「そんな顔していると、男が下がるわよ?」
「始まりました、お嬢様」
「遂に、彼らが動き出すのね……」
「あらあら、自分達だけぞろぞろと。勝手な人達ねぇ……」
「避難されますか?」
「まさか。でも、流石スメラギさん。見事な予報ね」
「世界が、変わってゆく……」
「どの国のニュースも、俺達の話題で持ち切りだ。“謎の武装集団、全世界に対して戦争根絶を宣言する”ってな。
尤も…殆どの奴らは信じちゃいないようだがな…」
「ならば、信じさせましょう。ソレスタルビーイングの理念は、行動によってのみ示されるのだから」
「ガンダム…」
「そう。あれこそが、ソレスタルビーイングの理念を発現する機体よ……」
「一度だけじゃない、何度でも介入するわ」
「ソフトドリンクかい?ここのお勧めはオリジナルカクテルだよ」
「私は未成年でしてよ」
「おぉ、これは失礼」
「例え利用されていると分かっていても、私達は動く」
「ソレスタルビーイングの創設者……イオリア・シュヘンベルグは、声明でこう言った筈よ?」
「“ソレスタルビーイングは、戦争を幇助する国も武力介入の対象である”と」
「最大規模のミッション…世界は、ソレスタルビーイングを注視せざるを得なくなる……」
「これがガンダムマイスターの力…」
「戦闘中にコックピットハッチを開けるだなんて…!」
「お見事でした。スメラギ・李・ノリエガ」
「とんでもないハプニングがあったけどね…」
「とはいえ…ヴェーダの推測通りに計画が推移しているのは、事実でしてよ?」
「王留美、このミッションでどれ位の犠牲者が出たか分かる?」
「いえ」
「私の予測だと…500人は下らないわ」
「それを承知の上で、ソレスタルビーイングに入ったのではなくて?」
「分かってるわよ。ええ、分かってるわ……」
「嫌なものね、待つしかないという事は……」
「世界が動けと言っているんだわ、私達に……」
「ふぅ…。全く、世界というのは……」
「何という失態…!イオリア・シュヘンベルグが求めた理想を、ガンダムは体現している。なのに…どうしてマイスター達は、こうも不完全なの?」
「ふう…!ヒヤヒヤもんだぜ……。けどよぉ、お嬢さん…これでこの問題が解決するのかい?」
「…出来ないでしょうね。でも、人は争いを止める為に、歩み寄る事が出来る。歩み寄る事が……」
「ナノマシンの普及によって、宇宙生活での人体への悪影響は激減した。なのに、精神衛生上の観点から、地上に降りる必要があるなんて…」
「人間がコロニー以外の宇宙で暮らすには、まだまだ時間が掛かるわ…」
「スメラギさんは、人類が宇宙に進出するのがお嫌い?」
「私達はまだまだ未成熟な生命体よ。でも、それも悪くないわ。重力下で飲むお酒は格別ですもの…」
「昼酒は体に毒でしてよ」
「止めたくても止められない、まさに未成熟……」
「お嬢様、米軍艦隊が動きました。太平洋を横断してユーラシア方面に向かっている模様です」
「今頃、AEUも人革連への境界線に向けてモビルスーツ隊を集結させているでしょうね」
「何故…その事を?」
「的確なのよ。スメラギさんの予測は…」
「トリニティのやり方は、確かに無謀だわ。しかし、これで世界が変わるというなら……!」
「そう、エクシアが新型のガンダムに…」
「こんな事をして、良いのでしょうか?」
「さあ、どうかしら?紅龍、私はね、この世界が変わりさえすれば良いの。どんな手段を使ってでも……」
「待てミハエル。そこにいるご婦人、ヴェーダの資料の中で見た記憶がある」
「記憶に留めて下さっていて光栄ですわ。私の名は王留美、ソレスタルビーイングのエージェントをしております。こちらはパートナーである紅龍です」
「ちょっといい男じゃん」
「そうかぁ?」
「この場所に来た事で、あなた方の能力の高さは分かりました。それで、私達に何か御用ですか?」
「ただ、御挨拶に伺ったまでです」
「んっ?」
「チームトリニティも、私達と同じソレスタルビーイング。エージェントである私達が、あなた方をサポートするのは、至極当然の事」
「何言ってやがる!?」
「アタシら、そっちのガンダムの攻撃を受けたのよ!」
「その事については聞き及んでいます。ですが…私はあちら側の人間という訳ではありません」
「つまり…中立の立場であると?」
「いいえ。私は、イオリア・シュヘンベルグが提唱する理念に従う者……それ以上でもそれ以下でもありません」
「……成程、そういう事ですか」
「ええ……」
「分かりました、王留美。必要に迫られた時、あなたの援助を期待させて頂く」
「良しなに」
「この場所を彼らには…?」
「伝えない事をお約束しますわ。では」
「宜しかったのですか、お嬢様?ソレスタルビーイングは、彼らと敵対して―――」
「構わなくてよ。トリニティは世界に、変革を誘発したのだから」
「それ程までに、今の世界がお嫌いですか?」
「ええ。変わらないのなら、壊れても良いとさえ思う程に……」
「こんなにも世界が変わってゆく……。その向こうには、一体何があるのかしら……?」
「我々を、機体ごと宇宙に戻す手筈を整えて欲しい」
「喜んで…と言いたい所ですが、少し遅かったようですわ」
「何?」
「既に、国連軍の部隊がそちらに向かっています」
「何だと…!?」
「早めの対処を」
「世界は、どちらに傾くのかしら……?国連か……彼らか……」
「これで世界は変わったのですか?お嬢様」
「さあ…」
「今の世界はお気に召しませんか?」
「期待はしているわ。世界が変わっていく事を……」
「良かったら見せて下さらない?第一世代の機体を」
「ん?了解」
「これが、オーガンダム……。初めて太陽炉を積んで、稼働した機体……」
「世界を変える機体……ダブルオーガンダム……」