登録日:2011/04/08 Fri 04:59:55
更新日:2025/03/05 Wed 22:11:50
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『刑事コロンボ』はユニバーサル映画が制作したアメリカのテレビドラマ。
原作・脚本はウィリアム・リンクとリチャード・レヴィンソンのコンビが担当した。
ミステリドラマに「倒叙」というジャンルを確立した記念碑的作品である。
概要
このドラマで画面の最初に映るのは、「犯人」である。
それどころか、犯人の動機や犯行の準備、殺害の瞬間、偽装工作といった犯行の一部始終が物語の冒頭ですべて視聴者に明かされてしまう。
犯行はいずれも練り上げられた計画殺人であり、犯人は自分の計画に絶対の自信を持っている。
そこに「殺人課の刑事」としてコロンボが現れる。しかしその風体は、
- モジャモジャの頭
- ヨレヨレのレインコート
- メモ帳やボールペンをすぐ失くす
- 身内の話や他愛のない雑談を繰り返す
といういかにも愚鈍そうな男。
犯人は「こんな男が捜査責任者なのか」と侮るが、
やがてコロンボは犯人の行く先々にしつこく現れては無駄話の合間に事件の核心を突いた質問を投げかけてくるようになる。
やっと帰ったと思って油断していると、
「すみません、もう一つだけ…」
とやられることもざらである。
「実は強敵なのでは?」と気づいたころには手遅れで、決定的な証拠を突きつけられた犯人はコロンボを見くびっていたことを後悔しつつ犯行を認めることになる。
この手法は当時の刑事ドラマとしては型破りであったが、
「有名な役者が演じている→その人物が犯人だと分かる」というミステリドラマにありがちな問題を
「犯人=ゲスト・スター」というプラス要素に変えられる、テレビドラマと非常に相性の良いものであった。
また、このドラマでは犯行の方法や動機を当てる楽しみをスポイルする代わりにコロンボと犯人の駆け引きの場面が多く挿入されており、
「コロンボはいつから犯人を疑っていたのか」を視聴者が当てるという、普通のミステリではありえない楽しみ方もできるようになった。
ミステリーの黎明期から存在していたにもかかわらずマイナーであった「倒叙」という手法を一般社会に広めたのは、本作の大きな功績であろう。
放送
当初は単発ドラマ『殺人処方箋』(1968)として放送されたあと、パイロット版の『死者の身代金』(1971)を経て『構想の死角』(1971)から連続ドラマ化され、45作目の『策謀の結末』(1978)でいったんシリーズを閉じた。
その後、1989年にシリーズが再開され、『汚れた
超能力』(1989)から最終作となった『殺意のナイトクラブ』(2003)までの間に断続的に24話が放送された。
放送時期が10年以上空いたため、ファンの間では前者45作を「旧シリーズ」、後者24作を「新シリーズ」と呼ぶことが多い。
旧シリーズが「完全犯罪vsコロンボ」というフォーマットに忠実であったのに対して、新シリーズはそれを崩そうとする挑戦的なエピソードが多い。
その一方でベテランスタッフの死去、慢性的な脚本不足といった制作の苦労が絶えなかったようで、展開に粗が多かったり、
「
写真を切り抜いて作ったお面で変装する」という脱力もののアリバイトリックをやってしまったり、
エド・マクベイン原作の普通の刑事ドラマを2回も放送したりと、旧作に比べると残念なエピソードが散見される。
古畑任三郎の脚本家の三谷幸喜も当時の新シリーズに不満を持っていたファンの一人で、コロンボ新シリーズに対する失望も古畑誕生の原動力となったと発言している。
ちなみに、ヘンリー・マンシーニ作曲の有名なテーマは旧シリーズが放送されたNBCのドラマ枠全般のテーマソングで、同枠では他にも『警部マクロード』『Dr.刑事クインシー』等が放送されている。
日本での人気
日本では1972年に
NHKのUHFチャンネルで試験放送が開始され、のちNHK総合に移行して放送。新シリーズからは「
金曜ロードショー」(日本テレビ)で放送された。
「もう一つだけ…」と言いながら犯人を追いつめていくコロンボのキャラクターは世界中で愛されており、もちろん日本にも熱烈なファンが多い。
その熱心さを象徴するのが、かつて二見書房から刊行されていた小説版(ビデオが普及していなかった当時は小説版が録画代わりであった)で、
- 独自ルートでシナリオを入手、ドラマでカットされた場面も完全再現
- 撮影されなかった没シナリオを元に小説版を制作(後に本家でもそのシナリオが再利用される)
- 普通の推理小説として書かれたパスティーシュを倒叙ミステリに「翻訳」
- 本職の推理作家が「翻訳」と称して新作を書き下ろす
といった並々ならぬ情熱が注がれ、旧シリーズは『愛情の計算』以外の44作が小説化されている。
本作が作り上げた探偵のキャラクターや倒叙のフォーマットは日本のミステリにも大きな影響を与え、
古畑任三郎や
杉下右京、福家警部補など多くの和製コロンボが産み出されている。
登場人物
人間じゃねえぞ!ってのもあるかもしれないが名脇役には間違いないのでここに載せる。
声:小池朝雄(旧)/石田太郎(新)/
銀河万丈(WOWOW版)
ロス市警殺人課の警部補。
日本語では語呂のよさから「警部」と呼ばれているが、実際の階級は警部補に相当する「Lieutenant」である(警部とする辞書もないわけではないが)。
とはいえ、あちらとは規模や構成が若干異なるため、「
日本警察なら警視クラスでは?」という説もある。
日本では警部補は30%近くいるが、ロス市警ではLieutenantは3%弱しかおらず、この比率は日本警察の警視より少ないぐらい。
ただし、あっちは最下級のPolice Officer(巡査)だけで69%、Detective(平刑事)が15%、Sergeant(巡査部長)が12%程度と極端なピラミッド構造であり、
この上はCaptain(警部)が0.8%、Commander(警視)から市警本部長まで合計しても0.3%程度しかいない(2019年末)。
なるほど、コロンボの昇進が難しかったわけだ。
本物のロス市警では1969年に強盗課と殺人課が統合されRobbery-Homicide Division(強盗及び殺人課、意訳するなら強行犯課)が発足。
Captainの下にRobbery,Homicide,Special Assault,Cold Case Homicide,and Special Investigation Units(強盗、殺人、特殊急襲、迷宮入り殺人、特別捜査班)の5つの部門があり、
そして、その各部門の責任者がLieutenantである。
つまりコロンボの地位は、日本でいうなら県警本部の捜査一課長補佐か強行犯係長と考えていいだろう。
そう考えるとその地位は意外に高く、少なくとも単独でうろつくような地位ではない。
軍にいた経験があるのだが1970年代のアメリカは徴兵制度が残っているため兵役経験があってもおかしくはない。
上層部から直々に呼び出されたり後輩から「伝説」扱いされたりと市警きっての切れ者として通っているが、カミさんを愛するごく普通の家庭人でもある。
家族構成やいるんだかいないんだか分からない親戚連中、私生活にファーストネームと実はけっこう謎の多い人物。
彼ほど「能ある鷹は爪を隠す」を体現したキャラクターはいないだろう。
さまざまな理由から完全犯罪を目指す挑戦者たち。
医者、弁護士、作家、社長、映画スターなどセレブリティが多く、市警の次長や上院議員候補、外交官といった大物とも対決している。
ロバート・カルプやジャック・キャシディ、パトリック・マクグーハンなど、同じ俳優が別の話の犯人役として出演したこともある。
コロンボの話によく出てくる「うちのカミさん」。本編には一切登場しないが、嗜好などの情報はちょくちょく出てくる。
コロンボによると身長は旦那と同じくらいで銀婚式を控える年齢らしい。
子どもは少なくとも2人はいるようだが、「子宝に恵まれなかった」という発言もあってはっきりしない。
そんなあやふやな情報から「本当は奥さんなんていないんでしょ」と指摘されたこともあるが、
『歌声の消えた海』で実在が確認され、『カミさんよ、安らかに』ではなんと犯人に命を狙われる(それでも姿は見せない)。
ちなみにコロンボ同様作中に名前が一切出てこないが、実は当時のバラエティ番組にピーター・フォークがコロンボとして出演した際カミさんの名前を漏らすくだりがあり、
それによるとフルネームは「ローズ・コロンボ」との事。
……因みに、1979年に本家コロンボが一旦の終了をした後に『ミセス・コロンボ』という、
タイトルの時点でファンを釣る目的のスピンオフ姉妹作が作られたのだが、本家の放送中から上述の通りの理由で
「コロンボの奥方の正体は曖昧にしておくべき」と思っていたファンから猛抗議を受けた結果か役員にもファンが居たのか、制作するユニヴァーサルから直々に『ミセス・コロンボ』と『刑事コロンボ』は無関係(コロンボ夫人とミセス・コロンボは別人)と宣言され、結局は
同姓だが全く無関係の刑事の若奥様になってしまった。
ミセス・コロンボを演じているのも当時は弱冠23歳の若手女優だった後の
悪魔艦長だったりと色々とミスマッチだったのも問題で、元々は本当にコロンボの奥様を主人公として企画を考えていたスタッフも主演を若手女優にされたことで制作前に離脱と、空気を読めない企画が更に現場レベルで世に出るまでにグダグダになり実際に放送されても案の定の爆死という酷い有り様であった。
そして、経緯の通りで公式に『刑事コロンボ』とは無関係となった『ミセス・コロンボ』は遂にはドラマ内ですら
コロンボ警部とは無関係の刑事の夫と離婚してしまい、遂には彼女は“コロンボ”ですらなくなってしまい僅か2シーズンの途中で打ち切りとなった。
……尚、ドラマそのものは“面白かった”との評価。
刑事ドラマなのにレギュラー出演する刑事が少ない。これも当時としては珍しいことだった。
それでも最多出演のクレイマー、最新の科学捜査でコロンボをサポートする若手刑事ウィルソン、なぜかマックと呼ばれるシオドア・アルビンスキーなど印象深い人物は多い。
コロンボの愛車。初登場時から既にガタがきており、「車で送りましょう」と言われた人はたいてい困った顔をする。
本人は「外車だ」「ビンテージだ」といっこうに気にする様子はないが。
一度衝突事故を起こした事があるが、その後も衝突した箇所がボコボコになった状態で普通に乗り回している。
なぜボロボロなのかというと、コロンボが車をチョイスする際、ガレージに用意されていた車が気に食わず、
偶然ガレージの隅に止まっていたこの個体を見て直感で決めたのだという。
第1シリーズ放送当時はただの中古車扱いだったが、新シリーズ制作時には残存数の少なさからレア車となってしまい、コレクターから借り受けて制作に臨んだという。
コロンボの飼い犬で、犬種はバセットハウンド。
実は名無しで、気の利いた名前をつけようとしているうちに「犬」がそのまま名前のようになってしまったという経緯を持つ。
それほど登場回数は多くないのだが、ぬべーっと寝そべっているだけなのに妙な存在感がある、愛すべき名脇役である。
ミセス・コロンボ
旧シリーズ終了後に彼女を主人公にして制作された『ミセス・コロンボ』というドラマがある。
ミステリとしての出来は悪くなかったのだが、当時の米国NBC社長が制作を強行する、
「ピーター・フォークと同年代の女優を主役に据えるべき」という意見を無視して若い女優を主役に据えるなどのNBC側の勝手な振る舞いにより、
コロンボの制作スタッフからの猛反発を喰らった。
さらに制作会社のユニバーサルからは「ミセス・コロンボは刑事コロンボ夫人ではない!」と否定されてしまい、
『刑事コロンボ』ファンの評判も芳しくなかったという。
第2シーズンで番組タイトル変更を余儀なくされ、ドラマ自体も視聴率不振で打ち切られてしまったのだが、
日本では第2シーズンが放映されなかったためか、「ミセス・コロンボは『刑事コロンボ』のカミさん」と思っている人も多いという。
余談
日本では主に吹き替え版が放映されることもあり、コロンボといえば小池氏、石田氏、銀河氏の声のイメージが付いた視聴者は多いと思われるが、
実際にドラマでコロンボを演じたピーター・フォークの声は、そのいずれとも違う甲高いだみ声である。
特に小池朝雄の吹き替えがハマリ役だったこともあって、ピーター・フォークの地声を聞いてショックを受けた視聴者も多かったという。
新シリーズ制作に際しては小池がすでに亡くなっていたこともあり、声質の似た石田がひっそりと起用された。この起用は石田が宴会芸として小池朝雄のモノマネを披露していたことがきっかけだったという。
彼の代名詞とも言える「うちのカミさんがね…」という台詞は、日本語版の翻訳を担当した額田やえ子氏が考案したものである。
このため、彼女が翻訳を担当する前の小池版の初期のエピソードには「女房」と言っているものがある(原語版ではMy wifeなどなので間違っているわけではないが)。
第1話となる『殺人処方箋』には元になった同名の舞台版と、更にその元になった生放送ドラマ版が存在し、それぞれで演じている俳優が違うため、
実はピーター・フォークはコロンボ役の俳優としては3代目にあたる。
この事実は本国でもあまり知られていないらしく、実際に初代コロンボを演じた人ですら当時の事はまるでおぼえていなかったとか。
また作中に名前が一切出てこないと言われているが、実は何度か持ち物に書かれた名前が映るシーンがあり、
それによるとフルネームは「フランク・コロンボ」との事。
パロディなど
CMにコロンボのキャラクターを起用したものもある。
- トヨタ・カローラ(1995):コロンボの扮装をしたピーター・フォークが「長くつきあえる」車を紹介するというもの。吹き替えも石田太郎氏である。
- 『相棒-劇場版II- 警視庁占拠! 特命係の一番長い夜』:『刑事コロンボ』DVD BOXとのコラボCM。『刑事コロンボ』のアーカイブ映像に乗せて石田氏が新規にアテレコしている。
他にも日本テレビで放送されていた「カックラキン大放送」というバラエティ番組では「刑事ゴロンボ」なる野口五郎主演のコントが放送されていたことも。
尤も尺が短かったため、回を重ねるにつれ「珍妙なコスプレの犯人・カマキリ(演:ラビット関根(現:関根勤))をゴロンボがどつき倒す」というオチが定番になるしょーもないモノだったが。
『
ちびまる子ちゃん』のエピソード「
プロ野球開幕!!の巻」では、まる子と友蔵がコロンボを視聴していたところ、ラスト10分のまさにクライマックスという場面で、巨人戦を見たいヒロシにチャンネルを変えられるくだりがある。
ちなみにこの時まる子たちが見ていたのはシリーズ屈指の人気エピソード『
別れのワイン』なのだが、どうやってコロンボが犯人を特定できたのかについてネタバレがあるため一応注意。
「えっ、あなたがあたしの項目を編集してくれる? …よござんすよ」
- 新シリーズは11年も間があいちゃって今まで作ってたスタッフが亡くなってたりと相当悪戦苦闘したらしいからなぁ -- 名無しさん (2013-07-27 12:31:05)
- 犯人が上流階級なのがいい -- 名無しさん (2013-07-27 13:15:55)
- 「パイルD-3の壁」の落ちが好き -- 名無しさん (2013-07-27 13:55:47)
- 二枚のドガの絵のラストは痛快だった。 -- 名無しさん (2013-07-27 19:18:44)
- コロンボのおかげでボロ車マニアになってしまったwww -- 名無しさん (2013-08-02 22:43:25)
- 石田太郎さん。あなたのことは忘れません。どうか安らかに。 -- 名無しさん (2013-09-27 20:30:25)
- ピーター•フォークに続いて、石田さんも逝っちゃったんだよなぁ…… -- 名無しさん (2013-09-27 20:46:40)
- 犯人サイドから「探偵」を見るとどれだけ恐怖かわかるいい例 -- 名無しさん (2013-12-07 21:54:50)
- この人事務とかのデスクワークは苦手なんだよな~。 -- 名無しさん (2014-11-14 14:01:45)
- 「別れのワイン」は最高傑作だな。 -- 名無しさん (2015-01-09 20:36:39)
- 昔の記事と比べて結構がっつり修正されてるな -- 名無しさん (2015-01-13 21:10:32)
- こう、いかにも冴えないおっさんにしか見えないけど、着眼点の素晴らしさとか色々小器用な所とか割と最初から只者じゃない感はある。 -- 名無しさん (2015-02-20 18:42:11)
- 事件解決の為なら専門的な知識を得るために勉強するなど、努力家でもあるんだよな。 -- 名無しさん (2015-06-02 20:37:18)
- 名作「別れのワイン」はちびまる子ちゃんの漫画でも話題にしてたっけな。 -- 名無しさん (2015-11-10 22:38:34)
- この前第1話を見たけど、コロンボの髪型が整ってるし、服装もいつものヨレヨレのコートじゃなかったからかなり違和感を覚えたな。まあ段々おなじみの姿に変わっていくんだけどさ。 -- 名無しさん (2015-11-10 22:44:01)
- 「殺人処方箋」は元々単発企画、「死者の身代金」はパイロット版で、本格的にコロンボのキャラクターを煮詰めるのはその後だからな、俺らの知ってるコロンボが出てくるのは「構想の死角」から。 -- 名無しさん (2015-11-10 22:51:22)
- 犯人はこの人が相手だと日に日に胃が痛くなるんだろうな -- 名無しさん (2016-01-11 08:04:22)
- 気のいいおっさんに見えるけど、えげつない罠を張ったり、本気で切れた時のドスの利かせ方とか、やっぱりこの人も刑事なんだなと思う -- 名無しさん (2016-03-08 20:11:01)
- 記事中の子供の件に関する矛盾もそうだけどコロンボが語る奥さんエピソード全部まとめるととんでもない人物像が浮かんでくるwまあ半分くらいは犯人揺さぶるために奥さんにかこつけてでっちあげてるんだろうけど -- 名無しさん (2018-11-17 00:07:52)
- ピーター・フォークの片目が義眼だと聞いたときは驚いた。 -- 名無しさん (2019-05-01 00:58:27)
- 逆転の構図のラストの一瞬間抜けを演じて油断したところを突然ハメるって展開コロンボの刑事としての性質が詰め込まれてて好き -- 名無しさん (2019-10-23 00:26:29)
- カミさんの「存在はするけど姿は分からない」ってキャラはもしかしてコロンボが元祖では -- 名無しさん (2021-12-12 09:03:15)
- コロンボの上目遣いみたいな独特な顔の角度の演技は義眼による視線の不自然さをカバーするための演技らしいね。不思議とコロンボのキャラに合ってるように感じるから役者さんってすごいわ -- 名無しさん (2022-08-10 11:57:55)
最終更新:2025年03月05日 22:11