『鬼達磨』を一気飲みした。

キャビンへと向かうゆかりは、船内からの光で照らされるデッキで思いがけない人物と再会していた。
「あれ、ゆかり先輩。久しぶりですね。」「え?」
ちょうど相手の顔は影になってよく見えなかったから回り込んで顔を覗き込んでみた。
「あらま、亜梨葉・・・かしら?。こんな所で会うなんて・・・。」
半信半疑ながらも、頬の右下にある特徴的なほくろは確かに亜梨葉のものであった。
「この前の事情聴取で、被害者の名前を聞かされた時はまさかと思っていたけど。先輩だったのね。」
黒い服を纏った二人の女達の背中を、潮風が意味深に撫でるように通り過ぎていった。
「すこしまってて、飲み物をとってくる。」亜梨葉が、パーティー会場へと入っていった。
ゆかりは海を見ながら自分の今までを、なんとなく思い出していた。
「あっ、梧郎先生だわ。」唐突に言い放った。その時亜梨葉が戻ってきた。
「あ、ありがとう。」ゆかりは飲みのもを受け取りながら続けた。
「そうよ、あの時警察ですれ違ったのよ、何したのかしら。手錠をかけられていたような感じだったわ」
「誰?ゴロー?」「ええ、織重梧郎っていうひと。」ゆかりは少しはにかみながら答えた。
「ああ、やっぱりねー。最近見ないと思ったら捕まったのね。」
亜梨葉の目が皮肉っぽく笑った。
「え?どういうこと?だって彼は昔の私の家庭教師で、勉強も出来たし優しかったし、警察に捕まるような事をしでかすような人にはみえなかったわ。それなのにやっぱりって・・・。」
「そお?確かに彼は一見エリート風だわ。人当たりもいいしね。でもね飽きっぽいというか、夢見るなんとかというか・・それに時々、どひょうしもない事をしでかすタイプだったわね。」
にやりと笑いながら亜梨葉は言った後、梧郎が亜梨葉のSMクラブの客であることや、殺された緑田の事などを話し始めた。そして最後に表情一つ動かさずに冷たく言い放った。
「大体、私は何とかしてくれって言っただけよ。殺せとは一言も。彼が勝手にやったのよ。」
甘く口当たりのいいカクテルだったが、結構強い酒だった。
「そう言えば、あの時もあなたはそう言ったわ。彼が勝手にやったと・・・。」
ゆかりが思わずぼそっと呟いた。
「あの日から何年経ったかしらねぇ。時の流れって意外と早いのね。」
二人の脳裏に、記憶の奥深く封印していたものが浮かび上がっていた。

その時、地上から天に向かって光線があがり、夜空に輝く華が開いた。

多くの人が会場から出てきて空を見上げた。
「すごおい。花火がせまってくる。」
「なんか、グラス割れてしまいそうな、でかい音だなー。」
「きゃっ、ハートマークだわっ。」
大きな破裂音とともに次々に咲いていく華は、水面でも揺れ動いていた。
光が入り乱れて美しく輝くさまに、しばし見とれていた。

「よくもまー、あんなタイミング良くあそこで火薬が破裂するもんだ。」
「そうね、最近は形まで造れるっていうからすごいわね。字も書けるそうよ。」
「全く、蟹派さんも署長もロマンチックさに欠けすぎよ。」
「火薬・・・・爆発・・・事故・・あっ、思い出したわ。」
婦警が声を上げて振り返った。
「事情聴取にこなかった平川紅緒。なんかひっかかてたのよ。」
「この前ダイヤモンド鉱山の麓で殺された人?」「そそ」「彼女がなによ?」
「10年くらい昔、花火工場で爆破事故があったでしょ、その時の被害者よ。」
「ああ、事件だけは覚えてるわ。結構派手に報道されたわよね。でも当時工場内にいた人たちは亡くなったとニュースで流れたような。」
「あ、そうね、でも彼女もやっぱり被害者みたいなものよ。だって、あの事故で全てを失ったようなものだもの。」
***10年前
町は週末に開催される年に一度の花火大会の準備に追われていた。
一人の花火職人が火薬倉庫に隣接するの事務所で残業をしていた。
事務所の電話がけたたましく鳴った。
「はい。」こんな時間に電話してくるのは彼女しかいないと思いつつ電話に出た。
「今日も遅くまでご苦労様。」案の定、すこし不機嫌そうな彼女の声が聞こえた。
「ははは今日も遅くなりそうだ。これがうまくいけば夜空に文字を書く事も夢ではないぞ。」
「楽しみだわ。でも、ご飯はちゃんと食べなきゃね。それに今日は、」
「ん・・・えっ」窓ガラスに映る人影に驚いて思わず振り返った。
紅緒は手にお弁当と水筒をもっていた。
そして、彼女の後ろに隠れるようにかわいい男の子が覗いていた。
両手でケーキの箱を抱えていた。
「こんばんわ。」
ぺこりと恥ずかしそうに挨拶をすると、また彼女の背中に隠れてしまった。
「それに、今日はあなたのお誕生日よ。」「おお、すっかり忘れてたよ。」
「お仕事のお邪魔かとも思ったんだけど、お祝いしたらすぐ帰るわ。そうそう
ジュースを忘れちゃって、そこのコンビニでちょっと買ってくるわね。」
そういうと、子供を預けて紅緒は事務所を出ていった。
二人の間には少しぎこちない雰囲気が流れたが、お互いに決して嫌いではなかった。
男は彼に優しく笑いかけながら、机の上を片付け始めた。
その時、大きな爆発音と共に悲劇が起きたのだった。
*****

「あら?彼女確か未婚だったわよね、不倫の子供でも産んでたのかしら?」
「いいえ、不倫ではないわ。20代の頃婚約して結婚間近だったそうよ。でも、不運にも交通事故で婚約者はあっけなく死んでしまったらしいわ。妊娠はその直後にわかったのよ。」
「だから未婚の母だったのね。」
「今度こそやっと幸せを掴もうという時だったのかもね。そんな時あの事件が起きたのよ。
事故現場前に呆然と座り込んでいた彼女は、警察に保護されてその後事情聴取を受けたんだけど、しばらく何も喋れなくなっていたわ。だから大きな外傷は無かったけど一応病院に連れて行ったの。その時何度か付き添ったから覚えていたのよ。」
「で、爆発の原因は何だったの?」
「それがね、どうやら放火らしいのよ。でも目撃者も見つからないし、工場内の被害者は全員亡くなってしまったし、唯一の手がかりの彼女も当時そんな状態だったから迷宮入りになったわ。」

そして夜空に最後の力を振り絞るかのように一気にたくさんの華が咲き乱れた。
その中には『SUZUSIMA』という文字と涼島グループのマークが浮き上がっていた。
「亡くなった彼は夜空にどんなものを描きたかったんだろ」誰かがしんみりと呟いた。
最後の光が哀しく地上へと降りていった。
灰色のうす曇だけが、静寂を取り戻した夜空をあてもなく漂っていた。

最終更新:2005年12月23日 20:43