ピストルカービン

登録日:2015/01/27 Tue 05:23:55
更新日:2025/08/26 Tue 21:15:18
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概要

ピストルカービンとは、その名の通り拳銃弾を使用するカービン銃のことである。
ピストル・キャリバー・カービン(拳銃弾使用型カービン)の略でPCCと呼ばれることも。



カービン銃とは

古フランス語で騎兵を意味するCarabinier(カラビニエ)に由来するとされる銃種。現フランス語ではCarabine、英語ではCarbine、日本語では騎兵銃、ドイツ語ではKarabiner(カラビナ)。

銃が誕生した当時の高機動兵科といえば騎兵である。
馬上ではサーベルを振り回すことになるが、それらと一緒に1000mmを超える銃を持つというのは非常にかさばる。
そのため通常の銃よりも銃身を短縮化されたものが始まりである。
そもそも当時の前装式ライフルは再装填が難しいため馬上での射撃はほぼ行われななかったが、騎兵以外でも装備をコンパクトに保ちたい兵に配備された。

銃身を適切でない範囲まで短縮化すると装薬が銃弾を加速しきる前に銃身を離れてしまう。
燃え切っていない装薬によるマズルブラストや発射音の増大が問題となる。
そして初速が低下するため、威力や命中精度では歩兵銃に劣る。

スペンサー連発銃(1860年)まで、カービンは上記問題への対応の意味を兼ねて専用の口径や発火装置を特別に制作していた。スペンサーカービンでは銃身長のみの変更でカービン銃のバリエーションを実現し、今後のカービン銃のモデルケースとなった。

騎兵自体は銃の進化で廃れていったが(機関銃を参照)、カービンそのものは命脈を保った。
第二次大戦あたりでは歩兵の主力小銃として採用された場合があり(Kar98Kなど)、通常のライフルよりも短めで肩付け可能な銃全般を指すようになった。
ベトナム戦争までは特殊用途*1向けの側面が強かったものの、アメリカ軍でのM4カービンの全軍採用に端を発し各国で同等の短銃身小銃を全軍採用する場合が増えてきている。

民間でもカービン銃は人気があったが、主に隠し持つことを目的となってしまった為現在では過度な短銃身に対しては規制がかかる場合が多い。

種類

  • 専用弾を使用するカービン
スペンサーカービンより前やM1カービンなど主力小銃と違う専用弾を用いるタイプ。兵站を圧迫する為現在ではあまり採用されない
  • 小銃弾を使用するカービン
スペンサーカービン以降のショーシャ1918年式短機関銃*2やKar98KやM4カービン、AK-105など主力小銃と同じ弾が使えるタイプ。従来の小銃を短縮したものが主だが、2000年代以降はFN SCARや20式小銃など素でカービン並みの銃身を持つ専用設計の銃も増えつつある。
  • 拳銃弾を使用するカービン
本稿で解説する。



ピストルカービンとは

読んで字の如く、使用弾を拳銃と共用するカービンのことである。
モーゼルC96カービンなど拳銃にストックと銃身延長の改造を施したものと、ウィンチェスターM1873レバーアクションなどのように専用設計のものが存在する(今は後者が主流)。

モーゼルC96カービンはホルスター兼用のストック搭載により200mでも十分な交戦能力があると評価されたことで塹壕での白兵戦や護衛用として扱われた。これに倣い近しい時期の銃にはホルスターストックのオプションがみられる。最初期の自動拳銃であるボーチャードピストルにもストックのオプションが存在するがこちらはホルスターの役割を持たない。
同時期の短機関銃の台頭で廃れていき、機関拳銃への発展や昨今のコンバージョンキットに名残が残るのみとなっている。

ウィンチェスターM1873は同時期のコルト SAAとの弾薬の共有を実現しており、SAAユーザーが遠距離に対応する際に好まれた*3
特殊用途としてはデ・リーズル・カービンなどリーエンフィールド小銃を改造して.45ACPに対応した消音カービンなども存在した。

戦後は民間用にセミオートオンリー、長銃身化した短機関銃なども仲間入りした。フルオート火器が規制される現状では民間人が短機関銃に触れる唯一の機会といえる*4
専用弾倉を用いるものもあるが、ケルテックSUB-2000やベレッタCx4など拳銃用弾倉との共有を意識したものが多くコンパニオン・カービンと呼ばれる。
かつてのウィンチェスターライフルと同じ需要という面もあるが、ピストルカービンをプライマリとして使用しバックアップガンとして拳銃を用いる…といった運用を想定しているものと思われる。
さすがに通常のライフルに比べれば有効射程や威力で劣るが、反動は小さく50~100mまでの精度は拳銃の比にならない。一長一短であり少なくとも小型害獣駆除やホームディフェンス向けにはかなり好まれているといえる。

近年では拳銃との弾倉の兼用がかなり進んでおり、グロックの弾倉が使えるPCC/短機関銃が増えている。
さらにはコンバージョンキットとして拳銃をモナカ状に挟みストックとフォアグリップの装着を可能とするものも存在。銃種が変わるため規制対象になる場合もある。
長銃身化についても、近年ではピストルブレース(右腕に巻き付けて片手での射撃を補助するデバイス…とするもの)によって拳銃扱いとして短銃身カービンを入手する場合がある。一時期ATFも取り締まろうとしていたが2025年現在は撤回している。



一例

専用設計

ウィンチェスター M1873

ニューヘイブン・アームズカンパニー(ウィンチェスターの改称前)のベンジャミン・タイラー・ヘンリーが開発したM1860の第二次改良モデル。
厳密にはカービンとしては販売されていないのだが、ソウドオフ化、スピンコックに対応したレバーなど馬上運用に適した形に個々人でカスタマイズしていたという。
SAAと弾薬が共用でき、西部開拓民と先住民の戦いに多用され、俗に『西部を征服した銃』とも呼ばれる。
ドラマ『拳銃無宿』で主人公が使用したソウドオフモデル『ランダルカスタム』は有名。
後にジョン・モーゼス・ブラウニングの手でフル規格のライフル弾も撃てるよう改設計されたが、その頃にはボルトアクション連発ライフルが主流となっており民生品としてはともかく軍用としては採用されなかった。

マーリン M1984

レバーアクションライフルM336の.44マグナム弾仕様。
M336系列はウィンチェスター社製と違い右側面に排莢されるため、普通のライフルスコープを装着できるのが利点。

デ・リーズル・カービン

南米出身のイギリス人、ウィリアム・ゴドフリー・デ・リーズルが設計した特殊部隊向けボルトアクション・カービン。
弾倉を米軍からの供給品であるガバメント、機関部やストックはリー・エンフィールドライフルから流用することで開発期間を短縮している。
ステンガンのサプレッサー装着型との性能テストの結果、フルオート機能と生産性以外のすべての面で優れるとして採用される。
その点はあれと比較しちゃいかんでしょ……
が、何やかんやあって130挺しか生産されず、それもほとんどが終戦後の植民地鎮圧などに使用されている。
英国面には含まれないまともな銃と認知されている。

ケルテック SUB-2000

法執行機関での運用を第一義に開発されたピストルカービン。元々設計していたSUB-9が高コスト面となってしまったので、コストを抑えるよう再設計した結果誕生した。
自動拳銃同様にグリップ内にマガジンを仕込む形式を取り、9mmパラベラム弾か.40S&W弾の通常サイズの拳銃用弾倉を流用可能。
モデル別にグロック17系列、ベレッタM92系列、SIGSAUER P226、スミス&ウェッソンのM59シリーズのものに対応している。
コッキングハンドルはストックチューブ下部に位置する独特な方式。
恐ろしいことに、リアサイト内蔵のヒンジで真ん中から折り畳むこともできる。しかも基礎重量1.8kgとやたら軽量*5
軽くてコンパクトに折り畳めて拳銃弾とマガジンをそのまま使えるということで、アーマライト AR-7などの後継のような需要を獲得し結構売れてるとか。
S&Wからも構造が似たM&P FPCが販売されている。こちらはM&P拳銃の弾倉との互換性がある。

ベレッタ Cx4

ベレッタがリリースしたStormファミリーというモデルカテゴリーのなかのカービンタイプ*6
銃然としておらず威圧感の低い丸みをおびた外観が特徴。
各部がボタンとパーツの抜き差しのみで接続されており、工具なしでの分解とアンビ化が可能。
その名は4種の口径(Caliber)を意味しており、バレルとマガジンアダプター、ボルトを換装するだけで投射弾薬を変更できる。
マガジンはベレッタ製自動拳銃(M9000Sを除く92FS~Px4までのモデル)のものに対応し使用弾薬もそれに準じた9mmパラベラム弾、9x21mm IMI弾、40S&W弾、.45ACP弾。
2011年に銃身短縮とフルオート機能を搭載した短機関銃型のMx4が発表されている。

CAAタクティカル ロニ

イスラエルのCAAタクティカルが開発した、自動拳銃をカービン化するためのコンバージョンキット。
装着はキットにトリガーから上を挟み込んで固定するだけで、スライドはコッキングハンドルに固定される。
バックアップ兼用のフリップアップ式アイアンサイトと、着脱可能なフォールディング・フォアグリップを標準装備する。
計4つのピカティニーレールが仕込まれ、オプションの増設が可能。ストックには予備マガジンホルダーがある。
現在リリースされているモデルバリエーションは12種だが、どんなに大口径でも.45ACPが限度のようだ。
ガスガンや電動ガンでも寸法がだいたい同じためか、日本でも普通に購入可能(主にベレッタかグロック対応型)。


短機関銃のバリエーション

H&K USC(ユニバーサル・セルフローディング・カービン)

H&K UMPの民間仕様。サムホールストックが特徴。

CZ スコーピオンEVO3 S1 カービン

チェスカー・ゾブロヨフカ社の9mm短機関銃「スコーピオンEVO3」のバリエーションの一つ。
民間向けセミオート専用モデル「スコーピオンEVO3 S1」の銃身を16.2インチに延長したもの*7
標準でサプレッサー付きのモデルもあるほか、ハンドガードにM-Lokシステムスロットを備えるなど拡張性も高い。
遊戯銃としてはデンマークのASG社からEVO3シリーズの電動ガンが発売されている。

ハイポイントカービン 995

ハイポイント社製の廉価カービン。亜鉛合金も使用しており安かろう悪かろうな部分が多いが、同社の拳銃よりかは撃ちやすいのか人気を博している。
9mmパラベラム弾モデルでは同社の拳銃と弾倉の互換性がない模様。

SIG MPX PCC

AR-15の独自クローンといえるMPXのカービンモデル。もとは消音効果を潰したMPX SDに類似したバレルを装着していたが、消音効果が認められてしまったため改めて16インチバレルを組み込んでいる。

その他AR-15スタイルのPCC

  • コルト R6540(RO635などのコルトコマンドー系短機関銃の民間仕様)
  • ウィルソンコンバット AR-9
  • S&W レスポンス
等々…

カラシニコフコンツェルン サイガ9

AKなどの民間向けブランドであるサイガのうち、PP-19ビチャズ(AKS-74Uをもとにしたビゾン短機関銃のノーマル弾倉仕様)の民生用カービン。
2024年現在は禁輸措置により直では入手できず、カラシニコフUSA製のKP-9が同等品となっている。

その他AKスタイルのPCC

  • Palmetto State Armory AK-V(純アメリカ製でAKでは珍しく自動ボルトキャッチがある)
  • ドラコ AK-9
  • WASR-M(グロックの弾倉と互換)
等々…


フィクション

そこそこ幅広いジャンルのためまちまち。

デ・リーズルはマイナーゆえ、よほどマニアックな映画かゲームでないと見られないだろう。

M1873は西部劇御用達なので、そっち方面のDVDを借りればいくらでも見れる。
ただし、古いマカロニ・ウェスタンではM1873が骨董品のレアモノであるがゆえに、ものが残っているM1892以降を代役に使っている。M1873を見たかったら80年代以降の作品を視聴しよう。

ジョンウィック3 パラベラムではMPX長銃身セミオートカービンのTTIカスタムモデルが登場。しかし相手がボディアーマーに身を包んでおり10発前後撃ちこんでもよろよろと起き上がってくる。
拳銃弾が故の貫通力のなさから埒が明かず、スチールコア製スラグ弾を用いたベネリのショットガンに乗り越えた。

ゲーム Escape From TarkovではFPSでは珍しくセミオートオンリーのPCCが実装されている。AR-15スタイルのSTM-9、AKスタイルのサイガ9、MPXにもカービン仕様のロングバレルが用意されており、総じてゲーム内の短機関銃では精度が良好で200m程度の狙撃にも対応可能。



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最終更新:2025年08月26日 21:15

*1 特殊部隊のみならず後方部隊の自衛なども含む

*2 ショーシャ軽機関銃とおなじ設計者らが自身が作成したM1917自動小銃を短縮化したもの。ゲテモノに見えるがM1カービンやモシン小銃などでも時たま見られる方式である。

*3 ちなみに、『T2』でシュワちゃんがスピンコックしながらぶっぱしてるのは、同じウィンチェスター製だがショットガンである

*4 オープンボルトだとTEC-9のようにフルオート改造が容易となってしまうのでMP5などクローズドボルトのものをカービン化する場合が多い。

*5 銃身と機関部など一部以外ほぼザイテル製

*6 Px4拳銃、Rx4突撃銃がある

*7 フルオートモデルは「スコーピオンEVO3 A1」となる