さまようもの/Wandering Ones(MtG)

登録日:2012/06/29(金) 11:04:18
更新日:2025/06/04 Wed 08:09:51
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Wandering Ones / さまようもの (青)

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クリーチャー ― スピリット(Spirit)
1/1

「子供のときに一度見ましただよ。迷ったときには親御のとこまで連れてってくれただ。なんで今は助けちゃくれねえだ? なんで家まで連れ帰っちゃくれねえだ?」
――― 名も無き物乞い

さまようものとは神河物語にて登場したクリーチャーである。
1マナ1/1のバニラであり一言で言えば貧弱。部族サポートの多いスピリットではあるものの他に幾らでも上位互換がいくらでもある。
特に神河謀叛《涙の神》、神河救済で《夢捉え》(どちらもU/1/1のスピリットで能力を持ち、しかもコモン)が登場したことで、スタンダードはおろかブロック構築でさえ採用する意味がなくなってしまう。
もちろんリミテッドでもだいたい最後の方まで残っているカード。

遊戯王などをはじめとした他のTCGプレイヤーだと、「こういう弱小カードには専用のサポートがあるのでは?」と考えがちである。特に遊戯王だと【バニラローレベル】なんてデッキもあったくらいだし。
しかしMTGはこの手の弱小カードの救済という概念がほとんどない。たとえば「バニラクリーチャーの専用サポートカード」が初めて登場したのが、このカードの発売から2年半後の「未来予知」というエキスパンションである。
そのため本当に「どうしても青のスピリットの1/1のカードが採用したい」という状況でさえ、《さまようもの》を採用する合理的な理由がどこにもない。そしてMTGにはそういうカードがごまんと存在するのだ。

そんなわけで、よくある弱コモンとして歯牙にもかけられずに消えていった─


























…ハズだった。

何故か上記の性能の情けなさ、青い棒人間が笠をかぶっているというだけのシンプルすぎるデザイン、、カード全体から放たれる不思議な哀愁に魅了されたものが次々と現れる。
オールひらがなが可愛い、見た目ずべらっぽいのに全く関連性ないのが素敵、そのすべすべした青い肌に触れてみたい、いっそ家まで連れて帰りたいともう全国の青使いはメロメロである。

当時のMTGはカード名を含めてテキストが複雑になりやすい傾向があり、特に神河物語時代はその最たる例だった。
イラストも当時MTGの売上を奪っていたライバル製品である和製TCGが分かりやすいイラストなのに対し、ごてごてとしていて視認性が悪く、特に神河は「付喪神」をモチーフにしていることや日本的な観点から若干ずれたイラストが多かったことからあまり評判がよくなかった。
そんな中に「ひらがな6文字」「青いクレヨンと黄色いクレヨンがあれば子供でも描けるデザイン」という極めてシンプルなデザインと、あんまりにも情けなさすぎる性能から大人気を博したのがこの《さまようもの》だったのだ。
《甲鱗のワーム》のように状況次第ではそれなりに強くなるカードと違い、どう頑張って使っても弱いので「弱い!」とバカにしても反論されにくいという安心感も人気を後押ししてくれた。

最たるものは有名プレイヤーである浅原晃氏であろう。
The Finals05という大規模の大会に、さまようもの入りバベル「The One」だの、さまようもの入りボロスウィニー「さまようデックウィン」だのといった狂気のデッキをデザイン・提供して参戦したことで、ネタカードとしての一定の地位を確固たるものとした。こんなネタデッキでTop8に入るAA神も相当なものである。
また、同氏によりさまようものが活躍した度合いにより優勝者を決めるという「さまようもの王決定戦」なる大会まで開かれた。優勝者はさまようもの一体を処理するために燎原の火/Wildfire(全てのクリーチャーに4点ダメージ、お互いに4つ土地を生け贄)をぶち込まれた浅原氏本人である。これもうわかんねぇな。
そして同大会、浅原氏のラストドローもまたさまようものだった。どんだけ好かれてるんだよ…。
ちなみに「さまようものをコストとして運用した場合マイナスポイント」という結構厳しいルールだったようである。つまりこの大会、1/1バニラで圧を与えるというプレイングの妙がなければさまようものポイントを稼げないというなかなか剛の者の大会だったようだ。かつてカードゲームに対して華々しい地雷デッキや覇権デッキの原型*1を持ち込んだ名物プレイヤー浅原晃と、彼を慕う者たちが名乗った「浅原軍団」らしい素朴なエピソードである。

後に「ラヴニカ:ギルドの都(初代ラヴニカ)」期に入ると、MTGは親和の冬が明けて華々しいデッキが毎大会のように出現する多様性の春が訪れる。
そんな春先を彩る花のひとつが、この「The One」だった。


さて、さまようものは今もストレージボックスや一部のデッキをさまよっている……かと思いきや実はそういうわけでもない。
というのも、その名前の覚えやすさゆえに「ネタカード」としての需要がある程度あるらしく、かつてのショップでは「謎の需要でたまに売れるカード」という認知度だったため。
特に2007年頃は、foil版に至っては「なぜか品薄になる商品」として知名度があった。しかも一人のコレクターによる買い占めではなく、「共通点のないお客さんがなんとなーく買っていく」というものだったという。

当然だが、カードとしては「採用する理由がどこにもない」という評価になるこんなカードが再録されるわけもない。
そのくせMTGプレイヤーの中では地味な知名度があるため、新規プレイヤーが面白がって買っていく。
そのため日本語版「さまようもの」をストレージで見つけるのは案外難しく、コモンなので絶対数自体は多いのだが、他のコモンや知名度の低いカスレアなどに比べると明らかに品薄。
foil版に至っては店によっては「上位互換であるはずの《涙の神》などよりも高い値段がつけられている」ことさえあるという奇妙な立ち位置を誇っている。
現在では統率者戦が特殊な需要を生み出したことで混沌としているカード市場だが、そんなものがなかったころはぶっちゃけ下手なスタン番長系のレアよりも売れるという実に奇妙なカードだったのだ。

しかしあれから20年。いまや「さまようもの王」の浅原氏や同世代のプレイヤーたちもMTGの表舞台から退き、神河物語時代を知るプレイヤーもすっかり少なくなった。
かつてマローに「一部のプレイヤーが熱心に再訪しろと言ってるだけだ」と何度も言われた次元は、いまやサイバーパンク次元として生まれ変わり、昨今のMTGの中で最も売れたセットの立役者ともなった。
プレイヤーが世代交代を起こした現在では、《さまようもの》の人気は若干古典の域に入っている。つまり「昔人気があったんだぜ!」という風に知っているだけで、当時の熱狂の中にいたわけではない、ということ。
最近だと鼻血バニラおじさんことオドリックや、令和のカードなのに純然たる性能の低さで話題になった《ダンジョンの入り口》あたりの方が、知名度も人気も高いのではないだろうか。


続報

神河物語(2004年10月)から14年半後、2019年5月に発売された「灯争大戦」にて、《放浪者/The Wanderer》というカードが登場。
日本語だとさっぱり似ていないのだが、さまよう/放浪と訳されている言葉はどちらも「Wander」。そして当時は正体不明のプレインズウォーカーで、どことなく神河風のいでたちをしていたことが話題となった。
そのため放浪者の正体はこの《Wandering Ones》の個体のうちのひとつだという説が(ネタ的に)提唱された(本項目のコメント欄でも話題になっている)……のだが、そもそも色が違うこともあってまったく話題にならずに終わってしまった。
放浪者の正体が分かった上に大人気キャラになっている現在では、こんな珍説を口に出す方がお寒い始末である。


「初心者のときにしょっちゅう見ましただよ。話題に迷ったときにはだいたいこいつのこと話してただ。
なんで今はどこでも見かけねぇだ? なんで話題にも出しちゃくれねえだ?」

かつて人気があったクリーチャー《さまようもの》の知名度も、いまや着実に落ちてきている。




初心者のときに一度見ましただよ。暇だった時にはおもしれぇこと追記して暇潰させてくれただ。なんで今は誰も修正しちゃくれねえだ?なんで今は暇潰しにしちゃくれねえだ? ― 名も無き物乞い

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最終更新:2025年06月04日 08:09

*1 一説によると、あのカウブレードの原型のひとつが浅原氏による《戦隊の鷹》入りの青白コンだったという話がある。