迷宮管理日誌
――グリンガイア暦357年 慈育の月 17……
迷宮の回転壁を動かして定期的な道順変更を行っていたノエリザードは、作業を中断して立ち上がった。
目は鋭く、人を射殺せそうに殺気が篭っている。
耳に届くのは甲高い鐘の音。
それは国の中央、王城から発せられている鐘の音だった。
一度や二度では終わらない、気付くか気付かないか程度に音階の違う鐘の音が計10回。
国中に、迷宮の果てまで微かに届くその鐘の音はただ10回のみ打ち鳴らされた。最後の一度のみ音の高すぎる間抜けな響きではあったのだが。
鐘の音が響く中、手近な藪に大きな荷車を跡形もなく隠してしまったノエリザードは。身の丈ほどもある戦闘用金鎚と小さな手荷物のみを荷車から取り……長煙管の中身を捨てる。
そして吸い口を2,3度回すと、その吸い口はぽろりと外れた。
大きく肺に息を溜め、天へと向けて吸い口に息を吹き込めば
ピィイイイイイイー!
と、鐘の音よりも遥かに高い音が風に流れていく。
途端、周囲のざわめきが濃度を増した。
それは獣の声
モンスターの殺気
迷宮の王者の呼び声に馳せ参じる、僕の応え……
~・~・~・~・~
時を同じく、王城兵士詰所。
宮廷魔術師ジスは鐘の音を耳にして武器の手入れをしていた手を止めた。作業を中断せずとも大音量の音は耳を塞いだとしても頭に響いてくるのだが、それでも手を止めたのは鐘の音色に集中する為。
城の屋上で盛大に咆哮を上げる鐘は、全宮廷魔術師への緊急伝達手段だ。
……一度目――緊急事態発生
……二度目――全宮廷魔術師ニ告グ
この鐘が緊急時にしか使われない上に宮廷魔術師にしか意味が通じない以上、最初の鐘の音はただ意識を鐘の音へと向けさせるためだけの物。
……三度目――緊急事態発生
……四度目――全宮廷魔術師ニ告グ
そして万が一の聞き逃しを防ぐ為に呼びかけがもう一度行われる。さぁ、ここからが本題。
……五度目――食糧生産区画ニオイテ
あらかじめ音階と順番によって音の意味を対応させた表を宮廷魔術師は暗記させられている。
……六度目――脱走者アリ
もっとも、戦争をしていない今となっては脱走者と反逆者が発生した以外に遣われることも無い。
……七度目――全宮廷魔術師ニ命ズル
命令を下される宮廷魔術師を指定する鐘。全てと指示されたからにはジスも動かねばならない人員の一人だ。
立ち上がり、自分の手馴れた武器を取った。白銀に輝く長剣を一度抜いて確かめ、背に括る。
……八度目――脱走ヲ阻止セヨ
詰所から出て、駆け出した。
……九度目――可能ナ限リ生ケ捕レ
そして最後の鐘
……十度目……ただ不自然に甲高い音が一度のみ。
この最後の一回だけが意味を知らない。ただ終わりの合図だと教えられたが、本当にそうだろうか。
頭の片隅で疑問に思うが、今そんなことで悩んでも仕方がない。
ジスは関門の兵士が敬礼する間を俊足で通り過ぎ
「――フォロウ」
追い風の魔法に乗り突入した迷宮内をかなりの速度で駆け抜けた。
国中の宮廷魔術師が一斉に迷宮内へと駆け出していく。
全宮廷魔術師ニ命ズル――その命令通り、グリンガイア国に仕える選りすぐりの宮廷魔術師が全て戦闘態勢で迷宮内を疾走した。
彼らの手には一様に真っ白な軽石が握られており、迷宮の分岐や曲がり角に当たる度、彼らは速度を緩めないまま一線の印のみを壁に穿って通過してゆく。
これは迷宮の地図をもたない彼らが任務完了後居住区に帰還するための手段である。
数時間後、この印を頼りに回収兵が長い長い糸を手にして印を頼りに宮廷魔術師を迎えに行くのだ。帰りはこの印を消しながら帰還することになる。
今の時点で糸を使わないのは、脱走者に宮廷魔術師の分かりやすい進路を知らせない為。
たとえ緊急事態であっても、この国は決して王族以外に地図を持たせる事は無いのだった。
~・~・~・~・~
脱走者を捕らえよ――その意を示す鐘の音を聞いた脱走者達は戦慄した。
何しろ、居住区を一歩出ればそこは迷宮。
方位を知る道具さえ手に入らないこの国では、迷宮を脱する道具は己の勘しかない。
宮廷魔術師どころか兵士ですらない彼らだが、鐘の意味は察しがついた。あの鐘が鳴ると、近い内に反逆者の公開処刑が行われるからだ。国中、迷宮中に響き渡る鐘。追っ手を放つ合図だと嫌でもわかる。
「……ど、どうする。」
「どうするもなにも逃げるしかねぇだろ!」
男が9人、居住区から二番目に近い迷宮の第四階層を必死に走っていた。
食糧生産区から逃げてきた彼らの手には、いまだ身分詳兼拘束の軽い鎖で出来た枷が嵌められたままだった。閉鎖国の為、食糧生産は国が一括管理している。そして食料生産区は居住区を出た迷宮内にあるのだ。脱走防止の為、作業中は枷の着用を義務付けられる。
数人がかりで兵士を一人殺し、枷と杭を繋ぐ綱を無理矢理引き千切って他の兵士を振り切ってきた彼らには、枷を外すだけの余裕は無かった。農作業には滞りないが、走りづらい。
「逃げるって行っても……どっちが出口なんだよ!?」
「俺が知るか! 四人犠牲にして関門一つは越えられたんだ……とにかく進んでみるしかないだろ……」
自信を欠いた言葉は弱々しく大気に溶けていった。
迷宮は全5階層。間に関門が4つ。一つ通過するだけで5人死んだ、残りは9人。……計算があわない。
食料生産区では3人死に、生きて突破できたのは14人だった。所詮民間人が狭い関門を塞ぐ兵士に戦いで敵うわけもない。質より量で押し切った結果、人数は国を出るのにもちそうも無かった。
「泣き言言ったってどうにもならねぇ、とにかく走れ!」
再び彼らは迷宮内を走り出す。方向転換に加え上下移動まで組み込まれているこの迷宮ではあっというまに方向感覚が麻痺してしまうから居住区から遠ざかっているのかどうかもわからない。
と、戦闘を走っていた一人が角を曲がりかけて慌てて止まった。
「何だ!? 止まるなよ」
訝しげな仲間の前で、彼は血の気が引いた悲壮な顔で訴えた。
「あ……駄目だ逃げ」
言葉は直後に襲った爆風によって絶叫へと作り変えられる。
鎮座していたのは歩行までが小爆発を伴うブラストフォックス。静かに座っていたので気付かなかった。
口々に意味のわからない言葉を叫びながら来た道を戻っていく男達。巨大な狐はその後姿を見送りながら、天に向かって鋭く吼える。
ざわり
声をきっかけに濃度を増す周囲の殺気
上から下から右から左から前から後ろから、凶悪な犬の呻り声が男達を取り囲んだ。
直後
ばごん!
眼前の壁が継ぎ目も無いのに扉のように開き
「……みっけ。」
巨大なハンマーを背負った青年、ノエリザードが現れた。
「部品が迷宮から逃げるなよな。」
~・~・~・~・~
迷宮内を疾走していたジスは大量の魔物の気配に感付いた。殺気を隠そうともしないバウルイーターの呻り声。ビーの羽音も聞こえる。空を見ればノイズバードが直上を旋回していた。
あの人が近い――それなりに長い付き合いであるジスには迷宮管理人である王族が近くにいることがすぐにわかった。
追い風、フォロウを解除して至近距離を捜索すれば目の前の角から人の声。
「部品が迷宮から逃げるなよな。」
あぁ、やはりノエリザード様の声だ。
会話をしているという事は脱走者を接触したのだろう。間に合ってよかった。
すぐに滑り込み、彼の元に馳せ参じた。
「ノエリザード様!」
まだ荒事は始まっていなかったらしく、腰を抜かしかけた脱走者達の前に彼が立ち塞がっているだけ。するりと近づき、彼に並ぶ。
「ジスか。」
「はい、ご無事でなによりです。」
「……そうか。」
どすっ
それはあまりにも自然で唐突で、避ける間も弾く間も与えてはもらえなかった。
「……ノエリザード様?」
信じられない。
頭の中をその言葉に支配されたまま、ジスはゆっくりと己の腹部に目を落とす。
「お前が反逆者か。」
ただノエリザードの声を聞きながら、自分の脇腹に刺さったナイフを見つめていた。
~・~・~・~・~
「……くっ……」
呻き声あげる宮廷魔術師であった反逆者。
命令は生け捕りだ。傷はそれほど深くは無いはずだが脇腹の傷は止血しずらい上に動きを制限される物。あっけなくジスはその場に膝を付いた。
「ジス坊!!」
「大丈夫か!」
脱走者達の言葉に、推測が正しかった事を確信する。油断はしない。
「雷電に告ぐ、我が名はノエリザード、迸る力を欲する者なり。隷属望むは迸る雷神の打撃。我が鎚に宿りて力となれ―――サンダーセイバー。」
爆属性は迷宮を破壊してしまう。脱走を阻止する際にそれは本末転倒。手にした鋼鉄の鎚に稲光が宿る。
と、膝を付いていた反逆者が脂汗の浮いた顔を真っ直ぐノエリザードに向けた。
「……これは、どういうことですか?」
「あ?」
「何故私が反逆者などと!」
今更、誤魔化せるとでも思っているのだろうか。
「お前がここに来た時点でお前は犯罪者なんだよ。」
「な……?」
「お前、鐘が鳴る前どこにいた? ……緊急時、宮廷魔術師は迷宮内でのフォロウはご法度だ。お前が知らないはず無いよな?」
傷のせいではなくジスの顔が青ざめた。
ただでさえ宮廷魔術師は全体的な能力が高い。よって足も速い。その上速度を上げられては迷宮内において鐘を使用しない場合の伝令兵が追いつけなくなってしまうのだ。迷宮内において速度増加魔法が許可されているのは伝令兵と命令をほとんど必要としないノエリザードだけ。
「宮廷魔術師は居住区内任務がほとんどだ。迷宮内の荒事は大概俺がいれば事足りる。派遣されたとしても俺のいる場所とは反対側。」
ノエリザードは呆れた顔で肩を竦める。
「城からここまで、最短ルートを通ったってお前は早すぎる。」
「たった……それだけで?」
苦い顔をしていたジスが腹のナイフを抜きながら立ち上がる。
そう、彼の言うとおり。もちろんそれだけが理由ではない。
それは宮廷魔術師に反逆者がいる可能性がある時にだけ使われるノエリザードだけにあらかじめ決められていた符号。
――全宮廷魔術師を迷宮内に放った場合、迷宮内でノエリザードが出会った宮廷魔術師は例外なく反逆者である。
王国への反逆者。王家の敵が出現した時、手持ちの最強カードを全て追撃に出す者などいるわけが無い。
鐘の音によって全宮廷魔術師を放ち、伝令兵によって全員を呼び戻すのだ。
脱走に協力する反逆者は迷宮に放たれれば伝令を振り切るだろうから。
けれど、ノエリザードはそれを口にしない。上下左右とも混沌とした迷宮の中、どこで誰が聞いているかわからないから。
沈黙しているとジスは苦い顔をしてノエリザードを睨みつける。
「あぁ……あの10番目の甲高い音をした鐘だ! あれだけが意味を知らない! あれが何かの符号なんですね!?」
見当違いの推測に嘲笑すると、触発され立ち上がったジスは銀色に光る長剣を抜いた。
「手負いのザマで勝てると思うか?」
「やってみなければわかりますまい―――ウィンドセイバー!」」
さすがは宮廷魔術師と言った所か。脇腹に傷を負いながらも、ジスは一般人など足元にも及ばない動きで剣を振った。剣に付加された魔力が空を斬る、かまいたち。
「―――エアスラッシュ」
詠唱を破棄した風で相殺したのが開戦の合図だった。
~・~・~・~・~
この国が狂ってると思ったのはいつだったろう。
生まれつき魔法の才能があった。宮廷魔術師になった。父からいつも仕事や身分や環境の愚痴を聞いていた。城内で優遇民や王族の横暴な会話を聞いた。だから、慕っていた叔父が先頭にたっていた脱走計画に参加した。
役目は城の内部情報を探る事。できるなら王族と親しくなってさらに情報を得る事。……あわよくば、迷宮の地図を得る事。
「流水に告ぐ、我が名はジス、癒しの力を欲する者なり。―――トリート」
脇腹に止血の魔法を施して痛みは無視する事にした。攻撃や補助ばかり鍛えたジスは医療系の魔法が苦手だった。長々と詠唱していては殺されてしまう。
「―――ダークハウリング」
ほら、今も。中級魔法が詠唱完全破棄という恐ろしい現象と共に迫った。迷宮の通路を凶悪な闇が一直線に駆け抜ける。地を蹴って転がるとローブの裾がごっそりと抉られてズタズタになった。
間髪いれず横薙ぎに迫る放電する鎚。長剣で鎚は受け止め切れない。ジスはあえてノエリザードに接近し、彼のの鎚に向けて掌をかざした。
「―――ヘビィ・パック!」
手に触れた瞬間失速し、地面にめり込む鋼鉄の鎚。だが
「ぅぐっ!!」
帯びる雷まで地に埋める事は出来なかった。痙攣する腕。無理矢理鎚から引き剥がして距離を取る。
左腕は完全に麻痺していた。しばらく使い物になりそうもない。感電に利く魔法なんてあっただろうか……治癒系はすっかり諦めていたせいで存在するかどうかを思い出す事すらできなかった。
まずい。大いにまずい。
一人なら一か八かミストで目くらましを貼って逃げてみるという手もあるが、今はすぐそこで腰を抜かした脱走者叔父一同が宮廷魔術師の死闘を見ているのである。せめて彼らだけでも逃がす事ができればいいのだが、ノエリザードはあの重量のある鎚が得物なのにも関わらずとんでもない速度で動くのだ。
再びノエリザードが迫ってくる。
どうして、どうして彼はそれほどまで躊躇わずに戦えるのだろう。
「吹き荒れ、轟く、浅黄の魔力。天の息吹と閃の裁き、暫しの間我が諸手に集え―――エンチャント・Y」
自分に風が渦を巻いたのを感じる。すぐに第二派。
「―――エアスラッシュ!」
通常より広範囲に渡った風の刃。だが、刃が届く直前ノエリザードはふっと近くの壁にもたれかかり……かと思えばぐるりと壁が回ってその場から消え失せた。さっきからこれだ。狭い迷宮の通路ではかわしきれないはずの攻撃を、彼は隠し通路を使って簡単に受け流してしまうのだ。
「どうして……」
とにかく叔父達をどうにかしようと、近づきかけて……肌に痛みを感じ、慌てて後ろに下がった。
「くっ……ラインテリトリーか」
見えない糸で鋭利な刃のトラップを仕掛ける魔法。壁の向こうに消えてから詠唱したらしい。これではうかつに動けない。
数瞬の静寂の後、ばこんと開いたのは彼が消えたのとは反対側の壁だった。どこをどう通ればほんんの数秒で逆から出現するなんて芸当ができるのかわからないが……いや、今はそんな事よりも彼に聞いて置きたいことがある。
「どうして貴方は躊躇い無く私と戦えるのですか!?」
ジスの役目は王族に近づく事。
その通りに近づいた。近づきすぎた。名前にコンプレックスを持つ彼がとても微笑ましくて、城が気に入らないのかすぐに迷宮へと飛び出していく彼に好感が持てた。友達だと思ってしまった。彼はできるなら説得したいとまで思ってしまった。彼は大概迷宮にいるから、ついぞその機会はなかったけれど……それなのに!
「私は……貴方とそれなりに親しくなれたと思っていたのに!」
「お前、さっき俺が言った事聞こえてなかったのか?」
さっき?
思い返す、合流した直後の彼の言葉
――部品が迷宮から逃げるなよな。
背筋がぞっとした。部品。人を人と思っていない言葉。
「俺にとって、この国にあるものは全部迷宮を組織する部品にしか見えない。人は絆とか愛とかで心を迷わせる迷宮だろ? 俺は迷宮管理人だぞ?」
あぁ、彼も所詮は狂った王族なのか。
「管理人が迷宮に迷うわけないだろうが。」
なんだろう。……泣きたくなった。
「人は一番面倒な部品だな。時々逆らうわ逃げるわ。あげくに脆いわ。……さっき言ってた10番目の鐘の意味を教えてやろうか?」
所詮は一人相撲だったと、ただそれだけの事だけど。こうも容易く切って捨てられるとは思わなかった。あんなに簡単に刺されるとは思わなかった。
「あれはな、頻繁に脱走者を勢い余って殺す俺に親父が『わかったか馬鹿息子』って意味で鳴らす念押しだ。見当はずれで残念だったな。」
迷いのあるジスが、決して迷わない管理人に勝てるはずもなかった。
~・~・~・~・~
「……ふ~。」
煙管に火を点けてゆっくり煙を吸い込み、空に向けて吐いた。
足元に転がっているのは、元宮廷魔術師だったモノ。赤い血や柔らかい内臓や白い骨とか、そんなモノがぐっしゃりと広がっている。
「なんで人ってのはこんなに脆いんだろうな。」
何が悲しかったのか呆然と立ち尽くすジスに鎚を叩き込んだら見事に粉砕してしまったのだ。またやってしまった。脱走者はとりあえず縛り上げたから公開処刑は出来るだろうが、他の宮廷魔術師への見せしめはできないだろう。また怒られる。
気を紛らわそうとさらに煙を吸い込んだ。
煙管を咥えながら、ぼんやりと愛しい迷宮に思いを馳せる。国を護る為にぐるりと居住区を取り囲む人口の森。
(国を護るための迷宮)
父や兄は、この迷宮が完璧だと信じて疑わない。迷宮を維持する限り、この国は安泰なのだと信じて疑わない。けれど。
先の戦闘を回想する。国の敵、反逆者である宮廷魔術師との殺し合い。
……井の中の蛙である事はノエリザードだけが理解している。
いくら迷い込む者を吸収しているとはいえ、所詮は閉鎖国。外の進化をほとんど知らない。もしかしたら、もうとっくに外の国はグリンガイアを切り崩すだけの実力を得ているのかもしれない。
ならば、全力でこちらも進化するしかないではないか。
世界共通の生きて戦うための技術、魔法に関して言えば極北の地にあるという
魔法都市に適うはずもないのだ。ならばグリンガイアは己の得意分野で、この迷宮で勝負するしかない。
「……だからもっと深くだ。」
もっと深く、もっと複雑に。
自分は王族だ。国を護るのが自分の役目。
国の中の内側を護るのは父と兄の仕事だ。迷宮をもって国を護るのが自分の役目。
ノエリザードはもう一度煙管の煙を吸い込んだ。
「言い寄るジスの相手をしてたのも、無駄じゃ無かったって事だな。」
人も石も木も何もかも、この国にある限り彼にとっては全てが迷宮だ。だから、ノエリザードにとっては迷宮そのものが国なのだ。
「とりあえず、荷車回収しないとな……」
細く長く吐き出した白い煙は、すぅっと青空に溶けていった。
――グリンガイア暦357年 慈育の月 17
迷宮深度4レベル3北西にて脱走者捕獲。
宮廷魔術師の反逆者はジスと判明。戦闘後、殺害。
脱走者を提出する為……一時帰還。
「……また帰るのか。めんどくせぇ……」
多少の反逆者が出ようとも、グリンガイアの歴史上最も天職である管理人に護られたグリンガイアは……今日も平和だ。
Fin
最終更新:2007年08月24日 00:07