触れられざる者フェイジ/Phage the Untouchable(MtG)

登録日:2009/05/30(土) 08:16:10
更新日:2022/09/10 Sat 10:24:38
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《触れられざる者フェイジ》とは、MTGの登場人物およびカード。

Phage the Untouchable / 触れられざる者フェイジ (3)(黒)(黒)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー — アバター(Avatar) ミニオン(Minion)
触れられざる者フェイジが戦場に出たとき、あなたがそれを自分の手札から唱えたのでない場合、あなたはゲームに敗北する
触れられざる者フェイジがクリーチャーに戦闘ダメージを与えるたび、そのクリーチャーを破壊する。それは再生できない。
触れられざる者フェイジがプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、そのプレイヤーはゲームに敗北する
4/4

ストーリーでは「触れたものすべてを腐敗させて殺す」という能力を持つ女性であり、それにちなんだ能力を3つ持っている。

攻撃が通れば即死という非常にわかりやすい勝利条件クリーチャー。特殊敗北なのでライフが何億点あろうが敗北する。
当然対戦相手としてはこんなもんを通したくないので、クリーチャーを壁に攻撃を凌ぐことになる。
しかしそのクリーチャーも、こいつからダメージを受けると再生すらできずに問答無用で死ぬ*1
現在の「接死」の強化版のイメージで、これを無効にするにはそれこそ「破壊不能(破壊されない)」と書いてあるクリーチャーを持ってくる必要があるのだが、オンスロート時代にはそんなクリーチャーは非常に珍しかった。
つまりこのカードを相手に守勢に回ると腐敗の手がじわじわと迫ってくるというわけ。

一方で悪用を防ぐために、「手札から唱える」以外の方法で戦場に出ると使用者に抱き着いて腐敗させる、つまり強制的に敗北させる
墓地から唱えずに出すリアニメイトなんて絶対ダメだが、手札から踏み倒す《流転の護符》《実物提示教育》や、ちゃんとコストを支払って唱えていても手札以外の領域から出したらアウト
つまり「ずるなんて考えずに素直に出してください」という、開発側の意思表示のような能力である。


考え方によっては7マナで相手のライフを強制的に0にするというフィニッシャーになる。まさにエンドカードに相応しいカードだが、

  • (黒)を4つ含む色拘束が非常にキツい。
  • 点数で見たマナコストも7マナと重たい。
  • ズルして出すことができない。
  • ウィップ・バイパーのギミックのように戦闘以外のダメージを与えても意味がない。
  • せっかく場に出しても回避能力がないのでウィニー等が相手の場合、相手プレイヤーに攻撃が中々通らず対策されてしまう。
  • 《遅延》《霊体の地すべり》などの「手札以外の領域から強制的に出させる」というカードを使われると、1番目の効果で自分が敗北してしまう。

など、実用に値するかと言われるとかなり微妙。
一応当時は《陰謀段の貴重品室》という、黒マナをたくさん生み出せる土地を軸にした黒コントロールというデッキがあったのでそのフィニッシャーに収まれそうなものだが、
同時に環境内にはアストログライドという「クリーチャーを戦場から一時的に追放して元に戻すことで、自分についたマイナス効果や制限をリセットしたり対戦相手のクリーチャーをどかして攻撃を通す」ギミックを搭載したデッキが存在していた。
普通のクリーチャーなら戦場に戻ってこれるのはメリットになるのだが、フェイジがこのギミックを使われてしまうと
「ではフェイジさんちょっとどいててください」
「ではルールなので戻ってきてください。拒否権はありません」
「おや、手札から唱えて出していないですね。あなたの負けです
というむしろ7マナ払って対戦相手に勝利条件を献上する利敵行為クリーチャーとなってしまう。そんなものをだれが使うというのか。

後の基本セット「第10版」で再録されたのはいいが、この時期の環境といえばローウィンだのシャドウムーアだのアラーラだのとクリーチャー性能が完全にインフレしており
しかもMTG史上でも多色にするのが非常に容易な環境だった。そんな中で「7マナと重いのに黒への色拘束が異常に強い」「素のスタッツは4/4と非常に低い」「チャンプブロックに弱い」という、一昔前のロートルが活躍できるわけもなかった。
ぶっちゃけカジュアルにしたってフェイジ使うんだったらシャドウムーアの亜神サイクル使うよね、派手だし強いし楽しいし。

トーナメントシーンでは上記の通りだが、カジュアルでは人気があるカードだった……かというと、実はそうでもない
素出ししかできないので悪用ギミックを考える楽しみもないし、相手に戦闘ダメージを通して勝利するというのは結局クリーチャーで殴るということに他ならない。
トランプルや畏怖(限定的なブロック不可能力)を付与して殴れば確かに強いが、素出しのためにマナ基盤をゆがめてさらにお膳立てまで必要なカードってそれ一人で戦える普通のファッティでよくない?となる。
言い方は悪いんだけど《甲鱗のワーム》のようなへっぽこ大型クリーチャーでも出して殴ってるのと大差ないってわけ。そういうカードなら即死こそ持たないがタフネスは高いし、踏み倒すギミックもある。甲鱗様じゃ物足りないのなら飛行やらトランプルやらを持つ別のカードでいいだろう。
つまりこのカード、スタッツが低い不器用なファッティにすぎないので、それに気づいたプレイヤーは次第に魅力を感じなくなっていったのだった。

そういうこともあって、対戦でまっとうに使われることは少なかった。っていうかまずなかった。


つまりまっとうでなければいいんだな!


ミラディン・ブロックが登場してからは、敗北を踏み倒すクリーチャー《白金の天使/Platinum Angel》との組み合わせが有名だった。
特に《歯と爪/Tooth and Nail》で一緒に出すことにより、敗北能力を無視するというのが一般的。
ただ敗北能力がスタックに乗ったところで一度優先権が発生するため、《帰化/Naturalize》なんかで対応して除去されるとこちらが死ぬ。
あとぶっちゃけこの組み合わせにしなくても、天使の相方なら《地ならし屋》とか《レオニンの高僧》とかもっといい選択肢が腐るほどあった。
もっと言ってしまえば《ダークスティールの巨像》2枚でいい。破壊不能でトランプル持ってて、2回殴ると相手は死ぬ。

それフェイジでやる意味ある?

という疑問を出されると反論できない。
そもそもこの時代は大半がコモンで成り立つクソデッキアーティファクト主体のデッキ「親和」が環境を荒らし回っていた。
その親和以外のデッキは呪文を延々唱えてソリティアしたりマナ基盤を攻めて行動不能にしたりクリーチャーを踏み倒して速攻したりと、やりたい放題の上に親和よりも不愉快という地獄絵図である*2
このメタの一角の踏み倒し速攻デッキ「歯と爪」のフィニッシャーをこんなお遊びギミックに差し替えたデッキなんて舐めプでしかない。なんか色々問題を起こしてしまうのである*3


しかしここはやはりMTG、これだけカードがあるのだから素敵な相方もいる。
当時有名だったギミックにこんなものがあった。

Thieves' Auction / 泥棒の競り (4)(赤)(赤)(赤)
ソーサリー
すべてのトークンでないパーマネントを追放する。あなたから始めて、各プレイヤーはそれらの追放されたカードの中から1枚を選び、それを自分のコントロール下でタップ状態で戦場に出す。この手順を、これにより追放されたカードがすべて選ばれるまで繰り返す。

このカードは要は「すべてのパーマネントを一度追放し、1枚ずつドラフトしていく」というカード。独特の効果を持つことから様々なコンボギミックが考案される。
フェイジ1枚を含むパーマネントの数が偶数の状態でこのカードを打つ。すると対戦相手は最後に絶対にフェイジを選ばなければならず、フェイジは「追放領域から戦場に出る」ので特殊敗北する。
とはいえこちらは「フェイジを素出ししたうえで赤3マナと黒4マナを含む7マナ以上を出すマナ基盤」というわけの分からないものが必要になるので、話ばかりが有名であまり実用的とは言い難かった。


Endless Whispers / 終わりなき囁き (2)(黒)(黒)
エンチャント
各クリーチャーは「このクリーチャーが死亡したとき、対戦相手1人を対象として選ぶ。次の終了ステップの開始時に、そのプレイヤーはこのカードを、オーナーの墓地から自分のコントロール下で戦場に戻す。」を持つ。

フェイジの相方といえば、オークションよりむしろこちらだろう。クリーチャーが戦場から墓地に送られると、対戦相手のところに蘇ってしまうというカード。イメージ的には仕方なく見捨てたやつが「よくも俺を捨ててくれたな……」と復讐にやってくる感じ。
本来これは除去と組み合わせて対戦相手のクリーチャーを奪うために使うのだが、奪ったクリーチャーが死亡したら向こうに戻っちゃうし、こちらのクリーチャーも奪われてしまうわけで普通のデッキでは非常に使いづらい。

さて、これを《触れられざる者フェイジ》でやると、

  • フェイジの攻撃が通れば勝ち
  • フェイジが何らかの方法で死亡したら「対戦相手のコントロール下で戦場に出る」→「対戦相手は手札から唱えずにフェイジを出したので特殊敗北」で勝ち

ってわけ。「よくも私を殺してくれたな……でもとりあえず近くにいるお前に八つ当たりだ」って感じだろうか。ストーリーでも電波デッキでもはた迷惑な女である
フェイジ以外にも《地ならし屋》のような強烈なデメリット能力を持つカードを押し付けるのもよい。
モダンの話になるが《ガイアの頌歌》と《野蛮の怒り》と組み合わせることで疑似的な不死身クリーチャーが出来上がったりと、こちらは他のギミックと共存できるので人気が高い。
多分これが一番楽しいと思います。


Shared Fate / 分かち合う運命 (4)(青)
エンチャント
プレイヤー1人がカードを引くなら、代わりにそのプレイヤーは自分の対戦相手のうち1人のライブラリーの一番上のカードを裏向きのまま追放する。
各プレイヤーは分かち合う運命により自分が追放したカードを見てもよく、それらのカードの中から土地をプレイしても呪文を唱えてもよい。

かなり変わったところではこんなカードもある。要は「以降対戦相手のライブラリーからドローをする」、いうなれば使うデッキを入れ替えるというエンチャント。
ただしMTGはルール上「相手のカードを自分の手札に入れることができない」ので*4、カードを裏向きに追放することになる。
当然だがこれは疑似手札であって本物の手札ではない。そのため、
  • こちらは《触れられざる者フェイジ》を素出しできる(あらかじめ手札に引き込んだフェイジを出すか、フェイジを出してから《分かち合う運命》を使うことになる)
  • 対戦相手は追放領域からしか出せないので出したら敗北する=このカードを引いても完全に腐るのでその分優位に立てる
という、分かち合う(いいものを分かち合うとは言ってない)不平等ギミックが生まれるというわけ。
他にもこの「疑似手札であって本物ではない」ことを利用したギミックを利用した「分かち合う運命デッキ」なんてのが存在している。

ただしこの《分かち合う運命》デッキ、めちゃくちゃめんどくさい上に構築の難易度がバカみたいに高い。
この考え方にしたって素のスタッツが優秀かつ軽量の《地ならし屋》でも出してしまったほうが手っ取り早い。
そして実際のリスト、たとえば射場本正巳氏*5が使ったリストを見てみると、フェイジも《地ならし屋》も入っていない。



フェイジを使用したデッキでもっとも有名なのは、旧エクステンデッドおよびレガシーに存在していた「フルイングリッシュ・ブレックファスト」というデッキ。

Volrath's Shapeshifter / ヴォルラスの多相の戦士 (1)(青)(青)
クリーチャー — 多相の戦士(Shapeshifter)
あなたの墓地の一番上のカードがクリーチャー・カードであるかぎり、ヴォルラスの多相の戦士はそのカードのすべての文章と「(2):カードを1枚捨てる。」のテキストを持つ。(ヴォルラスの多相の戦士はそのカードの名前、マナ・コスト、色、タイプ、サブタイプ、特殊タイプ、能力、パワー、タフネスを持つ。)
(2):カードを1枚捨てる。
0/1

要は「墓地の一番上のカードのコピーになる」というカード……なのだが、当時のルールはコピーに関するルールがまだ未熟で、その上墓地の順番を参照するというクッソめんどくせぇルールまである。
当時とにかくめちゃくちゃなルール論争を引き起こしたせいで、フェイジの二つ名みたく「触れてはならぬ者(Untouchable)」と扱われているカードだった。

このカードを最大限に利用したデッキで、
1.《ヴォルラスの多相の戦士》の攻撃が通る状態で攻撃させる。素だと通りにくいが《怒りの天使アクローマ》のようなカードを使えば通すことが可能
2.攻撃が通ること(当時は戦闘ダメージがスタックに乗ったのでそのタイミング)を確認してから《触れられざる者フェイジ》を捨てる。《ヴォルラスの多相の戦士》はフェイジのコピーになる
3.フェイジに戦闘ダメージをもらったプレイヤーが敗北する
という即死ギミックを搭載する。

すでに戦場に出ている状態の《ヴォルラスの多相の戦士》がフェイジになるだけなので、戦場に出るわけではないので特殊敗北が誘発しない。それでありながら事実上フェイジを踏み倒しているような動きをする。
このルールの抜け穴を突いたような動きのためか、フェイジギミックの知名度だけはやたら高いデッキである。
そして当時は《適者生存》という、自分の手札のクリーチャー・カードを1マナで捨てて別のクリーチャーをサーチするというカードがあった。
そのため事故要素でしかないキーパーツのフェイジはこのギミックを前提に1枚挿ししておけばいいし、《ヴォルラスの多相の戦士》の2マナの能力なんて起動せずに《適者生存》を墓地送りの手段に使ってしまえばいい。
そして《適者生存》が対処されたとしても、まだ2マナで手札を捨てる能力が残っている……と、かなり隙のない構成に仕上がっている。

原案の作成者は元・ルールマネージャーのPaul Barclay氏。アンタッチャブルと化していたこのめんどくささの極みを骨の髄まで利用したデッキとして知名度が高かった。
ただし《適者生存》はレガシーで禁止されてしまい、ヴィンテージでは当然こんなギミックを使う意味もない。しかも《復讐蔦》や《虚ろな者》のようなもっと強烈なギミックが出てきてしまった。
そもそも知名度が高まりすぎて《ヴォルラスの多相の戦士》を見た瞬間に警戒されるギミックでもある。今同じことをしようとすると、当時の戦闘ダメージのスタックルールよりむしろこちらが問題になってしまう。



さて、フェイジの能力は踏み倒し能力に対するブレーキとしても作用している。
たとえばライブラリーから直接戦場に出すカード《変身》のようなカードでうっかり戦場に出てくると特殊敗北が誘発する
なのでフェイジを入れてズルすることはできない……のだが、クリーチャーの質はどんどん上がっている。《大祖始》《引き裂かれし永劫、エムラクール》《グリセルブランド》など、デメリットなく踏み倒せるカードがどんどん増えている。
特にエムラなんて攻撃しただけで対戦相手のパーマネントが6つ吹っ飛ぶ。特化したデッキだとこんなのが2~3ターン目に出てくるのである。
そもそも当時のスタンダードでそういうことをするにしても《怒りの天使アクローマ》という格好の踏み倒しクリーチャーがいるわけで、あえてフェイジを選ぶ理由なんてどこにもない。

踏み倒しに対するペナルティ能力と、フェイジより確実に勝てる踏み倒し先の充実。
そんなわけでよほどのマヌケかでもない限り、ランダム踏み倒し系のギミックなどとフェイジを共存させるなんてことは絶対にない。


しかしこのフェイジの能力が「絶対に戦場に出さなくちゃいけない」のと「戦場に出すのは任意である」の差を印象付けて説明するのに便利なせいか、

「その中にフェイジしかいない場合、絶対に出さなければいけないので気をつけよう。」

みたいな文章のためにやたら引っ張りだこになっていた時期があった。むしろ採用率よりMTG wikiでの解説文に登場する頻度のほうがよほど高いのである。
最近はその手のカードも減ったことで目にする頻度も減ったので、そもそもこういう風潮が飽きられたのかもしれないのだが、フェイジを語る際には絶対に避けて通れない。


デッキ構築においてフェイジを入れるとディスシナジーになることは前述のとおりなのだが、デッキ構築に全く依存せずランダムにコイツが出てきてしまうフォーマットが存在する。
モミール・ベーシックである。
ざっくばらんに言えば「手札1枚を捨ててXマナを支払うと、そのXマナ域のクリーチャーがランダムで戦場に出てくる」というルール下で基本土地5種のみで60枚のデッキを組む変種ルール。
たとえばX=1で起動すれば《モンスのゴブリン略奪隊》《さまようもの》《ラノワールのエルフ》《今田家の猟犬、勇丸》など、何百種類というクリーチャーの中から1枚出てくる。このランダムに提供されるクリーチャーと手札にある基本土地だけで戦うというルール。
出てくるカードがランダムなので運ゲーと思われがちだが、クリーチャー戦に対する深い知識やカードプールへの知識*6、「こんなカードあったなぁ!」という懐かしさやそのランダム性がやたら絡む異様なルールなどで、一時期多大な人気を博していた*7

さて、この時Xを7に指定すると、非常にまれに《触れられざる者フェイジ》が登場して特殊敗北する
上記のフェイジ構文なら「X=7で起動するときは気をつけよう。」となるのだろうが、こんなもん気をつけようがない
X=7で起動しないというプレイングはできるが、ぶっちゃけきわめて低確率なこれを恐れて優秀なクリーチャーがそろい踏みのマナ域を飛ばすのもバカげているし、
それこそ《地ならし屋》をはじめ、他のマナ域だって引いてしまえばほぼ即死扱いになるカードは存在する。ある程度割り切って「これもモミール」と笑い飛ばすしかないだろう。


統率者戦が話題になり始めた頃、「最弱の統率者」としてたびたび話題になっていた。
というのも、統率者は「統率領域から唱える」ことになる。つまり普通に使うと「手札から唱えているわけではないので特殊敗北する」のである。
特にフェイジは特殊勝利という興味をひきやすいクリーチャーだったことで「普通に使うことができない・使う意味がない」というネタ統率者としての地位を得ることになる。
しかし唱えること自体は可能なので、この特殊敗北を、黒単とアーティファクトしか使えない狭いカードプールでどうやって踏み倒すか。そして《遅延》*8をはじめとした天敵たちをどうやってかいくぐるか。
多くの黒単統率者愛好家に対する挑戦状として君臨したのである。

フェイジは知名度が高かったので話題を呼びやすかったが、実際にはそもそも統率領域から唱えることすらできない《ストロームガルドの災い魔、ハーコン》の方が弱い。
このフェイジのいいところは、そもそも挑戦すらできないハーコンと違い「挑戦する価値がある」という点。黒はサーチの色でもあるので、意外とこのデメリット踏み倒しギミックが現実的な範疇に収まるのだ。
統率者戦に関する項目には大体、フェイジの話とそれに伴う様々なギミックが掲載されている。


さて、話題になっているものを見ればわかる通り、ズル出しした時のペナルティばかりが耳目を集めている。

  • このデメリットを利用して相手に押し付けてしまう構築戦
  • 徹底的なズルでそもそも戦場にすら出さずにフェイジの能力だけを借りる「フルイングリッシュ・ブレックファスト」
  • 7マナで起動すると即死の危険性があるモミール・ベーシック
  • そもそもまともに出せないのでどう向き合うかを考える統率者戦

つまりフェイジの真骨頂は攻撃を通すと勝つ即死能力ではなく、実はデメリットとしてつけられた1番目の能力なのである。



物語上でのフェイジは元々はフェイジという名前ではなくジェスカという名前。ハゲ《ピットファイター・カマール》の妹であり今のようなおぞましい存在ではなかった。
しかしミラーリに魅了されて暴走した兄のカマールを止めようとして重傷を負い、その後クローサの森に治療の為に運び込まれた所を陰謀団に拉致されてしまう。
その後陰謀団の呪術を得てよみがえり、あらゆるモノを触れただけで腐敗させ死に導く恐怖の存在「フェイジ」に変貌した。
《陰謀団の総帥》ともども「死の側の存在」であり、総帥だけは触れても死なずに済むことや、強大な魔力と能力を有する総帥とは分かり合える唯一の存在だったことで、陰謀団の女帝枠に君臨する。
フレーバー・テキストを読むと分かるが性格は残酷そのもので、まさに黒の存在である*9

さらに陰謀団の主催する賭け金制の闘技会「ピットファイト」に自ら出場して相手を殺す始末。
《現実を彫る者イクシドール》とその恋人ニヴィアとも戦うが、その際ニヴィアの命を奪い、イクシドールを復讐の道に狩り立てることになる。
イクシドールが作った怒りの天使「アクローマ」とは、イラストや色など様々な点で対になるようにデザインされている。
たとえば「最愛の人が変貌した姿」という意味では共通しており、アクローマがイクシドールに見向きもされないのに対し、フェイジは敵になったとはいえ兄に最後まで大事にされる……といった感じ。
このアクローマと何度か対峙して、いろいろなんやかんやあって《邪神カローナ》になるのだった。


……っていう設定よりも、むしろMTG wikiのストーリー説明や、若月繭子女史*10によるストーリー解説でたびたび取り上げられている、

陰謀団の総帥とぎりぎりの濡れ場を演出する

って話のほうが有名だろう。妹もいつか大人の階段を上るのである*11

最後はストーリーの流れでなんやかんやあって総帥は死亡。フェイジもアクローマ(とついでに陰謀団のおばちゃん)と融合し、《邪神カローナ》となる。
カローナとなってなんやかんやでやりたい放題やりまくっていた*12が、その後部下に裏切られて背後から刺し殺され、その際に《銀のゴーレム、カーン》の介入でカローナから分離。
プレインズウォーカーの灯がともってジェスカとしてフェイジの性質を失った状態で蘇生を果たしたのだった。

そしてその数百年後、時のらせんブロックではレシュラックに操られて利用されてしまう。
最後はけじめをつけるべく、時の裂け目をふさぐために自らの命を捧げて物語から退場した。
死後の世界では、粗暴だが最後まで自分を想ってくれていた兄カマールと再会する。そのシーンはオタリア大陸編、ひいてはこれまでのMTGの物語の終わりを強く思わせるものであった。


と、なんか色々語ったんだけどつまり《触れられざる者フェイジ》は、ジェスカという女キャラの一時期の状態だったってこと。
このジェスカは死ぬ・死にかけるたびに「フェイジ化」「カローナ化」「プレインズウォーカー化」と3度の復活を果たしているのだが、そのどれもが別人状態かつ非常にキャラが濃いのである。



「次に追記する内容は慎重に選びなよ。お前の最期の編集なんだから。」
――― 触れられざる者フェイジ


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最終更新:2022年09月10日 10:24

*1 他のTCGをプレイしていると「それは再生できない。」というのは蘇生制限的なものがつくのだと思いがちだが、再生という「その場に踏みとどまる能力」を無効にするってイメージ

*2 たびたび親和だけが悪いように言われるが、当時ちゃんとプレイした人曰く「親和もやばかったが親和以外はやばい上に不快だった」とのこと。

*3 各種メディア展開が下火になり、さらにデュエマや遊戯王といった後発のTCGが軌道に乗ったこともあり、それらより高年齢向けで高額だったMTGとはプレイヤー層の分離を起こしてどうしても「意識高い系」にシフトしていくことになった。当時はMTGの方向性が「戦略性の高いプロ御用達のカードゲーム」ということもあり、勝利こそすべてとファンデッキを不当なレベルで見下す殺伐としたプレイヤー文化が醸成されていた。これがエルダー・ドラゴン・ハイランダー(後の統率者戦)の考案につながっていくのだ。

*4 そのためMTGプレイヤーが遊戯王のぶっとんだカードを評すると、《エクスチェンジ》《アマゾネスの鎖使い》などを名前に挙げることも多い。ゲーム性が違うと見えるものも違う好例だ。

*5 日本屈指の実用的な電波デッキ使い。現在はデュエマのデザイナー

*6 たとえばこのマナ域のカードは全体的に弱いので起動を飛ばすなど

*7 この分かりやすい面白さから、他TCGのカジュアル環境でそれっぽいルールが整備されることもある。たとえば旧裏ポケモンカードのコミュニティでは、ポケモンカード用に大幅に整備した「モミール」という変種ルールで遊んでいることもあるらしい。

*8 呪文を打ち消して追放し、それを2ターン後に唱えさせる。つまり2ターン後には唱えられてしまい、その分軽いというデザインの打ち消しなのだが、手札以外の領域から唱えるので特殊敗北する。唱えられるタイミングが周囲のプレイヤーに丸わかりなので、特殊敗北をしのぐためのギミックを徹底的に狙い撃ちされるという副次効果まであるという、フェイジにとって不倶戴天の敵。

*9 とはいえジェスカ自身もかなり乱暴者である。

*10 MTG背景世界の大ファンが嵩じて公式ストーリー記事の日本語訳を担当してる人。

*11 ちなみにその後妊娠が発覚し、男の子も出産する。ちゃんと愛し合った末なのでセーフ。

*12 スカージのストーリーはこれまでの物語との整合性がうまく図れていないので黙殺されやすいが、過去の要素をうまいこと拾っていて結構面白い。あと有名な「色の象徴となる存在を召喚する」シーンでは、青単色のはずのテフェリーを白の門から出してくれたおかげで、その10年以上後のドミナリアでは青単デッキでは使えないように青白という色になったという功績を忘れてはいけない。