登録日:2011/06/06 Mon 02:35:59
更新日:2025/09/10 Wed 20:24:50
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性能
全長:1108mm
重量:4,300g
使用弾:.30-06スプリングフィールド弾
銃口初速:848m/s
装弾数:8(+1)発
連射速度:900RPM
動作方式:ロングストロークガスピストン ターンロックボルト
概要
アメリカのスプリングフィールド造兵廠にてジョン・キャンティアス・ガーランドにより試作され、1936年より米軍が採用していたセミオート式の自動小銃である。
正式名はUS Rifle Cal.30 M1。M1と設計者名からM1ガーランドと呼ばれる。
第二次世界大戦にて全軍配備された唯一の自動小銃で、米軍の勝利を支えた。
歴史
アメリカの自動小銃に関する研究は1909年までさかのぼる。
当時はWW1前でそこまでニーズがあるわけでもなかったが、ボルトアクション小銃の次の段階としての構想が始まった。
M1903の代替となるようにとの要求に対し、M1903に追加パーツを取り付ける形から始まり以下が生まれたが配備されることはなかった。
- デンマークのソレン・ハンセン・バンが09年、11年、22年に試作したバン小銃
- ジョン・ダグラス・ペダーセンが18年に制作したM1903を自動小銃(弾の規模から実質ピストルカービン)化するピダーゼンデバイス
しかしながら第一次大戦の戦訓からあらためて自動小銃の有用性(主にフランスの
自動小銃やマシンライフルの活躍による)を見出した軍によって22年に再度要求が練り直され以下の要素となる。
- 自動装填式
- .25~.30口径の軍用弾を使用(.30-06弾が望ましい)
- 単純かつ頑丈な構造で生産性に優れる
- 主力小銃足りうる操作性であること
これに対応した銃としてバン、ピダーゼン、ガーランド、トンプソン、ベルティエが提出。
- バン小銃は銃口ガスケットからガスを引っ張るガストラップ式なのでガス漏れが激しく、M1903に複雑部品を追加したにもかかわらずM1903と同じ重量を守ろうと過度な軽量化を行ったことが仇となり強度が不足
- ピダーゼン小銃はトグルアクションなど複雑で弾も独自の.276ピターゼン弾を使用 しかし高性能
- ガーランドも比較的よさげだが.30-06には耐えきれない
- トンプソンはディレイドブローバックで同じく.30-06には耐えきれない
- ベルティエは構造こそ悪くないものの上部給弾が嫌われた
1920年頃の当初の試験はこのような形で、強力な.30-06弾に対応しきれるように各社改修を重ねた。
最終的に27年頃の時点でガーランド(T3/T3E2)とピターゼン(T1E3)の一騎打ちとなったが、32年に部品点数や故障頻度の面で優れるガーランド案を採ることとし、36年に制式採用された。
同時期の各国
1930年代、世界の列強国では歩兵用自動小銃の開発が行われていた。
それまでの歩兵用ボルトアクションライフルは性能こそ十分であるものの、WW1で航空機用自動小銃やマシンライフルが陸戦でも活躍したことを鑑みれば連射できることは強いアドバンテージと言えた。
各国は躍起になって自動小銃を開発していた…のだが、自動小銃と言うのは非常に高度な技術を要するものである。
- 外部ソースなど考えられない時代のため、弾からのエネルギーを活用して動作する精密な機構が必要。精密さを実現するには各パーツがきれいにかみ合う必要があるので規格化も必要。
- フルサイズ弾が連射には向かないので、精密でありながら丈夫で無いといけない。
- 連射ができるとなると弾の消費も増えるので、弾の補給で兵站を圧迫する。
試作で数丁作るならまだ職人芸の範疇だが、主力銃器となると平時でさえ最低限20万丁程度の大量生産が必要となり工業力など総合的な国力が試される。
各国の1939年頃の状態はこんな感じ。
- 共通(ソ連以外)で世界恐慌後なので余裕なし
- ソ連はかなり順調にAVS-36、SVT-38/40の開発と配備が進んでいたものの大粛清中で速やかな増産などができない状態。
- フランスは復興のため時代遅れなルベル弾を更新する方針。火力は軽機関銃が主なので問題なし。
- イギリスはリーエンフィールドが速射に優れたボルトアクション小銃なのでペンディング。パーツ追加による自動化が検討された程度。
- ドイツはナチスによる急速軍備中。時間はなかったが技術はあるのでバン小銃ベースでなんとか41年に実現し少数配備。
- イタリアはアフリカやエチオピアの戦役で余裕がなく、カルカノM1938で弾を更新しようとしたが戦争突入でM1891と旧来の弾も併用された。
- 日本は関東大震災と日中戦争で更新する余裕なし。そして弾の統一と部品の規格化中で、将来的な研究としてピターゼン小銃ベースに少数試作のみ実施。
そんなさなか、アメリカはニューディール政策など盛り返しを測り大きな戦争も19世紀に済ませてきた(バナナ戦争など対中南米のいざこざはあった)のでかなり国土が平和な状態であった。
そのため第二次世界大戦開始後もソ連のように増産体制を崩さず更新できたということである。
まあそうでなくともB17爆撃機を1935年に飛ばし中継ぎのはずのM3リー戦車も4700両も生産し、増産体制や訓練体制の改善も怠らない国である、実現したのは当然なのかもしれない。
銃に限らず戦間期までの工業製品と言うのは職人による手作業がかなり介在するものであった。各部品のすり合わせを職人が行えば確かにその製品に合致する精度の高い部品が出来上がる。
しかしそれでは1丁作るのに高度な技術を持った職人が大量に必要となる。部品に互換性が無いので部品交換による整備なども行いづらい(同じ形状の部品を作らないといけない)。
そこで現場の技術力も加味しつつ、誰が部品を作って誰が製品を組み立てても精度が維持できるように設計する。
そうすることで生産性と互換性が上がり、工場ではすり合わせ工程を省きやすくなり現場では部品交換による整備や調整が行いやすく稼働率を維持しやすくなる。
身近な例に挙げるとすればプラモデルだろうか。
旧来のキットに比べ、現代のものはパーツのすり合わせが不要なのはもちろん、ダボ穴により接着位置を分かりやすくしたり半組み立て済のフレームパーツを導入したり、ゲートを目立たないような位置に配したりと「どんな人でも作りやすいもの」に進化している。
これら高度な技術仕様の策定は各国とも第二次大戦突入直前までにはなんとか取り入れていた概念である。そうでなければ最新技術込みの兵器が作れないからだ。
しかしながら急遽作った規格化システムのせいで職人芸に頼る個所を排除しきれておらず、学生や女性ら訓練期間の少ない者が工程に入るようになると排除しきれなかった部分で不調をきたしていく…というのは特に日本では痛いほど身に染みたことだろう。
アメリカはいち早く導入し工業界に浸透させていた為、戦時下でも品質を維持できたといえる。
さぁ皆も唱えよう、Stop!属人化!
特徴
動作方式はほぼ現代の主流と変わらず、
AK-47や戦後イタリアその他銃器に影響を与えた方式。
しかし現在と違い銃身軸と照準線との差を縮める為などの理由で下にガスピストンがあり、ボルトキャリアががに股のように横に分かれて機関部を左右から挟み込んでいる。
ガス導入口もバン小銃を意識してか初期はガストラップ式だったが、大量生産向けの改修により現代のような銃身穴あけ式に変化した(それでも銃身付近までガスポートが伸びていたが)。
装弾方式は従来に近いクリップ式で、8発入りのクリップを内蔵するエンブロックタイプ。これによりダブルカラムでクリップを保持でき多弾数を実現する。
弾を撃ちきると空のクリップが自動で弾き出されるので、新しいクリップを詰め込めば、すぐに弾を撃つことができる(この時自動でボルトストップが外れるのでボルトの閉鎖に親指が挟まれることが少なからず発生した。所謂ガーランドサム)。
しかしまだ弾が残っている状態では単発ずつの給弾はかなりコツがいる。が、そもそもそういったことをしないように訓練されていたので問題にはならなかった。
このクリップが弾き出される時、「ピーン(高音)」と言う特徴的な金属音が鳴る。マニアの間ではこの金属音が人気で、精神を静める効果があるとか何とか。
よく戦場で弾切れを敵に知られると言われるものの、少なくとも野戦においては交戦距離、騒音、他兵の存在などから気付く敵はほぼいなかったものと思われる。
どちらかと言えば材質のほうが問題で、ガスチューブに腐食防止のためにステンレスを用いていたのだがこちらの塗膜がはがれ、光を反射させてしまうことがあったとされる。
また、反動を抑えるためであったりガスピストンが巨大だったりで重めとなっている。
戦後
第二次世界大戦後は朝鮮戦争でも活躍した。凍った大地では、クリップの落ちる音が響いたそうな。
自衛隊でも64式小銃が採用されるまで使われていた。
アメリカ軍では1957年にM1の正統な後継である
M14の採用と共に身を退いていった。
しかし、儀式などでまだ姿を見ることはできる。
2010年代にはフィリピンや韓国などがアメリカから供与されていた本銃等を一気に返還している。長年の使用や保管により品質はコレクション向きとも言い難いが、比較的安価に所持できるM1ガーランドという形で流通している。
おまけ
1945年までの各国の自動小銃についてまとめる。フルオートに関しては軽機関銃も含まれあいまいとなる点に留意。
各国同時期に研究をしていたことがわかる。
セミオート
マドセン機関銃の源流となった世界初の自動小銃。
- ロシニョールENT:1896 フランス
- レミントン M8:1905 アメリカ
- ルガー M06自動小銃:1906 ドイツ
- Sjögren自動小銃:1908 スウェーデン
- SIG モンドラゴンM1908:1908 メキシコ/スイス
- Farquhar-Hill小銃:1908 イギリス
- バン小銃:1912 アメリカ
M1903の自動装填機構追加版。M1922としてM1ガーランド、ピターゼン自動小銃ら以前の米軍次期小銃有力候補であった。
劉慶恩将軍が制作した中国初の自動小銃。
- Howell自動小銃:1915 イギリス
- モーゼルM1916:1916 ドイツ
- RSC M1917:1917 フランス
派生として1918年にがっつり切り詰めたM1918短機関銃が開発されている。
日本では試製自動小銃甲型のモデルとして有名。
1936年に制式採用。日本では米軍小銃のほかに四式自動小銃のモデルとして有名。
日本では試製自動小銃乙型のモデルとして有名。改良型のZH-32が存在。
世界初のバースト射撃(4連)搭載自動小銃。
- AVS-36:1936 ソ連
- SVT-38/40:1940 ソ連
- M1941ジョンソン小銃:1941 アメリカ
- ワルサー/モーゼル Gewehr41:1941 ドイツ
- リュングマン AG m/42:1942 スウェーデン
DI式がリュングマン式といわれる場合がある原因。
- ワルサー Gewehr43:1943 ドイツ
- VG 1-5:1945 ドイツ
国民突撃銃として製造された簡易小銃。
フルオート
- Huot自動小銃:1916年 カナダ
- Cei-Rigotti:1890~1990 イタリア
- フェドロフM1916:1916 帝政ロシア
- ブローニングM1918 BAR:1917 アメリカ
- AVT-40:1940 ソ連
- Rieder自動小銃:1941 南アフリカ
- チャールトン自動小銃:1941年 ニュージーランド
拳銃弾や短小弾/中間弾に当たる専用弾を用いるもの
- Howard Francisカービン:1943 南アフリカ
7.63×25mmモーゼル弾を使用
8x35or32mmSRの8mmリベイロールス弾を使用。
.351WSL弾を使用。フルオート仕様のM1907/17、口径違いのM1905、M1910がある。
.351WSL弾を使用。
9x19mmグリセンティ弾を使用。ビラール・ペロサM1915機関銃のセミオート簡易型。
M1903のボルトを交換して7.65x20mm弾を連射できるようにする自動小銃化デバイス。モシン小銃用なども試作されていた。
- ウィンチェスター M1カービン:1941 アメリカ
.30-06弾を使用するM30を7.62x33mm .30カービン弾を用いるように改修したもの。フルオートのM2、暗視装置付きのM3へと発展した。
フィクション
第二次大戦を題材にした作品では映画ゲーム問わずほぼほぼ顔を見せる。
遊戯銃では、マルシン工業がライブカート仕様のガスブロエアガンでモデルアップしており、お馴染みの
「ピーン」
も再現!
屋外での使用には十分に気をつけるべし。
クリップ無くして泣きをみます…
Semper Fi!(追記・修正を!)
- 金田一少年の墓場島殺人事件で萩元殺害の凶器はコレ。なぜ? -- ??隊長 (2014-08-09 07:15:10)
- ギャルゲヲタにはToHeartのレミィのパパの愛銃として有名。 -- 名無しさん (2014-08-09 11:13:44)
- 「あんまり調子に乗っていると、M1を持ってくるぞ」「そいつぁフェアじゃないなぁ」「…これは私の番組だ」 はい、ガニー軍曹であります。大爆笑したわこの流れ -- 名無しさん (2014-12-03 16:43:31)
- 64式がゴミ過ぎてよくガーランドのままの方が良かったと言われる。 -- 名無しさん (2016-01-31 00:39:00)
- ↑机上の空論と自分に都合のいい想定を基に作られる日本製の武器よりも、実践からのフィードバックが絶えずなされているアメリカ製の武器の方がいいに決まっている。 -- 名無しさん (2016-01-31 00:47:30)
- やっぱりかっこいいよなぁ…… -- 名無しさん (2020-04-24 18:01:27)
- うーん。でも、八発では、結構な頻度でクリップを装填しなくちゃならなくて、煩わしいんじゃない? -- 名無しさん (2020-06-19 10:46:12)
- ピーンって音が嫌われてたけど実際にこの音が欠点となったケースはほとんど無かったらしい。まあ、前線の兵士が工夫して使ってたお陰なのかもしれないけど。 -- 名無しさん (2020-06-19 11:24:49)
- 日本はM1ガーランドをライセンス生産した記録はあるのでしょうか? 以前そういう記述があるサイトを見かけて、後日検索してみましたがそれらしいものは出てきませんでした。M1カービンと間違えているのではないか?と個人的には思うのですが、いかかでしょうか? ご存じの方がいましたら、情報を教えて下さいますと幸いです -- 名無しさん (2021-06-23 18:11:55)
- ガーランドって呼称自体は戦後に普及してて軍では単純にM1ライフル -- 名無しさん (2021-10-12 10:59:15)
- ↑2 米軍に支給されてただけであって、ライセンス生産はしてないと思うけどなあ... -- 名無しさん (2022-01-30 23:23:09)
- こちら情報量などの面からスプリングフィールド造兵廠に統合しようと思います。7/30めどとしていますので何かあればコメントをお願いいたします。 -- 名無しさん (2025-07-24 09:44:36)
- ww2開戦時まで規格化なんてどこの国でも成功してなくて日本も九九式で成功してるのに「特に日本軍でよく聞く話」ってのがこのサイトの偏ったイデオロギーを物語ってる -- 名無しさん (2025-09-07 18:34:49)
最終更新:2025年09月10日 20:24