とりあえずの平穏
聖華暦833年 11月3日
この一ヶ月、特に何事も無く平和な時間が流れている。
帝国統轄騎士會にもしょっちゅう行くわけでは無いので、ビクトルやこの前話した(因縁つけられた?)ばかりのリューディアさんとも顔を合わせずに済んでいる。
帝国統轄騎士會にもしょっちゅう行くわけでは無いので、ビクトルやこの前話した(因縁つけられた?)ばかりのリューディアさんとも顔を合わせずに済んでいる。
それだけでも随分と平穏なものだと、不謹慎ながらそう思っている。
不謹慎というのは、今この帝都の、特に貴族街においてとある事件が現在進行形で発生しているから。
不謹慎というのは、今この帝都の、特に貴族街においてとある事件が現在進行形で発生しているから。
それは貴族に仕える使用人で、しかも女性ばかりを狙った殺人事件だ。
警邏の話によると連続殺人事件の可能性が非常に高いという事らしい。
ちなみに話を聞いたのは師匠。
警邏の話によると連続殺人事件の可能性が非常に高いという事らしい。
ちなみに話を聞いたのは師匠。
まだこの近所では発生していない、というだけなのだけど。
夜間は外出を控えるよう呼びかけがあり、警邏の巡回も増えている。
夜間は外出を控えるよう呼びかけがあり、警邏の巡回も増えている。
だから、まぁ不謹慎ながら、という事。
とは言え、エミリさん達も夜間外出はしてないし、出掛ける時は僕も一緒だから、そんなに心配しなくても大丈夫そうだ。
とは言え、エミリさん達も夜間外出はしてないし、出掛ける時は僕も一緒だから、そんなに心配しなくても大丈夫そうだ。
帝都の警邏も優秀だし、近いうちに事件も解決するだろう。
これはディックさんの言ってた事。
これはディックさんの言ってた事。
こんな事件なんかは関わり合いにならないのが一番だ。
好き好んで首を突っ込みたくは無い。
好き好んで首を突っ込みたくは無い。
かえってその弟子はというと、なんの権限も持たされていない。
軍務に就く際、師匠から暫定的に少尉相当の権限を付与してもらえるくらいで、一般市民となにも変わらない。
軍務に就く際、師匠から暫定的に少尉相当の権限を付与してもらえるくらいで、一般市民となにも変わらない。
むしろ勝手な事をすれば法によって処罰される事だってある。
『力』を持ったからといって、特別な存在になったわけではないのだから、まぁ半端な未熟者にはこれくらいで丁度いいのかもしれない。
『力』を持ったからといって、特別な存在になったわけではないのだから、まぁ半端な未熟者にはこれくらいで丁度いいのかもしれない。
それよりも、今は目の前の課題に集中しなくては。
それにひきかえ、師匠の剣の鋭さはちっとも減殺されていない。
本当に、師匠と手合わせをすると、自分の未熟を思い知らされる。
かれこれ一時間にわたって手合わせをして、僕は師匠から一本も取れていないのに、師匠は僕から十四本も取っている。
これが現役の暗黒騎士とその弟子の実力の差。
かれこれ一時間にわたって手合わせをして、僕は師匠から一本も取れていないのに、師匠は僕から十四本も取っている。
これが現役の暗黒騎士とその弟子の実力の差。
ちょっと覚えが早いくらいでは、師匠というこの大きな壁を超える事は容易な事ではない。
「はぁ、はぁ……。」
「どうした、へばるにはまだ早いぞ。」
姿勢を低く足を狙って切り掛かり、直前で一気に飛び上がって上段から打ち下ろす。
しかし師匠は微動だにせず剣で受け止め、そのまま右へ払い除ける。その勢いに僕自身も姿勢を崩されがら空きになった脇腹にまた一撃を受けてしまう。
たまらず剣を取り落とし、倒れてしまった。
たまらず剣を取り落とし、倒れてしまった。
しかし、このままゆっくりと倒れたままではいられない。
すぐに起き上がって落とした剣を拾い、体勢を立て直して構える。
すぐに起き上がって落とした剣を拾い、体勢を立て直して構える。
「今の攻撃は悪くはない。だがフェイントを掛けるなら直前まで悟られないよう動きに気をつけろ。」
「はい!」
次の攻撃に移るべく半歩踏み出したところで、エミリさんが声を掛けてきた。
「あの、お忙しいところ申し訳ありません。」
「ふむ、少し休憩だ。」
僕は深く深呼吸をして構えを解く。
「ご主人様、実はスパイスを切らしてしまいまして、買いに行きたいのですが…。」
「そうか。リコス、今日の手合わせはここまでだ。」
「判りました。エミリさん、支度して来ますね。」
「ありがとうございます。」
僕は師匠に一礼をし、着替える為に自室へと戻った。
時刻は午後4:30を回っている。
まだ日は落ちてはいないけれど、傾いている。
少しずつ夕闇が広がって来ていた。
時刻は午後4:30を回っている。
まだ日は落ちてはいないけれど、傾いている。
少しずつ夕闇が広がって来ていた。
「お待たせしました。」
「修行を中断させてしまってすみません。」
「いえ、良いんです。行きましょうか。」
僕達は最下層の商店街へと向かい、いつも買物をする店で香辛料やついでに他の必需品を両手いっぱいに入手した。
それでも、やはり人通りは随分と少なくなり、女性の一人歩きは気をつけなければいけない。
検問を通り過ぎて、貴族街へと戻って来た。
こちらは最下層よりもさらに人通りが無く、明かりがあっても不気味に感じる。
こちらは最下層よりもさらに人通りが無く、明かりがあっても不気味に感じる。
僕達は無言で足速にお屋敷へと歩く。
「君達、こんな時間に何処へ行くんだい?」
「「‼︎」」
十字路に差し掛かった所で不意に声をかけられた。
思わず足が止まり、声の方向へ顔を向けた。
思わず足が止まり、声の方向へ顔を向けた。
路地の影から現れたのは警邏である公安第一特務の軍人だった。
公安第一特務というのは国内の一般犯罪に対処する軍の部隊だ。
警察の役割を担っていて都市内での警邏もその任務に含まれている。
どうやら巡回中らしい。
公安第一特務というのは国内の一般犯罪に対処する軍の部隊だ。
警察の役割を担っていて都市内での警邏もその任務に含まれている。
どうやら巡回中らしい。
ただ、エーテル灯の逆光で影が出来て、顔はよく見えない。
「あぁ、驚きました。これはご苦労様です。」
「僕達は買物を済ませてお屋敷に戻るところです。」
「今は夜間外出は控えるように通達が出てるだろう? 危ないから、私が送ってあげよう。」
警邏の軍人はそう言ってきた。
軍人が一歩踏み出した時にエーテル灯の灯が差し、人好きな笑顔が見えた。
軍人が一歩踏み出した時にエーテル灯の灯が差し、人好きな笑顔が見えた。
「まぁ、それはありがとうございます。」
僕達はその申出を受けて、送ってもらう事にした。
道すがら、軍人は僕達の素性を聞き、僕らも素直にそれに答えた。
「ほぉ、そうか、暗黒騎士様のとこに仕えてるのか。」
「ええ、今日は食材を切らしてしまって、それで買物をしに出てたのです。」
他愛無い会話をしながら、あと6軒先というところまで戻った時だった。
突然、警邏の軍人が振り返り、腕を振り上げる。
その手に光る何かが見えた。
その手に光る何かが見えた。