M1ガーランド

登録日:2011/06/06(月) 02:35:59
更新日:2025/07/31 Thu 20:28:49
所要時間:約 5 分で読めます




M1ガーランドとは、アメリカ合衆国が採用していた30口径こと.30-06スプリングフィールド弾(7.62×63mm)を使用する半自動小銃である。
主に第二次世界大戦で活躍し、米軍の勝利を支えた。
正式名は『U.S.Rifle Cal.30 Model.1』て、Model.1と設計者のガーランドからとって『M1ガーランド』と呼ばれる。


■カタログデータ

全長:610mm
重量:4,300g
口径:7.62mm
使用銃弾:.30-06スプリングフィールド弾
     7.62x51mm NATO弾
銃口初速:848m/s
装弾数:8発
連射速度:900発/分
発射形式:セミオート
作動方式:ロングストロークピストン式
メーカー:スプリングフィールド


■開発経緯

1930年代、世界の列強国は半自動小銃の開発ブームの中にいた。
それまで、歩兵用の銃はボルトアクション式ライフルが主流であった。

ボルトアクション式ライフルは、1発撃つ毎に排夾作業を手動で行う必要があった。
ムーミン谷の白い悪魔なんかは、とんでもないスピードで行えたようだが、連射速度にはやはり限界があった。
それを改善するため、各国は躍起になって半自動小銃を開発していた…のだが…
半自動小銃と言うのは、非常に高度な技術の上に成り立っていた。

第一に、弾の火薬の量が多すぎるので、精密機器でありながら丈夫で無いといけない。
第二に、連射ができるとなると自然に弾の消費が多くなる。それに追いつく生産力と、部隊に十分に行き渡らせる補給能力が必要になる。
第三に、…「性能が良いのは分かった、でも、お高いんでしょう?

事実、ドイツやソビエトが生産段階まで行ったが、技術的な問題があったり、数を揃えられずに終わっている。まぁドイツさんはStG44たる便利な銃を開発したが……

因みに日本も作っている。M1をろ獲して制作したパクリだが。
(しかも四式自動小銃の名を持つのにアメリカの軍事書類にタイプ5と書かれたことから国外ではずっとそう呼ばれ続けている。
 海外FPS等でもずっと タ イ プ 5 と表記され続けている。本体にも刻印されているのに……)
そんな半自動小銃、扱える国家がいるのか?


いました、アメリカ合衆国さんです。

伊達に1930年代には高速道路がはしり、現代と遜色ない街並みだったチート国家ではない。
ドイツやソビエトが1940年代になってから半自動小銃を作り出したのに対し、1936年には正式採用と言うレベルの違いを見せてくれている。
と、言っても数が揃い始めたのは1942年辺りからだが。モンロー主義が最大の敵。



M1ガーランドを作る前はフルオート小銃を作ろうとしていたとか、
そのフルオート小銃が分隊支援火器の祖となったとかはまた別の話。

アメリカ合衆国はM1ガーランドを「妥協」して選択したのである。何だこの国



■本銃の特徴

さて、本銃の長所はやはりそのセミオート性能であろう。
ロータリーボルトロッキングと言う、弾を発射するガス圧でボルトを動かすような仕組みで、閉鎖性が高くボルトアクションライフルに劣らない命中精度を見せた。


また、装弾方式も独特で8発入りのクリップを使っている(ボルトアクション式ライフルは5発が普通)。
弾を撃ちきると、空のクリップが自動で弾き出されるので、新しいクリップを詰め込めば、すぐに弾を撃つことができる。
しかしまだ弾が残っている状態での給弾は不可能であった。
このクリップが弾き出される時、「ピーン(高音)」と言う特徴的な金属音*1が鳴り、撃ち手に弾切れを知らせてくれる。ある程度近場にいる敵兵にも知らせてくれるが。
マニアの間ではこの金属音が人気で、精神を静める効果があるとか何とか。
しかし上記の理由で前線の兵士はあまり良くは思ってなかったらしい。



そして、兵器として一番重要であると思われるのは、部品の規格化である。
それまで銃と言うのは、職人が一人一人作っていたので、ネジが微妙に大きかったりと銃によって個体差があった。
こうなると、銃の部品を現地で取り替えようとすると厄介である。
これは世界各国で悩みの種であったが(特に日本軍でよく聞く話)、これを解決したのが、本銃である。
部品を完全に統一する。アメリカ合衆国のような工業力のある国として地力があるからこそ、できる技だろう。

今でこそ、当然のように銃の部品は規格化されているが、小銃としては本銃が初めてである。まさに発想の勝利。
(リボルバー等で言えばコルトが既に行っていた)
半自動化に隠れがちだが、とても重要だと思う。



■大戦後

第二次世界大戦後は朝鮮戦争でも活躍した。凍った大地では、クリップの落ちる音が響いたそうな。
自衛隊でも64式小銃が採用されるまで使われていた。


アメリカ軍では、1957年にM1の正統な後継であるM14の採用と共に身を退いていった。
しかし、儀式などでまだ姿を見ることはできる。やはり木製は栄えるのだろう。



エアガンでは、マルシン工業がライブカート仕様のガスブロでモデルアップしており、お馴染みの

「ピーン」

も再現!
屋外での使用には十分に気をつけるべし。
クリップ無くして泣きをみます…


おまけ

1945年までの各国の自動小銃についてまとめる。フルオートに関しては軽機関銃も含まれあいまいとなる点に留意。
各国同時期に研究をしていたことがわかる。
もしかしたらアメリカ以外が自動小銃を全軍配備した未来もあったのかもしれない。

セミオート
  • マドセンM1888:1888 デンマーク
 マドセン機関銃の源流となった世界初の自動小銃。
  • ロシニョールENT:1896 フランス
  • レミントン M8:1905 アメリカ
  • ルガー M06自動小銃:1906 ドイツ
  • Sjögren自動小銃:1908 スウェーデン
  • SIG モンドラゴンM1908:1908 メキシコ/スイス
  • Farquhar-Hill小銃:1908 イギリス
  • バン小銃:1912 アメリカ
 M1903の自動装填機構追加版。M1922としてM1ガーランド、ピターゼン自動小銃ら以前の米軍次期小銃有力候補であった。
  • 劉式小銃:1914 中華民国
 劉慶恩将軍が制作した中国初の自動小銃。
  • Howell自動小銃:1915 イギリス
  • モーゼルM1916:1916 ドイツ
  • RSC M1917:1917 フランス
 派生として1918年にがっつり切り詰めたM1918短機関銃が開発されている。
  • ピダーセン自動小銃:1925 アメリカ
 日本では試製自動小銃甲型のモデルとして有名。
  • M1ガーランド(T3):1926 アメリカ
 1936年に制式採用。日本では米軍小銃のほかに四式自動小銃のモデルとして有名。
  • ZH-29:1929 チェコスロバキア
 日本では試製自動小銃乙型のモデルとして有名。改良型のZH-32が存在。
  • ブレダPG:1936 イタリア
 世界初のバースト射撃(4連)搭載自動小銃。
  • AVS-36:1936 ソ連
  • SVT-38/40:1940 ソ連
  • M1941ジョンソン小銃:1941 アメリカ
  • ワルサー/モーゼル Gewehr41:1941 ドイツ
  • リュングマン AG m/42:1942 スウェーデン
 DI式がリュングマン式といわれる場合がある原因。
  • ワルサー Gewehr43:1943 ドイツ
  • VG 1-5:1945 ドイツ
 国民突撃銃として製造された簡易小銃。

フルオート
  • Huot自動小銃:1916年 カナダ
  • Cei-Rigotti:1890~1990 イタリア
  • フェドロフM1916:1916 帝政ロシア
  • ブローニングM1918 BAR:1917 アメリカ
  • AVT-40:1940 ソ連
  • Rieder自動小銃:1941 南アフリカ
  • チャールトン自動小銃:1941年 ニュージーランド

拳銃弾や短小弾/中間弾に当たる専用弾を用いるもの
  • Howard Francisカービン:1943 南アフリカ
 7.63×25mmモーゼル弾を使用
  • リベイロールス1918:1918 フランス
 8x35or32mmSRの8mmリベイロールス弾を使用。
  • ウィンチェスターM1907:1907 アメリカ
 .351WSL弾を使用。フルオート仕様のM1907/17、口径違いのM1905、M1910がある。
  • バートンライトマシンライフル:1917 アメリカ
 .351WSL弾を使用。
  • ベレッタ M1918:1918 イタリア
 9x19mmグリセンティ弾を使用。ビラール・ペロサM1915機関銃のセミオート簡易型。
  • ピダーセンデバイス:1918 アメリカ
 M1903のボルトを交換して7.65x20mm弾を連射できるようにする自動小銃化デバイス。モシン小銃用なども試作されていた。
  • ウィンチェスター M1カービン:1941 アメリカ
 .30-06弾を使用するM30を7.62x33mm .30カービン弾を用いるように改修したもの。フルオートのM2、暗視装置付きのM3へと発展した。




Semper Fi!(追記・修正を!)

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2025年07月31日 20:28

*1 外れたクリップが振動する音