ニーベルンゲンの歌

登録日:2012/07/04(水) 15:34:02
更新日:2018/01/15 Mon 18:53:18
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ニーベルンゲンの歌とは、13世紀初頭に「ある詩人」に書かれたとされるドイツ語圏の叙事詩である。



《あらすじ》

ブルグントの国にはクリームヒルトという姫がいた。
ニーダーランドの王子、ジークフリートは彼女と結婚すべく、彼女の兄グンターの結婚に協力する。
しかし後に両者の妻の諍いからジークフリートは殺害され、クリームヒルトは夫の復讐の為にフン族の力を利用し一族を滅ぼそうとする…


《成り立ち》

「ニーベルンゲンの歌」その物は13世紀に書かれたものだが、起源は古く5~6世紀のゲルマン大移動にまで遡るらしい。
その起源は大きくわけて二つで、一つは「ブリュンヒルト伝説」もう一つは「ブルグント伝説」と言われている。

元来別々の物だったこの二つの伝説は、それが各地で歌われていく中で変容していき、
最終的には何者かの手で一つにまとめられて「ニーベルンゲンの歌」が誕生したとされている。

「ニーベルンゲンの歌に前後編で矛盾や性格変化があるのは、それぞれを違う詩人が書いたから」という説があるが、
実際は「元々個別の話をムリヤリ合わせたから」&「そもそも中世の詩人そんな細かいこと気にしてねーよ」というのが正しい(と現状では判断されている)。

ただ両方とも起源が古すぎる上に、当時のゲルマン人には物語を文字で残す習慣が無かった為に起源とされる伝説その物は見つかっていない。
まあ探せば奇特なローマ人が書いた物が見つかるかもしれないが、少なくともそれらしきものが見つかってはいない。
てか「ブリュンヒルト伝説」も「ブルグント伝説」も北欧のエッダやサガとニーベルンゲンの歌を突き合わせて、
「こんな伝説があったんだろう」と類推されているものにすぎない。


《構成》

先ほど挙げた二つの伝説の内、「ブリュンヒルト伝説」を下地としているのが前編。「ブルグント伝説」を下地としているのが後編。
…と、書籍などではよく分けられる。
実際には一つの話なんで「前編」「後編」というのは本当は無い。

「ブリュンヒルト伝説」は「ニーベルンゲンの歌」前半のジークフリートが活躍する話の下地であり、
悲劇的な恋愛がウケたのか各地に伝わっていて、エッダ歌謡やヴォルスンガ・サガやティードレスク・サガといった詩の中でも歌われている。

一方「ブルグント伝説」は「ニーベルンゲンの歌」後半、ブルグント一族がフン族との戦いで滅亡する部分の下地。
「ブルグントがフン族との戦いで滅亡した」という歴史的事実が反映されている。

また全体的に悲劇的な内容が示唆されており、最後はラストサムライや300ばりに登場人物が死んでいくのも特徴。

何せ物語冒頭から多くの勇士が死ぬことが予言されている上に、作中でも事ある毎に地の文で破滅的な運命が予言されているのだから。

かなり無常感が漂っている作風なので、その辺が日本人にはウケるのかもしれない。

また前半と後半では時には似通った場面が、時には対照的な場面があり、詩人の巧みな構成が伺える。

「ブリュンヒルト伝説」を基にした前半では竜の血を浴びて不死身の体を得たジークフリート
巨人や小人、透明マントに北欧神話の「アスガルド」を意識したかのような「アイスランド」を治める怪力無双のブリュンヒルト
…などなど神話的な要素がふんだんに詰め込まれている。

一方で後半は歴史的事実である「ブルグント伝説」が基になっているためか、
前半では活躍が少なかった現実的な力の持ち主である騎士達が活躍。
さらにディートリヒやヒルデブラントと言った他の伝説に登場する人物や各種サガを下敷きにした展開が盛り込まれるなど、
中世騎士文学オールスターの形になっている。

それでいて前半のテーマとなるのは「愛・ミンネ」と騎士社会的なもの、
後半のテーマは「闘争・復讐」と古代ゲルマン的とされるもの、といった対比がなされている。


そしてこの叙事詩の最大の特徴は『二ーベルン詩句』という、まさにこの叙事詩の名前を冠した詩句である。

これは4行の詩節からなる、1行目と2行目、3行目と4行目でそれぞれ脚韻をふみ、さらに発音の強さにも一定の法則がある形の詩句。

簡単に示すと

1:~ed
2:~ed
3:~lich
4:~lich

という形になる。これでワンセット(1詩節)。

この法則が2400前後の詩節にしっかり適用されているのだから恐ろしい話である。
また韻と発音の規則性のために非常にリズミカルな文に仕上がっているのだが、語の形が異なる現在のドイツ語や日本語では完全な形の再現はできない。


《登場人物》

皆さんご存知、竜の血を浴びて(ある一点を除き)不死身の肉体を得た英雄。
体育会系の兄ちゃんといった気質で、力強く友情には厚いが恋愛には少々奥手。
また騎士的な礼儀正しさとゲルマン的ジャイアニズムが混在している。


ジークフリートが好きすぎてトラブルを起こし、やがてはブルグントを滅ぼす困ったヒロイン。黒幕ポジ。
写本Cは幾分か彼女を擁護するような作風になっている。


ブルグントの利益を第一とする忠臣だが、それが行き過ぎて一族が滅ぶ原因を作った。だが私は謝らない。
前半は策謀を巡らせたりブリュンヒルトやジークフリートの勇力を恐れたりと卑小な面が目立ったが、
後半で己の死を覚悟してからは豪胆な勇士の本質を見せ、フン族の地で大暴れした。


  • グンター
ブルグントの国王その1。
ブルグント族は3兄弟がそれぞれ王位についているが、実権を持つのは彼のみ。
前半はジークフリートやブリュンヒルトがチートすぎてヘタレな面が目立つが、
後半はハーゲンと同じく一転して勇敢な武闘派に。だがハーゲンがいるので影が薄い。


グンターの嫁。
当初はグンターを拒んでいたが、彼との初Hであえなく陥落。おそらくエロゲヒロインの元祖。
後半ではベッドでニャンニャンするのと旅立つ夫を引き留めようとする程度の出番。
彼女が登場する他の伝説と比べて影が薄い。


  • ゲールノート
国王その2。
曲がったことが嫌いで短気な江戸っ子気質。
じゃっかん影が薄いうえに、妹クリームヒルトのことを大事にしているのに、
当の妹はゲールノートのことはスルーし、弟を可愛がっているのだった。
お兄ちゃんとは哀れなものである。


国王その3。
「若きギーゼルヘア」と呼ばれるように、少々甘いが真っ直ぐな性根を持った好漢。
姉思いな性格であり、姉自身も彼の事は他の兄弟以上に愛している。
前半は若すぎたのか戦う場面はないが、後半では勇士としての活躍を見せる。


  • フォルカー
強くてモテるバイオリン弾きで、ややDQNな性格。作者の自己投影という説も。
剣がバイオリンの弓に、戦う様が演奏に例えられる。中二とか言うの禁止。


  • エッツェル
またはアッティラ。フン族の王様。
史実のアッティラ王は恐ろしい人物とされているが、こちらは史実と異なりヘタレ。
嫁が死んだので再婚相手にクリームヒルトを選ぶが…もしかしなくても被害者。


  • リューディガー
エッツェルの家臣の辺境伯。
気前が良く誠実なために皆から慕われているが、その誠実さ故に厄介なことに巻き込まれてしまう。


  • ディートリヒ
自分の国を追われてエッツェルの下に滞在していたら騒動に巻き込まれて臣下がほぼ全員死んだ流浪の王様。
もしかしなくても被害者であり、最後はエッツェル共々「どうしてこうなった」と涙を流す。
別の伝説では主役。史実で言うテオドリック大王。


  • ヒルデブラント
ディートリヒの師匠にして家臣。老人だが若い者には負けない。
彼もまた別の伝説、ドイツに現存する最古の物語「ヒルデブラントの歌」の主役。
何とか戦いを生き延びた彼だが、後に自らの手で息子を斬り殺し自らも息絶える宿命にある。


  • ヴォルフハルト
ヒルデブラントの甥っ子。スルースキルが皆無な為、フォルカーの煽りに反応してしまい…



《余談》

  • 通常、叙事詩とは作者名が明らかになっている(作品に自分の名前を書いている) のだが、何故かこの作品ではそれが無く作者不詳。
    一説には中世最大の詩人である「ヴァルター・フォン・デア・フォーゲルバイデ」が書いたとも言われている。
    少なくとも、彼のライバルだったヴォルフラム・フォン・エッシェッンバッハはニーベルンゲンの歌を知っていたという。
    手がかりとしては、作中の風景描写のうちドナウ河流域は詳しいがライン河流域はそれほどでもなく、
    またパッサウからウィーンにかけての描写から彼はドイツ南東部からオーストリア辺りの出身と言われている。

  • 現在知られているニーベルンゲンの歌は写本、つまり誰かが書き写した物である。
    中でも完本として形になっているのは写本A・B・Cの3つのみで、一般的には写本Bが有名。
    ただ写本Cも最近になって訳されている。Bと比べて描写の矛盾点が減っており、宮廷儀礼に細かく、クリームヒルトを養護しハーゲンを非難している。
    また、これらの写本は全て二―ベルン詩句を守った上での加筆・修正が行われており、
    写本を書いた人間も相当な力量の持ち主だったことは想像に難くない(特に写本C)。





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